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いきものがかり・水野にとっての“グッドミュージック”は「桜のようなもの」その深い理由とは?

いきものがかり・水野にとっての“グッドミュージック”は「桜のようなもの」その深い理由とは?

J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:藤田琢己)。3月28日(木)のオンエアは、いきものがかりの水野良樹とのコンビでお届けしました。日替わりナビゲーターがお送りするコーナー「DAILY SESSIONS」。この日は、番組を卒業する水野が総決算として「水野良樹にとってグッドミュージックとは?」を語りました。


■グッドミュージックの定義

水野にとっての「グッドミュージックの定義」として最初にあげたのは、「一瞬で自分を変えるもの」です。水野は自身の人生を振り返って、音楽が内面を変えた経験が何度もあると明かします。

水野:僕は玉置浩二さんが大好きなので、玉置さんの一声を聴いた瞬間とか、BONNIE PINKさんの『Heaven's Kitchen』のドラムフィルとか、その一瞬だけで自分の内面を変えてしまう。それが音楽の素晴らしさなのかなと思います。外側の世界を変えてくれるものではなく、聴いた人の心の内側を変えてくれるもの。

「10代の頃はとても暗い渦の中に自分の身を置いていた記憶があります」と水野。

水野:思春期なんてそんなものですよね。そこに光を当ててくれたり、風を吹き込んでくれたりします。僕はこういう仕事を選ぶことになったので、ある種、希望の道に繋がっていたわけですけれども、そういうふうに内面をガラッと変えてしまう力が、音楽にはあったわけです。

再生ボタンを押して音が流れ、耳に届き、心が動いたときに自分が変化していく。変化した自分で世界を見ると、世界もまったく違って見える。水野はそれを「自分というソフトウェアを何回もアップデートしてくれるもの」と話します。「日常に対して挑戦的になれる力をくれるものが音楽だったような気がする」とも。

音楽をファッションとして楽しむ側面もありますが、水野はそうした楽しみ方には興味がなく、自分の心に変化を及ぼしてくれるもの、そういう音楽に惹かれると話し、「自分が作る音楽も誰かの心に変化を及ぼすものであってほしい」と展望を語りました。


■水野「新しいものを作っているなんて口が裂けても言えない」

続いて、「グッドミュージックの定義」として「過去と現在の接続」と「世界と人々との接続」を挙げました。

水野:僕のやっているポップスというのは、完全な新しさみたいなものはないんです。厳密に言うと、新しい再構築なんですね。先人たちが生み出してくれた要素がたくさんあって、95パーセント……、もっとかな? ほとんど先人が作った要素なんです。そこに、その時代に出てきた才能や新しいセンスを持った人が、現在の要素を足すことで、どんどんとアップデートされていき、現在のポップスのカタチがある。

「それがポップスのほとんどの在り方なのではないか」と水野。

水野:僕だって、メロディを書くときに「まったく新しいものを作ってる」なんて口が裂けても言えません。いろんな人たちが素晴らしいメロディを、それこそ幾千幾万と書いてきて、セオリーやクリシェが生まれたり、展開のメソッドが生まれたりしてきた。そういうのを自分なりに解釈して選び取って、今の自分のオリジナルとして世に出ていくわけです。いい音楽というのは、過去と現在の接続点の上にあるんですね。たった5分のポップソングのなかでも、数十年、下手したらもっと長い時間の、いろんな人の試行錯誤が詰まっているんですね。

その先に、私たちが聴いている「新曲」がある、いい音楽には「時」そのものが詰まっている、と水野は熱弁をふるいます。

水野:そして、今の時代の価値観で、今の自分のセンスで選び取る、作り手の視点が必ずそこに入っているんですね。作品というものは、作り手である僕は「これをいいと思いましたよ」「これってカッコよくないですか?」「これって感動できないですか?」って、世界に問いかけているようなものなんですよね。自分の価値基準を世界に問い、世界とコミュニケーションを取っているのが、作品を作るということだとあります。そこに覚悟、勇気、熱意があるときに、その音楽がグッドミュージックになるのではないかと思います。


