テクノロジーは人を幸せにするのか? AIの発達もスマートシティ化も“面白がり方”が重要だ

J-WAVEが2022年10月21日(金)からの3日間で開催した、テクノロジーと音楽の祭典「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022」(通称イノフェス)。

ここでは、「INNOVATION CITY FORUM 2022~2050年の未来に、街とテクノロジーはどう共存すべきか~powered by 田中貴金属グループ」と題したトークセッションの内容を、テキストでお届けする。

(J-WAVE NEWS編集部)

「幸せになるテクノロジーの使い方」を考える

30年後に人口が2,000万人以上減少、先進国の中では少子高齢化の進み方が著しい日本。必要とされるスマートシティ化は人を幸せにするのか? メディアアーティスト落合陽一、無駄づくり発明家 藤原麻里菜、Business Insider Japan編集長 伊藤有が、合理性と非合理性のバランスを問う。

伊藤:「2050年の未来に、街とテクノロジーはどう共存すべきか」という壮大なテーマなんですけど、少子高齢化・人口減少をテクノロジーで解決しようみたいなことは、政府やビジネスの場でもよく議論されていると思います。

今後、日本が突入していく厳しい時代を、テクノロジーでどのように乗り越えていくのかという話はよくあるんですけど、本当に人ってテクノロジーで幸せになるのか、個人的に腑に落ちていないんです。「幸せになるテクノロジーの使い方」を考えたいなと思っていて、それがこのセッションのサブテーマなのかなと思っています。30年後、すごく便利な世の中になっても幸せじゃなかったら嫌じゃないですか。便利になって自分で動かなくてもいいけれど、つまらない世界になってほしくないなと。そこで、最初のお題です。

お題1:そもそも私たちはテクノロジーで幸せになってきたのか?

落合:最近だと、去年AIが画像を滑らかにできるようになりました。今年8月には画像生成AIがオープンソースになり誰でも使えるようになって、今は誰でもAIで動画つくったり、立体つくったり、音楽つくったりできるんですよ。人類が120年かけてやった仕事を、AIが今年の8月から10月の3か月でやっている。先月作れなかったものが、今月は作れるスピード感だから、テクノロジーによって幸せになってないのはちょっとわかります。世代を待ってくれないし、進むスピードが劇的に速い。

藤原:テクノロジーって、選択肢を増やすことにならない可能性もあるってことですよね。それ、ディストピアってことですよね、監視社会になって、お絵かきAIが暴走してグロ画像ばかりだしてくるとか。人間が見ると黒い点しか見えないんだけど、なぜか人間がそういう絵に感動するようになって、そういう謎の絵をつくりだすAIがでてきたりとか。世界全体がディストピアみたいになったら、幸せかどうかわかんない(笑)。

伊藤:藤原さんは、株式会社無駄を立ち上げて“無駄づくり”をしていますけど、物事を面白がるというか、面白味の発見の仕方って何かあります?

藤原:エイブラハム・フレクスナーの「有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ」っていう言葉が好きで、ものを作る前に役に立つとか立たないっていう価値観を捨てて、とりあえず頭に浮かんだものをつくることが、大切だと思っています。そういうことが、面白いものとか、今は無駄だけど未来にとっては価値のあるものにつながるんじゃないかなと。
伊藤:未来にとって役立つかはまずは考えないってことですよね。落合さんどうです?

落合:基礎研究は大切だし、イグノーベル賞も最高だし、役に立とうと思ってつくるものには良いものが多いですけどね。千利休とか柳宗義とかも言っていた「用の美」っていう考え方ですけど。

伊藤:藤原さんおっしゃるように、「何のために」って理由を考え出すと、意外と面白くないなと思っていて。米国アドビ社がLAでイベントやっていて、研究所の開発技術のデモンストレーションなんですけど、ブースで写真1枚ポチって撮ったら、写真に写った自分が立体化されて、勝手に踊りだすっていうテクノロジーがあって。儲けとかビジネス関係なく、なんかすごい、面白いもので盛り上がっているのがいいなと。

落合:その企業のビジネスモデルによると思います。サブスクの会社だから一見ビジネスに結びつかないものができるわけで、ハードウエアの会社があんなことやったら倒産しますよ。

伊藤:なるほど(笑)。でもテクノロジーでちょっと幸せに近づいている感じありますか?

落合:ありますよ、毎日楽しいし。

藤原:何で毎日楽しいんですか?

落合:今日はどんな新しいAIのモデルが出たかなってのをチェックして、コードをちょっとだけ書いて、ちょっと動かして、翌朝実行ファイルをみると、色んなものがAIで大量に生成されているっていう。

藤原:それはAIが成果物を作ってくれるんですか?

