映画『ルックバック』や『この夏の星を見る』…haruka nakamuraの音楽が“映像と完全にリンクする”秘訣とは?

音楽家・haruka nakamuraが、映画『この夏の星を見る』の楽曲制作エピソードや、音楽家としての原点、そして今後挑戦したいことについて語った。

haruka nakamuraが登場したのは、7月6日(日)放送のJ-WAVE『UR LIFESTYLE COLLEGE』(ナビゲーター:吉岡里帆)。トークの模様はポッドキャストでも配信中だ。

ポッドキャストページ

コロナ禍を機に活動拠点を北海道に移した

haruka nakamura(以下、nakamura)は青森県出身。ピアノとギターを独学で学び、2006年から本格的に活動をスタート。音楽家としてCM、ウェブ、テレビ番組など数多くの楽曲を制作。2010年からは自主レーベル「灯台」を立ち上げ、メールマガジン「灯台通信」で手紙のように自身の言葉を伝える発信を行う。

プロデュース業やリミックス、画家・ミロコマチコとのライブペインティング、写真家・川内倫子とのコラボレーションライブなど、活動は多岐にわたる。『UR LIFESTYLE COLLEGE』への出演は、2020年2月ぶりとなる。

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吉岡:またお会いできて、とてもうれしいです。このラジオは2025年で10周年を迎えたのですが、そのときにコメントをいただいて。「haruka nakamuraさんのコメントだ!」とすごく気持ちが高まりました。

nakamura:おめでとうございます。

吉岡:前回ご出演いただいてから5年半ぶりとなっております。そのあいだにコロナ禍がありましたが、振り返るとどんな5年半でしたか?

nakamura:前回の出演の直後にコロナ禍になって。それまでは旅をしながら音楽を作っていた生活だったんですけど、それができなくなりました。それで、故郷の近くの北国に移住しました。

吉岡:そうなんですね! 当時来ていただいたときも、青森ご出身ということもあって、「青森に戻って音楽を作る時間を作る」みたいなお話がありましたよね。

nakamura:「北国の風景のなかで音楽を作ってみよう」と思って移住しましたね。それがいちばん大きな出来事だったと思います。

吉岡:では、今日は遠路はるばるですね。自主レーベル「灯台」を立ち上げられて5年経ちましたが、そちらはいかがですか?

nakamura:ひとりで音楽をリリースするのって大変で。いいチームのメンバーに巡り会えたことがすごく(よかった)。いま、デザイナーさんとマネージメントさんと一緒に作っているチームのメンバーが5年間同じなんです。僕にとって音楽は“灯台”のようなイメージがあって、真っ暗な海のなかで泳いでいても、遠くに見える光みたいなものだと思っているんですね。そういった音楽をみんなで作っていこうという意味合いでレーベル名を「灯台」にしました。

物語から音楽を生み出すことが増えてきた

nakamuraが「灯台」で初めてリリースしたのは、初のピアノソロ作品『スティルライフ』だった。

吉岡:haruka nakamuraさんの作品が好きすぎて、お世辞抜きで毎日聴いています。

nakamura:うれしいです。

吉岡:なぜピアノソロ作品を出されたのかを伺いたいです。

nakamura:『スティルライフ』は初めてのピアノソロアルバムだったんですけど、それまでは大人数の編成ばかりだったんです。家にこもってひとりの世界で深く入っていくことをやれていなくて。ちょうど前回の(ラジオ)出演のときに『スティルライフ』を録っていたんですよ。

吉岡:そうだったんですか!

nakamura:『スティルライフ』を作っているときにちょっとだけ出かけたときがあって、それが吉岡さんの番組でした。当時のことをすごく思い出します。

吉岡:うれしいです! 活動スタートされたときと現在、大きな変化はありましたか?

nakamura:もともと風景から音楽が聴こえてきて、それが音楽を作る始まりだったんですね。「音楽のある風景」が自分のなかのテーマとしてあるのは変わりないのですが、最近は映画やドラマの制作で、物語からインスパイアされて作るのがこの5年のあいだの変化だと感じています。

映画『この夏の星を見る』の音楽を担当

直木賞作家・辻村深月の青春小説『この夏の星を見る』(KADOKAWA)の実写映画が、7月4日(金)より全国公開中だ。劇中の音楽をnakamuraが手がけ、主題歌の『灯星』はヨルシカのボーカル・suisとの共作。劇中では、新型コロナウイルスが蔓延した2020年を舞台に、リモートでつながり合って同時に天体観測をする競技「オンラインスターキャッチコンテスト」に挑む全国の中高生の姿が描かれている。

吉岡:この作品のオファーが来たときの想いを教えていただけますか?

nakamura:少年時代、故郷の青森で夕暮れを見ていたら、何か音楽が聴こえるような気がして「これにぴったり合う曲は何だろう」と考えてピアノで弾いてみたんです。そこから作曲が始まったと思うので、そこが原点だと感じています。当時、多感な状態の少年少女たちがコロナ禍でどんなふうに過ごしているのかずっと気にしていたので、彼らの時間を題材にした作品には積極的に携わっていきたいと思っていました。

吉岡:なるほど。

nakamura:辻村深月先生の『この夏の星を見る』は(その想いに)旗を立ててくれたような作品で、みんなで映画化してより多くの人に伝えていこうという、チームの熱い情熱が感じられました。

