救済のパンチライン! 僧侶と牧師が紹介する、仏教やキリスト教を感じたHIP HOP

J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。

2月3日(水)のオンエアでは、曹洞宗僧侶の西田稔光(にしだしんこう)さん、そして日本キリスト教団、阿倍野(あべの)教会牧師、山下壮起さんがゲストに登場。「救済のパンチライン!」をテーマにお届けした。

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仏教的視点から日本語ヒップホップを紹介

いま、私たちに必要な救いの言葉は何なのか──今回番組では、HIP HOPの歌詞の一節から仏教、そして、キリスト教の考え方を特集。前半は日本語ラップと仏教、後半はアメリカのHIP HOPとキリスト教について紹介した。

前半のゲストは、「HIP HOP×仏教」のYouTubeチャンネルも開設する、HIP HOPカルチャーを愛する曹洞宗の僧侶、西田稔光さん。西田さんは現在、曹洞宗総合研究センターに所属している。

あっこゴリラ:早速ですが、西田さんとHIP HOPカルチャーの出会いは何だったんですか?
西田:小学校から高校までずっと柔道をやってて、中学生の時に部活を引退したタイミングである映画をきっかけにダンスに出会い、ブレイクダンスから入りました。ブレイクダンサーのISOPPさんという方がいるんですが、グラフィティ、DJ、曲を出したりとかしていて、いろんな才能を持った人が関われるカルチャーなんだな、おもしろいなっていろいろかじるようになっていきました。
あっこゴリラ:現在は、SNSやブログ、YouTubeなどで仏教的視点から日本語ヒップホップを紹介していますが、曹洞宗の偉い人から何か言われりしなかったんですか?
西田:まだ目についてないだけないだけかもしれませんけど(笑)、軸を仏教に置いていて、HIP HOPの言葉を引用して、仏教にこんな教えがありますってやり方を段階を踏んで発信していったので、怒られたという経験はないですね。
あっこゴリラ:ラップを、商業的なものではなくて、ひたすら自分と向き合ってリリックを書き続ける作業って、みんなどんどんお坊さんにみたいになっていくんですよね。
西田:本当にそう思います。
あっこゴリラ:周りのラッパーとか本当にお坊さんみたいなんですよ。だから今回の企画を聞いて、親和性あるんじゃないかなって勝手に思ってました。

まずは、RHYMESTER『POP LIFE』をオンエアした。



西田:自分とHIP HOPの関連性を感じた、最初のきっかけとなったような曲です。
あっこゴリラ:この曲、すごくいい曲ですよね。どういった部分に関連性を感じたんですか?
西田:この曲を初めて聴いたのは大学生のころです。仏教をそこまでちゃんと学べていなかった中で、「こちらから見りゃ最低な人だがあんなんでも誰かの大切な人」という歌詞に感動しました。その後、仏教を勉強していく中で、お経の中に出てくる「一水四見」という言葉を知ったんです。「物事は視点が変われば見え方が変わる」という仏教の言葉ですが、先ほどの歌詞との関連性を感じました。座右の銘にしたいくらいですね。
あっこゴリラ:特に今の時代にぴったりな言葉ですよね。
西田:本当にそう思います。こういう歌詞が自然と出てくるところに、HIP HOPと仏教って道は違うけど、同じところを見つめてる部分があるんじゃないかと思い、今の活動の原点になりました。

続いては、PUSHIM×韻シスト『Dear -PUSHIM×韻シストver』をオンエアした。



西田:人との別れについて、1バース目で見送る側、2バース目で見送られる側の視点から歌詞が書かれている曲で、すごく素晴らしいです。
あっこゴリラ:この曲のどの部分に仏教との親和性を感じたんですか?
西田:1バース目の見送る側の「あなたとは夢の中だけで逢えるのさ」という歌詞と、2バース目の見送られる側の「たとえ夢の中だけでしか会えなくてもあなたのそばでいつも僕は笑いかける」という歌詞が、実は2月15日はお釈迦様の命日なんですけど、それとすごくリンクしているんです。
あっこゴリラ:どういうことですか?
西田:お釈迦様は亡くなる時、別れを悲しむ弟子に対して、「私の肉体ではなく、教えを拠り所にしなさい」と説かれました。それがこの歌詞の2つのバースで、一目でも会いたいという見送る側、夢の中だけじゃなくて私の想いは常にそばにいるよという見送られる側の関係に表れているんじゃないかなと思います。

縁とは「きっかけ」、良縁も悪縁も自分の行動次第

続いて紹介したのは、JOKEMIC『一夫多才(feat. HEJIRUMAJIRU)』。



西田:ラッパーのJOKEMICはお坊さんでもあります。今度は、仏教をバックボーンに持った方のラップを聴いていただきたいです。
あっこゴリラ:おお~! おもしろい。西田さんが思う仏教との親和性はどの部分ですか?
西田:JOKEMICはヒップホップユニットで、Yokoiさんは農家、Daijunさんは現役の曹洞宗の僧侶です。そして、客演のHEJIRUMAJIRUも岩手でアパレルとバー経営をするラッパーの二人で、全員が家庭を持っています。
あっこゴリラ:へえ~!
西田:Daijunで言うと、お寺でやっている幼稚園の事務/ラッパー/僧侶/父親という4つの顔を使い分けているという現状があります。1バース目に「止まらない老いは進化」と出てくるんですが、仏教での「老」は敬われるべき対象という言葉になります。老いていくことというのは、決して何かを失うということではなくて、熟練していくことなんだというところが、仏教をバックボーンとした彼だからこそ書けるリリックだと思います。やってることはラップだけど、仏教の精神性を持ってきている、そういう昇華の仕方、ミックスの仕方が素晴らしいなと思います。

