ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文が、佐野元春とトークを展開。コロナ禍における活動の変化やSNS時代の言葉の役割、ライブの持つ力について語った。
後藤と佐野がトークを展開したのは、9月13日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。後藤は同番組の第2週目のマンスリーナビゲーター。佐野をリモート出演でゲストに招いた。
後藤:世の中で巻き起こっていることはよいことではないけど、ミュージシャンとしては時間が取れたというのが正直なところでした。
佐野:そうかもしれない。僕らはレコードを作り、ツアーに出て、人と話をすることがひとつのルーティンになってずっと続いていた。でも、そのルーティンを外側から壊してもらったような感じがする。
後藤:まさに僕もそう思いました。
佐野:その隙間にアーティストとして何をすべきか、とか大げさな話になると、どうやって生きていこうか、とか柄にもなく真面目なことを考えていますね。
佐野元春&ザ・コヨーテ・バンドはコロナ禍に突入してすぐの4月、新曲『エンタテイメント!』をリリース。
後藤:うちのバンドのギタリストもこの曲をプレイリストに入れたりして、グッときましたね。
佐野:ありがとう。こうした事態になる前に書いていた曲なんだけど、僕らソングライターってその時代のちょっと先に出かけていって、そこで見えた風景をスケッチしてまた元に戻ってくるような、そういったことをやっているような気がするんです。そんななかから『エンタテイメント!』はできた一曲ですね。
後藤:この曲を聴いて「やっぱり音楽をやらなきゃ」って。歌詞にはビターなことも盛り込まれているんだけど、ミュージシャンとして創作している人間のひとりとして、すごく背中を押されるような気持ちになりました。
佐野:それはよかった。
後藤:自分はわりとのんびりアルバムを制作しているつもりなんです。僕らのまわりのミュージシャンとかは食べるためとかもあるかもしれないけれど、たとえば年に一枚アルバムを作って、夏フェスに出かけ、それ以外のときはツアーをやり、それが終わるとまたアルバムを制作する。そのスケジュールに似たようなことを北半球のミュージシャンがしていたと思うんです。佐野さんがお話するように、それに本当に気づいたというか、資本主義的に楽曲を作るために音楽をやっていたんじゃなくて、自分たちの生活を回すために音楽をやっていたとか、アルバムを出すために働かされているような、逆になっていることの答え合わせになった気がします。
後藤:佐野さんの曲を聴くと少し安心するというか、「こういう言葉が歌われているんだったら、まだやっていけるし、僕もそうやって言葉を探さなきゃいけないな」って思うんです。
佐野:落ちぶれそうになった言葉はビートとメロディーと僕らの歌でよみがえらせる。それが表現に結びついたらなおさらいいなって感じかな。
後藤:そう思いますよね。たとえば、カート・ヴォネガットが、日々の手紙や鼻歌も全て芸術で、みんなの心がよみがえるよ、そういうことに携われば人生が少しだけよくなる、と本で言っていて。僕は町場の人たちにもそうやって少しずつ言葉を取り戻してほしいと思います。
佐野:そうだね。僕たちはソングライティングをしているので、いかに言葉が大事か。聴いてくれている人たちにも言葉や表現を磨くことは伝えていきたいと思うんです。僕らはコミュニケーションをするにあたって、インターネットのなかにしても現実にしても、言葉でコミュニケーションをしていく。これはとっても大事なこと。些細な言葉が争いを生んだり、何気ない言葉が愛を生んだり、そんなことを僕たちはよく知っている。なおさらのこと、言葉は大事。
佐野はソングライターだけではなく、一般に生きている人であっても「言葉をいかに磨いていくか」が大事な課題だと語る。
佐野:時代時代によって同じ言葉でもカッコよく響いたり、「あれ?」って響いたりとかする。時代が持っている雰囲気に飲み込まれながらサバイバルしたり、それこそダメになったりした言葉がいくつかあるんだけど、僕たち詩を書く人間は、その言葉本来が持っているポテンシャルや意味から離れてはいけないと思うんです。時代がどんな雰囲気を持っていたとしても。そして、ソングライターの一人ひとりが自分のやり方でそれを磨いていく。
後藤:なるほど。
佐野:何か「これ」といったメソッドはない。言葉はその人個人の生き方にも還元してくるので、非常に個人的なマナーのなかで育まれるものだと思う。だから、個々で探究していくことがカッコいいかなと。そのときはカッコ悪いかなと判断した言葉でも、10年経って世の中が変わると、たちまち新たな意味を放射して輝きはじめることを、僕は何回か経験している。それは僕がやったことではなく、その時代に生きている人々がそこに新しい価値を見出してくれていた。だから僕では何ともできなくて、みんなが見出してくれるものって感じかな。
後藤:佐野さんは時代時代の音があって、「最近のやつが一番カッコいいってどういうこと?」と思いながらアルバムを聴いています。アニバーサリーが重なる今年にコロナが登場したのは大きいな出来事ですね。
佐野:肩すかしをくらったような感じです。ライブできない現在をどう感じている?
