セリフゼロで挑んだ妖艶な新境地。映画『喜劇 愛妻物語』(2020年)でその年の映画賞を席巻した水川あさみが、映画『唄う六人の女』(10月27日公開)で和服姿の“刺す女”を怪演した。
人里離れた異界のような山奥の森を訪れた2人の男(竹野内豊と山田孝之)が、物言わぬ6人の美女たちに理由もわからず監禁される。果たして女たちの目的とは……?
セミを食べたり、竹野内豊をムチで叩いたり、無表情で板チョコを貪ったり。シュールかつ奇妙な世界観の中で言葉を一切用いずとも持ち前の存在感を匂い立たせた水川。無表情演技の裏話から、映画賞受賞を機にリセットした俳優観やお勧めの一曲まで大いに語ってもらった。
──セリフがない、という超斬新な役でしたね! セリフで表せない分、難易度も高かったのでは?
セリフに頼れないという点ではハードルは高かったかもしれません。でもセリフ以外の表現方法を探すという新しい挑戦ができるのは嬉しかったです。監督からのオーダーは、表情を作らない、相手の反応に対してリアクションをしない、無駄な動きをしない、でした。無駄な動きというのは、瞬きにも当てはまることで、首の傾げ方や目線の投げ方まで監督の頭の中には明確な正解がありました。今回の作品は、監督の中にある正解のヴィジョンにいかにフィットさせていくかという作業の連続でした。
──セリフも表情もないのに、水川さんの目からは相手を蔑んでいるかのような怖い感情が読み取れました。まさに「目は口ほどに物を言う」です!
演じるにあたり意識したのは感情を表に出さないということでしたが、無表情であっても心の奥にある感情というものは表に出るもの。自分としては感情を無にするように演じていましたが、リアクションを取らないようにしていても、相手の言葉を聞いたり反応を受けたりすると、やはり心では感じてしまう。無ではあっても実際は無ではないんだと知りました。女たち全員にセリフがない意図について監督は『言葉をなくして余白を持たせることで、女たちが何を思っているのかを観客に想像させたい』と仰っていたので、伝わる人には伝わるようになっているのではと思います。
先端の尖った細長い本物のムチなので、肌に軽く当たっただけでも赤い跡が残るくらいのものでした。監督からは本気でやってほしいと言われましたが、ムチには慣れていないので竹野内さんとの物理的な距離を探ったりしてしまい、最初の頃は本気で打つことが難しかったです。たとえ本気で打ったとしても、カメラを通すと本気で叩いているようには見えなかったりして、その試行錯誤や微調整に苦労しました。
──叩き方や回数、間の取り方が見事で悲劇と喜劇の表裏一体を感じました!
何度かテイクを重ねていく中でうまく扱えるようになったのと、ムチで打たれたことに対する竹野内さんのリアクションなどが重なって異様な場面ではあるのにリズムよく滑稽さが生まれたと思います。うまくハマるまでかなりのテイクを重ねたので竹野内さんは傷だらけ。こちらが心配しても「平気だよ」と気を遣っていただきましたが、あれは絶対に痛かったはず……。改めて「ごめんなさい!」とお伝えしたいです。
──ムチ打ちのタイミングを含めて、水川さんはユーモアを生み出す感度が高いような気がします!
自分ではそう思いませんが、ユーモアのセンスがある人でありたいとは常に思っています。コミュニケーション能力も高くはありたいけれど、それについては「超低い」と言われたことがあります。
──だ、誰に?
え? ……占い師に(笑)。
──語弊があるかもしれませんが、あえて占い師の言葉を例として挙げる時点で水川さんはやはりおもしろい人だと思いますっ!
水川:(大爆笑)
──水川さんはかなりの笑い上戸ですよね? そんな方が無表情キープって大変ではありませんでしたか?
竹野内さんから奪ったチョコレートを食べるシーンはちょっとだけ苦労しました。私としては貪るように食べるイメージがありましたが、さすがに貪り過ぎたようで……。ムシャムシャと食べすぎNGというのが出ました(笑)。撮り直しの際に急にその状況がシュールに思えてきてしまい、ついつい吹き出しそうになってしまいました。チョコレートの食べ方一つとっても、監督のやりたいことや意図は明確でした。
──水川さんは『喜劇 愛妻物語』(2020年)の演技が高く評価されて、自身初となる映画賞を多数受賞されましたね。この評価は水川さんにとってどのようなものでしたか?
