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堀 潤が語る、「大きな主語」を使う危険性―自らが分断を生む存在にならないために

堀 潤

堀 潤が語る、「大きな主語」を使う危険性―自らが分断を生む存在にならないために

ジャーナリスト・堀 潤が、世界の社会問題の現場で生じる「分断」を追ったドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が、3月7日(土)よりポレポレ東中野ほか全国の劇場で公開される。

堀が取材を続けてきた東京電力福島第一原子力発電所事故後の現場を始め、シリア、パレスチナ、朝鮮半島、香港、沖縄などを映し出す。「国」「被災者」「社会活動家」といった大きな括りではなく、一人ひとりの声を拾い上げていくようなドキュメンタリーだ。

映画『わたしは分断を許さない』より
(映画『わたしは分断を許さない』より)

そんな映し方から感じられるのは、「大きい主語ではなく、小さい主語を使わなければ、真実は見えない」という堀の信念。「大きい主語」を使うことにはどんな危険性があるのか、堀が世界の分断の深まりを感じるようになったのはいつなのか、インタビューを実施した。

堀は、テレビやラジオなどのメディア以外でも、市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」主宰など、多岐にわたって活躍。J-WAVEでは、ニュースや社会問題を深堀りする番組『JAM THE WORLD』(月-木 19 時-21時)にて、木曜日のニュース・スーパーバイザーとして出演している。


■分断の深まりを感じたきっかけは「派遣村」

――「分断社会」という言葉が、よく聞かれるようになりました。堀さんがジャーナリストとして活動する中で、分断の深まりを体感したのはいつごろですか?

堀:印象的だったのは、リーマンショックや、その影響による派遣切りの問題ですね。僕は当時、経済ニュースの現場にいたので、日雇い派遣の人々が「生産調整」「雇用の調整弁」のような言われ方をするところを間近で見ていました。

取材をする中で、ある人に「堀さんのことを会社で評価する部署はどこですか」と問われ、「人事部です」と答えると、こう言われました。「僕を評価するのは、資材部のみなさんです。今日は必要、明日はいらないと。トンカチと一緒なんです。僕の気持ちがわかりますか」「堀さんは安定した職と給料があって、家に帰れば『来年はどうしようかな』なんて考えるのかもしれない。僕はと言えば、布団の中で明日の仕事を探すんです」。

派遣の運営会社は立派なビルに入っており、抗議に行っても警備員に排除され、中に入ることすらできない。日雇いで働いてきた人たちの労働で得たお金でビルに入居しているのに、声も届かないんです。こんな分断があるでしょうか。

格差がどんどん開く中で原発事故も起こり、経済的な合理性が個人の尊厳を奪う社会になっていったと感じます。今で言えば、「東京2020オリンピック・パラリンピック」。復興五輪と言われていますが、まだ故郷を追われている人がいるのだから、そこに全力投球すべきなんじゃないでしょうか? ――国内だけでも分断は深まっていますが、世界を見ても同じように、経済合理性が個人を消していくような事象があります。それに対する反発がトランプ大統領を生み出し、EUを離脱させるエンジンになっていった。香港のみんなが闘っているのも、中国という大きな経済覇権の中でアイデンティティを守ろうとしている結果ですよね。

この映画は、そういうことを考えるきっかけにしたかったんです。僕は原発事故後の現場を取材し続けてきたので、「諸外国の状況を見ることによって、福島で何が起こったのかが際立つのではないか」とも考えています。


■大きい主語ではなく、小さい主語を使う意義



――この映画は「大きい主語ではなく、小さい主語を使おう」というメッセージを発していますね。大きい主語にはどんな危険性を感じますか。

堀:大きい主語で考え始めると途端に、分断が生まれたり、誤解を招いたりします。例えば僕がメディアで「被災地の人は今も苦しんでいます」と言ったとしましょう。ある人は「よく言ってくれた」と感じるかもしれませんが、別の人は「まだそんなことを言っているのか。被災地は苦しい、というレッテル張りをやめてほしい。こっちは風評被害と闘っているのに」と憤るかもしれない。これって分断ですよね。だから、「被災地はこうだった」という大きい主語ではなく、「僕の目の前にいる○○さんはこうだった」という小さい主語で語ったほうがいいんです。

