不可能だった“生演奏”をリアルな動きで実現したCGバンドとは? バンダイナムコ「ポラポリポスポ」の魅力に迫る

提供:株式会社バンダイナムコエクスペリエンス


人や物の動きをデジタル化する「モーションキャプチャー」。映画やアニメ、ゲームなどで広く使われる身近な技術だが、ギタリストの指さばきやキーボーディストの繊細なタッチといった“演奏の動き”は、再現が難しいとされてきた。

そんな中、バンダイナムコエクスペリエンスが送り出す“CGバンド”が、最先端技術でその壁を突破した。有観客のホールライブも経験し、国内外でファンが増えるほどに、本物のバンド表現を追求している。

プロジェクト名は「ポラポリポスポ」。その魅力や制作秘話を、プロデューサーの福田未和さんと、音楽プロデューサー/ベーシストの濱田織人さんにインタビュー。聞き手を務めたのは、J-WAVEナビゲーターやナレーションなど声の仕事のほか、楽曲制作やプロデュースも行う落合隼亮。

最先端技術×一流の音楽メーカーが支える「本物のバンド」

<WAKAZOのキービジュアル。彼らは中学時代の仲良しトリオで結成された3ピースバンド。疾走感があってノリがいい、ライブ向きの音楽を生み出している。キャラクターボイスは武内駿輔、律可、川島零士が担当>

ポラポリポスポは、2つのCGバンド「WAKAZO」と「chirp×chirp」の物語と音楽を発信するプロジェクトだ。個性豊かなCGキャラクターたちがバンドを結成した経緯や、活動を通じて人として成長していく様子をYouTubeのボイスドラマなどで細やかに描いている。

だいたい3分で分かる!『ポラポリポスポ』動画

彼らの生き様を表現する手段である楽曲の作編曲を担当するのは、B'zや大黒摩季など数々のプロジェクトに参加するベーシスト・徳永暁人さん。現在進行形で、日本の音楽シーンの第一線で活躍するアーティストが参画している。説得力のある音楽と、感情移入できるストーリーにより、実在のバンドを応援するように楽しめるという、これまでにないコンテンツとなっている。とくに、リアルな動きを追求したMVには、音楽に精通し、数多くのライブを見てきた落合も驚いたようだ。

CGバンド【WAKAZO】ミュージックアニメ『コイノヤマイ』 歌唱(CV)武内駿輔・律可

落合: MVを観ていてCGキャラクターの動きには驚かされました。繊細な指さばきで楽器を演奏していて、すごくリアルな動きですよね。どんな技術なんですか?

福田:ありがとうございます! 「ゼロエディットモーションキャプチャー」という技術を用いています。歌ったり踊ったりといった動きは、すでに様々な企業さんの技術でも、リアルタイムにキャラクターに反映できるようになっていますよね。私たちはそこからさらに一歩進んで、指先の細かい動きや、呼吸によるわずかな体の脈動まで、リアルタイムでキャラクターとして表現できるようにしました。ここまで繊細な動きをリアルタイムで再現できるのは、ゼロエディットモーションキャプチャーだけだと思ってます。

<ゼロエディットモーションキャプチャーは、株式会社ユークスが開発した次世代のリアルタイムレンダリングエンジン「ALiS ZERO®」と、株式会社gNuuw(ヌー)の「超高精度キャラクターマッチングツール」により実現した新技術>

落合:最先端の技術なんですね!

福田:ポラポリポスポは、キャラクターを“本物のミュージシャン”として表現することを追求していて、音楽で生き様を描きたいと考えています。だからこそ、ミュージシャンにとって、サウンドと演奏のパフォーマンスは、どちらも個性を表す重要な要素なので、その2つをリアルに表現することに、とことんこだわっています。

落合:僕もギターを弾くので思ったことなのですが、指にモーションキャプチャーのマーカーを付けて演奏するのは大変じゃないですか?

濱田:ご指摘の通り、モーションキャプチャーのマーカーが指に付いてないほうが演奏しやすいのは間違いありません。なので、楽器ごとに動きを捉えられて、かつ演奏していても邪魔にならないベストな装着位置はどこなのか、ミュージシャンと対話を繰り返し、検証を重ねる中で見つけていきました。

<濱田織人(はまだ・おりと)◎ベーシスト、音楽プロデューサー、クリエイティブディレクター。音楽方面では、スタジオミュージシャンとして演奏活動しながら、作編曲、作詞、プロデュースと幅広く活動。ポラポリポスポでは、WAKAZO・chirp×chirpの音楽プロデューサーを務めている。>

落合:“中の人”の演奏のしやすさにもこだわったからこそ、キャラクターがスムーズに動いているんですね。それと、指の動きだけではなく、楽器そのものもモーションキャプチャーに対応しているとうかがいました。

