左から、モデレーターのサッシャ、SFプロトタイピングのスペシャリスト宮本氏、NEC 八巻氏、海老沢氏

ビジネスでイノベーションを生み出す「SF的な発想」 その事例とメソッドを解説

J-WAVEが2022年10月21日(金)からの3日間で開催した、テクノロジーと音楽の祭典「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022」。初日はビジネスパーソン向けにウェビナーを実施した。

講演の一つである「SFが描くワクワクする未来 ~SFプロトタイピングがイノベーションを生む~」と題したトークを、ここではテキストで紹介する。

(J-WAVE NEWS編集部)

「SF的発想」が、今までにない未来を生む

SFプロトタイピングは、サイエンス・フィクション(SF)的な発想を元に、まだ実現していないビジョンの「試作品=プロトタイプ」を作ることで、他者と未来像を議論・共有するためのメソッド。既成概念にとらわれず、SF思考で発想すると今まで考えられなかったような未来が見えてくる。

SFプロトタイピングのスペシャリスト宮本道人氏をゲストに迎え、これまでヒットしたSF作品の中から、2022年の時点で存在しているテクノロジーとの共通点や、過去のSFにおけるテクノロジーがどのように現在の社会で実現されているかを聞いた。その上で、最先端のXRスタジオにてNECの社員を交えたSFプロトタイピングのショートワークショップを展開。実際に試せるよう、手順も含めて紹介する。

「人が想像できることは実現する」と感じる本たち

まずは宮本氏が、「未来を予見した3冊の本」を紹介した。

「はだかの太陽」アイザック・アシモフ
宮本:1956年の書籍で、感染症が広がった星が舞台になっています。皆が引きこもって暮らす社会が描かれていて、夫婦であっても一人一人が別々に暮らしている。その中で、リモートでコミュニケーションを取る姿が描かれているんです。予測がすごいというより、どんな風にその問題が起こるのかを考えられるのが、SFの特徴ということでこの本を選びました。

「スノウ・クラッシュ」ニール・スティーヴンスン
宮本:最近、話題のメタバース。ARとSNS のあいのこみたいな位置づけで紹介されていますけれど、この小説の中で、VR(バーチャル・リアリティー)という言葉が気に入らないので「メタバース」という言葉を使ったと謝辞に書かれているんです。「アバター」という言葉も1992年に発売されたこの小説が発端となっています。

「われはロボット」アイザック・アシモフ
宮本:「ロボット工学」という言葉を生み出した本で、ルンバの会社iRobot社はこの小説が元になっています。シリコンバレーの起業家は、SF小説にでてくるガジェットに影響を受け、それをどうやって現実にできるかという発想が、アイデアの1つになっていると思います。

3冊からわかることは、「人が想像できることは実現する」と言えることだ。

宮本:さらに言うと「ロケット工学」もSF由来なんですよ。宇宙に移動できるなんて元々は考えられていなかったけれど、ジュール・ヴェルヌが月世界に旅行するというSFを書いたことで、学者達が、じゃあそれを実現してみようと、ロケット工学がはじまった経緯があるんです。ロボットという言葉自体もカレル・チャペックが書いたSFが元になっています。SFがなかったら開発されなかった訳ではないけれど、SF的な視点に着目してみると、面白い未来が創造できるんじゃないかなと思いました。

SFプロトタイピングのワークショップがスタート

ここからは、NECの社員を交えてワークショップがスタート。まずは自己紹介として、趣味をキーワードで発表した。
宮本:「オシャピク」って何ですっけ?

八巻:おしゃれピクニックの略で、映える写真を撮るために、ドライフラワーを添えるとか、写真を撮ったときに映えるピクニックのことです。

宮本:なるほど、面白い! はじめにその人がちょっと詳しい、こだわりがあることを聞いておくと、他のものに転用できる場合があります。ワークショップを進める上で、広がりがあるかもしれないので、自己紹介として聞いてみました。

まずは「未来のテーマや言葉」を考える

続いては、「未来のテーマ・言葉」を考えて発表。

宮本:「ホログラム」を出した方、理由を説明してもらえますか?

八巻:ホログラムは、物体の3次元像を記録できる立体写真のことです。リモートワークだと、画面に映っている部分しか分からないけれど、自分の自宅をホログラム上に映すことで、一緒に働いているメンバーを周りに映して自宅にいながらオフィスで働いているような環境にすることを考えました。

宮本:なるほど。海老沢さんは何を出されました?
海老沢:わたしは「どこでもドア」を挙げました。人々にとって移動時間というのは、短縮したい、効率化したい無駄なものという認識ですけど、移動の時間を活用して、映画観る、食事をするなど好きなことができたり、ゆくゆくは移動を移動と感じさせないものになるといいなと思って。

宮本:いいですね! この「未来のテーマ・言葉」をだすフェーズでは、例えば、「どこでもドアなんて実現できないでしょ」とどこでもドアが完璧に再現できないから全否定するのではなくて、自由に色んな視点からみていくことが大切だと思います。どの場所だったら、どの部分だったら実現可能なのかとか、ドアtoドアでぱっとドア開けたら違う場所につながっている必要はなくて、じゃあものすごく移動が速くなった未来を考えてみようよとか。

サッシャ:僕は子どもを自分の親に見せるときに、フェイスタイムで自分の家と親の家を接続しているんです。会話をしていなくても、遠く離れた2つの部屋がつながっていて、日常生活がつながっているというのも1つのどこでもドアなのかなと。

