J-WAVEで放送中の番組『INNOVATION WORLD』(ナビゲーター:川田十夢)のワンコーナー「ROAD TO INNOVATION」。7月31日(金)のオンエアでは、前回に引き続き長渕 剛が登場。「心」や「生と死」について、『STAY DREAM』の制作秘話、歌い続ける原動力について語った。
【前回】長渕 剛、プログラミングを学んで…意外な高校生活を明かす
川田:全時代を通じて長渕 剛が変わらず歌ってきたことは何か。いつの時代も、“ごく個人的な心”を長渕さんが重要視しているように感じます。悲しさのあまり涙することがあっても、「明日」や「夢」や「愛」を忘れずに、いつだって弱者の視点から風をしっかり見定めて、今を歌い続けている。そう分析しました。
これを聞いた長渕は、ある記憶を語り始める。
長渕:昔、内容は覚えていないんだけど僕がこっぴどく悪いことをしたんだろうね、(今は)亡くなった母親に、「剛、ここに座れ!」と、お祈りする場所の前で正座させられて。「剛、あなたの心はどこにあるの?」って言われたの。それで、胸のあたりを触りながら「母ちゃん、心は……どっかこのへん」と話すと、母親が「このへんじゃわからないから、心を表すために言葉と行動があるんだよ」って言われたの。それでバコーンって殴られたの(笑)。
川田:やっぱり殴られちゃうんですね(笑)。
長渕:仏壇の前で思いっきり殴られたよ(笑)。それがずっと記憶の片隅に残っていたんだろうね。心というものは言葉と行動だと。うまくわかったからといって、そういうふうには動けなかったんだけど、おそらく作風の中にその影響がいまだに生き続けているのかな。
川田:全時代において、心というものはそうですし、心が宿っていないと痛みもわからないですからね。
長渕:そうなのよね。
川田:殴られちゃうのは不意打ちだったかもしれませんけどね(笑)。
長渕:あの頃は父も母もよく手が出ましたね。痛みがないと僕らはわからないところがあってね。
川田:このエピソードに長渕 剛ってあるかもしれないですよね。仏壇って生と死じゃないですか。
長渕:そうなんだよ。全てそこだよ。
川田:歌詞には「死」という言葉が何度か出てきますよね。
長渕:「死」という言葉はたくさん使ったかも。母親の郷里は鹿児島県・指宿(いぶすき)なんですけど、昔そこでおじいちゃんが亡くなったのよ。その時はまだ土葬だったんだよね。みんなで体を拭いて、白装束に着替えさせて土葬のお寺まで地域のみんながえっちらおっちら担いで行くわけだ。白装束でおじいちゃんを葬って、穴の中に埋めて土をひとつずつかけていく。死というものへの尊厳とか敬意が非常に豊かにあって、でも子どもの頃はそれが怖かったのよ。
川田:怖いでしょうね。
長渕:死んだ人とオバケが一体化してて怖かったんだけど、鮮烈にその記憶があって、僕の地域や少年時代は常に死というものが身近にあったんですよ。それは葬るという儀式もあったし。今は全てが見えないじゃない。それが本当にいいのか悪いのかとよく考える。そういった意味で言うと、僕の中にある死というものは身近にあって、いつかは自分の死が訪れるとか、死ぬ気で生きなきゃいけないとか、そういうものは自然と僕の心の中に、言葉から肉体に入っているところがあったかもしれない。
川田:僕はあらゆる表現は死と生が隣り合ってないといけないと思っていて。長渕さんの歌にはそれがある。しかも、「夢」みたいなものもちゃんと忘れずに、優しさも忘れずにいつもあると思います。
【radikoで聴く】長渕 剛『STAY DREAM』弾き語り(再生は2020年8月8日28時59分まで)
熱唱する長渕を目の前にした川田は「すごい!」と感動しきり。
長渕:(川田)十夢くんはなぜ『STAY DREAM』が好きなの?