福田:そうなんです。FenderさんとRolandさんがモーションキャプチャーに対応し、かつ素晴らしい音が奏でられる楽器を専用で開発してくださいました。

落合:専用で作られたんですか! FenderとRolandが向いているマーケットは、あくまで「リアルな世界」じゃないですか。にもかかわらず、世界的音楽メーカーの2社がここまでバーチャルに歩み寄ることをしたのは、それだけポラポリポスポに可能性を感じたからだと感じます。

福田:そうだとうれしいです。CGキャラクターが音楽に合わせて楽器を弾いているように見せる映像は今までにもたくさんありました。しかしポラポリポスポでは、生身の人間が楽器を弾かなければ、キャラクターは動きません。そういったプロジェクトだからこそ、FenderさんとRolandさんも「楽器を弾くのであれば……」と本気でご協力いただけたのだと考えています。

【メイキング映像】Road to Polaris CGバンドを創るモーション技術(語りKYOSUK:CV 武内駿輔)

現役アーティストが集結し、リアルなバンドサウンドを生み出す

本物を追求しているのは、パフォーマンス面だけではない。「音」にも徹底したこだわりを持ち、生身のバンドサウンドを作り出すべく、メジャーシーンで活躍するプロのミュージシャンを招聘したという。

濱田:ポラポリポスポには、パスピエのキーボーディスト・成田ハネダさんや、2021年に解散した赤い公園のベーシスト・藤本ひかりさん、Pay money To my Painのギタリスト・PABLOさんなど、バンド経験のある現役ミュージシャンに参加いただき、実際にバンドで音楽を作る場合と同じプロセスで楽曲制作にあたってもらっています。

落合:いわゆる「キャラソン」とは、どのような点において作り方が異なるのでしょうか?

<落合隼亮(おちあい・しゅんすけ)◎J-WAVEをはじめとするラジオ、テレビにナビゲーターやナレーションとして出演するほか、イベントやクラブDJとしても活躍。音楽ディレクター、プロデューサーとしての経験も持つ>

濱田:一般的なキャラソンやアニソンは楽曲制作時に予め完成形をイメージして、それに沿った演奏をしていただくことが多いのですが、ポラポリポスポは“バンドらしさ”を重視した作り方をしています。バンドだと、誰かが曲を持ってきて、メンバーがセッションして作っていくことがありますよね。そういったバンドらしさを再現するため、方向性を提示したら「あとは好きにやってください」とミュージシャンに委ねるんです。すると、「ここにシンバルを追加してみよう」「ドラムの盛り上がりにギターを合わせたらどうかな」などミュージシャン同士のやりとりを通じて曲が仕上がっていきます。制作のライブ感を大切にするために、できるだけ一発録りするようにもしています。

音楽に深みをもたらす─バンドの結成経緯や成長を描く物語

2025年3月31日には、「WAKAZO」の新曲「コイノヤマイ」のMVがポラポリポスポ公式YouTubeチャンネルに公開された。その聴きどころについて、濱田さんは「3人の青さを疾走感のあるスリーピースロックで真っすぐに表現した」と話す。

落合:「WAKAZO」はギターソロもあるストレートなロックで、「chirp×chirp」はかわいい系……と2つのバンドは音楽性が正反対ですよね。曲を作るのは大変じゃないですか?

CGバンド【chirp×chirp】ミュージックアニメ『MOTTO』 歌唱(CV)西山宏太朗・小松昌平

濱田:めちゃくちゃ大変です(笑)。福田さんが作ったキャラクターの世界観やバンドのコンセプトに合致するよう、試行錯誤しながら楽曲を作っています。またポラポリポスポでは、バンド結成の経緯やメンバー一人ひとりの人間的成長といった物語もボイスドラマなどで追えるようになっています。ストーリーの中で彼らが体験した出来事が楽曲の方向性を決めたり、詞のインスピレーションになったりもしています。物語でキャラクターが成長すると音楽も成長する。そんなふうに物語と音楽がリンクする形で作っているんです。

落合:あっ、だから「コイノヤマイ」のMVの後、背景のストーリーとして「どんな曲を作ろうか?」とメンバーで打ち合わせをしている音声が流れたんですね。あれ結構リアルだなと思ったんですけど。
福田:彼らの日常会話が楽しめるボイスドラマになっています。落合さんがリアルだと感じられたのは、台詞の内容が、実際の制作現場で交わされたミュージシャンたちの会話にヒントを得ているからだと思います。現場では私が「ミュージシャンらしさを感じる、いい言葉だな」と思ったら勝手にメモして、キャラクターの台詞として活かしています。なので、今回のMVで話した会話の中にも、作編曲を担当した徳永暁人さんや濱田さんが実際にしゃべったことが元ネタとして散りばめられています。

落合:なるほど。お話を聞いていると、楽曲や物語など多様なコンテンツを提供しているという印象を受けます。ファンの方にはどのような楽しみ方を推奨しているのですか?

