是枝監督×吉岡里帆が対談。坂本龍一さんとの“手紙”のやりとりを聞く

映画監督・是枝裕和が、最新映画『怪物』の撮影エピソードや、事務所のなかの様子について語った。

是枝監督が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『UR LIFESTYLE COLLEGE』(ナビゲーター:吉岡里帆)。5月28日(日)のオンエア内容をテキストで紹介する。

還暦を迎えて感じることは?

是枝監督は1995年に『幻の光』で監督デビュー。その後、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞し、第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『万引き家族』をはじめ、『誰も知らない』、『そして父になる』、『海街diary』など、数々の作品を手がけている。

是枝:呼んでいただいてありがとうございます。

吉岡:是枝さんは還暦を迎えられたそうですね。

是枝:そうですね。去年に。

吉岡:還暦になって、どうですか?

是枝:自分で言ってなんだけど、たいしたことないね。節目としては50歳のほうがけっこう大きかった。

吉岡:50歳のときはどういう節目だったんでしょうか?

是枝:「残りあと何本(映画を)撮れるだろう」と一度考えましたね。今はもう、「考えてもしょうがないな」と思ってます(笑)。毎日楽しくしていようかなと思ってる。

吉岡:是枝さんの作品発表の速度が年々上がっているんじゃないかって、私はいちファンとして勝手に思っているんですよ。何か加速している理由があるんでしょうか?

是枝:たぶん、映画を20代で撮れなかったから。僕がデビューしたのは33歳なんですよ。もちろん、それまでにテレビのキャリアはありますけども、その段階で撮りたいと思っている映画の企画は5、6個ぐらいあったんですね。デビューしたあとも、いろんな事情で3年に一度ぐらいしか撮れない時期が続いたんです。今ようやく、自分が撮りたい企画が以前よりも通りやすくなったものですから、「これもやりたい」が出ています。たぶん、前半のゆっくりペースを取り戻そうと思っています。

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是枝裕和×坂元裕二のタッグ作がいよいよ公開!

是枝監督の最新作『怪物』は、6月2日(金)より公開予定だ。一足先に作品を鑑賞した吉岡が、感想を語った。

吉岡:ネタバレが厳禁だと伺っているんですよね。

是枝:ある程度はいいけどね。

吉岡:観たとき、自分の子どもの頃の「忘れていた記憶」がすごく出てくる感じがしました。登場人物たちのさまざまな視点で描かれている作品ですが、子どもの世界というものが「撮っている人も子どもなのかな」と思うぐらい。還暦の、すごい監督なんですけども(笑)。

是枝:子どもに戻ってきているかもしれないけどね(笑)。

吉岡:子どもの目線って言うんですかね? こんなことをしていたなとか、学校で起こっていること、親にもうまく説明できなかった不安感や、どう解決していいかわからなかったものを、まざまざと映画で感じました。忘れていた、根っこのほうにある弱い部分が震えるような感覚になりましたね。

作品の舞台は、大きな湖がある郊外の街。息子を愛するシングルマザーを安藤サクラ、生徒思いの学校教師を永山瑛太が演じる。

吉岡:映画初主演となる黒川想矢さんと柊木陽太さんが子どもたちを演じます。平穏の日常を送るなか、ある日学校で喧嘩が起きて、子ども同士の喧嘩が次第に社会やメディアを巻き込む大事になっていくストーリーです。こちらはどういったところから作品が始まったのでしょうか?

是枝:ある日、川村元気さんというプロデューサーから「今、坂元裕二さんと映画の企画を開発しているんだけど、坂元さんが監督を是枝さんに頼めないかと言っているので、プロットを送るから読んでくれないか」と連絡が来たのが最初です。それが2018年の暮れだったと思います。

吉岡:映画化するにあたって、監督が一番大切にされた部分ですとか、魅力的だなと思った坂元さんの本のいいところを教えてください。

是枝:うわ~(笑)。だって、僕が一番尊敬している脚本家だからね。

吉岡:なんてことでしょう。

是枝:名前を挙げていただいただけで、プロットを読む前から引き受けると決めていましたから。どんな話でも僕は受けようと思いました。

吉岡:二つ返事だったんですね。

是枝:プロットを読んでみたら、非常にチャレンジングで、構成自体が攻めているものでした。子どもを中心とする物語だったので、「これなら自分が引き受けて勝負ができるな」と思いましたね。なので、喜んでってことで参加しました。

映画音楽に坂本龍一を起用した理由

『怪物』の音楽を手がけたのは坂本龍一であり、本作が遺作となった。是枝が坂本と仕事をしたのは、今回が初めてだったという。

是枝:体調のことは聞いていたので、お願いすること自体を躊躇していた時期もありました。だけど、自分のなかで彼の音が響いてしまっていたんですよ。脚本を読んでいるとき、編集をしているとき、撮影現場もです。なので、既成曲を仮あてしたものを送らせていただいて、なんとかお願いできないかとお手紙を書きました。手紙を読んでいただき、「全部をやる体力はないんだけども、映画はとても面白かったので浮かんだ曲が1、2曲あるから形にしてみる」と返事をいただきました。

吉岡:へええ!