川田:この曲が収録されているアルバムをリアルタイムで聴いていて。僕らの世代って、幼い頃はウルトラマンとか仮面ライダーとかを好きになるんですけど、人間でヒーロー的な存在に触れるのって長渕さんだと思うんですよ。そんな長渕さんが歌う『STAY DREAM』は特別なアルバムに入っている特別な歌というか。あとは僕の名前にもある「夢」が入っていますし。
長渕は『STAY DREAM』が生まれたきっかけを明かす。
長渕:この歌を書いた時って、初めて都会の洗礼を受けたり、青年期において人生の挫折感を味わったりしたときだったのね。それでいったん歌をやめたいくらいの気持ちがあって。それはバンド間のいさかいであったり、母親の衰弱であったり、金銭のもつれであったりとか、初めてそういう経験をして、病に伏したんです。それから鹿児島にいったん帰って、桜島の前に座ってね。「俺、やめるかもしれないから写真撮ってくれ」ってカメラマンに言ったりして。
その後、長渕は東京に戻り、歌を書こうとしたという。
長渕:バンドもやめてひとりでやってみようかなと思ってね。ピアノの前に立ってGのコードをバーンと弾いて「死んじまいたい!」って。本当に死にたかったけど、その後に「ほどの」って言葉が出てきちゃって、そこからダーッと詞を紡いでね。大げさに聞こえるかもしれないけど、この歌で生きられたと。それで初めてセンターステージで、ギター1本でやったんだよね。そういう思い出が深くあります。それ以来、ずっと自分自身の人生の応援歌でもあり、みんなにも愛されてきた歌なのかなって感じはしますね。まず、自分が立ち上がりたかったね。
長渕:僕も深く沈むこともあるし、その時代その時代の額縁に自分を照らし合わせてみると「冗談じゃねえよ」って思うことばっかりなんだよね。いろんな人がいろんな分野で「生きる」をトライしている感じがするけど、僕の場合は歌しかないから、とりあえず詩を書き散らしてギターでわめき散らして、それを精査して、同じように感じる仲間たちを探していく手法でしか生きられないのかな。だから、簡単に言うと生きたいっていうのかな。生きたいからいつも歌を書くって感じがありますね。
コロナ禍において、今後のライブなどの見通しが立たない状況だ。
川田:僕はAR(拡張現実)の分野が得意なので、もしかしたら長渕さんの役に立てることがあるかもしれないと思っています。
長渕:僕はとにかく祭りが好きで、みんなと一緒に汗かいて歌うという方式でしょ。そういった時に無観客ライブって言われても、なかなか難しいよね。そういったものがバーチャルの世界で感情と一緒にわき上がっていくということも期待したいよね。
川田:それは思いますね。長渕さんのライブは共鳴・共振なので、ただ配信するというよりは、それを持ち込めるものじゃないといけないなと思います。やっぱりみんなの声が、存在が確認できるものじゃないと。
長渕:共鳴・共振っていい言葉だよね。本当にそう。
川田:まさに今日、スタジオライブで共鳴・共振しましたからね。
長渕は今回の番組を振り返り、少し安心したことがあったという。
長渕:AIだ、なんだって、本当にコンピューターに打ち込んでいる人と僕は肌が合わないですよ。ある種の憧れはあったんだけど。でも、十夢くんにお会いして、根底にあるものがめちゃくちゃ人間的で。この人は通りすがりの天才だけど、でも父がいて母がいて、お互い九州出身で、共鳴・共振っていう同じ気持ちを感じたときに、「この人がコンピューターをいじるんだったら間違いないだろう」って、そういう安心感を得ましたよ。
川田:ありがとうございます。
長渕:これから一緒に何かやりたいね。
川田:今の問題って世界共通なので、それを解決したいですよね。
長渕:したいね。あとで電話番号を教えて。何か考えようよ。
川田は長渕との時間を振り返り「格別の夢のような体験だった」と感慨深い思いを口にした。
各界のイノベーターやクリエイターを迎えて仕事へのこだわりや、描く未来について語り合う「ROAD TO INNOVATION」は毎週金曜日の20時25分ごろからオンエア。
