J-WAVEがいま注目するさまざまなトピックをお届けする日曜夜の番組『J-WAVE SELECTION』。毎月第3日曜は、震災復興プログラム『Hitachi Systems HEART TO HEART』(ナビゲーター:藤巻亮太)をお届けしている。
12月15日(日)のオンエアでは、NPO法人環境防災総合政策研究機構環境・防災研究所副所長で東京大学大学院客員教授の松尾一郎さんを迎え、災害が多発する昨今、我々の想定を超える災害に、どう対策をすればよいのか。想定外を減らすヒントを探した。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2019年12月22日28時59分まで)
■防災行動学とは?
松尾さんが研究する、防災行動学とはどんなものか。
松尾:災害から命を守るために、特に水害の場合には行政や市町村、地域のコミュニティ、家族、あるいは私たち国民一人ひとりが置かれている状況下で正しい防災行動を行えるかどうか。「どう行動したらよいのか」、その行動のあり方、そしてその行動を支援するツールなどを研究しています。
■氾濫被害のあった長野の農園を取材
藤巻は今回、今年の10月に台風19号で千曲川が氾濫し多くの被害の出た長野県長野市を取材。長野市赤沼でリンゴの生産と直売所「中村農園」を営む中村太士さんに話を訊いた。
台風19号に伴う記録的豪雨で長野市内を通る千曲川の堤防が決壊。浸水被害を受けたエリアは「アップルライン」の愛称で親しまれている全国有数のリンゴの名産地だった。中村さんの店舗や倉庫が浸水。風でリンゴが落ちることを恐れて早めに収穫したリンゴ1万個も流される大きな被害を受けた。
壊滅的な被害から早く立ち上がり前を向く中村さん。非難や対策について「楽観的すぎた」と話す。
中村:台風当日、ここは千曲川から1キロメートル以上は離れているので(大丈夫だと楽観視していました)。
藤巻:地域のハザードマップで、このエリアも浸水の危険性があることはご存知でしたか?
中村:もちろん知っていました。ただ、実際にこうなるとは思っていませんでした。そもそも、千曲川の堤防が決壊することは誰も予想をしていませんでした。
藤巻:幼い頃から災害に関するアドバイスなどありましたか。
中村:私の祖父は「昔、ここは5メートル以上も浸水があった」と話を聞かされていました。でも、それはおとぎ話だと思っていました。
中村さんは台風当日、作業部屋の2階に非難すれば増水しても大丈夫だという思いがあったが、その翌朝に自宅が大きな浸水被害を受けている様子を見て「あのときに逃げなかったら自分は大変なことになっていた」と振り返ったという。
■多くの人は自分が災害に巻き込まれるとは思っていない
中村さんの取材内容を聞き、松尾さんは「私たち現代人は、安全で便利な社会に慣れてしまっているが故に、多くの人が『自分が災害に巻き込まれる』とは日頃思わない」と話す。
松尾:私は昨年の西日本豪雨の調査もしました。多くの方が目の前に水が迫っているのに「これが浸水だ」とか「河川が氾濫した」という想像ができないんです。その状況を危険と認めようとせず、大丈夫だと過小評価してしまう。それが「正常性バイアス」です。私たちは思考回路に「大丈夫」、そして危険を危険と思いたくないフィルターを備えています。その危険を極力無視することで心のバランスを保ちたいという欲求や防衛本能が本質的にあることなんです。
「私たちの生活が便利なため、自然から遠ざかっている」と松尾さんは指摘する。
松尾:だいたい川に行かないですよね。見にも行かない。日頃から川とか水とか自然と親しむことを忘れていますよね。当然、その中には少しの危険も存在します。そういった自然に触れることが重要なことだと思います。日頃から、「災害時、自分が住んでいる場所はどうだろうか」と考えることが重要です。
■水害は事前対策ができる
藤巻は「起きてしまった災害に対してどう対応するのかも重要だが、水害はある程度は予測できるため、何を準備するべきかをしっかり考えておくべきだ」と話し、そのために「タイムライン」が重要になると語る。
「タイムライン」は災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画だ。
一方で、松尾さんは日本で「タイムライン」を根付かせることは困難だと指摘する。
