作家・沢木耕太郎の『沢木耕太郎セッションズ<訊いて、聴く>』シリーズ。現在、『達人、かく語りき』『青春の言葉たち』『陶酔と覚醒』の3冊が刊行され、4冊目となる『星をつなぐために』は6月11日(木)に発売予定だ。
J-WAVEでは同シリーズと連動し、特別番組『J-WAVE SPECIAL SESSIONS〜沢木耕太郎、人を語る。』を4月29日(水・祝)にオンエア。沢木がこれまでにインタビューやドキュメント取材を行った、高倉 健、美空ひばり、井上陽水、武田鉄矢、草刈民代、檀 一雄、檀ヨソ子、モハメド・アリ、山野井泰史・妙子、尾崎 豊といった著名人のエピソードが語られた。
ここでは、井上陽水とのエピソードを紹介しよう。
【関連記事】
・高倉 健、絶食して撮影に挑む
・美空ひばりが母についた「優しい嘘」とは
・尾崎 豊は、ただ「ヤンチャ」をしていたのではない。
■井上陽水の独特な美意識
人との出会いにおいて、対談の場だけではなく酒場も大きな意味を持つと、沢木は語る。酒場では、草刈民代や井上陽水、タモリといった面々と一緒にお酒を酌み交わしていた。なかでも、井上陽水との思い出は多い。沢木の代表作『深夜特急』のドラマ化に際し、沢木はスタッフから「ドラマ主題歌を井上さんに頼めないか」と言われ、井上に依頼する。
沢木:井上さんが「沢木さんが詩を書いてくれたら曲をつけるよ」と言うので作詞をやってみたんだけど、本当に難しくてすごく平凡なことしか書けない。結局、井上さんが詩も書いてくれて『積み荷のない船』が完成しました。僕は旅や異国の風景のイメージから離れられなかったけれども、『積み荷のない船』はポエティックなイメージが悲劇性を持って聴こえてくる。井上陽水という人の才能に改めて驚かされました。
また、とある銀座のバーに行った際に、井上が珍しく当時20歳の長男・准介(じゅんすけ)を連れていたことを振り返る。沢木は「20歳になった息子のお祝いに銀座に連れて来たのか」と井上に“父親像”を見た。
沢木:そのお店を出て、准介くんの誘いでカラオケに行くことになりました。お店にポツンとひとりで残っていた男性も一緒に行きたそうだったので4人で(笑)。そこは今のカラオケボックスではなく、昔風の広いスナックみたいにそれぞれが飲んでいて、順番にグループごとにカラオケを歌うスタイルのお店でした。そのときは3組くらいの学生らしき人たちがいたんだけど、井上さんは普段サングラスをしていないので誰からも気付かれませんでした。そして最初に僕が歌うことになり、当人の目の前で『リバーサイドホテル』を歌ったんです(笑)。でも出だしが難しいので、陽水が手伝ってくれて、結局ふたりで歌いました。その後の順番では、陽水が息子と一緒に『ありがとう』を歌い、その次の順番で陽水が曲選びに迷っていたので、僕が勧めたザ・タイガース『花の首飾り』を歌いました。それが本当に素晴らしい歌で、歌い終わったあとに陽水も興奮していました。しばらくして井上さんのカバーアルバムのなかに『花の首飾り』が入っていましたね。
沢木はその後、とあるテレビ番組でこの日の出来事について語った。そのことがさらに井上陽水について深く知るきっかけとなっていく。
沢木:それからだいぶ経って、僕の仕事場近くで偶然に准介くんと会って立ち話をしていたら、このテレビ番組の話になりました。准介くんから「あれは僕が20歳になったお祝いで銀座に連れて行ったのではなく、たまたま銀座に連れて行ったところで沢木さんと出会っただけだと父が訂正していましたよ」と言うんです。そういう父親像が井上さんの美意識に合わなかったんだろうね。その微妙な差を息子に大袈裟に言うわけではなく「あれはちょっと違うな」と漏らした、という。
沢木も驚いた、井上の独特な美意識。そういう感性を持つ人でないと「『積み荷のない船』の詩は書けないんだよね、たぶん」と締めくくった。
【番組情報】
番組名:『J-WAVE SPECIAL SESSIONS〜沢木耕太郎、人を語る。』
放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/holiday/20200429_sp/
