ザ・ビートルズが1966年にリリースしたアルバム『Revolver』の、2022年最新デジタルリマスター版について、J-WAVEで特集した。
オンエアは12月7日(水)の『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。ゲストにWONKの井上 幹(Ba)を招いた。
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今回リリースされたスペシャルエディションの音源は、オリジナル4トラックのマスターテープを使用して、新たにステレオミックスとドルビーアトモスでミックス。ビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンがリミックスとリマスターを担当した。
井上はWONKのベーシストだけではなく、エンジニアとしてミキシングやマスタリングも担当。ゲームのサウンドデザイナーとしての顔も持っている。そんな井上が技術的な側面から最新デジタルリマスター版の『Revolver』を解説した。
あっこゴリラ:井上さんはこの2022年版の『Revolver』はどうでしたか?
井上:これまでも『Revolver』のリマスターってあったんですけど、今回の2022年版は本当にこれで現代に蘇ったと言えるみたいな、僕も聴いていてすごく楽しい作品でした。
あっこゴリラ:パラデータ(楽器ごとのオーディオデータ)とかがあれば簡単というか、もうちょっとすんなりできる作業だと思うんですけど、パラがないじゃないですか。
井上:簡単に言ってしまえばテープが4本あって、そこにどんどんレコーディングしていくみたいなイメージですよね。
あっこゴリラ:途方もない作業だと思いますが、そうやってリマスターされた今回のはメチャクチャ聴きやすいです。4つのトラックから一つひとつの楽器の音を取り出す作業というのはずっと難しいとされていたんですよね。
井上:そもそも66年に出ている『Revolver』はステレオでもなくて、モノラルの音源なんです。なので1個のスピーカーから出るように設計されているから、4つのトラックも全部1個のスピーカーから出る想定なんです。だけどいまの音楽って2つのスピーカーが基本で、イヤホンとかも両耳についているじゃないですか。だから4つのトラックをどうやって左右に分ければいいか、ということにいままでみんな苦労してきたわけです。たとえばドラムとギターが同じトラックに入ってしまっていたら、ギターを右から聴きたいのにドラムも一緒に右に移動しちゃうんです。それがステレオ音源化の難しいところなんですが、今回ドラムとギターをバラバラにできると。
あっこゴリラ:これって1台1台切り取っていくということ?
井上:「ベースって大体この周波数帯のこういう音だよね」というのを予測して、その音だけ抜き取るという技術ができたんです。
井上:ドラムのスネアの「タン」という音に注目して聴いていただけると。これが2022年版では中心にきているんです。
あっこゴリラ:そのあたりに注目して2022年版をもう1回聴いてみましょう……すごい、真ん中にあるね。ヘッドフォンとかイヤホンで聴いてもらったらわかりやすいと思います。さっきの技術の話を聞いたらより一層「これすごいね」ってなります。
井上:最近の曲ってベースとドラムとスネアが真ん中にあるという、すごく当たり前のことだと思うんですけど。ようは4トラックしかなくて、たとえばギターとスネアが同じ場所にあったら、ギターを右にやるためにドラムも右にいっちゃうんです。だからいままでのリマスターは一緒になったトラックをちょっと右に寄せていたから、ドラムはもうちょっと右から聞こえてしまっていたのが、ドラムだけを抜き出すことができたから、よりいまのステレオの音像にフィットしたような形にできました。
今回のリマスターは、さらにドルビーアトモスでもミックスされている。井上は「端的に言えばマルチチャンネルに対応している。もともと1個のスピーカーから出ることを想定していたモノラルだったが、今作はスピーカーが7個でも9個でも、いろいろな方向にスピーカーがあるところでも楽しめる」と解説した。
あっこゴリラ:ビートルズのリマスターをする作業ってメチャクチャプレッシャーがヤバいと思うんです。
井上:ヤバいですよね(笑)。
あっこゴリラ:ファンの想い入れも絶対強いだろうし。でもすごく聴きやすくなったし、名曲なのには変わりないから「やっぱりすごい!」ってなりますよね。
井上:これはプレッシャーのある作業だと思うんですけど、昔のせっかくメチャクチャいい曲だからいまのフォーマットでもみんなに聴かせてあげたいと思う人はいっぱいいると思うんです。なので僕はすばらしいことだと思います。
あっこゴリラ:このリミックスという技術が今後もたらす影響とか、さらに「こんなこともできるようになるんじゃないか」という可能性を感じる部分はありますか?
