俳優の松重 豊が、自身の半生を振り返り、今後の抱負などを語った。
松重が登場したのは、1月14日(土)放送のJ-WAVEの番組『ORIENT STAR TIME AND TIDE』(ナビゲーター:市川紗椰)。
【関連記事】『孤独のグルメ』は食べるシーンも多いけど…松重 豊に聞く「体形維持」の話
そんな松重の新著『あなたの牛を追いなさい』(毎日新聞出版)が、松重の還暦の誕生日でもある1月19日(木)に発売。
松重:『あなたの牛を追いなさい』って、なんの話かよくわからないと思うんですけれども、仏教の禅の入門書でもある「十牛図」という。要するに自分が牛を求めて追い続けて、その牛と格闘して、それを自分の家に持って帰ってきて、牛が自分のものになったと思ったとたんに、自分と牛の見分けがつかなくなって、牛がいなくなって自分もいなくなって、すべていなくなって、そして世界が元に戻ってきて、最後は誰かになにか自分の得てきたものを伝えると。これは非常にわかりにくいでしょ?
市川:途中まではいけると思ったんですけど(笑)。
松重:非常に難しいんです。
市川:牛というのは、当時どうしても必要なもので、それがないと気づくところから始まり、探して探して、結果なにがなんだかわからなくて、自分がなんなのかもわからなくなるという。大事なものに気づくという流れですかね。
松重:なにを求めて生きているのかは非常にあいまいだったり、わからなくなったりする瞬間があるじゃないですか。僕も40代ぐらいのころにそういう壁にぶち当たったというか。この先、自分がなにをやればいいのかわからないようなときに、僕は座禅とか般若心経もそうですけど、日曜日にいろいろなお寺へ「参禅会」という座禅をしに通ったりして。仏教ってすごくいろいろなヒントがあったんです。自分の40代以降を生きる指標になったな、というのがこの「十牛図」でした。20年経って還暦というときに、別の対談でご一緒させていただいた枡野俊明先生に改めて「十牛図」というものをぶつけてみようと思って、それで対談を本にすることになりました。
松重:雑誌の対談が終わったあとに「僕は相撲取りになりたいんですけど、どうやったらなれますか?」と。あわよくば「それだったら連れていってあげるよ」と言われるかなと思ったんだけど、豊山さんは大学出の相撲取りだったので「高校と大学に行ってちゃんと勉強して、それでまだ好きだったらおいで」と言われたので、「わかりました」と大学に行っちゃって、演劇なんかに興味を持っちゃったもんだから。
市川:(笑)。「よく考えなさい」と言われて。
松重:そういうご縁というのは大事なお言葉だったりするので。いま考えると豊山さんにかけられた言葉がこの職業に結びついているわけですし、ありがたかったですよね。
松重は高校3年生の文化祭で8ミリ映画を作ることになり、映画製作の面白さに引き込まれていったそうだ。しかし演劇学専攻のある明治大学に入ると、周囲にいた大半は映画ではなく演劇をしている人だったこともあり、演劇の道に進むようになっていったという。
松重:田舎にいると演劇を観る機会がないんです。当時はアングラの最後のほうだったんですけど、状況劇場とか天井桟敷とか、そういう芝居を生で観ました。いままで考えていたリアリズム、リアリティみたいなものをひっくり返すようなお芝居を観て、「これ面白いな」と思って、そっちに入っちゃったんです。
市川:それで出るほうに興味を持ったんでしょうか。
松重:当時は「映画は監督のもの、演劇は役者のもの」という言われ方をしていて。
市川:脚本家や演出家のものじゃないんですね。
松重:舞台は出たもん勝負というところがあるので。やっぱり芝居は演ずることのほうが面白いなと思って。当時はアングラが全盛でしたが、「アングラばかりやっていてもしょうがないだろ」ということで、ウェルメイドプレイという起承転結がちゃんと書かれたお芝居もやるぞ、とやっていたのが日芸にいた三谷幸喜さんです。三谷さんは僕の学年1個上の大学生だったので。日芸はわりと恵まれた環境の子が多かったので、芝居をやるとチケットノルマとかも少ないんです。だからわりと日芸に行って芝居をやっていて、その流れで三谷さんとも芝居をやって、という感じでした。
市川:卒業後は蜷川さんなんですよね。
松重:三谷さんとこのままずっと一緒にいてもしょうがないと思ってたので。
市川:なんでですか(笑)。