落合:そうそう。「今の曲、感動したかもしれない!」みたいな楽しみ方(笑)。

伊藤:「面白がり方」がテクノロジーで幸せになれるポイントなんじゃないかと思っていて、僕もAIの画像生成ソフトで遊んでいるんですけど、楽しいんですよ。なんかコンピューターとの対話っぽいんですよね。このキーワード入れると、こんな絵描くんだとか、こんな才能持ってるんだこいつって、コンピューターに人間性を感じるんですよね。

落合:それは完全に正しい理解ですね。対話型AIにやっとなった感じなんですよね。今まで研究者は、パイソンが書けないと対話ができなかったんですよ。いまはオープンソースになって、誰でもPCに落とせて、誰でも使えるし、レスポンスの待ち時間も10分くらいですよね。あれなら対話できる。

伊藤:っていう感動的な世界が広がっているんですけど、スマートシティみたいな話になったときに、そういうテクノロジーが話に出てこない(笑)、ということで、次のお題です。

お題2:マジメに作ったら楽しくなくなる? 楽しい「スマートシティ」を考えよう!

伊藤:スマートシティを本当にやろうと思ったら、楽しさって必要じゃないですか?

藤原:テクノロジーを使って人を無理やり楽しませるより、空き地みたいなところで自由に好きにテクノロジーを使って遊んでいいよって言われたほうが楽しい気がします。

伊藤:余白があるからですかね、自由があるから楽しいのかなあ。

落合:政府が補助金だしてモデル事業とか特区とかつくっていますけど、霞が関文学(省庁がつくっている資料)を読み解くと、文化を基軸にスマートシティつくるのと、テクノロジーを基軸にスマートシティをつくるのを戦わせているのが見えてきますよ。

伊藤:文化と効率どっちが勝つかって話なんですかね。

藤原:スマートシティのような設計された、効率化された都市に空き地ってないですよね?設計されているから誰かの持ち物だし、立て看板に「入るな」とか書いてあったら空き地じゃない。

落合:筑波は土地しかなくって、何もなくて、人もいないのに大きな音出したりすると、怒られるんですよ。人と人がぶつかる可能性を下げないと自由がなくなるから、スマートシティはうまくいかない気がする。

藤原:メタバースだったら1人でいられるから解決しますけど、それだとスマートシティじゃないし。

伊藤:めちゃくちゃ大規模にノイズキャンセリングするとか?

落合:だったらまず、新幹線とかリニアの防音を先にやりますね。あ、エンタメ庁つくればいいんじゃないですか?いまは、文化庁しかないし。

伊藤:文化庁とエンタメ庁って軸が違う気がするので、いいんじゃないですかね。

落合:僕、文化庁の委員会に入っているんですけど、子どもの国語教育から、障がい児学習までマジメに政策を考えているんですけど、誰もエンタメを頭使ってちゃんと考えてない気がしています。

伊藤:デジタル庁つくったんだから、次はエンタメ庁つくればいいんじゃないですかね。

落合:行政でエンタメの事業部って聞いたことないですよね。

伊藤:全く聞いたことないですね。

落合:文化行政課とか地域振興課とかはあるけれど

伊藤:まず「エンタメ」を定義して、こういうことだよってやる人が必要なんじゃないですか?

落合:エンタメ庁をつくるべきっていうのは、結構正しい気がする。

伊藤:行政の仕事をしている人がエンタメを語ったり、考えたりするのが難しい気がするんですよ。

藤原:それこそ、エンタメなんて無駄じゃんって言われちゃいそう。

伊藤:産業規模でしか考えられていないですよね、映画産業とかアニメ産業とか…

落合:「韓国のK-POPはなぜ世界で上手くいったのか?」とかは議論されていますけど、感動のほうが大切じゃないですか? 感動ってどうパワポに落とすのかで悩んじゃって、思考停止しちゃうみたいな(笑)。

伊藤:「なぜ韓国は国策としてK-POPができたのか?」を考えるのはいいけれど、その話を持っていくと文化庁にいっちゃって、お門違いの人が感動をパワポに落とせないから政策にならない。

落合:じゃあパワポ禁止にしないと無理だ(笑)。「パワポに感動は書けない」って入口に書いてある省庁じゃなきゃ、こういうことは議論できないですよ。やっぱエンタメ庁だ。資料は、全部動画で提出するのがいい気がする。感動は図表で表すと半減するから(笑)。

お題3:2050年の幸せと、その先の未来へ

伊藤:最後あまり時間がなくなってしまいましたが、2050年の未来では、皆さん幸せにやってそうでしょうか?

藤原:近所の子どものお母さんから、「あそこの家いっちゃだめだよ」っていわれるおばさんになっていたいです。

落合:布団とか叩いて干しながら、威嚇するおばさんですか?

藤原:いや、発明品をいっぱい置いていて、子どものたまり場になっているけど、近所のお母さん達からは、「あの家いっちゃだめ」って言われるユニークなおばさんです。

伊藤:いいですね。落合さんは、そのスピードで色々やっていったら2050年やることなくなっているんじゃないですか?

落合:もずくとかつくっているかもしれないし、新しいおもちゃで遊ぶことだけは世界一得意なので、毎日新しいテクノロジーとかおもちゃが生まれてくるわけだから、2050年もきっと楽しめますよ。

(構成=反中恵理香)

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