「心地よい会話」はどう生まれるのか? 言葉を引き出すプロ、クリス智子に心がけを訊いた

心地よい雰囲気を大切にしながら、その瞬間にしか聴けないゲストの言葉を引き出すプロフェッショナルとして、長年J-WAVEで人気を博するクリス智子。現在は、毎週一組のゲストをお迎えして濃密なトークをお届けする番組『TALK TO NEIGHBORS』(月曜-木曜13時-13時半)をナビゲート中だ。同番組はポッドキャストも展開しており、配信限定のトークも楽しめる。

アート、音楽、映画、デザイン、食など、ゲストが活躍する分野やトークテーマが多彩な番組だが、いつも共通しているのは、聴く人に寄り添うよう心地よさ。その秘訣はどこにあるのだろうか? 今回はクリス智子に、オンエアで話をする際の心がけをインタビュー。おだやかさとストイックさが共存する独自のバランス感覚や、私たちの日常会話にも役立ちそうなコミュニケーションのポイントが見えてきた。

会話をするときは「互いの間にあるものを見る」

──長く愛された『GOOD NEIGHBORS』から、ゲストと対談をするコーナー『TALK TO NEIGHBORS』が番組として独立しました。ゲストひとりにつき、合計2時間ほどのトークがオンエア&ポッドキャストで配信される番組です。長丁場の収録はどんなふうに進むのでしょう?

2時間ほど、原稿は一切なしで進めています。キーワードは設けながら、あとは互いに呼吸を大切に、反応を大切に。その場の流れで生まれた話っておもしろいですし、予定調和なことを話すときとは声色も変わってくるんです。私は、本来、人と人が自然に会話するときの反応や間合いも大事に引き出したいので、こういう対談番組が作りたいと思いました。収録ではありますが、生放送よりも生っぽいと言えるかもしれません。

──たしかに、自然な盛り上がりが魅力的な番組です。会話をするうえで、心がけていることはありますか?

俳優・工藤阿須加の出演回では、食事に関する独特なこだわりが、イキイキとしたトーンで語られた。

話をしているときって、相手の目や表情、身振りなどからも、言葉と同じくらい伝わってくるものがありますよね。だから話を聞くときは、耳だけでなく全身を使う感覚があります。そのうえで、言葉のやりとりだけではなく、互いの間にあるものを見る。そうすれば自然と話が繋がっていくと、これまでの経験から感じます。もちろんリスナーが会話に入れるような余白、空気感を作るようにも心がけています。

──会話はキャッチボールと表現されることも多いなか、「間にあるものを見る」という視点は、雰囲気づくりを左右しそうですね。

ラジオのナビゲーターというと、「話す仕事」と思われるかと思いますが、実際には話す以上に聴き方がものをいう仕事だと思います。意見を言うにしても、質問を考えるにしても、聞いていないと話せないですよね。さらに言葉ではない、自分と相手の間にあるものを見るのが大切だと思っています。それは、仕事もプライベートも、コミュニケーションという点では変わらない部分かもしれません。

──オンエアを聴く側としては、クリスさんとゲストの方と一緒に会話をしているような空気感のある番組だと感じます。一方通行ではない、ゆるやかな輪に入れるというか。

嬉しいです。今の時代、きれいにアウトプットされるものも増えているような気がするので、整った先にある、それとは少し違う質感、手触りがある番組をやりたいと、特にこの数年、意識しています。なんとなく聴いていたのに、それぞれの自然治癒力に響いて調子が取り戻せたり、もっと違う何かを求める気持ちにはヒントの光が射すような会話がお届けできたらという想いがあるんです。聴いている方が、番組で耳にした具体的な情報で動くこともあると思いますが、色々な考え方を聴いているうちに、いつの間にか少し楽に、他者や自分のことを捉えることができたらいいだろうと思いますし、そういう些細なものの中に大切なことがたくさんあると思っています。

エッセイストの松浦弥太郎を迎えた回では、物事を柔らかく受け止める松浦弥太郎らしい言葉が数多く引き出された。

よいものを生み出すために、妥協せず言葉を尽くす

──ご自身がナビゲーターとして、そういう雰囲気のトークに強みがあると感じたきっかけはありますか?

強みかどうかはわかりませんが、実質的なことでは、最初から、それこそ台本がないゲスト番組の担当だったんです。当時は大学を卒業したばかりで、ある意味では放り込まれた感じというか(笑)。ただ、子どもの頃から、コミュニケーションや人との縁でどんどん自分の世界が動いていたので、当時のプロデューサーも何かを感じて任せてくださったのかもしれません。自分としては、「ぜんぜん向いてないです」という腰が引けるところから始まったんですが、人と話をしたり、聞いたり、「この人はどういうことを考えているだろう」「今、何を話したらおもしろいだろう」と考えることは昔から好きでしたね。