松重:いま考えるとバカだなあと思われるかもしれないけど、あのころのお芝居ってあんな感じ(ウェルメイドプレイ)じゃないんです。寺山修司さんの本がすごいと言われている時代に、三谷さんの『ショウ・マスト・ゴー・オン』が天下をとるなんて思わないんですよ(笑)。いま考えると「なんでそこに気づかないかな」って言われるんですけど、みんな気づかないんですよ。僕はだから、もっと抽象的な演劇をやりたいなと思っていたので蜷川幸雄に。あの方はギリシャ悲劇もやるしシェイクスピアもやるし、唐十郎さんも清水邦夫も寺山さんもやるし。ハイブリッドでいろいろやられる方なので、蜷川さんのところに行って修行をしようと思って、そこからちゃんとお芝居を真剣にやりました。蜷川さんの薫陶を受けて、芝居漬けの20代を送ったという感じでしたかね。
市川:『どうする家康』っていい名前ですね。
松重:やっぱり大河ドラマも若い人に観てもらわないといけないし。作家が古沢良太さんという『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)とか、わりと若い人にも人気のある作品をよく作る方で。僕も『デート』(フジテレビ系)とか『探偵はBARにいる』とかで一緒になって。いまはドラマを選ぶときに何いうと脚本家で、役者も納得のいく作品に出たいという思いがあるので。脚本家が一番大事かなと思うんですよね。監督さんはどんどん変わっちゃうけど、脚本を信じられると最後まで面白く演じることができるので。家康なんて言ったら日本中の人がみんな知っていて、誰がここで裏切るだの、誰がここで死ぬだのという物語をみんな知っているんですけど、それでもドラマにして面白いと思わせるぐらいの脚本力がある。脚本を読んでいて毎回「面白いな」と思いますし、「これを演じて面白くなかったら僕らの責任だな」と思えるので。『どうする家康』は、僕もどこまで出るかわからないですけれども、楽しんでいただければと思います。
市川:松重さんは誰役なんですか?
松重:石川数正という、家康の人質時代から一緒にいる教育係的な部分も持っているような家老です。のちのち家老になるんですけれども。50半ばにして、ある日プイッと家康のもとを出て、当時天下をとっていた豊臣秀吉のもとに出奔するというね。そこが裏切ったのか、それとも家康になにか吹き込まれて出て行ったのかというのが、なにも書かれてない。ドラマのなかでそんなに描かれたことがないので、今回古沢さんが石川数正の出奔、秀吉のもとに寝返っていったということをどう書くかは非常に僕のなかでもワクワクするテーマです。
市川:楽しみですね。
市川は「今後はほかになにかやりたいことはありますか? 2023年は年男ですから」と訊く。
松重:節目でなにか、そういうきっかけがつかめるのであれば、ここではっきりとは申せませんが、もう1回いろいろな意味で原点に帰りたいなと思っています。
市川:原点というのは?
松重:どこでしょうね? 相撲取りになりたいのかもしれないし、もう1回芝居をやるのかもしれないし、映画なのかもしれないし。原点に戻ろうと思っています。
市川:個人的には松重さんと甲本ヒロトさんのなにかはすごく観たいです。
松重:ああ、ヒロトくんとね。それもあるかもしれないですね。
市川:それこそ相撲トークでもいいかもしれません(笑)。
松重:彼もいつも場所を一緒に観に行こうと言っている仲なので。そうですね、そういう意味で原点。ポジティブに回顧したいと思っています。
ゲストの過去・現在・未来に市川紗椰が迫る、J-WAVE『ORIENT STAR TIME AND TIDE』の放送は毎週土曜日の21時から。
松重が登場したのは、1月14日(土)放送のJ-WAVEの番組『ORIENT STAR TIME AND TIDE』(ナビゲーター:市川紗椰)。
仏教から見つけたヒント
松重は大学生のころから俳優の道を志し、卒業後は演出家・蜷川幸雄のスタジオに入団。多くの舞台に出演し、演技のキャリアを積むなか、映画、ドラマ、CMなどでも注目される存在に。なかでも連続テレビドラマで初めて主演を務めた『孤独のグルメ』シリーズは10年続く大ヒット作品となった。2023年は大河ドラマ『どうする家康』(NKH)にも出演中。俳優のほかにも執筆業やラジオMCなど幅広いジャンルで活躍している。【関連記事】『孤独のグルメ』は食べるシーンも多いけど…松重 豊に聞く「体形維持」の話
そんな松重の新著『あなたの牛を追いなさい』(毎日新聞出版)が、松重の還暦の誕生日でもある1月19日(木)に発売。
松重:『あなたの牛を追いなさい』って、なんの話かよくわからないと思うんですけれども、仏教の禅の入門書でもある「十牛図」という。要するに自分が牛を求めて追い続けて、その牛と格闘して、それを自分の家に持って帰ってきて、牛が自分のものになったと思ったとたんに、自分と牛の見分けがつかなくなって、牛がいなくなって自分もいなくなって、すべていなくなって、そして世界が元に戻ってきて、最後は誰かになにか自分の得てきたものを伝えると。これは非常にわかりにくいでしょ?