自分が加害をしてしまったことに気づくのは至難の技ですが、知らず知らず不幸にしている可能性があるんだと知り、意識するだけで、ちょっと違うと思います。

――『わたしは分断を許さない』というタイトルも、小さい主語ですね。最初に見たとき、インパクトを感じると同時に、正直なところ「ギョッとする人もいるのでは」と感じました。

堀:そのインパクトって、「分断を許さない」ではなく「わたしは」なんじゃないかな、と思うんです。「どうしたんだ、この人は」という印象になりますよね。

「わたしは」と言うと、リスクを背負います。炎上するかもしれないし、批判を受けるかもしれない。だけど僕は、主語を置くことって大切だと思うんです。誰が、どういう意図で言っているのかわかるから。それがないと、あやふやな情報になってしまう。メディアで働くひとりの人間として、「わたしは」という主語の価値を大事にしたいと思い、このタイトルにしました。

「分断を許さない」。過激なことを言っているわけではないのに、主語を置くだけでギョッとする、意見を言うことでさえ過剰なことだと思われるとしたら、おっかないですね。意見を言うのは許さない、という空気があるのかなと思いました。

――たしかにSNSなどでは、意見を言いにくい雰囲気はありますね。「自分なんかが意見を言っていいのか」と自信を持てない人もいると思います。

堀:実際にそういう声は聞きますね。昨年からギャラリーを借りて写真と映像の個展をやっていて、映画の公開にあわせて全国をまわっているんです。来てくださるみなさんと話していると「意見を言ってはいけないと思っていた」とおっしゃる方がいます。

――写真と映像展『分断ヲ手当スルト云フ事』ですね。

堀:対面して話す場を作るのは、ジャーナリストとしての新しいアプローチです。誰でもニュースを発信できる時代だからこそ、顔を見て話せる“手作りの場”が求められているんじゃないかと。映画が起点にあると、やりやすいですね。劇場があって、人が来て、考えて、話して。大きなメディアでの情報発信とは違う魅力を感じます。


■「人のことはわからない」と自覚して話を聞く

映画『わたしは分断を許さない』より
(映画『わたしは分断を許さない』より)

――堀さんは世界中で、さまざまな立場の方と対話・取材をされていますね。話を引き出すため、意識していることはありますか。

堀:人は簡単に本音を明かさないものです。でも、僕は本音を聞きたい。その上で心がけているのは、自分が正しいと思う価値観を押し付けないこと。また、相手のことを「わかった」と勘違いしないこと。これは先輩から教えられました。「堀、わかったと思ったら終わりだよ」って。わからないと自覚しながら耳を傾けないといけない。

話をしているとき「こう思いませんか?」と言われると、つい相槌で「わかります」と言ってしまいそうになるけれど、それって相槌でしかない、“嘘”ですよね。そういう、その場しのぎの対応をしないように意識しています。

そういう意味で、この映画に出てくる方々は、僕が「誠実だな」と感じる人たちです。例えば、ヨルダンの難民キャンプで子どもたちの心のケアを行う、NPO法人「国境なき子どもたち」の松永晴子さん。「わたしは間違っているかもしれない」と泣きながら、難民の女の子を送り出す場面があります。原発事故、被ばくの心配がない生活を求めて沖縄に移住し、辺野古への米軍基地移設に反対する人々と出会った久保田美奈穂さんも、「わからない、でも自分で決めたい。“本当”はどうなんだろう?」と考えて、答えを見つけていきます。

映画『わたしは分断を許さない』より
(映画『わたしは分断を許さない』より/松永 晴子さん)


