世界に高い評価を受ける「イチローズモルト」中田英寿が、その秘密に迫る

J-WAVEで放送中の『VOICES FROM NIHONMONO』(アンバサダー:中田英寿、案内役:レイチェル・チャン)。中田英寿が47都道府県を巡る旅で出会った日本の"ほんもの"の作り手たち、日本の"ほんもの"=「に・ほ・ん・も・の」を紹介する番組だ。8月10日(土)のオンエアでは、中田が埼玉県秩父市にある企業「ベンチャーウイスキー」の秩父蒸留所を訪れ、世界から注目を集める「イチローズモルト」に迫った。

■中田、ウイスキーの基礎を学ぶ

秩父蒸溜所で中田を出迎えたのは、「ベンチャーウイスキー」のブランドアンバサダーをつとめる吉川由美さん。吉田さんは、ウイスキー業界に著しい貢献を果たした蒸留所や人物などを表彰する「アイコンズ・オブ・ウイスキー」で、今年の「ワールドウイスキー・ブランドアンバサダー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。

池袋から特急電車で1時間20分、そこからさらに車で20分ほど。小高い丘の上で、世界的評価も高いウイスキー「イチローズモルト」は作られている。地域を流れる上質な天然水を仕込み水に使ったそのウイスキーは、どんな風に、そしてどんな思いを込めて製造されているのだろうか。


中田:根本的な話ですが、ウイスキーを作るとき、原材料は何が必要なんですか?
吉川:ウイスキーで決まっている原材料は穀物です。あと、酵母と水。この3種類だけと決まっています。
中田:穀物っていうのは、大麦じゃないこともあるんですか?
吉川:ありますね。わかりやすい例でいうと、サントリーの「知多」。原材料に大麦、麦芽以外の穀物、たとえば小麦とかコーンなどが使われています。
中田:てっきり大麦だけかと思っていました。

ウイスキーの原酒には、大きく分けると「モルトウイスキー」と「グレーンウイスキー」の2種類がある。大麦100パーセントで作ったものは「モルトウイスキー」と呼ばれ、「グレーンウイスキー」は、とうもろこしや小麦、最近ではライ麦がよく使われるそうだ。

味の特色としてはモルト100パーセントで作られたモルトウイスキーは個性が強いため、ハイボールに合わない場合も。一方で、グレーンウイスキーは個性が緩やかで飲みやすいという。モルトウイスキーとグレーンウイスキーを合わせたものを「ブレンデッドウイスキー」といい、味のバランスを整えることによって、食事に合わせたり、ハイボールにすると美味しくなったりする。これを知っているだけで、ウイスキーの飲み方のバリエーションがかなり増えそうだ。


■ 樽の素材、大きさ、置く場所が違うだけで味が変化

秩父蒸留所の貯蔵庫には、たくさんの木の樽が重ねて積まれている。静かに熟成を待つ樽は実に1200本。ここの樽に使われている材料は、楢の木。ウイスキー発祥の地といわれるスコットランドでは、ウイスキーの樽は楢の木を使うことが法律で定められているが、日本では好きな素材を使用することができる。

吉川:ただ蒸留所ごとに求めているものが違うので、うちの蒸留所としてはできるだけ伝統的なやりかたに忠実に作っています。そのため、熟成では楢のみを使います。

楢の木の生産地は、日本以外にもアメリカ、フランスなどがある。その素材、大きさ、そして置く場所によって味が変化するそうだ。

中田:そんなに変わるんですか?
吉川:はい。変わってきます。
中田:今この中で、たとえば手前にある、奥にあるとか、上に積んである、下にあるだけでも変わってくるんですか?
吉川:変わってきます。同じ形のものでも、隣り合わせで味が変わってきます。

1200本ある樽すべての味が違ってくるため、ここからブレンドし直す必要がある。中でもシングルカスクという商品は希少価値が高く、価格も上がる。その次に数が少ないのがシングルモルト。シングルモルトは、ひとつの蒸溜所で作ったウイスキーであれば、何樽一緒にしてもいいという基準だ。