市川:途中まではいけると思ったんですけど(笑)。
松重:非常に難しいんです。
市川:牛というのは、当時どうしても必要なもので、それがないと気づくところから始まり、探して探して、結果なにがなんだかわからなくて、自分がなんなのかもわからなくなるという。大事なものに気づくという流れですかね。
松重:なにを求めて生きているのかは非常にあいまいだったり、わからなくなったりする瞬間があるじゃないですか。僕も40代ぐらいのころにそういう壁にぶち当たったというか。この先、自分がなにをやればいいのかわからないようなときに、僕は座禅とか般若心経もそうですけど、日曜日にいろいろなお寺へ「参禅会」という座禅をしに通ったりして。仏教ってすごくいろいろなヒントがあったんです。自分の40代以降を生きる指標になったな、というのがこの「十牛図」でした。20年経って還暦というときに、別の対談でご一緒させていただいた枡野俊明先生に改めて「十牛図」というものをぶつけてみようと思って、それで対談を本にすることになりました。
2代目豊山からかけられた言葉
かつて力士になることを目指していたという松重は、中学生のころ相撲雑誌の企画で、現在は他界している2代目豊山と対談する機会を得たという。松重:雑誌の対談が終わったあとに「僕は相撲取りになりたいんですけど、どうやったらなれますか?」と。あわよくば「それだったら連れていってあげるよ」と言われるかなと思ったんだけど、豊山さんは大学出の相撲取りだったので「高校と大学に行ってちゃんと勉強して、それでまだ好きだったらおいで」と言われたので、「わかりました」と大学に行っちゃって、演劇なんかに興味を持っちゃったもんだから。
市川:(笑)。「よく考えなさい」と言われて。
松重:そういうご縁というのは大事なお言葉だったりするので。いま考えると豊山さんにかけられた言葉がこの職業に結びついているわけですし、ありがたかったですよね。
松重は高校3年生の文化祭で8ミリ映画を作ることになり、映画製作の面白さに引き込まれていったそうだ。しかし演劇学専攻のある明治大学に入ると、周囲にいた大半は映画ではなく演劇をしている人だったこともあり、演劇の道に進むようになっていったという。
松重:田舎にいると演劇を観る機会がないんです。当時はアングラの最後のほうだったんですけど、状況劇場とか天井桟敷とか、そういう芝居を生で観ました。いままで考えていたリアリズム、リアリティみたいなものをひっくり返すようなお芝居を観て、「これ面白いな」と思って、そっちに入っちゃったんです。
市川:それで出るほうに興味を持ったんでしょうか。
松重:当時は「映画は監督のもの、演劇は役者のもの」という言われ方をしていて。
市川:脚本家や演出家のものじゃないんですね。
松重:舞台は出たもん勝負というところがあるので。やっぱり芝居は演ずることのほうが面白いなと思って。当時はアングラが全盛でしたが、「アングラばかりやっていてもしょうがないだろ」ということで、ウェルメイドプレイという起承転結がちゃんと書かれたお芝居もやるぞ、とやっていたのが日芸にいた三谷幸喜さんです。三谷さんは僕の学年1個上の大学生だったので。日芸はわりと恵まれた環境の子が多かったので、芝居をやるとチケットノルマとかも少ないんです。だからわりと日芸に行って芝居をやっていて、その流れで三谷さんとも芝居をやって、という感じでした。
市川:卒業後は蜷川さんなんですよね。
松重:三谷さんとこのままずっと一緒にいてもしょうがないと思ってたので。
市川:なんでですか(笑)。
