学校における「ブラック校則」が問題になっています。そのひとつが、髪の毛に関するもの。生まれつき茶色い髪や天然パーマであることを証明するために、「地毛証明書」の提出を義務づける中学校や高校が全国的に多数あるとわかり、非難の声が挙がっています。人権侵害ではないか、との意見もあります。
5月8日には、地毛の黒染め指導をなくすための「#この髪どうしてダメですか・署名プロジェクト」がスタートしました。このプロジェクトの発起人のひとりで、慶應義塾大学教授の中室牧子さんにお話を伺いました。
【5月20日(月)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/月曜担当ニュースアドバイザー:津田大介)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190520202119
■個性が尊重される社会を目指すために
ヘアケアブランドであるパンテーンが3月、髪型校則をテーマにしたキャンペーン「#この髪どうしてダメですか」をスタート。これがSNSで話題になったことで、「#この髪どうしてダメですか・署名プロジェクト」が発足しました。
中室:地毛をわざわざ黒く染める校則に対して、多くの人が疑問を持っているのではないか。先生、生徒、保護者など社会全体で対話をした方がいいのではないかと考えました。学生の個性が尊重される社会を目指すために、このような取り組みを始めました。
津田は、パンテーンの「#この髪どうしてダメですか」は、学生だけではなく、教員にもアンケートを取っていたことが重要だったと振り返ります。
津田:このアンケートでは「時代に合わせて校則も変わっていくべきだと思いますか?」という問いに対して、中高の現役教師の92.5パーセントが「そう思う」と回答しています。多くの先生は、「昔に比べて校則がどんどん厳しくなっている」「おかしい」と思っているけれど、変わらない。そういった状況を可視化する意味では非常に重要なキャンペーンだったと思います。
教育経済学を専門とする中室さん。現在の学校に対して、自ら変化することを苦手とする組織だと感じています。プロジェクトを通じて、「社会から議論を巻き起こしていって、学校も議論をはじめるきっかけにしてもらいたい」と考えています。
■校則は、「大人になったときの考え方」に影響を及ぼすというデータも
校則は、子どもの将来にどう影響するでしょうか。中室さんは、興味深い研究結果について話しました。
中室:“制服を着ていた子どもと、着ていなかった子どもたちで、将来の考え方がどう変わるのか”という研究が行われました。すると、制服を着ていた子どもたちは将来、平等な資源配分に強い意識を持つようになることがわかっています。
津田:それはおもしろい。
中室:制服や校則を通じて、将来の子どもたちの考え方に影響を及ぼすのだと思います。もともと黒い髪ではない子どもの髪を無理やり黒染めしたら、どうなるか。将来の考え方にどのような影響をもたらすかと考えると、あまりよい影響をもたらさないのではないか。「やみくもにルールに従うべきだ」という考えを持つ子どもに育てる恐れがあるので、規律やルールは大切なものだけど、不合理なあり方を押しつけていいわけではありません。
パンテーンの調査では「生まれつき茶色い地毛を、学校から黒染めするように促された経験はありますか?」との問いに対して、13人に1人が「促された経験がある」と回答。一方、「時代に合わせて、髪型に関する校則も変わっていくべきだと思いますか?」との問いに、現中高教師の87パーセントが「そう思う」と回答しています。
津田:髪型に関する校則も変わっていくべきだと教師が思い、おそらく保護者も思っている。それにもかかわらず、時代に合わない不合理なルールが残って、それがある種の人権侵害的な状況になっている。この状況を変えるために必要なアクションは何が必要だと思いますか?
中室:本当は学校のなかで議論が起こることが重要だと思いますが、学校は保守的な部分があるため、社会全体で議論を起こすことが重要です。外国人の子どもも増えているなか、もともとの髪の色を黒く染めさせるのは人権侵害だという批判が出てもおかしくはないので、議論をするのであれば直ちにするべきだと思います。
津田:髪を黒く染めさせるなどは、管理する側の都合ですよね。管理がしやすくなるというだけですから。だから今は、管理したい欲求と人権がぶつかっている状況がありますよね。
中室:その管理する方法が、将来の子どもたちの成果にプラスを与える根拠がないので、今のあり方自体を広く議論しながら変えていく必要があります。
「制服や校則と子どもの成果の関係が因果関係なのか相関関係なのかを考えることが重要」と中室さんは続けます。
中室:校則が厳しいから子どもたちが精神的に落ち着いていて問題行動が少ないのか、もともと精神的に落ち着いていて問題行動の少ない子がちゃんと校則を守っているだけなのか。現状、後者の可能性はかなりあると思います。厳しい校則を作ったとしても、子どもたちの成果があがらなければ、何のためにそれをやっているのかとなってしまうので。
「#この髪どうしてダメですか・署名プロジェクト」は、すでに1万人の署名を集めています。
中室:近いうちにこの署名とともに、みなさんの声を東京都知事と東京都教育長に届けたいと考えています。直ちに学校の黒染め指導がなくなるかどうかはわかりませんが、少なくとも議論のきっかけになって、学校や保護者や生徒も巻き込んで議論をしていくことの後押しをしていきたいと思います。
多様性を受け入れる社会にするために、ひとつ重要なトピックと言えそうです。動向をチェックしてみてください。
【この記事の放送回をradikoで聴く】
