金子ノブアキ、40代で気づいた「自分の本質」とは?土屋太鳳に感じた“強さと優しさ”も語る

土屋太鳳が演じる恋愛音痴な主人公・輪花が、マッチングアプリをきっかけに巻き起こる恐怖を描く新感覚サスペンス・スリラー映画『マッチング』が、2月23日から全国公開を迎える。

輪花がアプリで出会う狂気のストーカー・永山吐夢役をSnow Manの佐久間大介、輪花に想いを寄せるアプリ運営会社のプログラマー・影山剛役を金子ノブアキが務めるなど、実力・人気ともに兼ね備えたキャスト陣が脇を固める。メガホンを取ったのは、『ミッドナイトスワン』『サイレントラブ』などの内田英治監督だ。

J-WAVE NEWSは、影山を演じた金子ノブアキにインタビューを敢行。かねてより希望していた内田監督とのお仕事について、共演した土屋太鳳との撮影エピソードから、映画『マッチング』にかけて人付き合いで大切にしていることなどを語ってもらった。(J-WAVE NEWS編集部)

映画『マッチング』本予告【2.23(金・祝)公開】

登場人物の感情が複雑な映画

──最初に脚本を読んだ感想を教えてください。

活字で読んだら理解不能なことが多すぎて。これまでで一番監督に質問をしたので、監督からしたら相当鬱陶しかったと思います(笑)。というのも本作は伏線が多く、いろいろ繋がっているから、「これは何でなんだろう?」ということがすごく多いんです。

──劇中の登場人物たちがどういった感情や思いで行動したのか、が複雑だったと。

そうですね。監督もそのへんはコントロールされていたと思うんですけど、本当のことはあまり明かさなかったんです。完成したものを観て思ったのは、オリジナルだから、監督自身の中身が随所に織り込まれていたんですよね。だからこそ、普通とは違うというか……監督と「これは普通だとこうだと思うんだけど、どうしてこうなんだ?」という話をいろいろして、最終的に本編の形になりました。しかも、僕が演じた影山の感情も単純じゃないですし……大人になった自分と、子どものままの自分がないまぜになって、混乱しているところもある。影山はそういうキャラクターなんです。

──そんな影山を演じるのは難しかったですか?

難しかったですね。でも、先に撮っていたキツい回想シーンを撮影の前に見せてもらっていたので、そこから作り上げていくことができました。そのシーンは「太鳳ちゃんはきつかっただろうな」って思いながら観ましたよ。でも、僕も目がブルブルしていましたね。結構ブルブルしているシーンが使われているんですよ。たぶん「カメラ回りました!」と声がかかる直前の顔。集中する直前の顔ですね。あえて狙って、そこからカメラを回していたんだと思うと、監督はなんて恐ろしい人なんだと思いました(笑)。

──目がブルブルしていたのというのは、金子さんご自身も演じながら追い詰められていたから?

追体験しているようなものですからね。ああいう場所に行って、ああいうセリフを言う。キツイですよ。美術チームのおかげでもあって、何もしなくても運んでもらえるような感じがあって。この作品はエンタメ作品という落としどころではあるんですけど、そこはやはり内田作品というか。内田監督の持ち味って、人間の苦しみを、何の躊躇もなく描くところだと思うんです。あくまでもエンタメ作品だし、ツッコミどころもたくさんある。台湾の映画祭では笑い声も起きていたらしいんですよ。ツッコミどころもちゃんとあるし、スリラーの楽しみ方も考えて作られている。だけど、その中に内田監督らしい苦しみが描かれているんですよね。完成した作品を観て、何で内田監督がこういう作品を作りたかったのかが、ようやくわかりました。

内田英治監督のすごさ─衝撃だったことは?

──金子さんは以前から内田監督と仕事をしたいと思っていたそうですが、それはどうしてでしょうか?

