野村訓市が村上春樹氏の取材を振り返り、人間性や魅力を語った。
野村が村上についてトークしたのは、11月7日(日)放送のJ-WAVE『TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING』。同番組のナビゲーターを野村が務めている。
野村:村上さんをマガジンハウスの取材に引っ張りだして、もう何度目でしょうか。最初は本当にメチャクチャ緊張していましたが、だいぶ慣れてきたというか勝手がわかってきたような気もします。「ちゃんとしなくちゃ」と、もちろんいろいろ考えて取材に臨むのですが、同時になるだけ決めつけずに普通にその場の雰囲気で進めたいなとも思っていました。同じ方を毎年のように取材するとなると、似たような質問はなるべくしないようにするのが礼儀ですし、とはいえ初めて村上さんの取材を目にする読者の方もいるので、あまり知っている前提で話を進めることもできない。そのあたりのバランスが難しいんですけれども。でも同じ人を定期的に取材できるというのは、なかなかない機会でして。毎回会うたびに少しずつ扉が僕のほうに開いてくると言いますか、その人の新たな一面を知れるのは、もう編集者冥利につきます。
こう語りつつも、「相手は世界の文豪。当然、緊張感はなくならないんですけれども」と話した野村。取材に同行した人々の雰囲気を見て、改めて村上氏の凄さを感じたという。
野村:今回はほかにも新人の子とか、担当編集の子とかが同行したんです。みな異常な緊張と高揚感で雰囲気が別人のようだったので、やはり村上さんは人の行動を変えてしまうほどすごい人なんだと。そして改めて自分の初回のときの緊張具合を思い出して、気合いを入れ直したりしていました。
村上は自身のラジオ番組をスタートするなど、以前よりメディア露出が増えた印象がある。このタイミングで『BRUTUS』が特集を組んだ理由とは?
野村:村上さんの母校である早稲田に「村上春樹ライブラリー」ができたことがありまして。これは本当にうらやましいなと思いました。村上さんの全作品が収蔵されている部屋があるんですが、まあちょっとビックリするほどたくさんの本が並んでいて、いかに村上さんが70年代のデビュー以来、コンスタントに本を出版してきたというのが一目瞭然なんです。短編集、長編、エッセイ、共著の作品、海外の翻訳もの。ランニングを日課にして、毎日きちんとスケジュールを立てて、確実に執筆を進めてきた成果というのがひとつの空間として目の前にあるわけです。
野村:村上さんの著作に自分の名前が載るというのはビックリというか、これまた編集者冥利に尽きます。なので世界中の出版社から村上T本の翻訳を出したいというときには僕のところにも連絡が来るようになったんです。1万円とかですけれども初の印税です。それが世界中から来るわけですよ。しかもものすごくビジネスライクなメールではなく、だいたいが、いかに村上さんを好きか、この本を出したいかという一文が添えられているわけです。これだけたくさんの国の人に読まれて、愛されている日本出身の作家というのは、ちょっといないと思います。
野村によると、海外で酒を飲んでいる際にはかなりの確率で「訓市は日本の春樹を読んだことがあるか?」といった話題になるのだとか。
野村:『ねじまき鳥クロニクル』を僕は読んだことがあるとか『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が大好きだとか。村上さんの本を実際に読んでいる人がたくさんいるのでビックリします。日本人としてちょっとうれしい瞬間で、確かに村上さんの本というのは日本でものすごく人気がある以上、たくさんアンチがいたり批判されることも多い。
野村は「間違っているかもしれませんけど、村上さんの小説をビートルズぐらいに思ったほうがいいんじゃないかと思います」とコメント。その理由をこう語った。
野村:ビートルズってポップだという人もいれば、元々あんなのカバーバンドだとか、ものすごく不快とか思う方もいますよね。全部好きだという人もいれば、好きじゃないけど1曲は好きな曲があるよ、みたいな話し方もされるじゃないですか。村上さんも一緒です。「いや嫌いだ」「短編は好きだ」「読んだことはある」と。とにかく触れた人の多さで言うと、もはやビートルズじゃないですか。たくさんの人に響くというのはそこに普通じゃないなにかがあるんだと思います。
野村:実際に話を訊いて思ったのは、なにがあっても日々をひょうひょうと生き続けること。ちょっとやそっとじゃ毎日を変えないという、その確固たる姿でした。やるべきことをやり、できる範囲で好きなことをやり、日々の日常を変えないということ。それは村上さんが大作家だからとか、お金があるからそういうことができるんだろうとか、そういうことじゃなくて、心持ちや好きなものに対してのすごし方です。走って、本を読んで、書いて、安いレコードを探しに行く。来週死ぬとしても、いまの生活を1ミリも変えずに続けそうなその姿勢。僕もそうでありたいなとすごく思いました。来週死ぬとしても、毎朝事務所に行ってやりかけの仕事をしたり、メールに返信したりして普通にすごす。それができるためにはいまを大事に楽しく生きていなければできないと思います。暗い話に心を引っ張られないで、日常を大事にしていきたい。そういうのを村上さんに習ったような気がします。
『TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING』では「動かない旅」をキーワードに、旅の話と旅の記憶からあふれだす音楽をお届け。放送は毎週日曜日の20時から。
野村が村上についてトークしたのは、11月7日(日)放送のJ-WAVE『TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING』。同番組のナビゲーターを野村が務めている。
村上春樹と対面するときの「異常な緊張と高揚感」
雑誌『BRUTUS』では2号にわたって村上春樹氏を特集し、野村は取材を担当。これまでに何度も村上氏に取材を重ねてきた野村だからこその想いを語った。野村:村上さんをマガジンハウスの取材に引っ張りだして、もう何度目でしょうか。最初は本当にメチャクチャ緊張していましたが、だいぶ慣れてきたというか勝手がわかってきたような気もします。「ちゃんとしなくちゃ」と、もちろんいろいろ考えて取材に臨むのですが、同時になるだけ決めつけずに普通にその場の雰囲気で進めたいなとも思っていました。同じ方を毎年のように取材するとなると、似たような質問はなるべくしないようにするのが礼儀ですし、とはいえ初めて村上さんの取材を目にする読者の方もいるので、あまり知っている前提で話を進めることもできない。そのあたりのバランスが難しいんですけれども。でも同じ人を定期的に取材できるというのは、なかなかない機会でして。毎回会うたびに少しずつ扉が僕のほうに開いてくると言いますか、その人の新たな一面を知れるのは、もう編集者冥利につきます。
こう語りつつも、「相手は世界の文豪。当然、緊張感はなくならないんですけれども」と話した野村。取材に同行した人々の雰囲気を見て、改めて村上氏の凄さを感じたという。
野村:今回はほかにも新人の子とか、担当編集の子とかが同行したんです。みな異常な緊張と高揚感で雰囲気が別人のようだったので、やはり村上さんは人の行動を変えてしまうほどすごい人なんだと。そして改めて自分の初回のときの緊張具合を思い出して、気合いを入れ直したりしていました。
村上は自身のラジオ番組をスタートするなど、以前よりメディア露出が増えた印象がある。このタイミングで『BRUTUS』が特集を組んだ理由とは?
