「ドラゴンボール」のナメック星みたい! 過酷なエチオピアの秘境を、絶景プロデューサー詩歩が振り返る

累計60万部突破の書籍シリーズ「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景」の著者で絶景プロデューサーの詩歩さんが、海外旅行・絶景に興味を持つようになったきっかけ、特に過酷だった絶景旅のエピソード、近年注力している活動などについて語った。

詩歩さんは1990年静岡県・浜松市生まれ。これまでに63カ国を巡り、InstagramをはじめとするSNSや写真集などで世界各地の絶景を紹介している人物だ。

詩歩さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。



・ポッドキャストページはこちら

絶景に注目したきっかけは、会社の新人研修

羽田空港・第3ターミナルを目指して走行する、詩歩さんを乗せた「BMW 218i Active Tourer M Sport」。国際線フライトが発着する空の玄関口へ向かう道すがら、初めての海外旅行の思い出について語り始めた。

詩歩:私はもともと絶景には興味がなく、どちらかと言えば、歴史的な建造物に関心がありました。というのも、小さい頃から古墳や古代エジプト文明の漫画をずっと読んでいて、その漫画に出てきた場所を実際に自分の目で見てみたかったんです。それが、私にとって最初の海外旅行の動機でした。はじめて訪れた国はイタリアでローマ遺跡を巡り、2カ国目がエジプトでピラミッド、3カ国目が南米ペルーでマチュピチュを観光しました。

「遺跡を自分の目で見たい」というモチベーションで、大学時代に旅に熱中したという詩歩さん。では、何をきっかけに絶景に注目するようになったのだろうか。

詩歩:絶景に興味を持つようになったきっかけは、新卒で入社した広告代理店の新人研修でした。研修では、新卒一人ひとりがFacebookページを立ち上げて、2カ月間で「いいね」数を競い合うという課題が出されまして。その課題で一番を取れば焼肉を奢ってもらえるインセンティブが付いていたこともありますし、それに私自身負けず嫌いだったので、どうやったら「いいね」が集められるのか、自分なりにすごく考えました。まず、自分が好きなものでないと続けられないということで、「旅行」のカテゴリーにしようと決めました。ですが、私の好きな遺跡や古墳は、残念ながら写真で見たときに、あまりインパクトがありません。

写真としてインパクトがあり、かつ、写真だけで海外の人にもノンバーバルで伝わるような旅行のコンテンツは何だろう……。そう思案する中で、「絶景かな」と自分の中に降りてきたんです。タイトルは、卒業旅行で訪れたオーストラリアで死にそうなほど危ない目に遭ったことから連想して、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」。その後、2カ月間更新を続けた結果、約2万人の方から「いいね」をいただき、無事に研修で1位を獲得して美味しい焼肉を食べることができました。2万人の中には海外の方からのリアクションもあって、知らない国の知らない人と同じプラットフォーム上で繋がれる楽しさを実感したことを覚えています。立ち上げたのが4月で、その年の年末にはフォロワー数が45万人、最終的には63万人ほどに達しました。

書籍が大ヒットし、独立を決断

新人研修の一環として立ち上げたに過ぎないFacebookページだが、その反響はすさまじく、詩歩さんの元には思いもしない仕事の依頼が舞い込んできた。

詩歩:Facebookを更新する中で、とある出版社の方から「このFacebookページのコンテンツを書籍にしませんか?」とご依頼をいただきまして。当時、会社が副業に対してウェルカムではなかったのですが、「書籍であれば人生の記念になるしいいんじゃない?」みたいなノリでOKをいただき、会社を続けながら「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景」を出版しました。私自身も人生の記念になればというテンションで作った本だったのですが、誰も想像していなかったくらい、たくさんの人に読んでいただけて、今ではシリーズ累計6冊、合計63万部が売れた書籍に成長しています。この書籍の出版によってメディアから取材依頼や、企業からお仕事のお問い合わせをいただくようになり、会社の業務と並行して続けることが難しくなっていきました。そこで、いったん絶景の仕事だけでやってみようと思い、丸2年働いた新卒入社の会社を退職して独立したのが、2014年の4月のことでした。