後藤:この期間に何度が無観客ライブをやったんですけど、これじゃない感はありますね。ライブで音楽を最初に鳴らすのは佐野さんや僕たちだと思うけど、一音目が鳴った後は(観客と)どっちが先かもわからなくなるというか。みんなで作り上げていくというか。始まりと終わりで、その場に漂っている空気が違うくらいみんなの呼気とか僕らが鳴らした振動が混ざり合って返ってくるんですよね。
佐野:わかります。
後藤:昔のアルバムでも、一周まわって「今これみんな好きなの?」みたいなものがあったりする。今はそういうことをダイレクトに味わえないことが切ないですね。
佐野:オーディエンスもそう感じていると思う。「自分たちが心から楽しめるイベント、他者と高揚する一体感を共感する経験は他にどこで得られるんですか?」「この大事な僕たちの経験を他のどこで得たらいいの?」って僕は問いたい。
佐野は新型コロナウィルス感染拡大の影響で困窮するミュージシャンやコンサート制作スタッフなど、音楽制作者支援の基金として役立てるプロジェクト「SAVE IT FOR A SUNNY DAY」を立ち上げた。
後藤:素晴らしいプロジェクトですね。僕らにとっても、今も現場で苦しんでいるライブハウスの人たちとか、音楽制作でみんな同じ悩みをもっている人たちの勇気になります。そもそも僕は佐野さんの楽曲自体に励まされたんです。当たり前のようにソングライターが曲を書き、思い込めて音楽を作り、それを発信することによって「エネルギーを得ている」ということを、当たり前のように実感しました。震災のときはものすごく大きな喪失感があって、そう思うまでに時間がかかったけど、現在進行形でモヤのような現状のなか、光が射すように曲が流れて、「そうか。俺はスタジオで曲を作ればいいんだ」って気持ちになれたし、それはこの場を借りて感謝したいです。
佐野:それは光栄だね。
後藤:これくらいはっきり言葉にしなくても、そう思っている人は僕以外にもいると思います。言語以前に受け取ったエールというか、そういう感じを受けました。コロナ禍で佐野さんが新曲を発表された時のことをすごく覚えているんです。
佐野:そうだったんだね。
最後に後藤は「佐野さんの顔を見れただけで、自分のなかの生命力があがったとわかった」と、かけがえのない時間を過ごせたとコメントした。
番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。
・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/episodes/from-the-next-era-2020-09-13/
『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
後藤と佐野がトークを展開したのは、9月13日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。後藤は同番組の第2週目のマンスリーナビゲーター。佐野をリモート出演でゲストに招いた。
コロナ禍がミュージシャンのルーティンを外側から壊した
後藤は佐野を「大先輩であり憧れの存在」として紹介。まずは、コロナ禍における活動変化についての話題になった。後藤:世の中で巻き起こっていることはよいことではないけど、ミュージシャンとしては時間が取れたというのが正直なところでした。
佐野:そうかもしれない。僕らはレコードを作り、ツアーに出て、人と話をすることがひとつのルーティンになってずっと続いていた。でも、そのルーティンを外側から壊してもらったような感じがする。
後藤:まさに僕もそう思いました。
佐野:その隙間にアーティストとして何をすべきか、とか大げさな話になると、どうやって生きていこうか、とか柄にもなく真面目なことを考えていますね。
佐野元春&ザ・コヨーテ・バンドはコロナ禍に突入してすぐの4月、新曲『エンタテイメント!』をリリース。
