メディアアーティストで筑波大学准教授の落合陽一、批評家・作家で株式会社ゲンロン創業者の東 浩紀、モデルでありJ-WAVE『START LINE』のナビゲーターである長谷川ミラが、Web3、メタバース、AIなど最先端テクノロジーがどのように世界を変えていくのかを語った。
3人が登場したのは、J-WAVEが10月に主催したイベント『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2023』(通称・イノフェス)。2023年は、10月13日から10月15日の3日間にかけて、トーク&ライブが繰り広げられた。
ここで紹介する3人のトークは、「新しい時代を生み出すテクノロジーのそばに」をビジョンに掲げる田中貴金属グループの協賛で実施された「田中貴金属グループステージ Closing Session~The Future is Now テクノロジーが創る未来~」と題したプログラム。開催日は15日。
まず進行役を務めた長谷川が、「おふたりは、AIについてどうお考えですか?」と質問を投げかけた。
落合:この話題に関していちばん面白かったのは、2020年くらいに友人の研究者と話をしているときでしたね。「2023年の世界はもう読みきれないね」という話をしていました。今、世に出ている論文を査読しているのは、だいたい2020年の夏くらいと、タイムラグがあるんです。つまり、3年前くらいにこのような未来になることはわかってはいて。一方で、人間がAIにすっと抜かされる気持ちよさみたいなものはありますね。
長谷川:「すっと抜かされる」とは?
落合:ペットを育てていると、急に能力が備わっていることがあるじゃないですか。このペースでいけば明後日できるようになるかなという予想を超えてくることがある。AIもそういうことです。そしてAIに1回抜かされると、もう追い抜くことはできない。
長谷川:私は一般人の感覚で言うと、AIは「怖いな」という印象です。そんな中で、今年で言うと「ChatGPT」がものすごく盛り上がりましたよね。
落合:2010年代の前半に「ディープラーニング(深層学習)」が出てきて、2017年頃に「トランスフォーマー」が出てきて、もうちょっと緩やかにテクノロジーが進化していくかと思っていたら、予想よりも早く物事は進んでいます。つまりこれからも人類がAIにすっと抜かされる未来があるんです。
一方、東は「AIが人間の能力を抜こうが、抜かさまいが、そんなことは人間には関係ないと思っています」と話し始めた。
東:そもそも世界って、よくわからないことだらけなんです。人間の脳って、すごく小さくて、効率が悪くて、稼働時間も50〜100年くらいしかなくて、記憶の転送もできない。こんな脳、計算機が世界を理解できるわけがありません。
つまり広大な自然と宇宙を脳が理解できると思っていることがそもそも間違いだということ。人口知能が僕らより頭がよくなるのは当然だと思います。ただ、僕らはそれだからといって、何も変える必要がなくて。人間は人間で社会を作っているわけだし、人間社会の厄介さはあまり変化しないと思います。人工知能は僕たちよりも物理法則を理解してくれるので、僕たちにしたら魔法にしか見えないようなテクノロジーが人工知能から与えられるようになると思います。
ただ、その構造自体も今までとあまり変化がない。昔から人間は土に種を撒いて、稲ができるとそれを回収していたわけだけど、そのメカニズムってわからなかったわけですよね。
落合:人間は解釈不能なものを使うのが得意です。
東:結局のところ、人間は自然の恩恵で生きているわけだけど、自然のメカニズムを理解できるようになると考えていること自体が、ここ300〜400年くらいの話。その幻想が壊れたということです。言ってみれば、昔の人類の状態に戻るということですね。
長谷川:AIの話を一般社会に落とし込むと、自分たちには関係ないことなのでしょうか? それこそ社会や生活に変化をもたらすという意味で。
落合:人間は十分に低俗な生き物なので問題はないです。AIにすっと抜かされてそのままです。
東:人間の問題というのはある意味で、昔から変わらないんです。僕は現在52歳なんだけど、2000年代初頭ってネットとかSNSが急速に発達して、これにより政治が変わると思われていました。政治や民主主義が一気にテクノロジーと融合し進むと思われていたけれど、結局は進歩がなかった。