野村:村上さんの母校である早稲田に「村上春樹ライブラリー」ができたことがありまして。これは本当にうらやましいなと思いました。村上さんの全作品が収蔵されている部屋があるんですが、まあちょっとビックリするほどたくさんの本が並んでいて、いかに村上さんが70年代のデビュー以来、コンスタントに本を出版してきたというのが一目瞭然なんです。短編集、長編、エッセイ、共著の作品、海外の翻訳もの。ランニングを日課にして、毎日きちんとスケジュールを立てて、確実に執筆を進めてきた成果というのがひとつの空間として目の前にあるわけです。
「もはやビートルズ」のような影響力
野村は過去に、村上氏が雑誌『POPEYE』で連載していた私物のTシャツ、通称「村上T」についてまとめたものを単行本にした『村上T 僕の愛したTシャツたち』(マガジンハウス)のインタビューページを担当。クレジットに名前が載ったことによる影響を語った。野村:村上さんの著作に自分の名前が載るというのはビックリというか、これまた編集者冥利に尽きます。なので世界中の出版社から村上T本の翻訳を出したいというときには僕のところにも連絡が来るようになったんです。1万円とかですけれども初の印税です。それが世界中から来るわけですよ。しかもものすごくビジネスライクなメールではなく、だいたいが、いかに村上さんを好きか、この本を出したいかという一文が添えられているわけです。これだけたくさんの国の人に読まれて、愛されている日本出身の作家というのは、ちょっといないと思います。
野村によると、海外で酒を飲んでいる際にはかなりの確率で「訓市は日本の春樹を読んだことがあるか?」といった話題になるのだとか。
野村:『ねじまき鳥クロニクル』を僕は読んだことがあるとか『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が大好きだとか。村上さんの本を実際に読んでいる人がたくさんいるのでビックリします。日本人としてちょっとうれしい瞬間で、確かに村上さんの本というのは日本でものすごく人気がある以上、たくさんアンチがいたり批判されることも多い。
野村は「間違っているかもしれませんけど、村上さんの小説をビートルズぐらいに思ったほうがいいんじゃないかと思います」とコメント。その理由をこう語った。
野村:ビートルズってポップだという人もいれば、元々あんなのカバーバンドだとか、ものすごく不快とか思う方もいますよね。全部好きだという人もいれば、好きじゃないけど1曲は好きな曲があるよ、みたいな話し方もされるじゃないですか。村上さんも一緒です。「いや嫌いだ」「短編は好きだ」「読んだことはある」と。とにかく触れた人の多さで言うと、もはやビートルズじゃないですか。たくさんの人に響くというのはそこに普通じゃないなにかがあるんだと思います。
村上春樹から学んだ、日常との向き合い方
『BRUTUS』で村上氏の特集を組んだ際、世の中は緊急事態宣言下だった。そんなときだからこそ野村はマニアックな質問ではなく「村上さんはこういう時代をどうやって生きているんだろう?」といったシンプルな疑問を投げかけたという。野村:実際に話を訊いて思ったのは、なにがあっても日々をひょうひょうと生き続けること。ちょっとやそっとじゃ毎日を変えないという、その確固たる姿でした。やるべきことをやり、できる範囲で好きなことをやり、日々の日常を変えないということ。それは村上さんが大作家だからとか、お金があるからそういうことができるんだろうとか、そういうことじゃなくて、心持ちや好きなものに対してのすごし方です。走って、本を読んで、書いて、安いレコードを探しに行く。来週死ぬとしても、いまの生活を1ミリも変えずに続けそうなその姿勢。僕もそうでありたいなとすごく思いました。来週死ぬとしても、毎朝事務所に行ってやりかけの仕事をしたり、メールに返信したりして普通にすごす。それができるためにはいまを大事に楽しく生きていなければできないと思います。暗い話に心を引っ張られないで、日常を大事にしていきたい。そういうのを村上さんに習ったような気がします。
『TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING』では「動かない旅」をキーワードに、旅の話と旅の記憶からあふれだす音楽をお届け。放送は毎週日曜日の20時から。
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2021年11月14日28時59分まで
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番組情報
- TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING
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毎週日曜20:00-20:54
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野村訓市