井上:リミックスというよりは、かたまった音源から1個のものを取り出すみたいな技術って最近はいろいろなもので使われていて。たとえばカラオケ版を作るとなれば、ボーカルを検知して消すみたいなものもできます。あとは2本のマイクだけで録音してしまったライブ版が「ちょっとバランス悪いな」と思ったときに、本来はパラデータがないと直せないところを1個だけ取り出して直すことができるようになる、というのはいいことですよね。
あっこゴリラ:DJとかもこの技術はすごくありがたい。これは誰でもできるということではないんですか? そういうソフトがあるとか。
井上:いろいろなところがその技術を応用してプラグインみたいなのを作っているので、いろいろなものがあります。なのでみなさんも手軽に使えるプラグインもあるんじゃないでしょうか。
あっこゴリラ:すごい! これはメチャクチャありがたいです。クリエイティブな幅がどんどん広がるということですから。
番組ではビートルズの『Got To Get You Into My Life』の2022年と2009年のリマスター版を聴き比べた。
あっこゴリラ:(2009年版は)左右にばらけている感じがします。
井上:一番最初に聴こえるホーンのフレーズがいまの音源だとちょっと右に寄っているんですけど、これがドドンと中心にきているのが2022年版なんです。
あっこゴリラ:2022年版をもう1回聴いてみましょう……ちゃんと真ん中にきている、すごい!
井上:すごく迫力のある、明るい気分になるイントロです。
あっこゴリラ:真ん中から聞こえたいですよね。
井上:モノラルだとそれがもちろん真ん中から聞こえるんですけど、ステレオになったときに広がりを出すために横にやるしかなかったというのが、今回なんとステレオだけどホーンだけは真ん中にドンと置けるようになったと。モノラル用に作られた4トラックの中からバラバラに楽器を取り出せたからこそ、2つのスピーカーにも対応できて、9個のスピーカーにも対応できるようにミックスできるということなんです。なのでドルビーアトモスを本当に楽しむんだったらこれが必要だったと。
あっこゴリラ:ドルビーアトモスを楽しむためにこういうミックスが必要だったということか。
井上:レコーディングのときの逸話なんですけど。ジョン・レノンが「ボーカルを2回レコーディングしなきゃいけないんですか? それって疑似的にもう1本同じものを作ったりできないんですかね」みたいな話をしたらしくて。そこでエンジニアの人が試行錯誤をして作ったのが、疑似的にリードボーカルのダブルトラッキングを作る、アーティフィシャル・ダブル・トラッキングと呼ばれているんですけど、1本テープに録った音を別のテープの機器に流してちょっとスピードを遅くしたり早くしたりして、ちょっとだけ揺らぎをもたせることで疑似的に2人いるかのような感じにするみたいなことを積極的に取り入れたのがこの『Revolver』というアルバムなんです。次に流す曲はボーカルに注目して聴いていただければと思います。
番組ではビートルズの『Taxman』をオンエアした。
井上:冒頭のいま流れているこの部分が1人で歌っているけどちょっと不思議な質感というか、ダブルで録ったような感じになっている。ここが実はダブルじゃなくて、同じテープから抽出された疑似的なダブルなんです。
あっこゴリラ:『Revolver』はいろいろな実験をしたという逸話はメチャメチャ聞くけど、ボーカルのそれは初めて聞きました。
井上:66年のときもすごくいろいろな工夫をして作られた。このダブルの質感もどことなくちょっとサイケなイメージになっていると思うんですけど、そういういろいろな音響的な工夫がアルバムの空気を作っているなと思っていて。それがまた最新の技術で生まれ変わるというのがすごい、エンジニアとしてはワクワクする出来事なんです。
あっこゴリラ:それこそオリジナル版はマジで手探りの実験みたいな感じですもんね。それをさらに研ぎ澄ましていくみたいな感じでいいですね。
J-WAVE『SONAR MUSIC』は月・火・水・木曜 22:00-24:00。
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現代に蘇った『Revolver』
1966年にリリースされた、ビートルズのオリジナルアルバムの『Revolver』。ビートルズがライブバンドからレコーディングバンドへと進化していくターニングポイント的な作品だ。今回リリースされたスペシャルエディションの音源は、オリジナル4トラックのマスターテープを使用して、新たにステレオミックスとドルビーアトモスでミックス。ビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンがリミックスとリマスターを担当した。
井上はWONKのベーシストだけではなく、エンジニアとしてミキシングやマスタリングも担当。ゲームのサウンドデザイナーとしての顔も持っている。そんな井上が技術的な側面から最新デジタルリマスター版の『Revolver』を解説した。
あっこゴリラ:井上さんはこの2022年版の『Revolver』はどうでしたか?