消費者がウイスキーを選ぶとき、見るべきポイントはあるのだろうか。

吉川:やっぱり蒸溜所の名前ですね。そこの蒸留所がどういう蒸留所なのかわかると、自分の好みが見つけやすくなります。
中田:じゃあ、基本はシングルモルトがいいということですね。
吉川:ブレンデッドの場合は、どこの会社が作っているのかを見るのがポイントです。シングルモルトは蒸溜所の個性がダイレクトに出るので、味を想像しやすいんです。ブレンデッドは、ブレンドをしている人の個性が出ます。


■ イチローズモルト誕生の裏にあった波乱万丈

ウイスキーの基礎知識を学んだ後は、ベンチャーウイスキーが生んだ「イチローズモルト」について、代表の肥土伊知郎さんに話を訊いた。

肥土さんの実家は江戸時代から秩父で造り酒屋を営んでおり、昭和に入ると、埼玉県羽生市に持っていた蒸溜所でウイスキー作りをスタート。しかしその後、経営が傾き、肥土さんの父は会社を手放すことになる。

新しいオーナーは、熟成に時間がかかり、当時売れていなかったウイスキーに興味がなかった。そのため、引き取り手が見つからなければ原酒を廃棄するという意向を示していた。当時サントリーに勤めていた肥土さんは、20年近く熟成を重ねた原酒もあり、なんとか捨てずに世の中に出したいという想いから、会社を新たに立ち上げ引き取ったという。

ウイスキーの樽は倉庫を借りて移動すればいいというわけではなく、酒税免許を持った会社の協力が必要だった。このとき、福島県の「笹の川酒造」が「20年以上熟成した原酒を廃棄するのは業界の損失だ」と、倉庫を使わせてくれたそうだ。そして、「笹の川酒造」の設備を使い、「イチローズモルト」が誕生することになる。

肥土:ウイスキーというのは原酒に限りがあるため、ただ売っているだけではなくなってしまう。そこで自分でもウイスキー蒸溜所を立ち上げなきゃいけないと思いました。ウイスキーというのは、先輩が作ったものを「今」売らせてもらい、「今」作ったものを将来の財産として引き継いでいく。これがウイスキーのビジネスですから、必ず蒸溜所を立ち上げようということで立ち上げたのが、この秩父蒸溜所なんです。


■「イチローズモルト」の軌跡はまだ始まったばかり

秩父蒸溜所ができて11年目。肥後さんは、11年間テイスティングを繰り返し、ようやく自社ウイスキーの酒質がわかってきたと話す。しかし、「これからの10年のスタートラインに立っているくらいかな、という感じはしますね」とも。

中田:そう考えるとウイスキーって気の長い話だなぁと。10年20年30年とかってあるじゃないですか。「今」を買ってないじゃないですか。要は「将来の夢」を買っているようなもので、それを今やらなきゃいけないから。
肥土:ええ。
中田:今は特に早いパターンの生活の人って、たぶん待てないんじゃないかなと思いますよね。
肥土:自分の場合は非常にシンプルで、この秩父蒸溜所で作られた30年もののウイスキーが飲めたら、たぶん幸せなウイスキー人生だったと思えるんじゃないかなと思っています。とにかくそこを目標に、日々同じことを繰り返していくというようなところはありますね。

世界に注目される「イチローズモルト」の軌跡はまだ始まったばかり。さらに先日、秩父の水楢を使った樽ができたとのことで、秩父の大麦を使った「秩父100パーセント」のウイスキーも作っていくそうだ。ウイスキー好きでまだ「イチローズモルト」を飲んだことがない人は、この機会にぜひ味わってみてほしい。

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【番組情報】
番組名:『VOICES FROM NIHONMONO』
放送日時:毎週土曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/nihonmono/

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