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ポピュラー音楽の革命家、フィル・スペクター。「実験的」な音作りを振り返る

ポピュラー音楽の革命家、フィル・スペクター。「実験的」な音作りを振り返る

J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。

2月4日(木)のオンエアでは、音楽ディレクターの土橋一夫とドレスコーズの志磨遼平がゲストに登場。「ポピュラー音楽の革命家フィル・スペクターとは?」をテーマにお届けした。

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「ウォール・オブ・サウンド」の生みの親

天才的なスタジオワークで多くのミュージシャンたちに影響を与えながらも、私生活では物議を醸したレコードプロデューサーのフィル・スペクター。先日、新型コロナウィルスとの闘病の末、獄中で亡くなった。81歳だった。彼が音楽業界に残した功績や秘話に迫る。

ゲストには、「FLY HIGH RECORDS/ Surf's Up Design」代表でもある音楽ディレクターの土橋一夫が登場。土橋は、音楽ディレクター/アート・ディレクター/フォトグラファー/エディター/構成作家。1990年テイチクに入社、その後、2004年からはデザイン・ユニット「Surf's Up Design」を、2011年からは音楽レーベル「FLY HIGH RECORDS」を主宰している。

まずは、テディ・ベアーズ『To Know Him Is To Love Him』をオンエアした。



あっこゴリラ:これがフィル・スペクターのデビュー曲なんですね。
土橋:そうなんです。フィル・スペクターをプロデューサーと捉えられている方って多いと思うんですが、実は最初はアーティストとしてデビューしています。
あっこゴリラ:知らなかった!
土橋:この『To Know Him Is To Love Him』は、1958年にリリースされたナンバーなんですが、これ実は彼が学生だった時に、友達とお金を出し合って自主制作した曲なんです。
あっこゴリラ:そうなんだ~! ここから始まるんですね。
土橋:はい。ここからそんなフィル・スペクターの音楽のキャリアが始まります。彼は、ニューヨークのブルックリンで生まれたんですけど、小さい頃にお父さんを自殺で亡くしています。多分これが、彼の人格形成に大きな影響を与えていると思います。その後、ロサンゼルスに引っ越して、あるギタリストを見て衝撃を受けて、ジャズギタリストを目指します。それが彼が15歳の時だったそうです。そこで音楽に目覚めて、大学に入りバンドなどを組んだりして、先ほど話したように自主制作をするに至ります。
あっこゴリラ:おお~!
土橋:しかも、この楽曲がラジオチャートでどんどん上がっていって、なんと全米1位になっちゃうんです。なので、これで彼の人生は狂ってしまったといっても過言ではない曲ですね。
あっこゴリラ:全米1位!? すごいですね。あはははは。何発も当てていらっしゃる方っていう印象はあるんですけど、もう初っ端からブチ当ててるんですね!

「分厚い音」を実現するために…実験的な取り組み

フィル・スペクターといえば、音を何度も重ね録りする「ウォール・オブ・サウンド」の生みの親といわれているが、この「ウォール・オブ・サウンド」について教えてもらった。

土橋:「ウォール・オブ・サウンド」とは、直訳すれば「音の壁」で、壁のように分厚い音という意味なんですけど、すごく大人数のミュージシャン(リズム隊から、弦、管楽器、パーカッションまで)が同じスタジオに一緒に入って、一発録りでオケを完成させるという録り方をして、その後、それにドラムスのフィルインやコーラス、ヴォーカルなどをダビングし、トラックを完成させるという方法をいいます。
あっこゴリラ:めちゃめちゃ大変ですね。それまでは同時に録るってことはなかったんですか?
土橋:数人で録ることはありましたが、ここまで大人数で録るってことはなかったですね。
あっこゴリラ:なるほど~。最初に録ったものに重ね撮りするのではなく、同時に全部一発録りするってことなんですね。
土橋:はい。その完成した音の厚さから「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれますが、今の多重録音のように何回も音を重ねるのではなく、参加したミュージシャンの人数の多さで「音数」を増やすことで、分厚い音を実現したんです。あとは、ベースにエコーかけるとか、彼はそういうことも実験的にやったりしていました。
あっこゴリラ:彼がいろんな実験をしてくれたことで、我々のいまの土台を作ってくれてたんですね。