松尾:日本は法律の足かせがあります。日本の防災法は災害対策基本法で、この法律は昭和34年の伊勢湾台風の時に議員立法で制定され、その後大きな災害で順次変わっています。しかし、基本は事後対応の法律なんです。これが今の防災法の一番の問題です。水害の場合は事前対応ができます。今、大きな自然現象が起こっている中、やるべきなのは事前防災です。報道機関も含めて「これは厳しいぞ」と一生懸命に伝える。それに対して行政は明るく風もなく、雨も降らないうちに、各日に被害が直撃することが分かれば早めに非難の呼びかけをする必要があります。
台風19号の際、東京都足立区では「タイムライン」が効果を発揮したという。
松尾:足立区の自治会や町内会が「タイムライン」をもとに自分たちで動き始めました。今回の台風で足立区は区の人口の4パーセントに当たる3万3千人が避難所に非難しました。だけど、初めて避難所を全部開設したからいろいろな問題が起きました。だから「タイムライン」も改善する。そもそもそういった経験や課題、教訓が生まれたので、次に向けてどうするかを今一生懸命にやっています。
松尾さんは「タイムライン」は日本の法律が事後対応法であり、それが足かせになっているため、法律を変えなければならないと語った。
松尾:「タイムライン」は交響楽団だと思っています。交響楽団はいろいろな楽器を持っている人たちがいますよね。その方たちが同じ譜面を見て演奏することにより美しい音色になる。「タイムライン」はまさにそうなんです。私は住民、消防団、民選委員、行政など、さまざまな人たちが同じ楽譜で音色を出すことによって災害による犠牲者をゼロにできると思っています。
災害を予測し、街や行政などが一丸となって事前に対策をすることが、被害を減らせる方法ではないだろうか。
番組では、藤巻が「非難するまでに家族でどんなやり取りがあったのか」「見習う避難行動」など長野市の取材内容を報告する場面もあった。radikoでぜひ聴いてほしい。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2019年12月22日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『Hitachi Systems HEART TO HEART』
放送日時:毎月第3日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/special/hearttoheart/
12月15日(日)のオンエアでは、NPO法人環境防災総合政策研究機構環境・防災研究所副所長で東京大学大学院客員教授の松尾一郎さんを迎え、災害が多発する昨今、我々の想定を超える災害に、どう対策をすればよいのか。想定外を減らすヒントを探した。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2019年12月22日28時59分まで)
■防災行動学とは?
松尾さんが研究する、防災行動学とはどんなものか。
松尾:災害から命を守るために、特に水害の場合には行政や市町村、地域のコミュニティ、家族、あるいは私たち国民一人ひとりが置かれている状況下で正しい防災行動を行えるかどうか。「どう行動したらよいのか」、その行動のあり方、そしてその行動を支援するツールなどを研究しています。
■氾濫被害のあった長野の農園を取材
藤巻は今回、今年の10月に台風19号で千曲川が氾濫し多くの被害の出た長野県長野市を取材。長野市赤沼でリンゴの生産と直売所「中村農園」を営む中村太士さんに話を訊いた。
台風19号に伴う記録的豪雨で長野市内を通る千曲川の堤防が決壊。浸水被害を受けたエリアは「アップルライン」の愛称で親しまれている全国有数のリンゴの名産地だった。中村さんの店舗や倉庫が浸水。風でリンゴが落ちることを恐れて早めに収穫したリンゴ1万個も流される大きな被害を受けた。
壊滅的な被害から早く立ち上がり前を向く中村さん。非難や対策について「楽観的すぎた」と話す。
中村:台風当日、ここは千曲川から1キロメートル以上は離れているので(大丈夫だと楽観視していました)。
藤巻:地域のハザードマップで、このエリアも浸水の危険性があることはご存知でしたか?