【前回】長渕 剛、プログラミングを学んで…意外な高校生活を明かす
言葉と行動は、心を表すためにある
長渕の存在に大きな影響を受けてきたという川田は、「長渕がどのような存在なのか」を、命をかけて分析したと切り出す。川田:全時代を通じて長渕 剛が変わらず歌ってきたことは何か。いつの時代も、“ごく個人的な心”を長渕さんが重要視しているように感じます。悲しさのあまり涙することがあっても、「明日」や「夢」や「愛」を忘れずに、いつだって弱者の視点から風をしっかり見定めて、今を歌い続けている。そう分析しました。
これを聞いた長渕は、ある記憶を語り始める。
長渕:昔、内容は覚えていないんだけど僕がこっぴどく悪いことをしたんだろうね、(今は)亡くなった母親に、「剛、ここに座れ!」と、お祈りする場所の前で正座させられて。「剛、あなたの心はどこにあるの?」って言われたの。それで、胸のあたりを触りながら「母ちゃん、心は……どっかこのへん」と話すと、母親が「このへんじゃわからないから、心を表すために言葉と行動があるんだよ」って言われたの。それでバコーンって殴られたの(笑)。
川田:やっぱり殴られちゃうんですね(笑)。
長渕:仏壇の前で思いっきり殴られたよ(笑)。それがずっと記憶の片隅に残っていたんだろうね。心というものは言葉と行動だと。うまくわかったからといって、そういうふうには動けなかったんだけど、おそらく作風の中にその影響がいまだに生き続けているのかな。
川田:全時代において、心というものはそうですし、心が宿っていないと痛みもわからないですからね。
長渕:そうなのよね。
川田:殴られちゃうのは不意打ちだったかもしれませんけどね(笑)。
長渕:あの頃は父も母もよく手が出ましたね。痛みがないと僕らはわからないところがあってね。
川田:このエピソードに長渕 剛ってあるかもしれないですよね。仏壇って生と死じゃないですか。
長渕:そうなんだよ。全てそこだよ。
長渕が死を身近に感じる「土葬」の記憶
長渕は6月に、長渕 剛 feat.AI『しゃくなげ色の空』を配信リリースした。川田は、「また新しい長渕さんだと感じました」と話す。川田:歌詞には「死」という言葉が何度か出てきますよね。
長渕:「死」という言葉はたくさん使ったかも。母親の郷里は鹿児島県・指宿(いぶすき)なんですけど、昔そこでおじいちゃんが亡くなったのよ。その時はまだ土葬だったんだよね。みんなで体を拭いて、白装束に着替えさせて土葬のお寺まで地域のみんながえっちらおっちら担いで行くわけだ。白装束でおじいちゃんを葬って、穴の中に埋めて土をひとつずつかけていく。死というものへの尊厳とか敬意が非常に豊かにあって、でも子どもの頃はそれが怖かったのよ。
川田:怖いでしょうね。
長渕:死んだ人とオバケが一体化してて怖かったんだけど、鮮烈にその記憶があって、僕の地域や少年時代は常に死というものが身近にあったんですよ。それは葬るという儀式もあったし。今は全てが見えないじゃない。それが本当にいいのか悪いのかとよく考える。そういった意味で言うと、僕の中にある死というものは身近にあって、いつかは自分の死が訪れるとか、死ぬ気で生きなきゃいけないとか、そういうものは自然と僕の心の中に、言葉から肉体に入っているところがあったかもしれない。
川田:僕はあらゆる表現は死と生が隣り合ってないといけないと思っていて。長渕さんの歌にはそれがある。しかも、「夢」みたいなものもちゃんと忘れずに、優しさも忘れずにいつもあると思います。
「死んじまいたい!」 苦悩を救った歌
番組では、川田のリクエストに応えて、長渕が『STAY DREAM』の弾き語りを披露した。【radikoで聴く】長渕 剛『STAY DREAM』弾き語り(再生は2020年8月8日28時59分まで)
熱唱する長渕を目の前にした川田は「すごい!」と感動しきり。
長渕:(川田)十夢くんはなぜ『STAY DREAM』が好きなの?