続いて、The Crystals『Da Doo Ron Ron』をオンエアした。



あっこゴリラ:この曲は、その「ウォール・オブ・サウンド」で作られた曲なんですか?
土橋:はい。この曲は1963年に出た曲ですが、この頃からどんどん音に厚みが出てくる傾向が見られます。
あっこゴリラ:60年代当時、フィル・スペクターはすごく画期的な人だったということですよね。「ウォール・オブ・サウンド」とか、真似する人いっぱいいたんじゃないですか?
土橋:いっぱいいましたね。特にアレンジャーには影響を与えたんじゃないかと思います。それはいまだに続いてますね。

続いて、ロネッツ『Be My Baby』をオンエアした。



あっこゴリラ:この曲大好き! 最高ですね。やっぱりいろんな人が真似するくらい、時代の音を作っちゃったってことですよね。
土橋:そうだと思います。特に、ビートルズのジョージ・ハリスンとジョン・レノン、あとビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソン。彼は、当時フィル・スペクターのレコーディングも見学しに行ったりもしています。
あっこゴリラ:へえ~!
土橋:ローリング・ストーンズもけっこう影響を受けていて、フィル・スペクターのセッションのアレンジャー、ジャック・ニッチェは、のちに彼らのレコーディングに参加しています。また彼らのマネージャーだったアンドリュー・ルーグ・オールダムも、フィル・スペクターを真似したサウンドをのちに作ったりしています。
あっこゴリラ:すごいな~。
土橋:あとは、ブルース・スプリングスティーンとか。彼は本当にフィル・スペクターが好きで、『Born To Run(明日なき暴走)』は、自分で「ウォール・オブ・サウンド」を再現したいと思って作った曲なんです。
あっこゴリラ:もう時代のスターたちみんな影響受けているっていう。
土橋:一回はみんなフィル・スペクターを通ってるんじゃないかなと思いますね。
あっこゴリラ:日本はどうですか?
土橋:一番有名なのは、やはり大瀧詠一さんですね。『A LONG VACATION』を聴いて大瀧さんのルーツを辿ると、やっぱりフィル・スペクターのサウンドって避けて通れないんですよ。
あっこゴリラ:もう80年代にまで影響を及ぼしちゃってるってことですもんね。
土橋:そうですね。この他にも、例えばロネッツの『Be My Baby』のイントロを模したものや、エコー感を深めにしたもの、カスタネットの連打をいれたものなど、アレンジの世界でも多くの編曲家たちに影響を与えています。

やろうと思ってもできない「替えのきかない」音楽

ここからは、プロデューサーとしてのフィル・スペクターのすごさについて教えてもらった。

土橋:彼が理想とする音作りを徹底して極めてるっていう点が一番すごいところですね。例えば、あるレコーディングでは60テイクも録るなんていうこともあったとか。理想を追い求める録り方をずっとしていた人だと思います。
あっこゴリラ:すごいですね。
土橋:あとは、自分ならではのレコーディング方法を確立した点です。さらに才能のあるシンガーやアーティストを見つけてきて、再デビューさせたり、新たな側面をシーンに示してきたり、そういうこともやっています。
あっこゴリラ:なるほど~。アーティストの別の部分を引き出してくれるなんて、最高のプロデューサーですよね。具体的に、彼の手腕で輝いたアーティストは?
土橋:一番有名なのは、先ほどの『Be My Baby』のロネッツです。ロネッツは、1961〜62年に別のレーベルからシングル5枚出していますが、ヒットはせずほとんど話題になりませんでした。その後、フィル・スペクターにスカウトされます。そして、彼のプロデュースで『Be My Baby』をリリースし、全米2位を記録します。
あっこゴリラ:おお~。フィル・スペクターの手によって再生させるみたいな感じですね。他にはいますか?
土橋:映画『ゴースト』でも有名なライチャス・ブラザースもそうですね。ムーングロウ・レーベルからフィル・スペクターが引っ張ってきて、『You've Lost That Lovin' Feeling』をリリースし、全米1位を獲得します。
あっこゴリラ:すごい! 『ゴースト』の曲もフィル・スペクターなんですよね。
土橋:実は、1965年にリリースした『Unchained Melody』は元々B面曲で、プロデュースはフィルではなく、メンバーのビル・メドレーによるものだったんです。しかしA面の『Hung On You』が47位だったのに対して、B面が4位と大ヒットしてしまい、そこで追加プレス分からは『Unchained Melody』の方にもフィルの名前をプロデューサーとしてクレジットしちゃったんです。
あっこゴリラ:え~! 最悪じゃないですか。そこプロデュースしてないですよね。あはははは。
土橋:そうなんですよ。そこまで自分の手柄にしてしまうという、このあたりにもフィルの傲慢さが見え隠れしますよね。自分のアイデンティティーを外に出すことに関して強く思ってる部分があったんだと思います。
あっこゴリラ:なるほど~。
土橋:あとは、アイク&ティナ・ターナーですね。彼らも1966年にフィル・スペクターのフィレス・レコードから『River Deep, Mountain High』をリリースします。シングルとしては莫大な制作費をつぎ込みますが、もう時代が違ってしまっていたんでしょうね。全米では88位までしか上がらず、大失敗します。お金をつぎ込んで、最高のものを作ったんですが売れず、これが決定打となり、フィレス・レコードは終焉を迎えることになります。