中村:もちろん知っていました。ただ、実際にこうなるとは思っていませんでした。そもそも、千曲川の堤防が決壊することは誰も予想をしていませんでした。
藤巻:幼い頃から災害に関するアドバイスなどありましたか。
中村:私の祖父は「昔、ここは5メートル以上も浸水があった」と話を聞かされていました。でも、それはおとぎ話だと思っていました。
中村さんは台風当日、作業部屋の2階に非難すれば増水しても大丈夫だという思いがあったが、その翌朝に自宅が大きな浸水被害を受けている様子を見て「あのときに逃げなかったら自分は大変なことになっていた」と振り返ったという。
■多くの人は自分が災害に巻き込まれるとは思っていない
中村さんの取材内容を聞き、松尾さんは「私たち現代人は、安全で便利な社会に慣れてしまっているが故に、多くの人が『自分が災害に巻き込まれる』とは日頃思わない」と話す。
松尾:私は昨年の西日本豪雨の調査もしました。多くの方が目の前に水が迫っているのに「これが浸水だ」とか「河川が氾濫した」という想像ができないんです。その状況を危険と認めようとせず、大丈夫だと過小評価してしまう。それが「正常性バイアス」です。私たちは思考回路に「大丈夫」、そして危険を危険と思いたくないフィルターを備えています。その危険を極力無視することで心のバランスを保ちたいという欲求や防衛本能が本質的にあることなんです。
「私たちの生活が便利なため、自然から遠ざかっている」と松尾さんは指摘する。
松尾:だいたい川に行かないですよね。見にも行かない。日頃から川とか水とか自然と親しむことを忘れていますよね。当然、その中には少しの危険も存在します。そういった自然に触れることが重要なことだと思います。日頃から、「災害時、自分が住んでいる場所はどうだろうか」と考えることが重要です。
■水害は事前対策ができる
藤巻は「起きてしまった災害に対してどう対応するのかも重要だが、水害はある程度は予測できるため、何を準備するべきかをしっかり考えておくべきだ」と話し、そのために「タイムライン」が重要になると語る。
「タイムライン」は災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画だ。
一方で、松尾さんは日本で「タイムライン」を根付かせることは困難だと指摘する。
松尾:日本は法律の足かせがあります。日本の防災法は災害対策基本法で、この法律は昭和34年の伊勢湾台風の時に議員立法で制定され、その後大きな災害で順次変わっています。しかし、基本は事後対応の法律なんです。これが今の防災法の一番の問題です。水害の場合は事前対応ができます。今、大きな自然現象が起こっている中、やるべきなのは事前防災です。報道機関も含めて「これは厳しいぞ」と一生懸命に伝える。それに対して行政は明るく風もなく、雨も降らないうちに、各日に被害が直撃することが分かれば早めに非難の呼びかけをする必要があります。
台風19号の際、東京都足立区では「タイムライン」が効果を発揮したという。
松尾:足立区の自治会や町内会が「タイムライン」をもとに自分たちで動き始めました。今回の台風で足立区は区の人口の4パーセントに当たる3万3千人が避難所に非難しました。だけど、初めて避難所を全部開設したからいろいろな問題が起きました。だから「タイムライン」も改善する。そもそもそういった経験や課題、教訓が生まれたので、次に向けてどうするかを今一生懸命にやっています。
松尾さんは「タイムライン」は日本の法律が事後対応法であり、それが足かせになっているため、法律を変えなければならないと語った。
松尾:「タイムライン」は交響楽団だと思っています。交響楽団はいろいろな楽器を持っている人たちがいますよね。その方たちが同じ譜面を見て演奏することにより美しい音色になる。「タイムライン」はまさにそうなんです。私は住民、消防団、民選委員、行政など、さまざまな人たちが同じ楽譜で音色を出すことによって災害による犠牲者をゼロにできると思っています。
災害を予測し、街や行政などが一丸となって事前に対策をすることが、被害を減らせる方法ではないだろうか。
番組では、藤巻が「非難するまでに家族でどんなやり取りがあったのか」「見習う避難行動」など長野市の取材内容を報告する場面もあった。radikoでぜひ聴いてほしい。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2019年12月22日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『Hitachi Systems HEART TO HEART』
放送日時:毎月第3日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/special/hearttoheart/