マニュアルで学んだりレッスンを受けたりしたわけではなく、自分の声でどういう情報を届ければいいか、よりよいオンエアのためにどうすればよいかをずっと考えていて、スタッフなど周囲に相談しながらやってきました。「こうしたほうがいいと思う」ということがあれば、周囲に伝えるためには言葉を尽くしますし、時間も気持ちも労力もかかるんですけど、それをするかしないかで、確実に番組の質が変わると思っているので、俯瞰して厳しいところはあるかもしれません。生放送は思い通りになるものではないですが、事前に気づいたことがあれば、悔いが残らないよう、考えたほうがいいよねと。そういう私の話に、スタッフも耳を傾けてくださることで、できてきています。「雰囲気」って、ラジオのいいところだと思いますが、なんとなく、ではなく、しっかりしたものしか纏えないものだと思っているので、私自身は、一生懸命やるのみです。

──クリスさんのトークは、ずっとおだやかなトーンではありつつ、意外と軽快にツッコミを入れてらっしゃるときがあって、その緩急におもしろさを感じていたんです。今のお話を聞いて、俯瞰して見るという習慣が関係しているのかなと思いました。

オンエア全体を見ても、私はそこにいるんだけど、聴いている方とゲストの方の間にいるというか、本当に限りなく透明な感じでよくて。「そういえば、なんとなく気持ちよかったな」と思っていただける中に、私がいればいいのかなと思っています。

阿川佐和子を迎えた回では、「好物はいつ食べる派?」「最後の晩餐で食べたいものは?」など食トークで盛り上がった

緊張しないために考えたこと

──長年、ナビゲーターを務めるなかで「あのときは緊張したな」という思い出はありますか?

始めた頃は緊張することもありましたが、今はあまりしなくなりました。もちろん今も、ある種の緊張感は持っていますが、自分が緊張を表に出すことがいいことだと思っていなくて。やはり私が緊張していると、周囲に気を遣わせてしまいますよね。聴いている方にもゲストの方にも緊張感が伝わってしまう。だから、「私自身の妙な緊張は一番いらないかも」と思って、どうすればしないでいられるか、分解して考えたんです。緊張の質を変えるというのかな。緊張をするのは理由がありますよね。自分が準備不足だからなのか、相手が巨匠だからなのか、素敵に見られたいという思いがあるからなのか……理由がわかれば対処できるので、いらない緊張をすることはなくなってきた、という感じです。仕事を始めた頃から、キャリアのあるゲストの方々においては、懐が深いですから肩肘はらず、大船に乗らせて頂く感じで。

感覚を大切に。「曖昧な感じ」がラジオの魅力

──ラジオのおもしろさを、どこに見出されていますか。

何が起こるかわからないということは、ひとつの魅力としてありますよね。きっちりとした四角じゃなく、線が曖昧な感じというか。たとえば、ゲストの方がオンエアに遅れてしまったときに、咎めるのではなく、むしろ面白がる雰囲気がある。生放送も日常も、予想外のことはいつだってありますから、そういう時にいかに面白くしていくか、だと思いますし、他人同士がお互い受け入れ合うことにもつながると思います。何事も、起承転結、細かいところまで予想通りになったら、つまらないですよね。そんな生放送のスリルはもともと好きですね。何が起こるかわからないから、楽しい。

あとは、見えないところがいいとも思っています。

──と言うと?

コロナ禍のときに、ふと気づいたんですが、私はいつも、聴いている人の部屋にお邪魔してるような感覚で放送をしているのかも、と。インテリアみたいに、そこにそれがあるとなんだか心地いいね、という。そういう感覚的な部分を大切に思っています。誰でも「言葉にうまくできないけど、好き」という感覚があると思うんですね。音楽でもアートでも、好きな理由がはっきりとわかるまでに時間がかかったりするじゃないですか。わからないままかもしれない。でも、その言葉にできない感覚的なところが、一番よかったりして。ラジオも、そういうものになったらいいなと思います。

矢部太郎を迎えた回では、家ですることや1日の過ごし方など、プライベートな一面に迫った。料理の「衣」にまつわる、クスッと笑えるエピソードも

これからやってみたいことは?

──私生活の部分で言うと、クリス智子さんのInstagramでは、アートや料理、ご自宅のある鎌倉近辺の景色まで、色とりどりなライフスタイルが伝わってきます。今後、やってみたいことはありますか?

Instagramは、自分の視点かもしれないですね。これからは、これまでの続きをやっていくだけなのですが、少し角度を変えて、自分の目線をもう少し大事にしながら発信もしようと思っていて。きっと同じことをしても、新たに見えてくるものがあるのかなと。あとは、なかなか自分に時間をあげることが下手なところがあるので、やれていないことにはどんどんチャレンジしてみたいです。夏だったら、サーフィンやスキューバダイビングの話を聞くと「いいな」と思いつつ、「でも私、そんなに海派じゃないしな」となっていたんですけど(笑)、自分のまだ知らない自分がいるだろうと思って。だから今はまず、やってみたいことや、自分に足りないものを洗い出しているところです。

クリス智子が選ぶ、午後のリラックスタイムにおすすめの楽曲

William Benckert / Light Blue Sky
(J-WAVE のジングルに似たフレーズが出てきます)
番組情報
TALK TO NEIGHBORS
毎週月曜~木曜
13:00-13:30

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