松重:いま考えるとバカだなあと思われるかもしれないけど、あのころのお芝居ってあんな感じ(ウェルメイドプレイ)じゃないんです。寺山修司さんの本がすごいと言われている時代に、三谷さんの『ショウ・マスト・ゴー・オン』が天下をとるなんて思わないんですよ(笑)。いま考えると「なんでそこに気づかないかな」って言われるんですけど、みんな気づかないんですよ。僕はだから、もっと抽象的な演劇をやりたいなと思っていたので蜷川幸雄に。あの方はギリシャ悲劇もやるしシェイクスピアもやるし、唐十郎さんも清水邦夫も寺山さんもやるし。ハイブリッドでいろいろやられる方なので、蜷川さんのところに行って修行をしようと思って、そこからちゃんとお芝居を真剣にやりました。蜷川さんの薫陶を受けて、芝居漬けの20代を送ったという感じでしたかね。
原点回帰の年に
最後に松重の「未来」、今後の活動について話を聞くことに。現在、松重が出演している大河ドラマ『どうする家康』が放送中だ。市川:『どうする家康』っていい名前ですね。
松重:やっぱり大河ドラマも若い人に観てもらわないといけないし。作家が古沢良太さんという『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)とか、わりと若い人にも人気のある作品をよく作る方で。僕も『デート』(フジテレビ系)とか『探偵はBARにいる』とかで一緒になって。いまはドラマを選ぶときに何いうと脚本家で、役者も納得のいく作品に出たいという思いがあるので。脚本家が一番大事かなと思うんですよね。監督さんはどんどん変わっちゃうけど、脚本を信じられると最後まで面白く演じることができるので。家康なんて言ったら日本中の人がみんな知っていて、誰がここで裏切るだの、誰がここで死ぬだのという物語をみんな知っているんですけど、それでもドラマにして面白いと思わせるぐらいの脚本力がある。脚本を読んでいて毎回「面白いな」と思いますし、「これを演じて面白くなかったら僕らの責任だな」と思えるので。『どうする家康』は、僕もどこまで出るかわからないですけれども、楽しんでいただければと思います。
市川:松重さんは誰役なんですか?
松重:石川数正という、家康の人質時代から一緒にいる教育係的な部分も持っているような家老です。のちのち家老になるんですけれども。50半ばにして、ある日プイッと家康のもとを出て、当時天下をとっていた豊臣秀吉のもとに出奔するというね。そこが裏切ったのか、それとも家康になにか吹き込まれて出て行ったのかというのが、なにも書かれてない。ドラマのなかでそんなに描かれたことがないので、今回古沢さんが石川数正の出奔、秀吉のもとに寝返っていったということをどう書くかは非常に僕のなかでもワクワクするテーマです。
市川:楽しみですね。
市川は「今後はほかになにかやりたいことはありますか? 2023年は年男ですから」と訊く。
松重:節目でなにか、そういうきっかけがつかめるのであれば、ここではっきりとは申せませんが、もう1回いろいろな意味で原点に帰りたいなと思っています。
市川:原点というのは?
松重:どこでしょうね? 相撲取りになりたいのかもしれないし、もう1回芝居をやるのかもしれないし、映画なのかもしれないし。原点に戻ろうと思っています。
市川:個人的には松重さんと甲本ヒロトさんのなにかはすごく観たいです。
松重:ああ、ヒロトくんとね。それもあるかもしれないですね。
市川:それこそ相撲トークでもいいかもしれません(笑)。
松重:彼もいつも場所を一緒に観に行こうと言っている仲なので。そうですね、そういう意味で原点。ポジティブに回顧したいと思っています。
ゲストの過去・現在・未来に市川紗椰が迫る、J-WAVE『ORIENT STAR TIME AND TIDE』の放送は毎週土曜日の21時から。
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