プリキュアは「自分の足で立つかっこよさ」を描いてきた─作品の魅力を探る【展覧会も開催中】

アニメ『プリキュア』シリーズの20周年を記念した展示イベント『全プリキュア展 ~20th Anniversary Memories~』が、東京・池袋のサンシャインシティワールドインポートマートビル4階展示ホールAで開催中。歴代の主人公17人の等身大フィギュアが勢揃いするなど、同作ファンにはたまらないイベントとなっている。

同シリーズは、ジェンダーや多様性を柔軟に描く作品としても注目を集めている。作り手はどんな思いを込め、受け手は何を感じてきたのか?  J-WAVE NEWSでは今回、同シリーズの生みの親である東映アニメーションの鷲尾天プロデューサーと、幼少期から同作をこよなく愛し、全プリキュア展にてプロデュースエリアも手がけたクリエイティブディレクター・辻愛沙子に取材。ふたりの話からは、長年愛される同シリーズのパワーの正体が見えてきた。

「死ぬほど使い倒してたオモチャ」も! 愛にあふれる展示

――『全プリキュア展』は、秘蔵資料や原画だけでなく、フィギュアも勢ぞろいするなど、見どころが盛りだくさんですね。





鷲尾:ここまで20年分、新シリーズを含めて『プリキュア』の制作的な資料や、展示で使っていたものなど、ほぼほぼ全てがこの展覧会で楽しむことができます。けれど、内容はそれだけではなくて、辻さんにお願いしたスペースが用意されているんです。

辻:『ふたりはプリキュア』がはじまったのは私が7歳のとき。そのときから変わらず『プリキュア』に魅了され続けています。この展示会は、そんな私が大人になって改めて、プリキュアからどんなメッセージをもらっていたかを考えるきっかけになりました。『プリキュア』には作品のみで完結しないメッセージがあると思っていて、作品に込められた意味を紐解いていくことで“プリキュアがあったから社会がこう変わった”という気付きを感じていただけたらと展示を制作しました。『ふたりはプリキュア』をメインにしつつ、わたしたち視聴者も現実社会を戦う1ガールズヒーローとして、作品や展示からパワーを得られるような展示エリアになったらいいなと。作品はもちろん、ファンのパワーありきでの20周年だと思うので。



――同じ『プリキュア』ファンが共鳴しそうなブースなんですね。

鷲尾:そう思いますよ。辻さんのコメントを読んで、私も共感しました。

――作品の魅力を語らう機会にもなりそうですね。

辻:そうなったらうれしいですね……! 1ファンとしては他の展示エリアも最高で、本当にこれまでの全作品が揃っているので、「私コレ観てた~」とか話しながら見て回るのはきっと楽しいと思います。



鷲尾:訪れたどの世代の方も、どこかで立ち止まってくれそうですよね。

辻:それで言うと、20年前の私が、死ぬほど使い倒してたオモチャが展示されていて、ビックリしました(笑)。ちなみにそれはまだ家にあるんです。

鷲尾:コミューンですか?

辻:そうです(笑)。

鷲尾:それはすごい(笑)。当時、品切れで本当に手に入らなかったアイテムなんです。

辻:たぶん、父が頑張って手に入れてくれたんですよ。私もお年玉やお小遣いを頑張って貯めて、カードを買っていました。でもここに来られる方は、きっとそれぞれそういう思い出を抱えている方ばかりだと思います。

「自分の足で凛々しく立つ」作品が打ち出すかっこよさ

――『プリキュア』シリーズに携わっていく中で、鷲尾さんの中で強烈に印象に残っていることはありますか。



鷲尾:それでいうと、初期の頃の体験なんですよね。というのも、シリーズ第1作『ふたりはプリキュア』は、お子様方を迎えて試写会を行いました。僕自身、そのときが完成した映像を初めて見る機会だったんですが、最初は皆がちゃんと椅子に座って見ていたんですけど、お話が進むにつれて、席から立ち上がって見る子どもが出てきて。特に変身アクションの際には、ほぼ全員が立ち上がっていたんです。

辻:すごい。最高です……!