会社員としての安定を捨てて20代のうちから独立開業するのはリスクを伴う。会社員を続けながら副業で絶景の仕事を続けることもできたはずだが、あえてフリーランス一本で勝負することを決断した理由とは。

詩歩:最初は退職してフリーランスになるのではなく、副業のしやすい会社へ転職することを考えていました。そんな中、クリエイティブ系の転職活動に詳しい方を紹介してもらい、話を聞きに行ったところ「二足の草鞋を前提に両方ともフィフティー・フィフティーの力でスタートしたら、どちらも100%成功することはない。なぜ絶景の仕事を100%でやったこともないのに、一本でやっていけないと思い込んでるの?」とアドバイスしていただいたんです。その言葉が私の中ですごく刺さり、「たしかに私はまだチャレンジしてないのに、絶景の仕事ではやっていけないと何故か信じ込んでいたな」と考えさせられました。そして、その日のうちに退職届を出しに行ったんです。

過酷過ぎるエチオピア「ダナキル砂漠」への旅路

腹を括ったからには、あとは行動あるのみ――。退職すると詩歩さんは、多忙な広告代理店勤務によりほとんど旅に出かけることができなかった2年間の鬱憤を晴らすように、絶景を求めて世界中を飛び回る。むろん、絶景に辿り着くためには困難がつきものだ。中でも、エチオピア北東部に広がる「ダナキル砂漠」へ訪れた際には「特に大変だった」と口にするほど過酷な体験をしたようだ。

詩歩:ダナキル砂漠は、3日間野宿しなければ行けないすごく辺鄙な場所にありました。まずはエチオピアの首都・アディスアベバまで国際線で行き、次に国内線でティグライ州の州都メケレへ。そこから車で移動し、最後は車も入れないような場所を丸3日間徒歩で進み、ようやく辿り着くことができました。そこまでして行きたかった場所がどんなところかというと、ドラゴンボールに登場する「ナメック星」のような景色なんです。黄色、オレンジ、蛍光グリーンなど、絵具のような液体が地面を埋め尽くしているというか……。言葉では説明しづらいのですが、火山地帯になっていて、火山の成分が液状化して噴出している地帯なんです。ちなみにこの場所は「世界で一番過酷な場所」とも言われています。たとえば、火山ガスが出ていることから人体に若干の危険があったり。また、隣国のエリトリアと国境が近く、治安があまりよくないという事情もあります。そのため私が申し込んだツアーには、銃を持った民兵が付いてきてくれました。

もう一つ、世界でもっとも過酷と言われる理由が「温度」です。気温が非常に高いエリアで、私が訪れたのは春くらいだったのですが、それでも約45度に達しました。3日かけて行く場所ですから、せっかくなら何時間でも留まって写真を撮りたかったんですけど、あまりにも暑くてガイドさんが早く帰りたがるんです(笑)。なので結局、1時間もいさせてもらえず、40分ほどで撤収することになりました。なお、そこで撮った写真は、2年前に出版した私のエッセイ本「世界の絶景に行ってみた。」の表紙に採用しています。

リサーチでは数万点の写真に目を通すことも

絶景プロデューサーとは「絶景に関する何でも屋さん」とのこと。ワインソムリエがワインに関する豊富な知識を使って業務を遂行するように、絶景に関する情報や体験を活かす仕事であると、詩歩さんは定義する。そんな絶景プロデューサーにとって大事なタスクの一つが「リサーチ」だという。