福田:私たちは公式を「ポ」、ファンの皆さんを「パピプペ」さんと呼んでいて、合わせると、「パピプペポ」という一つのまとまりになります。ここに込めているのは、「どんな楽しみ方をしてもいい」という想いです。愛し方は「パ」でもいいし、「ピ」でもいい。最終的にすべての愛し方が「ポ」に繋がるというメッセージを込めています。具体的に、バンドとして音楽を楽しんでくださってもいいし、キャラクターを対象に推し活をしていただいてもいい。ストーリーを考察するのも大歓迎です。様々な楽しみ方をしてもらいながら、最終的に音楽を大切にしていることを受け取ってもらえるとうれしいなと。

<福田未和(ふくだ・みわ)◎株式会社バンダイナムコエクスペリエンス、プロデューサー。これまでに「太鼓の達人」や、会いたいが叶うをコンセプトにした施設型CGライブ「CG STAR LIVE」を担当。ポラポリポスポの総合プロデューサーであり原作者>

落合:現時点ではファンの方からどんな反響がありましたか?

濱田:海外の方からも反応があり、驚きつつも嬉しいです。、「真っすぐ取り組んでいると、思わぬところに届くんだなぁ」と。

福田:特にアジア圏の方々から好評な印象です。日本から近い地域のほうがカルチャーに親和性もあって、浸透しやすいという事情もあるかもしれません。

ゼロエディットモーションキャプチャーとプロジェクトの今後の展望とは?

プロのミュージシャンが手掛ける本物のバンド音楽とキャラクターの織りなす物語で、日本のみならず世界にもファンを増やしつつあるポラポリポスポ。最後にプロジェクトの展望とプロジェクトの肝となる「ゼロエディットモーションキャプチャー」が秘めた可能性について語ってもらった。

【メイキング映像】カバー曲 『小さな恋のうた』 歌唱(CV)武内駿輔

落合:それでは今後の展望について聞かせてください。

福田: 2024年6月29日にポラポリポスポのデビューイベントとして神奈川県民ホールで有観客ライブを開催したのですが、そのときは収録音源を使用しました。なので、次に目指すライブではミュージシャンがステージの裏側でリアルタイムのパフォーマンスをし、その場で演奏した生の音をCGキャラクターと連動して届けることを目標にしています。

濱田:ライブに向けてオリジナル楽曲の制作も進めています。対バンで一つのショーが成立するぐらいの曲数と曲の幅は欲しいと思っていて。全部で10曲を制作する予定です。なのでゴリゴリ作ってます!頑張ります………!

落合:もはや、やっていることが本当のバンドですよね。曲を作らなければライブができないリアルがそこにあるというか。何ならプロモーションの一環として、J-WAVEの番組にWAKAZOやchirp×chirpがゲスト出演していてもおかしくないですし、ラジオの公開生放送なんかもできそうな気がします。そうなったらラジオ的にもバンド的にもワクワクするような革新的な施策になりそうですよね。

【WAKAZO】メンバープレゼン KYOSUK編(CV:武内駿輔、律可、川島零士)

濱田:今はリアルな姿を公開しないで活動するアーティストが増えてきましたし、そんな中でポラポリポスポのような在り方で音楽活動をすることも普通になって来るのではないかと思っています。

落合:お話を聞いていて、様々な先人たちの作ってきた小さな一歩が重なって今ここに至るんだと感じました。初音ミク、GReeeeN、キズナアイ、adoなど……ポラポリポスポも、こうした歩みの一つです。この取り組みがまた多様な継承のされ方をして、新たな音楽の楽しみ方、バンドの追いかけ方として広がっていくように感じました。

福田:そうなっていけたらうれしいです。

落合:あと「ゼロエディットモーションキャプチャー」も、今回のプロジェクト以外にも何かに活用できそうですよね。

濱田:僕もそう感じています。今はあくまでCGキャラクターを動かす技術として使用していますが、音楽のど真ん中でも十分戦えるのではないかと考えています。ミュージシャンは好奇心旺盛な方が多いので、この技術をMVに利用するなどして新たな化学反応が生まれたらうれしいです。さらに文化的な観点から言えば、たとえばレジェンドミュージシャンのパフォーマンスを保存するなどして、新しい著作物になる可能性を秘めていると思います。そんなふうに新しい音楽家の権利にもなるのではないかと勝手に妄想しています。

福田:音楽以外で言うと、伝統芸能をはじめとした文化の保存・保全などに使えるのではないかと考えています。あとは医療や教育。それと、競技性とリアルタイム性のあるフリースタイルダンスなども、キャラクターで表現できたらおもしろいと考えています。
(取材・文=小島浩平、撮影=夛留見彩)

関連記事