鷲尾:プリキュアは悪を倒す技を出す際に、衝撃の反動で足元がズズズッと下がるんです。初めて観たとき、「女の子に向けたアニメーション作品でこんな映像は観たことがない!」と思って。「これはもしかしたら女の子に刺さるかもな」と手応えを感じていたら、その後は嵐に巻き込まれたように盛り上がっていきました。でも、あのときはまさかこんなに長きにわたって続いていくとは考えもしませんでしたね。

辻:まさにその当時の私に刺さりまくっていました。令和の今では少しずつ少女漫画の描き方も変わってきてますけど、『プリキュア』は当時から、女の子が歯を食いしばりながら、それでも自分の足で立っていくという自立した女の子像が描かれていたような気がして。そういうものが、今まさに私の血肉になっていると思います。



――ある種、辻さんにとっての教科書のような作品なんですね。

辻:そうですね。きっと、かわいいと思うところ、ときめく場面は作品それぞれにあると思うんですけど、『プリキュア』シリーズの中には、女の子の力を信じてエンパワメントしてくれる表現というのが共通してある気がして。そういうものを、1ファンとして解釈して楽しんでいました。

鷲尾:作品コンセプトの「女の子だって暴れたい」が一人歩きしてますけど、当時、西尾大介監督と一緒に考えていたのは「自分の足で凛々しく立っているのってかっこいいよね」ということだったんです。それはつまり、王子様も迎えに来ないし、基本は自分の力で生きていかなくていけないという意味なんですけど、女の子に受け入れられる作品にするためにはどうすればいいかではなく、まずは自分たちが伝えたいことをどうしたら女の子が見てくれるかを考えていました。



――“これから先の時代はこうなるんじゃないか”と予測したわけではなく。

鷲尾:それはまったくなかったです。私自身は女の子に向けたアニメーションを立ち上げたことがなかったし、当時は本当に手探りで。そんな中で、「だったら自分が子どもの頃に好きだったものをやってみるか」とどこか開き直れて、当時『ドラゴンボールZ』『エアマスター』などを手掛けていた西尾さんに声を掛けました。渋られるかなと思いきや、意外とあっさり「いいよ」って快諾してくださって。でもそのとき、西尾監督は僕に「上手くいかなかったら謝って逃げようよ」って言うんです。しかし、謝ってから逃げるだなんて、西尾監督は律儀な人だなって思いましたよ(笑)。信頼できる人だなって。

辻:確かに、かっこいい大人ですね。

鷲尾:そうやって始まったので、当時は社会性も世の中の空気も何も考えてはいませんでした。

――そうやって生まれたものが辻さんをはじめ、多くの人に影響を与えてるわけですもんね。

辻:そうですね。それとこの作品ってさまざまなことを学べるんだけど、説教臭くないんです。ものすごく等身大の女の子を描いてくれていて、だからこそ自然と私の血肉になったんじゃないかなって。それこそ、作品を立ち上げられた鷲尾さんと西尾監督というかっこいい無邪気な大人が作ったからこそ、こういう作品に仕上がったんだと思います。「プリキュアが伝えたい新しい女の子像はこれだ!」という押し付けがましさがなかったというか。大人が描く理想の女の子像ではなく、あくまで自分たちの目線で。

鷲尾:そうですね。そういう思いは一切なかったです。

辻:だからこそすっと胸に溶け込んでいきましたし、それがいつしか共感に変わっていったというか。

鷲尾:西尾さんって不思議な人で、あの方は主人公の近くに住んでいるおじさんなんですよ(笑)。主人公が文句を言ったりしているのを日々聞いているような感じで、作品を動かしてくれる。そのキャラクターたちが動くことはどういうことなのかという目線で作るから、作品のリアリティーが増していったんじゃないかなと思います。

辻:確かに嘘くさくないのがすごくいいんですよね。

鷲尾:そうですね。でも周りから見ていると、大変な作り方だし、よくやってると思いますよ。



――『全プリキュア展』も作品から影響を受けた多くの人に足を運んでもらいたいですね。

鷲尾:きっと楽しんでもらえると思います。

辻:『プリキュア』ファンの方はもちろんですし、大人になって、悩んだり悔しい思いをしたことのある女性たちにもぜひ足を運んでほしいです。社会に出るとさまざまな抑圧とか壁にぶつかることもあるじゃないですか。そういうときにこの展示会に来てもらえればすごく力が湧くと思う。『プリキュア』の世界に浸って、少しでも明日につながる元気を持ち帰っていただけたら嬉しいです。

『全プリキュア展 ~20th Anniversary Memories~』の詳細は公式サイトまで。

・『全プリキュア展 ~20th Anniversary Memories~』公式サイト
https://www.toei-anim.co.jp/all_precure_exh/

(取材・文・撮影=中山洋平)

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