役者業においてはもちろんのこと、人生においても私の中では大きな出来事でした。どのような作品でどのような役を演じ、どのような監督と組んでどのような役者さんと共演したいのか。自分が理想とするヴィジョンはこれまでにもありましたが、賞を頂いてからは自分が進みたい理想的な道がより明確になって、臨む作品や仕事に対して納得できる比率が高くなったような気がします。今後もお芝居に長く携わりたいと考える中で演技に対する賞を頂けたことで、今までのスタンスを一度リセットできたというか。生まれ変わるとまでは言いませんが、役者としての考え方を改めて整理するような出来事ではありました。
──水川さんの活動年数は27年にも及ぶわけですが、なぜここまで継続できたと思いますか?
なぜ今までこの仕事を継続してこられたのか、そこに私はハッキリとした答えを持ててはいません。この仕事は好きですし、めちゃめちゃおもしろいとも思います。でも同時にすごく嫌いになってしまうときもある。そんな両方の感情を持っているからこそ、続けてこられたのかなとも思います。そして今の年齢になってやっと表現の本質的なおもしろさがわかり始めた気もしています。今まで以上に、ここから先の方がお芝居に対する楽しさが増すのではないかと思います。
最近よく聴いているのは、Awichさん、NENEさん、LANAさん、MaRIさんによるサイファー『Bad Bitch 美学』で、AIさん、ゆりやんレトリィバァさん参加のRemix版がお気に入りです。Awichさんの楽曲は普段からよく聴いていて、新しい曲が『Bad Bitch 美学』。歌詞が攻めた曲でかなりカッコいいです。Awichさんを好きになったきっかけは『洗脳』という曲で、この曲もかなり攻めた歌詞。今の時代にこんなにカッコよくて強いメッセージ性のある楽曲を歌ってくれる女性がいるのかと惚れ惚れしました。
(取材・文=石井隼人、撮影=山口真由子、ヘアメイク=星野加奈子、スタイリスト=番場直美)
■作品概要
タイトル:『唄う六人の女』
公開日:10月27日(金)、TOHOシネマズ日比谷他、全国ロードショー
配給:ナカチカピクチャーズ/パルコ
コピーライト:© 2023「唄う六人の女」製作委員会
人里離れた異界のような山奥の森を訪れた2人の男(竹野内豊と山田孝之)が、物言わぬ6人の美女たちに理由もわからず監禁される。果たして女たちの目的とは……?
セミを食べたり、竹野内豊をムチで叩いたり、無表情で板チョコを貪ったり。シュールかつ奇妙な世界観の中で言葉を一切用いずとも持ち前の存在感を匂い立たせた水川。無表情演技の裏話から、映画賞受賞を機にリセットした俳優観やお勧めの一曲まで大いに語ってもらった。
表情を作らず、セリフもなし…芝居の新境地
セリフに頼れないという点ではハードルは高かったかもしれません。でもセリフ以外の表現方法を探すという新しい挑戦ができるのは嬉しかったです。監督からのオーダーは、表情を作らない、相手の反応に対してリアクションをしない、無駄な動きをしない、でした。無駄な動きというのは、瞬きにも当てはまることで、首の傾げ方や目線の投げ方まで監督の頭の中には明確な正解がありました。今回の作品は、監督の中にある正解のヴィジョンにいかにフィットさせていくかという作業の連続でした。
──セリフも表情もないのに、水川さんの目からは相手を蔑んでいるかのような怖い感情が読み取れました。まさに「目は口ほどに物を言う」です!
演じるにあたり意識したのは感情を表に出さないということでしたが、無表情であっても心の奥にある感情というものは表に出るもの。自分としては感情を無にするように演じていましたが、リアクションを取らないようにしていても、相手の言葉を聞いたり反応を受けたりすると、やはり心では感じてしまう。無ではあっても実際は無ではないんだと知りました。女たち全員にセリフがない意図について監督は『言葉をなくして余白を持たせることで、女たちが何を思っているのかを観客に想像させたい』と仰っていたので、伝わる人には伝わるようになっているのではと思います。
竹野内豊をムチで打つ「かなりのテイクを重ねた」
──ムチさばきも見事でした!先端の尖った細長い本物のムチなので、肌に軽く当たっただけでも赤い跡が残るくらいのものでした。監督からは本気でやってほしいと言われましたが、ムチには慣れていないので竹野内さんとの物理的な距離を探ったりしてしまい、最初の頃は本気で打つことが難しかったです。たとえ本気で打ったとしても、カメラを通すと本気で叩いているようには見えなかったりして、その試行錯誤や微調整に苦労しました。
──叩き方や回数、間の取り方が見事で悲劇と喜劇の表裏一体を感じました!