ネットというのは革命的なテクノロジーです。それまでは新聞などのメディアが取り上げてくれなければ、自分たちの声は発信できなかった。しかし今は、誰もが全世界に向けて発信することができる。これははっきりとした革命だし、これにより民主主義の形が根本から変わると思うじゃない。実際、そういう議論は行われていました。でも、現実は違った。結局、テクノロジーが発達しても人間が変わらないと、政治も変わらないし、民主主義という形態も変わらないんです。
ここで落合はAIサービスがリスト化されているサイト「There's An AI For That (TAAFT)」を会場内のモニターに映した。そこには月毎に生まれたAIサービス名が羅列されている。
落合:月に600、700超のAIサービスが出てくると、それを全部追える人はいないんです。つまりInstagramにポストされるような手軽さのレベルで、AIサービスが生まれている。一昔前では100倍くらいの労力がかかることが、AIが発展したことで、Instagramの投稿と同じようなノリで出てきているということ。
このサイトをInstagramのポストと睨めっこするような感覚でチェックしている人を専門家と呼ぶと思います。僕は研究者だから見ているけれど、大変だからそんなことをしている人は世界レベルで見てもほかにいない。簡単に言うと、そんなことをしなくていいんです。
長谷川:そういう意味では、AIがAIを語る未来が訪れることになる?
落合:おっしゃる通りです。人間はAIと組まないと、AIのことは追いきれない。これは比較的、断言できることだと思います。AIは人間の一世代間の技術的な常識に比べて、進化が早い。写真技術の発明から印象派の絵画が出てくるまで30年くらいかかってくるわけで、世代の問題で考えると、人間は耐えきれないかもです。でも耐えきれなくてもいい。どうせ人間は諦めることになります。
ここで東が「技術的な爆発はこれまでもありました」と切り出す。
東:例えば、ライト兄弟が飛行機を飛ばしてから月に行くまでが60年超。何かがブレイクスルーすると、技術というのは、爆発的に進化します。一方でその後、スピードを保ったままかというとそうではなかったりもします。AIはブレイクスルーの局面だから、今はすごいスピードで拡散されてるけど、恐らくどこかでは安定期に突入するでしょう。
(構成=中山洋平、撮影=アンザイミキ)
3人が登場したのは、J-WAVEが10月に主催したイベント『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2023』(通称・イノフェス)。2023年は、10月13日から10月15日の3日間にかけて、トーク&ライブが繰り広げられた。
ここで紹介する3人のトークは、「新しい時代を生み出すテクノロジーのそばに」をビジョンに掲げる田中貴金属グループの協賛で実施された「田中貴金属グループステージ Closing Session~The Future is Now テクノロジーが創る未来~」と題したプログラム。開催日は15日。
AIには抜かされていくけど…人間が得意なことは?
落合陽一、東 浩紀、長谷川ミラという、それぞれ異なる分野で活躍する3人。落合陽一と長谷川ミラは以前、番組で共演経験がある。東浩紀と長谷川は初対面だった。まず進行役を務めた長谷川が、「おふたりは、AIについてどうお考えですか?」と質問を投げかけた。
落合:この話題に関していちばん面白かったのは、2020年くらいに友人の研究者と話をしているときでしたね。「2023年の世界はもう読みきれないね」という話をしていました。今、世に出ている論文を査読しているのは、だいたい2020年の夏くらいと、タイムラグがあるんです。つまり、3年前くらいにこのような未来になることはわかってはいて。一方で、人間がAIにすっと抜かされる気持ちよさみたいなものはありますね。
落合:ペットを育てていると、急に能力が備わっていることがあるじゃないですか。このペースでいけば明後日できるようになるかなという予想を超えてくることがある。AIもそういうことです。そしてAIに1回抜かされると、もう追い抜くことはできない。
長谷川:私は一般人の感覚で言うと、AIは「怖いな」という印象です。そんな中で、今年で言うと「ChatGPT」がものすごく盛り上がりましたよね。