井上:これまでも『Revolver』のリマスターってあったんですけど、今回の2022年版は本当にこれで現代に蘇ったと言えるみたいな、僕も聴いていてすごく楽しい作品でした。
あっこゴリラ:パラデータ(楽器ごとのオーディオデータ)とかがあれば簡単というか、もうちょっとすんなりできる作業だと思うんですけど、パラがないじゃないですか。
井上:簡単に言ってしまえばテープが4本あって、そこにどんどんレコーディングしていくみたいなイメージですよね。
あっこゴリラ:途方もない作業だと思いますが、そうやってリマスターされた今回のはメチャクチャ聴きやすいです。4つのトラックから一つひとつの楽器の音を取り出す作業というのはずっと難しいとされていたんですよね。
井上:そもそも66年に出ている『Revolver』はステレオでもなくて、モノラルの音源なんです。なので1個のスピーカーから出るように設計されているから、4つのトラックも全部1個のスピーカーから出る想定なんです。だけどいまの音楽って2つのスピーカーが基本で、イヤホンとかも両耳についているじゃないですか。だから4つのトラックをどうやって左右に分ければいいか、ということにいままでみんな苦労してきたわけです。たとえばドラムとギターが同じトラックに入ってしまっていたら、ギターを右から聴きたいのにドラムも一緒に右に移動しちゃうんです。それがステレオ音源化の難しいところなんですが、今回ドラムとギターをバラバラにできると。
あっこゴリラ:これって1台1台切り取っていくということ?
井上:「ベースって大体この周波数帯のこういう音だよね」というのを予測して、その音だけ抜き取るという技術ができたんです。
ステレオの音像にフィット
番組ではビートルズの『Here, There And Everywhere』を実際に聴いて音の違いを検証した。井上:ドラムのスネアの「タン」という音に注目して聴いていただけると。これが2022年版では中心にきているんです。
あっこゴリラ:そのあたりに注目して2022年版をもう1回聴いてみましょう……すごい、真ん中にあるね。ヘッドフォンとかイヤホンで聴いてもらったらわかりやすいと思います。さっきの技術の話を聞いたらより一層「これすごいね」ってなります。
井上:最近の曲ってベースとドラムとスネアが真ん中にあるという、すごく当たり前のことだと思うんですけど。ようは4トラックしかなくて、たとえばギターとスネアが同じ場所にあったら、ギターを右にやるためにドラムも右にいっちゃうんです。だからいままでのリマスターは一緒になったトラックをちょっと右に寄せていたから、ドラムはもうちょっと右から聞こえてしまっていたのが、ドラムだけを抜き出すことができたから、よりいまのステレオの音像にフィットしたような形にできました。
今回のリマスターは、さらにドルビーアトモスでもミックスされている。井上は「端的に言えばマルチチャンネルに対応している。もともと1個のスピーカーから出ることを想定していたモノラルだったが、今作はスピーカーが7個でも9個でも、いろいろな方向にスピーカーがあるところでも楽しめる」と解説した。
あっこゴリラ:ビートルズのリマスターをする作業ってメチャクチャプレッシャーがヤバいと思うんです。
井上:ヤバいですよね(笑)。
あっこゴリラ:ファンの想い入れも絶対強いだろうし。でもすごく聴きやすくなったし、名曲なのには変わりないから「やっぱりすごい!」ってなりますよね。
井上:これはプレッシャーのある作業だと思うんですけど、昔のせっかくメチャクチャいい曲だからいまのフォーマットでもみんなに聴かせてあげたいと思う人はいっぱいいると思うんです。なので僕はすばらしいことだと思います。
あっこゴリラ:このリミックスという技術が今後もたらす影響とか、さらに「こんなこともできるようになるんじゃないか」という可能性を感じる部分はありますか?