何度かテイクを重ねていく中でうまく扱えるようになったのと、ムチで打たれたことに対する竹野内さんのリアクションなどが重なって異様な場面ではあるのにリズムよく滑稽さが生まれたと思います。うまくハマるまでかなりのテイクを重ねたので竹野内さんは傷だらけ。こちらが心配しても「平気だよ」と気を遣っていただきましたが、あれは絶対に痛かったはず……。改めて「ごめんなさい!」とお伝えしたいです。
自分ではそう思いませんが、ユーモアのセンスがある人でありたいとは常に思っています。コミュニケーション能力も高くはありたいけれど、それについては「超低い」と言われたことがあります。
──だ、誰に?
え? ……占い師に(笑)。
──語弊があるかもしれませんが、あえて占い師の言葉を例として挙げる時点で水川さんはやはりおもしろい人だと思いますっ!
水川:(大爆笑)
役者としての考え方が整理できた出来事
竹野内さんから奪ったチョコレートを食べるシーンはちょっとだけ苦労しました。私としては貪るように食べるイメージがありましたが、さすがに貪り過ぎたようで……。ムシャムシャと食べすぎNGというのが出ました(笑)。撮り直しの際に急にその状況がシュールに思えてきてしまい、ついつい吹き出しそうになってしまいました。チョコレートの食べ方一つとっても、監督のやりたいことや意図は明確でした。
──水川さんは『喜劇 愛妻物語』(2020年)の演技が高く評価されて、自身初となる映画賞を多数受賞されましたね。この評価は水川さんにとってどのようなものでしたか?
役者業においてはもちろんのこと、人生においても私の中では大きな出来事でした。どのような作品でどのような役を演じ、どのような監督と組んでどのような役者さんと共演したいのか。自分が理想とするヴィジョンはこれまでにもありましたが、賞を頂いてからは自分が進みたい理想的な道がより明確になって、臨む作品や仕事に対して納得できる比率が高くなったような気がします。今後もお芝居に長く携わりたいと考える中で演技に対する賞を頂けたことで、今までのスタンスを一度リセットできたというか。生まれ変わるとまでは言いませんが、役者としての考え方を改めて整理するような出来事ではありました。
──水川さんの活動年数は27年にも及ぶわけですが、なぜここまで継続できたと思いますか?
なぜ今までこの仕事を継続してこられたのか、そこに私はハッキリとした答えを持ててはいません。この仕事は好きですし、めちゃめちゃおもしろいとも思います。でも同時にすごく嫌いになってしまうときもある。そんな両方の感情を持っているからこそ、続けてこられたのかなとも思います。そして今の年齢になってやっと表現の本質的なおもしろさがわかり始めた気もしています。今まで以上に、ここから先の方がお芝居に対する楽しさが増すのではないかと思います。
Awichの強さに惚れ惚れ
──J-WAVE NEWSは音楽に力を入れるラジオ局のJ-WAVEが運営しています。そこでお聞きします。水川さんお気に入りの一曲とは何でしょうか?最近よく聴いているのは、Awichさん、NENEさん、LANAさん、MaRIさんによるサイファー『Bad Bitch 美学』で、AIさん、ゆりやんレトリィバァさん参加のRemix版がお気に入りです。Awichさんの楽曲は普段からよく聴いていて、新しい曲が『Bad Bitch 美学』。歌詞が攻めた曲でかなりカッコいいです。Awichさんを好きになったきっかけは『洗脳』という曲で、この曲もかなり攻めた歌詞。今の時代にこんなにカッコよくて強いメッセージ性のある楽曲を歌ってくれる女性がいるのかと惚れ惚れしました。
(取材・文=石井隼人、撮影=山口真由子、ヘアメイク=星野加奈子、スタイリスト=番場直美)
■作品概要
タイトル:『唄う六人の女』
公開日:10月27日(金)、TOHOシネマズ日比谷他、全国ロードショー
配給:ナカチカピクチャーズ/パルコ
コピーライト:© 2023「唄う六人の女」製作委員会