褒められたのに、挑戦する意欲が下がる? 脳科学者が「モチベーション」を解説

脳科学者・西 剛志さんが「モチベーション」や「やる気」について解説した。

西さんが登場したのは、井桁弘恵が「チーフ」としてナビゲートする、J-WAVEの番組『LOGISTEED TOMOLAB.~TOMORROW LABORATORY』(通称、トモラボ)。私たちの周りにある森羅万象を「イシュー(テーマ)」にして、各界で活躍する「フェロー」を毎週ゲストに迎えながら、明日が豊かになるヒントを探すプログラムだ。

ここでは、西さんをフェローとして迎え、「モチベーション」をイシューにした6月28日(土)の放送の一部をテキストで紹介する。radikoでは、7月5日(土)28時頃まで聴取可能。なお、番組の内容はポッドキャストで配信中だ。



ポッドキャストページ

“やる気ホルモン”ドーパミンとモチベーション

本番組では、毎回グラレコで内容を解説している

西さんは脳科学者、分子生物学者。特許庁を経て2008年に「世界的に成功する人とそうでない人の違い」を研究する会社を設立。うまくいく人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供し、企業から教育者、高齢者、主婦まで3万人以上に講演を行っている。また、教育の現場のエビデンスをもとに脳科学の知見を活かした子育ての研究にも力を入れている。著書に『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)、『脳科学的に正しい! 子どもの非認知能力を育てる17の習慣』(あさ出版)などがある。

井桁:まず「モチベーション」の言葉の意味は「意欲の源になる動機や目的意識」のこと。もともとは心理学の用語だったそうですが、そうなんですか?

西:語源としてはそういう意味になりますが、専門用語として「動機づけ」と言われています。モチベーションは「モーティブ」と「アクション」の造語です。なので、本当は「動機をつける」という意味の言葉です。

井桁:西さんはモチベーションという言葉をどう捉えていますか?

西:専門用語ではちょっと難しい言葉ですが「内発的動機」と言います。なので、「内側から出るやる気」のことを一般的にモチベーションと言います。

井桁:外からの動機というのはモチベーションにはならない?

西:それがふたつ目のモチベーションになっていまして、これが「外発的動機」と言います。外側からのやる気ですね。

井桁:そのふたつの動機をもって「モチベーション」となるんですね。

ドーパミンと選択肢の多さの関係

西:ドーパミンは聞いたことありますか?

井桁:わかります。幸せホルモンのひとつ?

西:そうですね。基本的に、私たちが幸せだったりやる気が上がったりするときに出る脳内物質と言われています。これが、選択した瞬間に出るんです。ビュッフェとかは行かれますか?

井桁:ホテルの朝食のビュッフェとか好きです。

西:面白い実験がありまして。2種類しかないビュッフェと、50種類のビュッフェでどっちを多く食べるかという実験があるんです。どっちが多くなると思いますか?

井桁:50種類から選んだほうがいっぱい「食べたい!」となりそうです。2種類しかなかったらちょっと(気持ちが)冷めますよね。

西:選びたいお気持ちは50種類からだと思いますが、食べる量を調べると面白いことに2種類のほうが多くなるんです。食べ放題となった場合ですが。なぜかというと、選択肢が多いと選択するだけで幸せになるじゃないですか。そうすると、それで満足してしまうらしいんです。

井桁:ちょっと胸いっぱいみたいな?

西:「もういいよ」という感じになる傾向が。そうじゃない方もたまにいらっしゃるらしいんですが、そういう傾向があるみたいです。

井桁:満たされるところがあるんですね。面白い。

西:だから選択肢を持てる環境というのは、すごく重要です。

西さんによると、ドーパミンが出ているモチベーションが高い状態は、仕事の成果にも大きく影響するという。

西:研究でわかっているデータとしては、仕事の生産性が31パーセント上がります。

井桁:けっこうじゃないですか。

西:やる気があるとき、幸せなときのほうが仕事の効率は上がるということなんです。

井桁:好きなことなら没頭できるとか、そういうことも関係してくるのでしょうか。

西:おっしゃるとおりです。持続しやすかったり、やる気が高いほうが、短時間で終わったりします。

井桁:たしかに、だらだらしているといつまでもおうちの片づけが終わらないときあります。そんなに変わるんですね。

西:あと面白いのが、創造性です。アイデアを出す力は実は300パーセント上がります。

井桁:ドーパミンによって? 感覚的に言うと視野が3倍に広がるみたいなことですか?

西:そうなんです。不幸なときに、いいアイデアは思いつかないということなんですよね。

「静かな退職」は、なぜ広まっている?