落合:2010年代の前半に「ディープラーニング(深層学習)」が出てきて、2017年頃に「トランスフォーマー」が出てきて、もうちょっと緩やかにテクノロジーが進化していくかと思っていたら、予想よりも早く物事は進んでいます。つまりこれからも人類がAIにすっと抜かされる未来があるんです。
一方、東は「AIが人間の能力を抜こうが、抜かさまいが、そんなことは人間には関係ないと思っています」と話し始めた。
東:そもそも世界って、よくわからないことだらけなんです。人間の脳って、すごく小さくて、効率が悪くて、稼働時間も50〜100年くらいしかなくて、記憶の転送もできない。こんな脳、計算機が世界を理解できるわけがありません。
つまり広大な自然と宇宙を脳が理解できると思っていることがそもそも間違いだということ。人口知能が僕らより頭がよくなるのは当然だと思います。ただ、僕らはそれだからといって、何も変える必要がなくて。人間は人間で社会を作っているわけだし、人間社会の厄介さはあまり変化しないと思います。人工知能は僕たちよりも物理法則を理解してくれるので、僕たちにしたら魔法にしか見えないようなテクノロジーが人工知能から与えられるようになると思います。
ただ、その構造自体も今までとあまり変化がない。昔から人間は土に種を撒いて、稲ができるとそれを回収していたわけだけど、そのメカニズムってわからなかったわけですよね。
落合:人間は解釈不能なものを使うのが得意です。
東:結局のところ、人間は自然の恩恵で生きているわけだけど、自然のメカニズムを理解できるようになると考えていること自体が、ここ300〜400年くらいの話。その幻想が壊れたということです。言ってみれば、昔の人類の状態に戻るということですね。
AIと組まないと、AIのことは追いきれない
AIが人間の知性を超え、それにより社会や生活に変化をもたらすというのは、ここ最近、巷でも話題にあがることの多いトピックだ。トークセッションでもこの話題について触れた。長谷川:AIの話を一般社会に落とし込むと、自分たちには関係ないことなのでしょうか? それこそ社会や生活に変化をもたらすという意味で。
落合:人間は十分に低俗な生き物なので問題はないです。AIにすっと抜かされてそのままです。
東:人間の問題というのはある意味で、昔から変わらないんです。僕は現在52歳なんだけど、2000年代初頭ってネットとかSNSが急速に発達して、これにより政治が変わると思われていました。政治や民主主義が一気にテクノロジーと融合し進むと思われていたけれど、結局は進歩がなかった。
ネットというのは革命的なテクノロジーです。それまでは新聞などのメディアが取り上げてくれなければ、自分たちの声は発信できなかった。しかし今は、誰もが全世界に向けて発信することができる。これははっきりとした革命だし、これにより民主主義の形が根本から変わると思うじゃない。実際、そういう議論は行われていました。でも、現実は違った。結局、テクノロジーが発達しても人間が変わらないと、政治も変わらないし、民主主義という形態も変わらないんです。
ここで落合はAIサービスがリスト化されているサイト「There's An AI For That (TAAFT)」を会場内のモニターに映した。そこには月毎に生まれたAIサービス名が羅列されている。
落合:月に600、700超のAIサービスが出てくると、それを全部追える人はいないんです。つまりInstagramにポストされるような手軽さのレベルで、AIサービスが生まれている。一昔前では100倍くらいの労力がかかることが、AIが発展したことで、Instagramの投稿と同じようなノリで出てきているということ。
このサイトをInstagramのポストと睨めっこするような感覚でチェックしている人を専門家と呼ぶと思います。僕は研究者だから見ているけれど、大変だからそんなことをしている人は世界レベルで見てもほかにいない。簡単に言うと、そんなことをしなくていいんです。
長谷川:そういう意味では、AIがAIを語る未来が訪れることになる?
ここで東が「技術的な爆発はこれまでもありました」と切り出す。
東:例えば、ライト兄弟が飛行機を飛ばしてから月に行くまでが60年超。何かがブレイクスルーすると、技術というのは、爆発的に進化します。一方でその後、スピードを保ったままかというとそうではなかったりもします。AIはブレイクスルーの局面だから、今はすごいスピードで拡散されてるけど、恐らくどこかでは安定期に突入するでしょう。