続いての楽曲は、DJ Hiroking『Get Over You(feat. Anna Toribuchi & Rap Maruyama)』。



あっこゴリラ:これはどんな曲なんですか?
西田:私はこの曲が出来るまでの過程にすごくグッときています。この曲は国内外のダンスイベントを中心に活躍するDJ Hirokingさんが、コロナ禍に際して17LIVEに挑戦したことで生まれた曲になります。手探りで始めた17LIVEでしたが、偶然見かけたシンガー「鳥淵杏奈」とコメントでやりとりをしたところから、曲の制作が始まり、知人のラッパー、「ラップ丸山」がラップを乗せて完成しました。
あっこゴリラ:そうなんですね!
西田:仏教では「縁」という言葉をすごく大事にしますが、縁とは「きっかけ」という意味があって、縁を良いものにするか悪いものにするか我々の行動次第で決まります。仏教は、どんな縁も良縁にしていくためには、どうやって生きていけばいいかってことを考えていく宗教なんです。コロナによって多くの日常を失った社会ですが、現在ある状況を嘆くのではなく、「何ができるか」と動くのは仏教の縁の受け止め方と通じると思います。

ギャングスタラップは、一番コンシャスなラップ

後半のゲストには、日本キリスト教団、阿倍野(あべの)教会牧師、山下壮起さんが登場。

山下さんは、2001年、アトランタにあるキング牧師の母校「モアハウス・カレッジ」に入学し、アフリカン・アメリカン研究を専攻。2007年、同志社大学大学院神学研究科に入学。2017年に提出した博士論文をもとにした著書『ヒップホップ・レザレクション』で、HIP HOPとキリスト教の関係性を深掘りしている。

あっこゴリラ:山下さんとHIP HOPカルチャーの出会いは何だったんですか?
山下:中学の頃から聴くようになって、“めちゃかっこいいな~”と思って、その一方で僕の親父も牧師をしてるので、小さい頃からキング牧師のことなどを聞いてたこともあり、HIP HOPと黒人の歴史に興味を持って勉強したいと思って「モアハウス・カレッジ」に入学しました。

まず、山下さんがセレクトした曲は、Nas『N.Y. State of Mind』。



山下:定番中の定番、Nasの『N.Y. State of Mind』です。
あっこゴリラ:この楽曲の歌詞のどの部分にグッときたんですか?
山下:まず、「I never sleep cuz sleep is cousin of death」(俺は絶対に眠らない。なぜなら、眠りは死のいとこだから)というところにグッときました。そして、続きで「Beyond the wall of intelligence life is defined」(人間の知性を越えたところで、命の意味が明らかにされる)とラップしています。
あっこゴリラ:これ、すごいこと言ってますよね。
山下:そうですよね。僕はギャングスタラップって、一番コンシャスなラップだなって思ってて、貧困だったり、差別だったり、兄弟や友達が殺される不条理を取り上げて来たと思うんです。それだけじゃなくて、政治とか社会問題以上に命の問題がある、そこにギャングスタラップの視点っていうのがあるし、救済というメッセージがその視点から生み出されているのかなと思います。その現実から目をそらさないというメッセージが、「I never sleep」っていう言葉に込められているんだと思います。

続いては、Freeway『What We Do』をオンエアした。



あっこゴリラ:この曲の歌詞のどの部分に救済のパンチラインを感じたんでしょうか?
山下:「Make a million off a record, bail my niggas outta prison/fuck a Bentley or Lexus, just my boys in the squadder」(音楽で金儲けして、刑務所にいる仲間を保釈させる。ベントレーもレクサスもいらねえ、仲間がいればそれで充分)と歌っていますが、解放された世界への思い、不当な刑務所システムへの異議申し立て、そのためなら、自分のしていること(=what we do)が間違っていてもいいんだという、「徹底した正直」による語りをラップしてるんですよね。その背景には、貧困や社会の構造、なんでこんな状況に黒人が置かれているのかっていうところが見えてきます。こうやって繰り返し語ることで、隠れている部分が見えてくるってことなのかなって思います。

続いてオンエアしたのはStyles P『Never fight an African』。



あっこゴリラ:どんな曲なんですか?
山下:簡単に言うと「政治なんてくそくらえ」って言ってるんですよね。例えば、オバマの時にブラック・ライヴズ・マターが誕生したってところにもつながってくると思うし、選挙でバイデンになったけれども、黒人はもうずっと政治に裏切られてきた、歴史を通じてやられ続けてきた、そういうところがHIP HOPの中につながっている想いなのかなと思います。政治を信頼していない、政治とは別のチャンネルで、キリスト教的な言い方をするなら、「神の国を実現していく」ということですね。これまでのことを忘れない、殺されたやつのことを思い続ける、名前を言い続ける、そこに黒人の歴史を貫くアナムネーシスがあるんだと思います。そして、そこがキリスト教で言う復活とつながるんじゃないかなと僕は考えています。
番組情報
SONAR MUSIC
月・火・水・木曜
21:00-24:00

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