現在広まっているのが「静かな退職」という言葉。会社を辞めるのではなく、仕事に対する熱意や意欲を失い、必要最低限の業務しかこなさないという働き方で、ある調査では20代では5割近くが「静かな退職をしている自覚がある」と答えている。

西:おそらく、こういう方は昔からいらっしゃったかもしれません。ようは会社に意義をあまり感じず、それよりも自分たちの家族やプライベートを充実させていくための手段みたいな感じだと思います。ただ、昔よりもいまそれが広がっているひとつの原因としては、やはりSNSの影響が大きいかもしれません。井桁さんは想像できないかもしれませんが、私たちの時代はまったく情報がないんです。

井桁:「会社の中だけ」とかになりますよね。

西:そうすると会社で「こうすべき」というのが絶対の常識になります。なので、疑問も感じず生きてきた方が多かったと思うんです。ところが、いまはSNSでいろいろなライフスタイルがあるじゃないですか。

井桁:同じ働くでもいろいろな働き方がありますね。

西:そうすると、たぶん昔の方よりも世界観が広がっている状態なんです。そうすると組織が小さく見えてしまう。なので「ここはどうなのかな?」という方が増えているのかなという印象です。

井桁:職場や仕事にモチベーションを感じられなくなった、というのがこの要因のひとつなのでしょうか。

西:やはり仕事に対して求めるものがすべて満たされていないときですよね。満たしたい感情というのは実は人それぞれあることがわかっています。たとえば、この仕事をすると人に貢献できる感覚を得られるとか、あとは自由を得られるといった感覚があります。その感覚というのは人によって違います。それが満たされないと職場がつまらないといったことになってしまいます。

褒め方の重要性

西さんは「大人と子どものモチベーションは基本的には同じ」としながら、環境によっては下がってしまうことがあると解説。「褒め方」によっても大きく変わるという。

西:褒めた子どもと、褒めない子どもに分けてパズルをする実験をします。褒めた子どもに「君は本当によくできたね」「君の頭がいい証拠だ」と褒めたグループと、まったく褒めずにいたグループに分けて、もう1回パズルを解かせるんです。そのときに簡単なパズルから難しいパズルまで選ばせるようにします。そのときに、どれくらい難しいパズルを選んだかという実験です。そうしたら、褒めたグループは難しいものを選ばなくなったんです。

井桁:褒められたから「もっとできる」という思考になりそうです。

西:子どもたちの行動を観察しているとわかってきたことがあります。「頭がいいね」と褒められた子どもは、頭がいいことを保持したいんです。難しい問題にチャレンジして失敗したらどうなりますか?

井桁:「頭がいい」と言われたのが嘘になっちゃうというか。

西:なので、子どもたちは頭がいいことを保持するために「できる問題」だけをやろうとし始めたんです。

井桁:守りに入っちゃうんですね。

西:なので、よかれと思って褒めたことが、内発的動機を下げてしまうんです。

井桁:でも絶対褒めたくなっちゃいますよね。

西:そうですよね。実は、もうひとつ「第三のグループ」というのがあります。これがあるポイントを褒めたグループだったんですね。このポイントを褒めてあげると、90パーセントぐらいの子どもが難しい問題にチャレンジするようになったと。

井桁:挑戦を褒める?

西:大正解です。すばらしいです。要は、努力したことを褒めたグループなんです。

「ご褒美」にも要注意

また、西さんは「ご褒美をあげる」という行為も内発的動機を下げてしまうと説明。「アンダーマイニング効果」という専門用語があり、それに関わる実験を紹介した。

西:「ゲームをしている子どもたちに、1ドルの報酬をあげるよ」という実験です。1ドルの報酬をあげない子どもたちには、ゲームが終わったあとに休憩を入れるんですが、休憩中に何をしているかというのを観る実験です。ものすごくゲームをして、いきなり休憩と言われたら何をします?

井桁:休憩中もやります。

西:子どもたちは休憩中ずっとゲームをしていたので、非常にやる気の高い状況です。このやる気をもっとあげようとして、研究者たちは「ゲームをやったら1ドルあげるよ」と言いました。そしてゲームをしてもらって、休憩中に何をしているかというのをモニターしました。そうしたら、ゲームにまったく見向きもしないんです。友だちと話し始めたりとか本を読み始めたりします。

井桁:怖い! もう、その子たちのモチベーションは「お金をもらうこと」になっているんだ。

西:大人でよくあるパターンですが、趣味があるじゃないですか。趣味を仕事にしたら好きじゃなくなるという人がいます。

井桁:ちょっとわかるところもあります。

西:そういう方は、最初は趣味で好きだったんですが、お金が目的になってしまった結果、やっていることに楽しみを感じられなくなってしまうという。これも「アンダーマイニング効果」なんです。

井桁:その危険性を理解したうえで、どこまで仕事として向き合えるかを考えたほうがいいんですね。

西さんの最新情報は公式サイトから。

J-WAVE『LOGISTEED TOMOLAB.~TOMORROW LABORATORY』は毎週土曜20時からオンエア。公式サイトでは、オンエア内容を「グラレコ(グラフィックレコーディング)」でわかりやすくまとめている。

・番組サイト
https://www.j-wave.co.jp/original/tomolab/
radikoで聴く
2025年7月5日28時59分まで

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番組情報
LOGISTEED TOMOLAB.~TOMORROW LABORATORY
毎週土曜
20:00-20:54

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