佐野:ありがとう。こうした事態になる前に書いていた曲なんだけど、僕らソングライターってその時代のちょっと先に出かけていって、そこで見えた風景をスケッチしてまた元に戻ってくるような、そういったことをやっているような気がするんです。そんななかから『エンタテイメント!』はできた一曲ですね。
後藤:この曲を聴いて「やっぱり音楽をやらなきゃ」って。歌詞にはビターなことも盛り込まれているんだけど、ミュージシャンとして創作している人間のひとりとして、すごく背中を押されるような気持ちになりました。
佐野:それはよかった。
後藤:自分はわりとのんびりアルバムを制作しているつもりなんです。僕らのまわりのミュージシャンとかは食べるためとかもあるかもしれないけれど、たとえば年に一枚アルバムを作って、夏フェスに出かけ、それ以外のときはツアーをやり、それが終わるとまたアルバムを制作する。そのスケジュールに似たようなことを北半球のミュージシャンがしていたと思うんです。佐野さんがお話するように、それに本当に気づいたというか、資本主義的に楽曲を作るために音楽をやっていたんじゃなくて、自分たちの生活を回すために音楽をやっていたとか、アルバムを出すために働かされているような、逆になっていることの答え合わせになった気がします。
落ちぶれそうになった言葉は、「ビートとメロディーと僕らの歌でよみがえらせる」
話題は「言葉」に。後藤は、SNSの台頭により「言葉が落ちぶれているように感じる」と話を切り出した。後藤:佐野さんの曲を聴くと少し安心するというか、「こういう言葉が歌われているんだったら、まだやっていけるし、僕もそうやって言葉を探さなきゃいけないな」って思うんです。
佐野:落ちぶれそうになった言葉はビートとメロディーと僕らの歌でよみがえらせる。それが表現に結びついたらなおさらいいなって感じかな。
後藤:そう思いますよね。たとえば、カート・ヴォネガットが、日々の手紙や鼻歌も全て芸術で、みんなの心がよみがえるよ、そういうことに携われば人生が少しだけよくなる、と本で言っていて。僕は町場の人たちにもそうやって少しずつ言葉を取り戻してほしいと思います。
佐野:そうだね。僕たちはソングライティングをしているので、いかに言葉が大事か。聴いてくれている人たちにも言葉や表現を磨くことは伝えていきたいと思うんです。僕らはコミュニケーションをするにあたって、インターネットのなかにしても現実にしても、言葉でコミュニケーションをしていく。これはとっても大事なこと。些細な言葉が争いを生んだり、何気ない言葉が愛を生んだり、そんなことを僕たちはよく知っている。なおさらのこと、言葉は大事。
佐野はソングライターだけではなく、一般に生きている人であっても「言葉をいかに磨いていくか」が大事な課題だと語る。
佐野:時代時代によって同じ言葉でもカッコよく響いたり、「あれ?」って響いたりとかする。時代が持っている雰囲気に飲み込まれながらサバイバルしたり、それこそダメになったりした言葉がいくつかあるんだけど、僕たち詩を書く人間は、その言葉本来が持っているポテンシャルや意味から離れてはいけないと思うんです。時代がどんな雰囲気を持っていたとしても。そして、ソングライターの一人ひとりが自分のやり方でそれを磨いていく。
後藤:なるほど。
佐野:何か「これ」といったメソッドはない。言葉はその人個人の生き方にも還元してくるので、非常に個人的なマナーのなかで育まれるものだと思う。だから、個々で探究していくことがカッコいいかなと。そのときはカッコ悪いかなと判断した言葉でも、10年経って世の中が変わると、たちまち新たな意味を放射して輝きはじめることを、僕は何回か経験している。それは僕がやったことではなく、その時代に生きている人々がそこに新しい価値を見出してくれていた。だから僕では何ともできなくて、みんなが見出してくれるものって感じかな。
ライブという大事な経験を他のどこで得たらいいのか?