J-WAVEでは同シリーズと連動し、特別番組『J-WAVE SPECIAL SESSIONS〜沢木耕太郎、人を語る。』を4月29日(水・祝)にオンエア。沢木がこれまでにインタビューやドキュメント取材を行った、高倉 健、美空ひばり、井上陽水、武田鉄矢、草刈民代、檀 一雄、檀ヨソ子、モハメド・アリ、山野井泰史・妙子、尾崎 豊といった著名人のエピソードが語られた。
ここでは、井上陽水とのエピソードを紹介しよう。
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■井上陽水の独特な美意識
人との出会いにおいて、対談の場だけではなく酒場も大きな意味を持つと、沢木は語る。酒場では、草刈民代や井上陽水、タモリといった面々と一緒にお酒を酌み交わしていた。なかでも、井上陽水との思い出は多い。沢木の代表作『深夜特急』のドラマ化に際し、沢木はスタッフから「ドラマ主題歌を井上さんに頼めないか」と言われ、井上に依頼する。
沢木:井上さんが「沢木さんが詩を書いてくれたら曲をつけるよ」と言うので作詞をやってみたんだけど、本当に難しくてすごく平凡なことしか書けない。結局、井上さんが詩も書いてくれて『積み荷のない船』が完成しました。僕は旅や異国の風景のイメージから離れられなかったけれども、『積み荷のない船』はポエティックなイメージが悲劇性を持って聴こえてくる。井上陽水という人の才能に改めて驚かされました。
また、とある銀座のバーに行った際に、井上が珍しく当時20歳の長男・准介(じゅんすけ)を連れていたことを振り返る。沢木は「20歳になった息子のお祝いに銀座に連れて来たのか」と井上に“父親像”を見た。
沢木:そのお店を出て、准介くんの誘いでカラオケに行くことになりました。お店にポツンとひとりで残っていた男性も一緒に行きたそうだったので4人で(笑)。そこは今のカラオケボックスではなく、昔風の広いスナックみたいにそれぞれが飲んでいて、順番にグループごとにカラオケを歌うスタイルのお店でした。そのときは3組くらいの学生らしき人たちがいたんだけど、井上さんは普段サングラスをしていないので誰からも気付かれませんでした。そして最初に僕が歌うことになり、当人の目の前で『リバーサイドホテル』を歌ったんです(笑)。でも出だしが難しいので、陽水が手伝ってくれて、結局ふたりで歌いました。その後の順番では、陽水が息子と一緒に『ありがとう』を歌い、その次の順番で陽水が曲選びに迷っていたので、僕が勧めたザ・タイガース『花の首飾り』を歌いました。それが本当に素晴らしい歌で、歌い終わったあとに陽水も興奮していました。しばらくして井上さんのカバーアルバムのなかに『花の首飾り』が入っていましたね。
沢木はその後、とあるテレビ番組でこの日の出来事について語った。そのことがさらに井上陽水について深く知るきっかけとなっていく。
沢木:それからだいぶ経って、僕の仕事場近くで偶然に准介くんと会って立ち話をしていたら、このテレビ番組の話になりました。准介くんから「あれは僕が20歳になったお祝いで銀座に連れて行ったのではなく、たまたま銀座に連れて行ったところで沢木さんと出会っただけだと父が訂正していましたよ」と言うんです。そういう父親像が井上さんの美意識に合わなかったんだろうね。その微妙な差を息子に大袈裟に言うわけではなく「あれはちょっと違うな」と漏らした、という。
沢木も驚いた、井上の独特な美意識。そういう感性を持つ人でないと「『積み荷のない船』の詩は書けないんだよね、たぶん」と締めくくった。
【番組情報】
番組名:『J-WAVE SPECIAL SESSIONS〜沢木耕太郎、人を語る。』
放送日時:月・火・水・木曜 6時-9時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/holiday/20200429_sp/
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