是枝:結果的に作ってもらえなかったとしても、この手紙だけで僕は満足って感じでした。

吉岡:坂本さんが書いてくださった2曲は、劇中のなかでも本当に印象的に流れて、そこで生きている人たちの思いがこぼれてくるような音色に聴こえました。

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キャストの“底力”を見た撮影現場

続けて是枝監督は、出演者との撮影エピソードを語った。

是枝:安藤サクラさんは前回の『万引き家族』が終わった直後に「素晴らしかったけど、サクラさんの役者としての“底”をまだ見ていないような気がするから、チャンスがあれば早い時期にもう一回やらせてください」とお願いしました。

吉岡:そうだったんですね。

是枝:なので今回、サクラさんへは僕が直接オファーしました。

安藤は当初、坂元の脚本の期待に添えられるか不安を抱いていたそうだ。

是枝:その頃サクラさんは子育ての時期だったんですけど、「本が出来上がったらやります」という風に言っていただきました。今回はまったく違うタイプの女性像ですけどね。

吉岡:本当に。(『万引き家族』と)同じ人なのかなと思うぐらい、違う母(笑)。

是枝:すごいよね。瑛太さんは、名前が出たあとに坂元さんの脚本が一気に進んだんですよ。

吉岡:へええ!

是枝:それまでは、先生の役がぼんやりとしてた。坂元さんって自分からは「この役者でやりたい」と絶対言わなくて、僕らから出るのを待ってる。ぼんやりとしてよくわからないと言ってた坂元さんに「瑛太だとどうですかね?」と名前を出したらさ、「瑛太ならありがたいです」と。

吉岡:そうですよねえ。瑛太さんは坂元さんの作品でとっても素敵でした。

是枝:そうなの。こうやって本を作っていくのかってぐらい、見事に完成系なのよ。このセリフは瑛太だったら成立するってところを、ちゃんとギリギリ攻めてくれるでしょう?

吉岡:ギリギリすぎて、「私、本当に嫌いになっちゃう」と一瞬思うぐらいの、人としての危うさを感じました。

たくさんのフランケンシュタインに囲まれた仕事場!?

番組では、ゲストのライフスタイルに注目。是枝が「快適に暮らすために心がけていること」は何だろうか?

吉岡:是枝さんのインタビュー記事は拝読しますけども、作品のことは書かれていても、是枝さんご自身のプライベートは見えないというか。

是枝:面白くないもんそんなの(笑)。

吉岡:知りたいですよ(笑)。

是枝:今、休みって基本的にほぼないんですよ。そして、それが嫌じゃなくて心地いいの。だけど、それを人には絶対押し付けないと決めているから、アシスタントに「俺についてこい」とか「人生全部が仕事なんだぞ」ってことを自慢気に話したりしないようにしています(笑)。日々ものを作っていることが人生の大半で、送らせていただいた写真の事務所に、長いときは18時間ぐらいいます。

吉岡:分福さん(是枝の事務所名)の写真を見ましたが、裏側は初めて見ました。

是枝:そうだよね。会議室しか知らないから。

吉岡:凄まじい部屋で過ごされていますね。

是枝:今度お越しください(笑)。

事務所には大量の書籍が積み上げられており、DVDやフィギュアが置かれているそうだ。

吉岡:フィギュア、お好きなんですね?

是枝:フランケンシュタインが好きなので、そのフィギュアだけたくさんあります。

吉岡:フランケンシュタインがお好きなの、初めて知りました。なぜですか?

是枝:話が切なくて好きなんですよ。生まれたのに、生んだ人から愛されず疎んじられるっていうさ、すごく普遍的な悲しみを表現している怪物なんですよね。そこが何ともたまらなく好きです。存在の悲しみが。

吉岡:その話を聞くと、是枝さんの作品にも通じているところがありますよね。出てくる人たちが必ずしも望まれてそこにいるわけでもないってことを受け入れていく描写とかが。

是枝:あるかもしれないね。

吉岡:フランケンシュタイン、いっぱいいますね。

是枝:たぶん、60人ぐらいいるんじゃないですか(笑)。

吉岡:そんなに集めてどうされるつもりですか(笑)。

是枝:好きなDVDと本とフランケンシュタインに囲まれている環境ってのが、たぶん快適なんですね。快適に暮らすためには好きなものに囲まれているってことが大事だと思います。ものじゃなく、人もそうだと思いますね。

吉岡:すごく賛同いたします。

『UR LIFESTYLE COLLEGE』では、心地よい音楽とともに、より良いライフスタイルを考える。オンエアは毎週日曜18時から。
radikoで聴く
2023年6月4日28時59分まで

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番組情報
UR LIFESTYLE COLLEGE
毎週日曜
18:00-18:54

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