デビュー40周年を迎えている佐野。10月7日(水)にベストアルバム『MOTOHARU SANO GREATEST SONGS COLLECTION 1980-2004』と、佐野元春&ザ・コヨーテ・バンドとして初のベストアルバム『THE ESSENTIAL TRACKS MOTOHARU SANO & THE COYOTE BAND 2005 – 2020』をそれぞれリリースする。後藤:佐野さんは時代時代の音があって、「最近のやつが一番カッコいいってどういうこと?」と思いながらアルバムを聴いています。アニバーサリーが重なる今年にコロナが登場したのは大きいな出来事ですね。
佐野:肩すかしをくらったような感じです。ライブできない現在をどう感じている?
後藤:この期間に何度が無観客ライブをやったんですけど、これじゃない感はありますね。ライブで音楽を最初に鳴らすのは佐野さんや僕たちだと思うけど、一音目が鳴った後は(観客と)どっちが先かもわからなくなるというか。みんなで作り上げていくというか。始まりと終わりで、その場に漂っている空気が違うくらいみんなの呼気とか僕らが鳴らした振動が混ざり合って返ってくるんですよね。
佐野:わかります。
後藤:昔のアルバムでも、一周まわって「今これみんな好きなの?」みたいなものがあったりする。今はそういうことをダイレクトに味わえないことが切ないですね。
佐野:オーディエンスもそう感じていると思う。「自分たちが心から楽しめるイベント、他者と高揚する一体感を共感する経験は他にどこで得られるんですか?」「この大事な僕たちの経験を他のどこで得たらいいの?」って僕は問いたい。
佐野は新型コロナウィルス感染拡大の影響で困窮するミュージシャンやコンサート制作スタッフなど、音楽制作者支援の基金として役立てるプロジェクト「SAVE IT FOR A SUNNY DAY」を立ち上げた。
後藤:素晴らしいプロジェクトですね。僕らにとっても、今も現場で苦しんでいるライブハウスの人たちとか、音楽制作でみんな同じ悩みをもっている人たちの勇気になります。そもそも僕は佐野さんの楽曲自体に励まされたんです。当たり前のようにソングライターが曲を書き、思い込めて音楽を作り、それを発信することによって「エネルギーを得ている」ということを、当たり前のように実感しました。震災のときはものすごく大きな喪失感があって、そう思うまでに時間がかかったけど、現在進行形でモヤのような現状のなか、光が射すように曲が流れて、「そうか。俺はスタジオで曲を作ればいいんだ」って気持ちになれたし、それはこの場を借りて感謝したいです。
佐野:それは光栄だね。
後藤:これくらいはっきり言葉にしなくても、そう思っている人は僕以外にもいると思います。言語以前に受け取ったエールというか、そういう感じを受けました。コロナ禍で佐野さんが新曲を発表された時のことをすごく覚えているんです。
佐野:そうだったんだね。
最後に後藤は「佐野さんの顔を見れただけで、自分のなかの生命力があがったとわかった」と、かけがえのない時間を過ごせたとコメントした。
番組は、J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」でも聴くことができる。
・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/episodes/from-the-next-era-2020-09-13/
『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。
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2020年9月20日28時59分まで
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番組情報
- INNOVATION WORLD ERA
-
毎週日曜23:00-23:54