■わかり合えない人にこそ伝わる

また、グッドミュージックは「人間の限界を超える」ものだとも話します。

水野:夢物語と笑われてしまうかもしれないけど、たとえ今日僕が死んでも、僕が書いた曲たちは、これから少なくとも数年間は誰かに聴かれ、運がよければ何十年間も誰かに聴かれ、誰かを励ましていくと思うんですよね。僕が死んでも、僕の命を軽々と超えていく、これはグッドミュージックですよね。

水野は、「自分が作った音楽を聴いている人の顔や名前を知らない、会ったこともない、でも自分の代わりに歌が出会っている」と話し、それが「人間の限界を超える」ことだと解説。

水野:僕のことを「嫌いだ」と言っている人も、僕の歌だったら好きになってくれるかもしれない。僕がわかり合えない人とも、僕の歌を通じて何か共通点が見出せるかもしれない。これは希望ですよね。

水野にとって歌は「自分という生命や価値を拡張してくれるもの」です。そして、「意見が分かれるところだけど」と前置きをして「『わかる人にだけわかればいい』とは言いたくない」と水野は続けます。

水野:わかり合えない人にこそ伝わっていく、自分という人間の限界を超えていく、それがグッドミュージックなんじゃないでしょうか。そうでなければ、僕にとって音楽を作っている意味はありません。


■「桜」のような歌を

そして最後に、「グッドミュージックは桜のようなもの」と水野。その回答には、深い理由が込められていました。

水野:2011年に東北で震災が起きたとき、そのときも桜が咲きました。とても美しかったです。当たり前ですが、桜は誰かを励まそうなんて思っていません。誰かを責めることもないし、感謝されようなんて思ってもいない。美しく咲こうという見栄もない。季節がきたら、ただそこに咲いている。昨年あったものがなかったり、昨年居た人が居なかったり……すごい悲しみがあっても、桜はそこでただ咲いてくれることによって、それを思い出させてくれる。こんなに優しいものがあるのかと、思い知らされました。悲しみを抱いた人を前にして励ませないとき、励まそうとしても言葉を間違えてしまい、または想いがすれ違ってしまってむしろ傷つけてしまうとき。今までの人生で何度もそんなことを経験しました。「なんて自分は愚かで、情けなくて、何もできない人間なんだろう」と。「桜のような歌が書けないか」。そんなことをずっと思っています。特に日本の人たちは、これまで色んな思いを桜に重ね合わせてきました。悲しみを重ねたい人は桜に悲しみを重ね、希望を感じたい人は桜に希望を見出しました。桜を見ているようで、結局自分の心を対話しているんです。自分の心と向き合う時間を、ただ咲いているだけの桜は見るものに与えてくれるんです。桜の中に人は、もうそこには居ない、今まで一緒に居た人との思い出を見ることができます。桜の中に人は、これから始まる新しい日々に希望を見ることができます。結果桜は、桜を見るその人が求める感情を、その人のなかに静かに咲かせてくれるんです。本当にやさしい。僕という人間はそんな存在にはなれません。でも、僕には幸いなことに「歌」があります。歌を作ることはできます。歌は、もしかしたら桜のような存在になれるかもしれません。「グッドミュージックは何か」と訊かれたら、「桜のような歌」だと答えます。これが、今の僕の答えです。たぶんこれからも変わらないんじゃないかなと思っています。僕という小さな人間の限界を超えて、季節が来ればただそこで咲いてくれる桜のような存在に、誰かの心が求めているものを、何も言わず、何も求めず、何も責めず、その人にそっと与えられる存在に「歌」はなれると思うんです。ちゃんと一生懸命につくれば、僕はそうなれると信じて歌を書いています。

音楽に対する水野のまっすぐな思いが明かされました。また、水野は「僕が励ますことの出来なかった人、愛することが出来なかった人、手を添えることが出来なかった心。そこに、静かに優しい花が咲くことを祈って……」と、いきものがかり『春』をオンエアしました。

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【番組情報】
番組名:『SONAR MUSIC』
放送日時:月・火・水・木曜 21時―24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/

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