川田:この曲が収録されているアルバムをリアルタイムで聴いていて。僕らの世代って、幼い頃はウルトラマンとか仮面ライダーとかを好きになるんですけど、人間でヒーロー的な存在に触れるのって長渕さんだと思うんですよ。そんな長渕さんが歌う『STAY DREAM』は特別なアルバムに入っている特別な歌というか。あとは僕の名前にもある「夢」が入っていますし。
長渕は『STAY DREAM』が生まれたきっかけを明かす。
長渕:この歌を書いた時って、初めて都会の洗礼を受けたり、青年期において人生の挫折感を味わったりしたときだったのね。それでいったん歌をやめたいくらいの気持ちがあって。それはバンド間のいさかいであったり、母親の衰弱であったり、金銭のもつれであったりとか、初めてそういう経験をして、病に伏したんです。それから鹿児島にいったん帰って、桜島の前に座ってね。「俺、やめるかもしれないから写真撮ってくれ」ってカメラマンに言ったりして。
その後、長渕は東京に戻り、歌を書こうとしたという。
長渕:バンドもやめてひとりでやってみようかなと思ってね。ピアノの前に立ってGのコードをバーンと弾いて「死んじまいたい!」って。本当に死にたかったけど、その後に「ほどの」って言葉が出てきちゃって、そこからダーッと詞を紡いでね。大げさに聞こえるかもしれないけど、この歌で生きられたと。それで初めてセンターステージで、ギター1本でやったんだよね。そういう思い出が深くあります。それ以来、ずっと自分自身の人生の応援歌でもあり、みんなにも愛されてきた歌なのかなって感じはしますね。まず、自分が立ち上がりたかったね。
生きたいから、歌を書いている
長渕が歌を歌い続ける原動力は「何がなんでも生きることだ」と語る。長渕:僕も深く沈むこともあるし、その時代その時代の額縁に自分を照らし合わせてみると「冗談じゃねえよ」って思うことばっかりなんだよね。いろんな人がいろんな分野で「生きる」をトライしている感じがするけど、僕の場合は歌しかないから、とりあえず詩を書き散らしてギターでわめき散らして、それを精査して、同じように感じる仲間たちを探していく手法でしか生きられないのかな。だから、簡単に言うと生きたいっていうのかな。生きたいからいつも歌を書くって感じがありますね。
コロナ禍において、今後のライブなどの見通しが立たない状況だ。
川田:僕はAR(拡張現実)の分野が得意なので、もしかしたら長渕さんの役に立てることがあるかもしれないと思っています。
長渕:僕はとにかく祭りが好きで、みんなと一緒に汗かいて歌うという方式でしょ。そういった時に無観客ライブって言われても、なかなか難しいよね。そういったものがバーチャルの世界で感情と一緒にわき上がっていくということも期待したいよね。
川田:それは思いますね。長渕さんのライブは共鳴・共振なので、ただ配信するというよりは、それを持ち込めるものじゃないといけないなと思います。やっぱりみんなの声が、存在が確認できるものじゃないと。
長渕:共鳴・共振っていい言葉だよね。本当にそう。
川田:まさに今日、スタジオライブで共鳴・共振しましたからね。
長渕は今回の番組を振り返り、少し安心したことがあったという。
長渕:AIだ、なんだって、本当にコンピューターに打ち込んでいる人と僕は肌が合わないですよ。ある種の憧れはあったんだけど。でも、十夢くんにお会いして、根底にあるものがめちゃくちゃ人間的で。この人は通りすがりの天才だけど、でも父がいて母がいて、お互い九州出身で、共鳴・共振っていう同じ気持ちを感じたときに、「この人がコンピューターをいじるんだったら間違いないだろう」って、そういう安心感を得ましたよ。
川田:ありがとうございます。
長渕:これから一緒に何かやりたいね。
川田:今の問題って世界共通なので、それを解決したいですよね。
長渕:したいね。あとで電話番号を教えて。何か考えようよ。
川田は長渕との時間を振り返り「格別の夢のような体験だった」と感慨深い思いを口にした。
各界のイノベーターやクリエイターを迎えて仕事へのこだわりや、描く未来について語り合う「ROAD TO INNOVATION」は毎週金曜日の20時25分ごろからオンエア。
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2020年8月8日28時59分まで
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番組情報
- 『J-WAVE INNOVATION WORLD』
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毎週金曜20:00-22:00
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川田十夢