吉岡:いいですね。辻村深月先生とは、私も一緒にお仕事をさせていただいたことがあります。辻村先生が描く登場人物たちって、内に秘めた燃えるものがあるんですけど、きちんと人間的な不器用さもあるんですよね。そして、人との交わりのなかで奇跡的な瞬間を生み出す、という。『この夏の星を見る』の映画を私も拝見したんですけども、キャラクターの繊細な心の動きがありました。作品を観てどう思われましたか?

nakamura:少し話がそれるかもしれませんが、北海道の美瑛に宇宙学者の佐治晴夫さんという尊敬する先生が天文台を作っていまして。そこは昼の星を見られる天文台なんですけど、お昼でも土星が見られるんですよ。

吉岡:すごい!

nakamura:コロナ禍って希望を見出すのが非常に難しい状態だったんじゃないかなと思っていて。宇宙とつながることで希望を見出すという作品のテーマにすごく共感しました。いま、この騒がしい世のなかで、僕は演奏って“祈り”に似ているなと思っているんですね。希望への祈りとして作品を作っていきたくて、そういう意味でもこのような物語に携われてとてもよかったなと、エンドロールを見ながら思っていました。

ヨルシカ・suisの歌声を聴いた感想は?

【MV】灯星 / haruka nakamura + suis from ヨルシカ

番組では、映画『この夏の星を見る』の主題歌『灯火』をオンエア。吉岡は「みずみずしいですね」と感想を語る。

吉岡:haruka nakamuraさんといえば、私のなかでは素朴な日常に寄り添って、自然のなかで自然に流れていてもまったく違和感のない静かな音っていうイメージがあるんですね。この『灯星』では新しい印象を受けて、映画館のスクリーンを通して人に届けるというダイナミックスさと、夜空とか宇宙への広がり、大きさを感じました。

nakamura:ありがとうございます。

吉岡:suisさんとの楽曲制作はいかがでしたか?

nakamura:これが初めてのコラボレーションだったんですけど、この他にも2曲作っていまして。最初はデモで自分が歌うんですけども、想像を超えてくる歌声で感動しましたね。

吉岡:ヨルシカさんは私が出演した映画『正体』の主題歌(『太陽』)を歌ってくださったんですけども、優しい声でかわいらしさもあって。『正体』の主人公は男性なんですが、人の愛らしい弱さに寄り添う力があるなとsuisさんに感じておりました。『この夏の星を見る』の音楽は、どのように制作されたのでしょうか?

nakamura:映画『ルックバック』のときもそうだったんですけど、監督やみなさんと話し合ったうえで作りました。でも、最初は直感的に、ファーストテイクというか、一発目に弾いた……僕、譜面を書いて作曲することがないんですよ。

吉岡:そうなんですか!

nakamura:基本的には、見たままを弾きます。たとえば、映像を観ながら1本のピアノを弾いたら、それに足していったり引いていったりします。そこに秒数を合わせて編集するんですけど、そっちのほうに時間がかかりますね。音を作ること自体は一発目か二発目に終わります。

吉岡:すごい! 映像を観てそのまま作れちゃうんですか。

nakamura:むしろ、そうじゃないと並走できなかったというか。

吉岡:たしかに、haruka nakamuraさんの劇伴って、映像と完全にリンクしているんですよね。登場人物の感情だったり景色と合っていますし、なんなら映像のスピード感ともぴったり合っているんですよ。そうやって作られてるからなんですね。

nakamura:一緒にやってくれているマネージメントが何回も秒数を測ってくれました(笑)。僕が向いていないところをカバーしてくれるんですよね。

吉岡:ありがたいパートナーですね。

いつか挑戦したいことは「映画制作」

番組後半では、ゲストのライフスタイルに注目。nakamuraは現在ハマっていることに「映画制作」を挙げた。

nakamura:これはずっと思っていることなんですけども、映画を作りたくて。最近は口に出すようになりました。

吉岡:素敵。

nakamura:もともと、映画を作りたくて音楽をしている気もするぐらい、小さいときから映画に憧れています。映画に携わらせてもらってからは監督とかと話をして、どういう意識で作ってらっしゃるのかを聞いたりします。脚本をいただいたときは「こうやって書いていけばいいのか」と思いましたし、そういうのをイチから勉強させていただいております。最近は頭のなかでプロットを考えるのが趣味になっていますね。

吉岡:すごいですね。映画好きのひとりとして、haruka nakamuraさんのファンのひとりとして、絶対に撮ってほしい!

nakamura:いつか撮ってみたいなって思います。

吉岡:最後に、リスナーのみなさんに向けてメッセージをお願いします。

nakamura:音楽と主題歌を担当した映画『この夏の星を見る』は、いま少年少女の時代を生きている子たちにも、あのとき過ごしてきた彼らにも、そして大人になった自分たちも、希望という……夕暮れにひとつ星が昇ってくるのを見たような気持ちになれる映画だと思っています。みなさん、映画館に行ってもらえたらうれしいです。

haruka nakamuraの最新情報は公式サイトまで。

『UR LIFESTYLE COLLEGE』では、心地よい音楽とともに、より良いライフスタイルを考える。オンエアは毎週日曜18時から。
radikoで聴く
2025年7月13日28時59分まで

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番組情報
UR LIFESTYLE COLLEGE
毎週日曜
18:00-18:54

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