宮本:うんうん。今の話もすごく示唆に富んでいて、海老沢さんの話だと「移動」に着目したどこでもドアの性質だったけれど、今のサッシャさんのお話って「外から見た」どこでもドアっていう話だったと思うんですね。どこでもドアも要素分解してくと色んな機能が複合されていて、「この部分だったら実現できるんじゃないの?」という切り口が見えてくる。

意味不明な新しい言葉をつくる

最初に発表した趣味と、未来のテーマ・言葉をかけ合わせて、新しい言葉、造語をつくるという試みに。

宮本:未来のことを自由に語っているつもりでも、従来使われている言葉や既存の思考を持ってきて語っている部分があって、誰かが考えた未来像をなぞっていたりするんですね。誰かが考えた未来に沿ったものではなくて、未来のテーマ・言葉と自分の趣味を掛け合わせてみたら新しい概念が生まれるんじゃないか、ということをやってみるのがポイントです。最初に伺った趣味と先ほどの「未来のテーマ・言葉」を適当に組み合わせてみました。
例えば、「どこでもドア」と「アクションアニメ」で【どこでもアニメ】だったり、「リモート」と「おしゃピク」を組み合わせると【リモートおしゃピク】という造語ができるわけです。ちょっと意味がわからないですよね、それでいいんです。ここでポイントなのは、意味をあまり考えずに言葉を出してみることです。【リモートおしゃピク】って何だろう……って考えてしまうと言葉が出なくなってしまうので意味の分からない造語をとにかく言ってみましょう。

海老沢:【試し買い旅行】
八巻:【ホログラム猫】
サッシャ:【ロボット動物園】
宮本:【鍼灸宇宙】
宮本:いいですね。企業で初めてこのワークショップをするときに、「ゴールが分かっていないと不安」とか「事前準備は必要ですか」と聞かれるんですが、準備はしない方がいいです。その場でヒヤヒヤする感じがとても大事です。失敗する可能性なんて考えないほうが盛り上がるし、イノベーションは何も考えないところから生まれるんです。

意味不明な造語の意味を考える

造語の意味は、考えたあとに作っていく。

宮本:例えば、【試し買い旅行】は、色々試し買いをしに行く旅というのが1つあると思うんですが、他に【試し買い旅行】ってどんなものがありますか? 例えば、60年後に【試し買い旅行】が流行ったとして、それってどんなものですか?

サッシャ:電子マネーでピッとやると、どこでもドアが開いて5分だけ例えば、カナダに行ける。その5分間のカナダ体験がよかったら、リアルで旅行するってのはどうですか。

宮本:めちゃくちゃ面白いですね。いまの面白かったポイントは、試し買いをしに行く旅ではなく、旅行の試し買いをするっていう発想ですよね。

サッシャ:そうです、そうです。今はGoogle マップとかインスタの投稿とか見て、ちょっとここ行ってみたいなと思ったら候補に入れる感じですけど、メタバースみたいなもっとリアルな空間に行くことができれば、体感して選ぶことができる。

立場を変えてものを見る 足りないものを考える

サッシャのアイデアを「いいですね」と称賛した宮本氏。ここで、「40年後を想像してみてください」と投げかけた。

宮本:こういう技術だったら、この部分は実現可能なんじゃないの?みたいなのありますか? 例えば、【試し買い旅行】で言うと。

八巻:んー。

宮本:逆に、今の技術でできない部分、ここは難しいっていう部分でもいいです。

八巻:バーチャルな環境があれば、海外のいろんな場所を360度撮影して投影することで、ある程度の疑似的な空間は再現できると思います。ただ、リアルタイムで空間をつなげるのは今の技術だと難しいかなと思います。リアルタイムで影響を受け合う、例えば、ハワイで雨が降ってきたら、こちらも雨が降ってくるみたいなのは難しいかなと。

サッシャ:空気感、匂いはまだ再現できないですよね。

海老沢:人間としての肌感覚とかが技術的に再現できてくると、五感を共有することができるのかなと思いますけど、それが何の技術かと言われると……。

宮本:なるほど、なるほど。いま技術について深掘りしていますけれど、他の切り口で、「具体的なユーザーを考える」とか、役割を決めて「ロールプレイングをする」というのもあります。例えば、良い点をフィードバックする人、悪い点を言う人、改善点を考える人に分かれてロールプレイングをしてみるという方法もあります。

宮本:ちょっとユーザーを考えてみましょうか。老若男女全員がユーザーですっていうのもいいんですが、こんな変なユーザーがいるよとか、想像上のユーザーをキャラクター化して考えていくのも面白いですね。

宮本:SFプロトタイプのいいところは、倫理的に難しいアイデアもちゃんと議論できるところ。リアルだと炎上しがちなこともフィクションとして、「こういう立場からこんなふうに考えられる」ということをキャラクターに仮託して話せることが、SFの特徴なんです。企業でSFプロトタイピングするときに、上司が出したアイデアについて部下から「それ良くないよ」とは言いづらいですよね。上司にクレームを入れるのは難しいけれど、ロールプレイングでネガティブな意見をいう役割が決まっているので立場関係なく、意見が言いやすくなる効果もあるんですね。

八巻:確かにぱっと造語をみたときに、どの観点からみればいいのか迷うけれど、良い面、悪い面、改善点を言う人というように役割が分担されていると、切り口が分かりやすいし、上司とか意見を言いにくい人にもネガティブな意見を言いやすかったり、新しいものを考えていく上で、よい点と悪い点の両面からしっかり検討できると思います。

宮本:SFプロトタイピングは、未来予測と捉えられることが多いんですけど、そうじゃなくて既成概念にとらわれず、未来像をみんなで議論する・共有するというメソッドとして魅力があるので、ぜひ色々な企業さんで取り入れていただければと思います。

(構成=反中恵理香)

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