J-WAVEの番組『TAKRAM RADIO』(ナビゲーター:渡邉康太郎)。東京とロンドンを拠点に、人工衛星から和菓子まで幅広くものづくりに取り組むデザインファームTakramの渡邉康太郎が、未来を切り開くインスピレーションを伝える番組だ。
6月11日(木)のオンエアでは、フランス・パリ在住の著述家で翻訳者、関口涼子さんを迎え、「フランスの出版・書店はコロナをどう乗り越えるか」をテーマにトークを展開した。
■コロナ禍でフランスの出版業界に訪れた変化
フランスは新型コロナウイルス感染症の影響で、かなり厳しい外出制限や営業停止措置が取られた。人々が外出する際は外出証明書が必要になり、外出の機会が極端に減ったという。
関口:(出版業界で)最初に打撃を受けたのは雑誌です。定期刊行物は外で買うことが多いことから、この影響から休刊に追いやられるのではないか、という雑誌も出てきています。同時に、オンライン配信をする雑誌や新聞は部数を伸ばしました。特に、社会や政治に対してすごく内容の濃い記事を出している独立系の新聞は購読者がものすごく増えました。
その反面、ファッションや写真が多い刊行物はどうしても紙での購読が中心になるため苦戦を強いられた。他にもキオスクに流通する会社が倒産してしまったことで、今までキオスクから雑誌社に支払うべき金額が払えなくなり、多くの雑誌を宣伝するスポンサーが撤退、雑誌社は次号を刊行できなくなるという危機に立たされた。
渡邉は「出版業界で苦境を強いられているなか、このタイミングだからこそ成立する新しい刊行物や特集も多く生まれている」と紹介する。
渡邉:たとえば電子ブックのLARB(Los Angeles Review of Books)という、ロサンゼルスの批評本を扱う出版社が刊行した電子書籍『The Quarantine Files: Thinkers in Self-Isolation』があります。これは哲学者や小説家たちが自己隔離している間に重ねた施策をまとめています。この一冊もパオロ・ジョルダーノの『コロナの時代の僕ら』と同じくらい早いタイミングで出版されました。
■外出制限が解けて書店の売り上げが上昇
関口さんは、外出自粛期間のフランスの書店について、「2カ月間は書店が閉まり、5月11日から再開しました。その再開にみなさんがうれしい悲鳴をあげ、書店にお客さんがすごく増えた」と状況を伝える。
関口:この状況を機にオンライン購読が増えるだけではなく、紙の本への欲求がずっと変わらずにありました。最近読んだ新聞の記事では、フランスではクリスマスの時期に本を贈る習慣があるので12月は本屋の売り上げが伸びるのですけど、それに近いくらい売り上げが伸びていると。私の知り合いの書店員も5月は普段の月の4割り増しだったと話していました。パリではまだ独立系の書店が多くて、そこに住む人たちは近くにある市場やマルシェを守ろうという動きと同じように、身近にある書店やそこの書店員を守る動きがあります。たとえば私が行くいくつかの書店では、自分がどんな本を読むのかを知っているので、書店員から「こんな本もあるよ」と勧めてくれます。そういった書店のあり方をすごく大事にしています。
パリでは2カ月間の外出制限の間はあえて電子書籍を買わずに、よく行く書店に注文をし続けていた人も多かったという。
関口:書店が再開された暁には、注文していた本を直接買いに行く。書店と購読者たちの絆が深くなったような気がします。
■作家・出版社・書店が立ち上がり、Amazonに訴えかけた
渡邉はフランスの外出自粛におけるECサイト・Amazonの位置付けについて関口さんに訊いた。
関口:Amazonは便利ではあるけれど、出版界から見ると困る。それは、Amazonで本を買う人が増えれば独立系の書店はなくなってしまうからです。今回のように、外出制限のときは普段よく行っていた書店には行けなくなり、書店も「本は日常生活に必要ない」と判断されて、閉めざるを得なくなってしまった。さらに郵便局の機能も制限されたので、独自の媒体を持つ出版社ではないと、なかなか各家庭に流通するのが難しい。その状況でみんながAmazonに頼っていくわけです。
外出制限が始まった1、2週間はAmazonのひとり勝ちだったが、作家や出版社、書店が立ち上がり、共同で政府にその状況を訴えかけ「Amazonは外出制限中に生活必需品以外の販売は行わない」という判決が下ったという。
関口:Amazonがトイレットペーパーを売るのはいいけど、本は売れませんよ、となった。それはすごいことですよね。出版社としては外出制限中に本が売れなくなるよりはAmazonで本が売れた方がいいですよね。でも、そこで泣いてもその後で書店が生き残ることを選んだことが、ひとつ大きなことだと思います。
渡邉:なるほど。生活必需品以外は販売しないということは一見、生活者の立場からするとすごくさみしいじゃないですか。本も必需品でしょ、と思う人もいるはずです。そこを誰かに決められてしまいモヤッとする気持ちはあるけど、長期的な文化としての出版を守ることを国や出版社が決めたということですかね。
関口:そうですね。この件でフランスの出版文化にすごく信頼が置けたというか、ここはちゃんと土台があるんだなと思った瞬間でした。外出自粛が解除になってからは、仕事もはじまり本を読まなくなってもおかしくはないはずなのに、みんなが外出自粛中は書店で本を買う準備をしていたことがすごいなと思います。
フランスで暮らす人々や国が、自国の文化を大切にする様子が垣間見られる放送となった。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年6月18日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『TAKRAM RADIO』