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
5月8日には、地毛の黒染め指導をなくすための「#この髪どうしてダメですか・署名プロジェクト」がスタートしました。このプロジェクトの発起人のひとりで、慶應義塾大学教授の中室牧子さんにお話を伺いました。
【5月20日(月)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/月曜担当ニュースアドバイザー:津田大介)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190520202119
■個性が尊重される社会を目指すために
ヘアケアブランドであるパンテーンが3月、髪型校則をテーマにしたキャンペーン「#この髪どうしてダメですか」をスタート。これがSNSで話題になったことで、「#この髪どうしてダメですか・署名プロジェクト」が発足しました。
中室:地毛をわざわざ黒く染める校則に対して、多くの人が疑問を持っているのではないか。先生、生徒、保護者など社会全体で対話をした方がいいのではないかと考えました。学生の個性が尊重される社会を目指すために、このような取り組みを始めました。
津田は、パンテーンの「#この髪どうしてダメですか」は、学生だけではなく、教員にもアンケートを取っていたことが重要だったと振り返ります。
津田:このアンケートでは「時代に合わせて校則も変わっていくべきだと思いますか?」という問いに対して、中高の現役教師の92.5パーセントが「そう思う」と回答しています。多くの先生は、「昔に比べて校則がどんどん厳しくなっている」「おかしい」と思っているけれど、変わらない。そういった状況を可視化する意味では非常に重要なキャンペーンだったと思います。
教育経済学を専門とする中室さん。現在の学校に対して、自ら変化することを苦手とする組織だと感じています。プロジェクトを通じて、「社会から議論を巻き起こしていって、学校も議論をはじめるきっかけにしてもらいたい」と考えています。
■校則は、「大人になったときの考え方」に影響を及ぼすというデータも
校則は、子どもの将来にどう影響するでしょうか。中室さんは、興味深い研究結果について話しました。
中室:“制服を着ていた子どもと、着ていなかった子どもたちで、将来の考え方がどう変わるのか”という研究が行われました。すると、制服を着ていた子どもたちは将来、平等な資源配分に強い意識を持つようになることがわかっています。
津田:それはおもしろい。
中室:制服や校則を通じて、将来の子どもたちの考え方に影響を及ぼすのだと思います。もともと黒い髪ではない子どもの髪を無理やり黒染めしたら、どうなるか。将来の考え方にどのような影響をもたらすかと考えると、あまりよい影響をもたらさないのではないか。「やみくもにルールに従うべきだ」という考えを持つ子どもに育てる恐れがあるので、規律やルールは大切なものだけど、不合理なあり方を押しつけていいわけではありません。
パンテーンの調査では「生まれつき茶色い地毛を、学校から黒染めするように促された経験はありますか?」との問いに対して、13人に1人が「促された経験がある」と回答。一方、「時代に合わせて、髪型に関する校則も変わっていくべきだと思いますか?」との問いに、現中高教師の87パーセントが「そう思う」と回答しています。
津田:髪型に関する校則も変わっていくべきだと教師が思い、おそらく保護者も思っている。それにもかかわらず、時代に合わない不合理なルールが残って、それがある種の人権侵害的な状況になっている。この状況を変えるために必要なアクションは何が必要だと思いますか?
中室:本当は学校のなかで議論が起こることが重要だと思いますが、学校は保守的な部分があるため、社会全体で議論を起こすことが重要です。外国人の子どもも増えているなか、もともとの髪の色を黒く染めさせるのは人権侵害だという批判が出てもおかしくはないので、議論をするのであれば直ちにするべきだと思います。
津田:髪を黒く染めさせるなどは、管理する側の都合ですよね。管理がしやすくなるというだけですから。だから今は、管理したい欲求と人権がぶつかっている状況がありますよね。
中室:その管理する方法が、将来の子どもたちの成果にプラスを与える根拠がないので、今のあり方自体を広く議論しながら変えていく必要があります。
「制服や校則と子どもの成果の関係が因果関係なのか相関関係なのかを考えることが重要」と中室さんは続けます。
中室:校則が厳しいから子どもたちが精神的に落ち着いていて問題行動が少ないのか、もともと精神的に落ち着いていて問題行動の少ない子がちゃんと校則を守っているだけなのか。現状、後者の可能性はかなりあると思います。厳しい校則を作ったとしても、子どもたちの成果があがらなければ、何のためにそれをやっているのかとなってしまうので。
「#この髪どうしてダメですか・署名プロジェクト」は、すでに1万人の署名を集めています。
中室:近いうちにこの署名とともに、みなさんの声を東京都知事と東京都教育長に届けたいと考えています。直ちに学校の黒染め指導がなくなるかどうかはわかりませんが、少なくとも議論のきっかけになって、学校や保護者や生徒も巻き込んで議論をしていくことの後押しをしていきたいと思います。
多様性を受け入れる社会にするために、ひとつ重要なトピックと言えそうです。動向をチェックしてみてください。
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放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
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