詩歩:絶景のリサーチ作業としては、最近はSNSで色々な人が発信しているので、InstagramやX(旧Twitter)を使って探すことが多いですね。基本的にはハッシュタグやスポット情報から調べていきます。たとえば今度、福島県へ行く予定があって絶賛リサーチ中なのですが、「#いわき市」で2万件ヒットしたら、とりあえず2万件全てに目を通すようにしています。また、Googleの画像検索で何万件と写真が出たら、やはりすべて見ています。検索した結果、良い場所が1つもないなんてことはざらです。でも、たくさんの写真の中から、「この景色、条件を変えて私が切り取ればこうなるな」と可能性を感じる一枚が見つかることもあります。そんなふうに、インターネットにある情報を参考にして「自分ならこう撮れる」と考えながら絶景を探すことが多いですね。

インスタ用の写真に込める独自のこだわり

リサーチだけではなく、現地での行動や写真撮影の仕方にも、独自のこだわりがあるようだ。

詩歩:絶景旅で大事にしていることは、朝早くに行くことです。人がたくさんいる中で写真を撮るのが難しいこともありますし、それに、空いている時間帯のほうがシーンとした空気が一帯に広がり、その場所本来の良さが見える気がして好きなんです。とはいえ、私自身は早起きが苦手でして……。できればしたくないのですが、旅行へ出かけたときは朝一から頑張って行動するようにしています。

また、写真撮影の仕方ですが、Instagramにアップしているような写真は、自分自身が写り込むことが多いです。撮影方法は、友だちが同行した場合は友だちにシャッターを押してもらい、ひとり旅の場合は三脚を立ててセルフタイマーで自撮りをしています。あと写真に写る際は、洋服の色も大事だと思っていて、風景にマッチした着合わせを事前にイメージして持っていくようにしています。たとえば、雪国であれば赤いワンピース、リゾート地なら黄色いビビットなワンピース、といった具合にコーディネートしているんです。ちなみに私はニット帽とマキシ丈のワンピースを自分のスタイルとしているんですけど、ニット帽は家に全部で40個くらい、ワンピースは50着ほど所有しています。

近年は日本の自治体とのコラボを展開

続いては、詩歩さんが現在取り組んでいる最新のプロジェクトについて話してもらった。

詩歩:最近は日本の自治体さんとのお仕事が多くなっています。直近4年間は、愛媛県庁さんの事業に携わっていて。愛媛には、観光地として知られる道後温泉や下灘駅以外にも、素敵な場所がたくさんあります。そこで、世界中を旅してきた私の目線で新しい観光地を発見し、紹介していくという取り組みを行っているんです。たとえば、愛媛県松山市にある立岩海水浴場、通称「モンチッチ海岸」では、ある一定の条件を満たすと水面が空を反射して鏡張りのような世界が見られます。この海岸の風景をはじめ、県外の人はもちろん、地元の人さえまだ知らないような景色を、自分の目利きで発掘していくということをしているんです。

このように世界中を旅してきた知見を活かし、近年は日本国内の知られざる絶景を見出すことに注力する詩歩さん。彼女にとって「未来への挑戦=FORWARDISM」とは?

詩歩:日本の地方には可能性がたくさん眠っていると感じています。海外で様々な人と会話して気付いたのは、皆、自分の住んでいる街に誇りを持っているということ。「本当に良い街だからおいでよ」とみんな口々に言うんですよ。実際に行ってみると、何の変哲もない田舎だったりするんですけど、「自分の街が好き」と言えることはすごく素敵だと思うんです。では、日本はどうなのか。かくいう私は静岡県浜松市出身なのですが、地元にいた頃は「浜松なんてなんもない」と思っていました。かといって、上京後に東京の人と話しても「東京は何もない」と言うんですよね。じゃあ日本には、いったいどこに何があるんだと(笑)。このように、日本には自分の地域を好きな人がすごく少ないと感じているので、日本の人たちがそれぞれ自分の住んでいる地域を好きになって紹介できるような未来になったらいいなと考えています。そのために私は「絶景」という切り口で、様々な場所に眠っている美しい景色を伝える活動を続けていきたいです。

(構成=小島浩平)
番組情報
BMW FREUDE FOR LIFE
毎週土曜日
11:00-11:30

関連記事