放送日時:毎週木曜 26時30分-27時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/takram/
6月11日(木)のオンエアでは、フランス・パリ在住の著述家で翻訳者、関口涼子さんを迎え、「フランスの出版・書店はコロナをどう乗り越えるか」をテーマにトークを展開した。
■コロナ禍でフランスの出版業界に訪れた変化
フランスは新型コロナウイルス感染症の影響で、かなり厳しい外出制限や営業停止措置が取られた。人々が外出する際は外出証明書が必要になり、外出の機会が極端に減ったという。
関口:(出版業界で)最初に打撃を受けたのは雑誌です。定期刊行物は外で買うことが多いことから、この影響から休刊に追いやられるのではないか、という雑誌も出てきています。同時に、オンライン配信をする雑誌や新聞は部数を伸ばしました。特に、社会や政治に対してすごく内容の濃い記事を出している独立系の新聞は購読者がものすごく増えました。
その反面、ファッションや写真が多い刊行物はどうしても紙での購読が中心になるため苦戦を強いられた。他にもキオスクに流通する会社が倒産してしまったことで、今までキオスクから雑誌社に支払うべき金額が払えなくなり、多くの雑誌を宣伝するスポンサーが撤退、雑誌社は次号を刊行できなくなるという危機に立たされた。
渡邉は「出版業界で苦境を強いられているなか、このタイミングだからこそ成立する新しい刊行物や特集も多く生まれている」と紹介する。
渡邉:たとえば電子ブックのLARB(Los Angeles Review of Books)という、ロサンゼルスの批評本を扱う出版社が刊行した電子書籍『The Quarantine Files: Thinkers in Self-Isolation』があります。これは哲学者や小説家たちが自己隔離している間に重ねた施策をまとめています。この一冊もパオロ・ジョルダーノの『コロナの時代の僕ら』と同じくらい早いタイミングで出版されました。
■外出制限が解けて書店の売り上げが上昇
関口さんは、外出自粛期間のフランスの書店について、「2カ月間は書店が閉まり、5月11日から再開しました。その再開にみなさんがうれしい悲鳴をあげ、書店にお客さんがすごく増えた」と状況を伝える。
関口:この状況を機にオンライン購読が増えるだけではなく、紙の本への欲求がずっと変わらずにありました。最近読んだ新聞の記事では、フランスではクリスマスの時期に本を贈る習慣があるので12月は本屋の売り上げが伸びるのですけど、それに近いくらい売り上げが伸びていると。私の知り合いの書店員も5月は普段の月の4割り増しだったと話していました。パリではまだ独立系の書店が多くて、そこに住む人たちは近くにある市場やマルシェを守ろうという動きと同じように、身近にある書店やそこの書店員を守る動きがあります。たとえば私が行くいくつかの書店では、自分がどんな本を読むのかを知っているので、書店員から「こんな本もあるよ」と勧めてくれます。そういった書店のあり方をすごく大事にしています。
パリでは2カ月間の外出制限の間はあえて電子書籍を買わずに、よく行く書店に注文をし続けていた人も多かったという。
関口:書店が再開された暁には、注文していた本を直接買いに行く。書店と購読者たちの絆が深くなったような気がします。
■作家・出版社・書店が立ち上がり、Amazonに訴えかけた
渡邉はフランスの外出自粛におけるECサイト・Amazonの位置付けについて関口さんに訊いた。
関口:Amazonは便利ではあるけれど、出版界から見ると困る。それは、Amazonで本を買う人が増えれば独立系の書店はなくなってしまうからです。今回のように、外出制限のときは普段よく行っていた書店には行けなくなり、書店も「本は日常生活に必要ない」と判断されて、閉めざるを得なくなってしまった。さらに郵便局の機能も制限されたので、独自の媒体を持つ出版社ではないと、なかなか各家庭に流通するのが難しい。その状況でみんながAmazonに頼っていくわけです。
外出制限が始まった1、2週間はAmazonのひとり勝ちだったが、作家や出版社、書店が立ち上がり、共同で政府にその状況を訴えかけ「Amazonは外出制限中に生活必需品以外の販売は行わない」という判決が下ったという。
関口:Amazonがトイレットペーパーを売るのはいいけど、本は売れませんよ、となった。それはすごいことですよね。出版社としては外出制限中に本が売れなくなるよりはAmazonで本が売れた方がいいですよね。でも、そこで泣いてもその後で書店が生き残ることを選んだことが、ひとつ大きなことだと思います。
渡邉:なるほど。生活必需品以外は販売しないということは一見、生活者の立場からするとすごくさみしいじゃないですか。本も必需品でしょ、と思う人もいるはずです。そこを誰かに決められてしまいモヤッとする気持ちはあるけど、長期的な文化としての出版を守ることを国や出版社が決めたということですかね。
関口:そうですね。この件でフランスの出版文化にすごく信頼が置けたというか、ここはちゃんと土台があるんだなと思った瞬間でした。外出自粛が解除になってからは、仕事もはじまり本を読まなくなってもおかしくはないはずなのに、みんなが外出自粛中は書店で本を買う準備をしていたことがすごいなと思います。
フランスで暮らす人々や国が、自国の文化を大切にする様子が垣間見られる放送となった。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年6月18日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『TAKRAM RADIO』
放送日時:毎週木曜 26時30分-27時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/takram/