井上:リミックスというよりは、かたまった音源から1個のものを取り出すみたいな技術って最近はいろいろなもので使われていて。たとえばカラオケ版を作るとなれば、ボーカルを検知して消すみたいなものもできます。あとは2本のマイクだけで録音してしまったライブ版が「ちょっとバランス悪いな」と思ったときに、本来はパラデータがないと直せないところを1個だけ取り出して直すことができるようになる、というのはいいことですよね。
あっこゴリラ:DJとかもこの技術はすごくありがたい。これは誰でもできるということではないんですか? そういうソフトがあるとか。
井上:いろいろなところがその技術を応用してプラグインみたいなのを作っているので、いろいろなものがあります。なのでみなさんも手軽に使えるプラグインもあるんじゃないでしょうか。
あっこゴリラ:すごい! これはメチャクチャありがたいです。クリエイティブな幅がどんどん広がるということですから。
番組ではビートルズの『Got To Get You Into My Life』の2022年と2009年のリマスター版を聴き比べた。
あっこゴリラ:(2009年版は)左右にばらけている感じがします。
井上:一番最初に聴こえるホーンのフレーズがいまの音源だとちょっと右に寄っているんですけど、これがドドンと中心にきているのが2022年版なんです。
あっこゴリラ:2022年版をもう1回聴いてみましょう……ちゃんと真ん中にきている、すごい!
井上:すごく迫力のある、明るい気分になるイントロです。
あっこゴリラ:真ん中から聞こえたいですよね。
井上:モノラルだとそれがもちろん真ん中から聞こえるんですけど、ステレオになったときに広がりを出すために横にやるしかなかったというのが、今回なんとステレオだけどホーンだけは真ん中にドンと置けるようになったと。モノラル用に作られた4トラックの中からバラバラに楽器を取り出せたからこそ、2つのスピーカーにも対応できて、9個のスピーカーにも対応できるようにミックスできるということなんです。なのでドルビーアトモスを本当に楽しむんだったらこれが必要だったと。
あっこゴリラ:ドルビーアトモスを楽しむためにこういうミックスが必要だったということか。
疑似的にリードボーカルのダブルトラッキングを作る技術
井上は『Revolver』について、1966年当時でもさまざまなレコーディング上の工夫が凝らされているとコメント。番組では井上が「このレコーディング技術がすごい」と感じた曲を紹介した。井上:レコーディングのときの逸話なんですけど。ジョン・レノンが「ボーカルを2回レコーディングしなきゃいけないんですか? それって疑似的にもう1本同じものを作ったりできないんですかね」みたいな話をしたらしくて。そこでエンジニアの人が試行錯誤をして作ったのが、疑似的にリードボーカルのダブルトラッキングを作る、アーティフィシャル・ダブル・トラッキングと呼ばれているんですけど、1本テープに録った音を別のテープの機器に流してちょっとスピードを遅くしたり早くしたりして、ちょっとだけ揺らぎをもたせることで疑似的に2人いるかのような感じにするみたいなことを積極的に取り入れたのがこの『Revolver』というアルバムなんです。次に流す曲はボーカルに注目して聴いていただければと思います。
番組ではビートルズの『Taxman』をオンエアした。
井上:冒頭のいま流れているこの部分が1人で歌っているけどちょっと不思議な質感というか、ダブルで録ったような感じになっている。ここが実はダブルじゃなくて、同じテープから抽出された疑似的なダブルなんです。
あっこゴリラ:『Revolver』はいろいろな実験をしたという逸話はメチャメチャ聞くけど、ボーカルのそれは初めて聞きました。
井上:66年のときもすごくいろいろな工夫をして作られた。このダブルの質感もどことなくちょっとサイケなイメージになっていると思うんですけど、そういういろいろな音響的な工夫がアルバムの空気を作っているなと思っていて。それがまた最新の技術で生まれ変わるというのがすごい、エンジニアとしてはワクワクする出来事なんです。
あっこゴリラ:それこそオリジナル版はマジで手探りの実験みたいな感じですもんね。それをさらに研ぎ澄ましていくみたいな感じでいいですね。
J-WAVE『SONAR MUSIC』は月・火・水・木曜 22:00-24:00。
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