番組では、アイク&ティナ・ターナー『River Deep, Mountain High』をオンエアした。



ここからは、70年代以降のフィル・スペクターについて教えてもらった。

土橋:フィル・スペクターは、70年代に入るとビートルズと仕事をするようになります。
あっこゴリラ:ここでくるのか~。
土橋:はい。ビートルズの本当に最後の時期ですね。特にジョージ・ハリスンとジョン・レノンは、フィル・スペクターのすごいファンで、その頃どん底の状態だったフィルに手を差し伸べたのが、この二人だったんです。その当時、バンド・メンバーの意思疎通が上手くいかず、空中分解状態だったビートルズから、作りかけたアルバムの素材『ゲットバック・セッション』をまとめて欲しいとフィル・スペクターに白羽の矢が立ちます。
あっこゴリラ:おお~!
土橋:それがフィル・スペクターのプロデュースでまとめ上げられた、彼らの最後のアルバム『レット・イット・ビー』だったんです。
あっこゴリラ:そういうことか~。じゃあ、これらが当たったことで、フィル・スペクターは再び第一線へと返り咲くんですね。

番組では、ジョージ・ハリスン『My Sweet Lord』をオンエアした。

最後に、土橋が思う「フィル・スペクターの最大の魅力」を訊いてみた。

土橋:彼が作った音楽って、オリジナリティの塊みたいなものですし、他の人がやろうと思ってもなかなかやれない「替えのきかない」音楽だと思います。やっぱり1つのトラックに込められた熱量の多さ、熱さに惹かれますね。さらに、尋常では考えられないほどのミュージシャンの苦労、異常なまでの音へのこだわり、卓越したミュージシャンによるアナログな作業を経て作られた音は、簡単にデジタル・レコーディングできる現代の音楽とは対極にあるものだと思います。だからこそ、簡単に再現することが出来ない、そういうものに興味をそそられます。

志磨遼平が思う“フィル・スペクターのすごさ”

ここからは、アーティストの目線から彼の魅力を紐解いていく。ゲストには、ドレスコーズの志磨遼平が登場。

あっこゴリラ:志磨さんがフィル・スペクターを知ったのはいつ頃ですか?
志摩:名前を知ったのは中学生の頃ですかね。ビートルズがすごい好きで、その流れで名前を知りました。それでフィル・スペクターの手掛けた曲をよく聴くようになって、コンピレーションアルバムとか聴いたりして、“この曲も、この曲もそうなんだ~”っていろんな曲を聴いてましたね。
あっこゴリラ:番組前半で「ウォール・オブ・サウンド」の話が出ましたが、志磨さん自身もチャレンジしたことはありますか?
志摩:擬似的にではありますが、何回もやってます。今のレコーディング技術だともう何回でも重ねられるので、多重録音で別録りで重ねていくって感じで。でも、本当のフィル・スペクターのやり方もいつかやってみたいですね。
あっこゴリラ:やってほしい! 志摩さんの周りのミュージシャンはどうですか?
志摩:直接的ではなくとも、やってる人はいると思いますね。「ウォール・オブ・サウンド」そのものをやってる人はいないですね。
あっこゴリラ:今後もなかなか出てこないですよね。相当なお金と時間がないとできないですよね。
志摩:贅沢なことですよね。
あっこゴリラ:志磨さんが思う“フィル・スペクターのすごさ”ってどんなところですか?
志摩:何も気にせず、自分の欲望だけを何時間も追求できる肝っ玉の強さがちょっと異常ですよね。でも、その常軌を逸したこだわりの末に異空間のような音像を生み出し、そこからヒットレコードを量産したところはやっぱりすごいですよね。

番組では、The Crystals『He's A Rebel』をオンエアした。

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番組情報
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