■自分には何ができるのか…まずは知るだけでいい

――この映画で映し出されている通り、社会的な問題は世界中にあります。しかし、「わかってはいるけど、自分のことで精一杯で、何もできない」という人も多いと思います。この作品に触れた視聴者に、堀さんが期待するアクションはありますか。

堀:みんな、それぞれの現場で目一杯ですよね。僕もそう。だから、「誰かを助けてください」「何かをしてください」と行動を押し付けるつもりはなくて、「自分が何かを選択するときに役立ててください」と伝えたかったんです。自分で決めたと思ったことでも、ひょっとしたら、決めさせられているかもしれないから。

知っていて選択するのと、知らないで選択させられるのとでは、結果は同じでも大きく違います。今回の現場は、普段なかなか立ち入らないところ。そこで起きていることを知って、「自分とは違う国の知らない現象だけど、こういう感覚って同じだな、こういう風に対処しようとしているんだな」と知っているだけでも、選択は変わるはず。

すぐできるのは、先ほども話に出た「大きい主語」ではなく「小さい主語」で考えること。例えば評論家が「日本人はね……」と語っているとき、「この人は大きい主語を使って、それっぽい話をしているだけで、何も語っていないのでは」と思うだけでも冷静になります。

堀 潤


■今後のテーマは「民主主義、消滅」

――堀さんは今後、どんな活動をしていきますか。

堀:今後ますます、身の回りの何もかもがメディアになっていく時代が来ます。ここにある紙コップがメディアになるかもしれない。発信の方法は変わっても、本当の本当をとってくることが自分の仕事だと思っています。

次の5年、10年のテーマは「民主主義、消滅」。民主主義は、時間もかかるし、決定が正しいかどうかもわからない、でも僕らが決めるんだ、というものです。その仕組みが煩わしいと思う人が増えるんじゃないか。この間、とある政治家が「一回、独裁をやらせてほしいんだよね。失敗したら死刑でいいから」と真顔で言っていて、ぞっとしました。でも、こういった意見に拍手を送る人が増えるかもしれない。「わからないから決めてくれ、その代わり儲けさせてくれ」という価値観が席巻して、民主主義が過去のものになる時代が来るかもしれない……という怖さがある。そこに向き合っていきます。


■「遠くで起こった出来事」ではない

ニュースで知る社会問題は、どこか遠くの出来事のように感じられるかもしれない。しかし、どの国の人たちも、わたしたちと何ら変わりはない。問題に向き合いながら、懸命に生きようとしている人々であることが、『わたしは分断を許さない』からは伝わってくる。自分とは無関係だと思っていた社会問題の見え方が変わる一作だ。

映画『わたしは分断を許さない』は、2020年3月7日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。

(取材・文=西田友紀、写真=北瀬由佳梨)

■作品情報
映画『わたしは分断を許さない』

映画『わたしは分断を許さない』より
(映画『わたしは分断を許さない』より)

公式サイト:https://www.bundan2020.com
Twitter: https://twitter.com/2020Bundan
Facebook: https://www.facebook.com/2020Bundan/
Instagram: https://www.instagram.com/2020Bundan/

監督・撮影・編集・ナレーション:堀 潤
プロデューサー:馬奈木厳太郎
脚本:きたむらけんじ
音楽:青木健
編集:高橋昌志
コピー・タイトル原案:阿部広太郎
スチール提供:Orangeparfait
取材協力:JVC・日本国際ボランティアセンター、KnK・国境なき子どもたち
2020|日本|カラー|DCP|5.1ch|105分|
配給・宣伝:太秦株式会社
コピーライト:(C)8bitNews


■写真と映像展『分断ヲ手当スルト云フ事』開催情報

【札幌】
順次開催予定

【岡山】
4月上旬~中旬開催

【沖縄】
4月下旬開催予定
※おそらく那覇市開催      

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