内田監督の作品が暗くて悲しいからです。そういうものをちゃんと描ける機会が、内田監督作品にはある。それを商業という大きな枠の中で、監督がちゃんと神輿の上に立って作っているという現状が、僕は素晴らしいと思うんです。コンプラだ何だといろいろ難しくなっているなかで、内田監督とだったら、遠慮なく暗くて悲しいものにありつけそうだなと思いました。実際に『ミッドナイトスワン』を観たときは、すごい衝撃で、動けなくなってしまった。それってすごく大事なことですよね。忘れちゃいけない温度感と質感だと思うし、それによって浄化されることもすごくある。そのような作品が減ってきているのは、もしかしたら本当に時代が困窮していて、そういうものが作りづらくなっているからかもしれない。そう思うと、ああいうものに一喜一憂できるのって平和の証だなと思うんです。ああいうものが作られること自体がポジティブなことだと思うんですよね。「こんなの観ている場合じゃねぇ」ってならないようにしなきゃいけないなと。

──実際に内田監督作品に参加してみて、気づきや発見はありましたか?

編集後のものを観て発見したことはあります。「ここ使うんだ、気抜けないな」とか(笑)。あとは喫茶店のシーンで、僕の背中からレールを使って撮影していたんですが、カット尻がすごく長くて。カットがかかるまで無言で待っているシーンだったんですけど、実際、そのカットをギリギリまで使っていて、謎の間があるんです。試写で観て衝撃を受けました。でも、だからこそ観ていてすごくハッとする。そういう違和感がいろんなところに意図的に入れ込まれていました。ライブでも、いいライブを観ているときって静寂の中にいるみたいになるじゃないですか。それと近いなと思いました。僕らは気が抜けないので、恐ろしい監督だなと思いますけど(笑)。

土屋太鳳に感じた「タフさと優しさ」

──主演の土屋太鳳さんについても聞かせてください。土屋さんとの共演について、出演発表の際に「ここまで向き合う役どころは初めてで、待望の機会」とコメントしていましたが、実際に共演してみていかがでしたか?

もうみんなが思っている彼女のままです。監督が彼女について「もっと素の状態、武装していない部分を描きたい」と言っていたんですが、そうすればそうするほど彼女の本質的な強さや度量が出てくる。座長を張っている女優さんってタフな人が多いんですけど、その中でも彼女は特にタフネス。もちろんフィジカルが優れているというのはあるけど、それを手に入れるまでの精神力も持っている。“自分がタフであれば他人に優しくできる”というのを体現していて、それが母性みたいなものに繋がっているんだと思う。「健全な魂は健全な肉体に宿る」とよく言いますけど、彼女はその通り。見習わなきゃと身につまされることがいっぱいあって。彼女がいれば絶対に大丈夫という頼もしさがありました。

©2024『マッチング』製作委員会

──マッチングアプリを題材にした本作。俳優という職業では作品ごとに共演者やスタッフが変わりますが、金子さんが新しい現場に入るときに意識していることや、人付き合いで大切にしていることはどのようなことでしょうか?

俳優の仕事は、どんなに知っている役者さんやスタッフさんがいても、作品が変わっちゃうとゼロからになるんです。人間関係も含めて全く違うものになるので、初日を迎えるまでは緊張して眠れないです。現場に入っちゃえばあっという間なんですけど。今回もそうでしたが、苦しみの先にしか撮れないものってどうしてもあって。だから、“そういうもの”だと思うしかないんですよね。ただ、経験が増えることによって「今日はきついかもな」とか「無理かも」とか、そういうことは言えるようになってきたかなとは思いますね。映画というのは監督のものだから、監督の意志や意見は絶対に尊重するんだけど、いわゆる太鼓持ちはしないようにするかな。違うと思ったことは最後まで「俺は違うと思うけど、でも任せてください」っていうスタンスで。なんかね、40代に入るくらいで、そういう自分の本質に気づいたんですよ。

──ご自身の本質というのは?

ドラマーだからというのもあると思うし、余裕が出てきているということでもあると思うんですけど、シンプルに「どうやったら周りの助けになれるのか?」を考えるようになってきました。そういう意味では、ステージ上でライブをやっているときの感覚にめちゃくちゃ近くなってきましたね。それまではやっぱり僕が俳優として現場にいることに戸惑っていたんだと思うんですよ、自分も周りも。それが10年くらいやって、ようやく慣れてきて。そうなって初めて、周りを助けることが始まったのかなと思うし、これがこの先、加速していってくれたら最高だなと思いますね。

(文=小林千絵、写真=山口真由子)
【作品概要】
『マッチング』
2月23日(金・祝)全国公開
配給:KADOKAWA
©2024『マッチング』製作委員会

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