『ラストレター』より

岩井俊二、新作『ラストレター』で松たか子が演じた役柄は…

J-WAVEで放送中の番組『RADIO SWITCH』。この番組では、カルチャーマガジン『SWITCH』、旅の雑誌『Coyote』、新しい文芸誌『MONKEY』の3つの雑誌とゆるやかに連動する。1月11日(土)のオンエアでは、映画監督・岩井俊二が登場。『SWITCH』編集部・菅原 豪が聞き手となり、岩井へインタビューを行った。


■「まさか『Love Letter』のような映画を自分で作り直すとは」

岩井が手掛けた初めての長編映画『Love Letter』の公開は1995年の春。北海道の小樽と神戸を舞台としたラブストーリーで、主演の中山美穂が一人二役を演じ、豊川悦司がその相手役を務めた。タイトル通り手紙をめぐる物語であるこの映画は、当時の日本映画界に新しい風を送り込んだ作品であり、韓国や中国でも大ヒットした。

そして、岩井の監督最新作『ラストレター』も公開。タイトルに「レター」とある通り、この映画もまた手紙についての物語である。松たか子、広瀬すず、福山雅治らを主演に描くラブストーリー。そして、中山美穂と豊川悦司も出演している。

1995年の『Love Letter』と2020年の『ラストレター』。25年の時を経て、この2つの映画にはどのようなつながりがあるのだろうか。

菅原:映画『ラストレター』はどのような経緯で制作されましたか。
岩井:2016年に公開した映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』の直後に、韓国の女優、ペ・ドゥナさん主演で家族を物語にしたショートフィルム『チャンオクの手紙』を作りました。それを作り終わったときに「この物語をもうちょっと膨らませたらどうなるかな」と思って、少し書き足したりしていました。そんな中で『ラストレター』に出てくる手紙の仕掛けを思いついたことがきっかけでした。



『チャンオクの手紙』はタイトルに“手紙”とあるが、必ずしも手紙の話ではなかったという。

岩井:『ラストレター』の仕掛けを考えて、25年前に撮った『Love Letter』以来となる手紙の話がこれで作れるかもしれないという気がして。でも、20数年経ち、時代も変わってあまりみんなが手紙を使わなくなってしまった。その一方で時々、韓国や中国から『Love Letter』のリメイクを作らせてくれという依頼が来るんです。「いいですよ」と話はするんですけど、内心は「こんな時代に手紙の話は難しいんじゃないか」と思っていて、「どうやって作るつもりなんだろう」と人ごとのように心配していました。だから、まさか『Love Letter』のような映画を自分で作り直すとは思っていませんでした。

岩井は『ラストレター』の仕掛けを思いついて、「これで現代になぜ手紙を書かなくてはいけなくなるのかの説明になる」と手応えを感じたという。

岩井:昔作った『Love Letter』と物語は全然違うけど、『Love Letter』シリーズのパート2的なかたちになり、それからプロデューサーの川村元気さんに内容を伝えて「どう?」なんて話から「いいですね」となり、「じゃあ、やりましょう」となりました。




■『ラストレター』と『Love Letter』をあえて近づける

『ラストレター』では『Love Letter』との共通点が散りばめられているという。岩井はこの2つの作品をどのような関係性で見ているのだろうか。

岩井:『Love Letter』を知っているファンが『ラストレター』を観るときに、同じ手紙なのに『Love Letter』と全然関係ないように作ると、逆に観づらいかなと思いました。あえて2つの作品を近づけた方が違いが分かるんじゃないかと思い、似せるところは徹底的に似せようと考えてやっていたところはありますね。
菅原:手紙はもちろん、カメラや学校、図書館などの共通点に気づいて、岩井監督自身がそれをおもしろがっているような印象も受けました。
岩井:おもしろがるというよりは、シリアスに考えていました。作品がより良くなることを目指しつつ、例えばカメラを持って学校を訪ねるところなど、わざわざ『Love Letter』と近いものに寄せたりして。『Love Letter』を観た人にとっても思い出させるようなところになるだろう、それでどうなっていくんだろうと思うような。『Love Letter』と関わりを持たなければそんなことを考えなくていいわけだけど、関わらせることで似ているところと違うところが単体の映画にはない独特の不思議感になるんじゃないかと。全く新しいものを作る以上にカロリーがかかる部分を惜しまずに前に進めれば、今まで自分が体験したことのない何かがあるかもな、という感覚があったかもしれません。


■撮影後に気付いた、映画『四月物語』との共通点



『ラストレター』の主人公・岸辺野裕里は松たか子が演じた。

菅原:全編を通して、裕里を主人公とした物語というよりは、登場人物の物語がつながっていき、それに合わせて観る側の視点も移り変わるような作品だと感じました。
岩井:手紙の物語なので、誰か1人を主人公にすることは無理なんです。文通は2人いて成り立つものだから、その時点で2人必要になる。また、離れている2人の物語だから、それぞれの身の回りは違うことになる。だから最低2人はプレイヤーが必要になる構造で、今回はさらに文通がトライアングルのようになることが、やりたかったことのひとつにありました。そうするとその時点で3つに分かれていき、さらに現在、過去にもなっていくので、どんどん増殖していく部分がありました。しかも、サイドストーリーで老人同士の文通まで出てくるので、本当に手紙づくしだから、「主人公は手紙」と言えるくらい、いろんな人たちの出来事が群像劇のようになっていくと思います。

一方で、「そうは言っても、物語を束ねるのは主婦の裕里であり、裕里のパーソナリティが物語全体のリードになっている」と岩井は続ける。

岩井:松たか子さんとは『四月物語』(1998年)以来のコンビでした。あまり意識はしていなかったんですけど、『四月物語』で松さんが演じた主人公・楡野卯月と『ラストレター』の主人公・岸辺野裕里の設定・キャラクターがほぼ一緒だったんです。裕里は卯月が大人になり結婚してこうなった、という部分があります。卯月は普通の女の子かと思ったら、実は胸に誰にも言わない隠し事を持っていて、その事に関してだけ爆発的な起爆力をもっていたという話でしたが、そのキャラクターそのままが大人になって。森 七菜さんが演じた高校時代の裕里も卯月と同一人物に近いんです(笑)。



『ラストレター』の撮影をしながら「なにか『四月物語』とギャップがないんだよな」と感じた岩井。「松さんにはほぼ同じ役を演じてもらっていたのかもしれない」と、撮影後に気がついたと振り返った。

岩井:だから、松さんには「『ラストレター』は『四月物語』の卯月ではなくて、こういう役で」ということはなかったですね。そういう説明もしなかったし。撮影後に「そうだったんだな」と。
菅原:最近『四月物語』を観なおしましたが、確かにそうかもしれません。
岩井:裕里と卯月は同じような精神構造と行動パターンを持っているんですよね。そういう意味では、その違わなさをぜひスクリーンで観てほしいですね。

岩井俊二監督最新作『ラストレター』は2019年1月17日(金)より全国東宝系にて公開中。

『RADIO SWITCH』では、スイッチ・パブリッシングの紙面に登場するさまざまな著名人、アーティスト、作家たちのロングインタビューをおこなう。オンエアは毎週土曜23時から。お楽しみに。

・場面写真:(C)2020「ラストレター」製作委員会
『ラストレター』公式サイト

【番組情報】
番組名:『RADIO SWITCH』
放送日時:毎週土曜 23時-24時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/radioswitch/

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