書店は本を売るだけじゃない。「熱い思いに触れ、興味が引き出される場所」という役割

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言によって、書店も大きな打撃を受けた。本を購入するだけなら、インターネット通販でも代用可能だ。しかし店舗を持つ書店には、それ以外の役割があるはずだ。

東京の人気の書店である、⻘山ブックセンター本店店長の⼭下 優さんと、森岡書店店主の森岡督行さんに、コロナ禍で店がどういう状態になったか、改めて書店にどんな役割を感じたかを訊いた。

ふたりは、7月2日(木)オンエアのJ-WAVEの番組『TAKRAM RADIO』に登場。同番組は、東京とロンドンを拠点に、人工衛星から和菓子まで幅広くものづくりに取り組むデザインファームTakramの渡邉康太郎が、未来を切り開くインスピレーションを伝える番組だ。今回は、「東京から考える、書店ビジネスの今」をテーマにお届けした。




■休業で「人との出会い」も失われていく

森岡書店は2006年に茅場町にオープンした後、2015年に銀座へ移転した。中心街から少し離れた住宅街に位置しているものの、やはり銀座ということで新型コロナ流行前は外国人観光客がとても多かったそうだ。

森岡:ほぼ毎日、中国、台湾、韓国、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなど世界中のお客さんが来てくれて、言葉を交わしつつ本を買ってもらっていました。(本が)日本語だから(彼らが)読めないときも私が絵を描いたりして。それがいいコミュニケーションとなって彼らがSNSで発信してくれて、またお客さんが来るという流れがあったんですけれども、コロナになってからはもちろんそれがまったくなくなりました。
渡邉:なるほど。5月中はすべて休業されていたんでしたっけ?
森岡:そうですね。4月の初めから5月の第4週くらいまで完全休業。5月の最終週だけ1人1時間の予約制で営業を行いました。

コロナ禍では、次々と出版社から展覧会のキャンセルの連絡が入ったそうだ。コロナが流行する兆しが見えた最初期は「すぐに終わるだろう」と思っていたものの、徐々に森岡書店のように東京の中心地で営業している書店が一番影響を受けることがわかってきたという。

渡邉:リアルな体験や人との出会いが軸になっていたのに、そのきっかけを失ってしまいますもんね。
森岡:それが書店のポイントだと思っています。ここ数年ずっと、AmazonやSNSにはない価値をいろいろな書店と標榜してやってきたのに、コロナでそれが違うとなった。でもそんな状況でも売上は立てていかなければいかず、難しいかじ取りや判断になってきました。今後もオンラインでも本は売っていきます。ただ、徐々にあらゆるものがオンラインに切り替わり、さまざまなメディアが登場している現状におもしろさを感じつつも、たくさんありすぎるという気持ちもあります。僕は何が最適な形なのか、今まさに考えているところですね。

森岡書店は、1週間に1冊だけの本を展示販売するというコンセプトの書店。展示販売会も7月第1週から再開し、森岡さんは「その中で何か見えてくるものがあるのではないかと思っています」と今後の展望を見据えた。

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■大きなお店では、どんな影響があったか?

一方、青山ブックセンターではコロナ禍において売上が減少したものの、4月は前年比7割、5月は前年比9割となった。コロナとは関係なく準備していたオンラインストアが4月にオープンし、5月の売上がカバーできたのだという。また、店舗面積が広いために3密を避けられるとして、5月の途中からは土日も開けて営業を開始していたのも理由のひとつだ。

山下:お客さんは少なかったんですけれども、客単価はとても高かったです。もともとそういうお店だったんですけど、やっぱり外出にリスクがある中でもわざわざ本屋に来たいというお客さんがより増えた印象でしたね。逆に6月はまた落ちていて前年比7割。特に平日の落ち込みがすごく大きいです。表参道と渋谷の間にあるので、平日はお仕事以外の人は全くいないですね。


■オンラインで本と出会ってもらう取り組み



青山ブックセンターのオンラインストアでは「本屋の歩き方」と題し、YouTubeと連動して番組内で紹介した本をオンラインストアで売るという新しい形の売り方も始めた。1冊がシークレットになったセット販売なども実施し、本との偶然の出会いを提供している。また、通常の店舗イベントのオンライン配信も行っている。

渡邉:青山ブックセンターのように、いろいろな書店が外部のプラットフォームを使いながら、身軽に自分たちなりの選書でショップを開いたり特別な付録をつけていったりするムーブメントが起こったらおもしろいだろうな、と思いました。
山下:ずっと書店やっていても何が正解かはわからないので、とりあえずやってみて常に改善していくのはずっと意識していますね。ずっと動き続けることが大事だと思っていて、今年の2月にロゴも新しく変えて3月に出版も始めました。そうやってなんとか動き続けたからこそ今が前年比7割くらいで済んでいるのかなとも思います。


■書店は本のおもしろさを高める場所

森岡書店の新しい取り組みについては、同じくオンラインストアの開設やインスタライブで自身が出版した本の宣伝などを行っていた。

森岡:青山ブックセンターと森岡書店は、書店としての規模が全然違います。私一人ですし家賃なども考えると、休業して給付金と協力金をもらったほうが運営しやすい面がありました。そういう状況だったので思い切って休業できたとは思っていますね。また、青山もそうですが銀座も街として相当な打撃を受けているので、和装のお店やおせんべい屋さんなど銀座の古くからあるお店と協力して、玉手箱を作ってそれぞれのお店から物を持ち寄って販売しました。自分のことだけでなく、街の人と一緒に考えていかなければいけないという機運はすごく高まっていると思います。

銀座には江戸時代や明治時代から創業しているお店も多い。森岡さんはこのコロナ禍で、関東大震災や空襲も通り抜けた彼らの知見を聞く重要性も感じているという。また森岡書店だからこその役割としては、「そのときどきのおもしろさや興味、夢が集まった形である本をさらによりよくすること」だと語った。


■ネット通販もある今、書店が担うべきこと

山下さんは中規模の青山ブックセンターならではの役割を語る。

山下:これくらいの規模の書店がどんどん減っていく中で、本と偶然の出会いができる場所としての役割はずっと果たしていきたいです。買う本が決まっていればオンラインで買うのが楽なんですが、それだけで本当にいいのかと思います。先日もネットをしていてあるサイトをクリックしたら違うサイトでも同じ広告がバンバン出てきて、逆に嫌いになりそうでした。ネットによって広がりももちろんありますが、狭められている感覚もすごくあるので、書店が出会いを広げるきっかけになる場所として最適だと思っています。それはどうにかこの場所が存在し続けることで届けられる。青山ブックセンターは会社が大きい分、休業補償もないので営業していた面もありますが、そのタイミングでAmazonさんが本の在庫を持たなくなりました。よくリアルな書店の敵として見なされがちなAmazonさんですが、それでも「Amazonさんに頼り切っていたな」と。もちろん同じ土俵では戦えませんが、改めて本を届けるという原点やこだわりを書店が担っていかないといけないと今回感じました。



山下さんは書店の意味について「普段、無意識に感じていたことを意識化できる場所。書店に並ぶいろいろな人が関わって熱い思いから生まれた本に触れたとき、自分の興味を確認できる」と語った。

ウィズコロナ時代では人との接触や家賃の問題など実店舗を持つことはリスクともなりえるが、オンラインでは決して得られない出会いや価値がある限り、書店の役割や書店に関わる人たちの思いは消えないだろう。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月9日28時59分まで)
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【番組情報】
番組名:『TAKRAM RADIO』
放送日時:木曜 26時30分-27時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/takram/

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