廃業寸前の老舗旅館に、約19万人の外国人が! 持ち直せた理由とは

J-WAVEでオンエア中の『~JK RADIO~ TOKYO UNITED』。7月13日(金)のオンエアでは、休みのジョン・カビラに代わり平井理央がナビゲーターを担当しました。ワンコーナー「THE HIDDEN STORY」では、谷中にある「澤の屋旅館」に注目。連日外国からのお客さんで賑わう老舗旅館の秘密について、2代目・澤 功さんにお話を伺いました。


■追いつめられて…一時は廃業寸前に

昭和24年に開業した「澤の屋旅館」は、時代の流れとともに客足が遠のき、一時は廃業も考えたと言います。

:日本のお客さんの生活とか旅の仕方に、私どもの旅館が合わなくなっちゃったんですよね。板前さんも番頭さんも、みんな辞めてもらって、家族でなんとか頑張ろうと思ってやったんですけど、それでもお客さんが減っていったんですね。子どもも3人生まれて、なんとか生活しなきゃいけないのに、旅館ってお客さんが来ないとお金が入らないんです。私どもの旅館は12部屋あるんですが、全部和室で、畳に布団という形です。12部屋のうちお風呂とトイレがついている部屋が2部屋しかなかったので、お客さんから電話があって「きょう部屋ありますか?」と訊かれて「バストイレのある部屋は満室で、それ以外の部屋ならあります」と言うと、「じゃあけっこうです」って切られてしまうんです。もう本当に追いつめられて、廃業寸前までいったんですね。


■同業者からの意外なアドバイス


追いつめられた「澤の屋旅館」。事態を変えたのは、同業者からのアドバイスでした。

:もう亡くなられたんですけど、新宿に「やしま旅館」っていうのがあって、館主の矢島 恭さんが「日本のお客さんが来ないなら、外国のお客さんを受けなよ」って薦めてくれたんですよ。「とんでもない。日本のお客さんが泊まってくれない12部屋の全部和室で、しかもバストイレのある部屋が2部屋しかない。日本のお客さんが泊まってくれない旅館に、外国のお客さんが泊まってくれるわけないじゃないか」と思って。もうひとつは、言葉なんですね。フランスの人やイタリアの人が来て、フロントでフランス語やイタリア語を話されたら対応できません。1年間踏み切れなかったんです。今でも覚えているんですけど、昭和57年、夏にお客さんがゼロという日が3日間あったんです。「あ、もうつぶれるな」と覚悟しました。矢島さんは「いつでも見においで」って言ってくれてたので、家内を連れて電車に乗って新宿の「やしま旅館」を見に行きました。うちはお客さんゼロなのに、矢島さんのところはまさに外国の人で玄関まであふれちゃってるんですよ。矢島さんに旅館を見せてもらったら、12部屋全部和式、バストイレ付きは2部屋だけなんです。「え、旅館は一緒だ」と思いました。

「これならできるかもしれない」と思った澤さん。そして、「やしま旅館」から「澤の屋旅館」へのアドバイスは「設備をそのままにしておくこと」でした。

:「そのまんまでいいんだ」、「外国のお客さんを受けるために決して畳の上にベッドを置かないでね」、「日本の旅館に泊まりたいと思って来ているから決して洋風にしないでね」、「でもトイレだけは洋式に変えてね。あとはそのまんまの和式の部屋にしておいて」と。そうすると「障子を通す光がやわらかい」とか、「畳の上に初めて素足で歩いた感触がよいから、花ござを買って帰る」とか。だから、そのまんまの日本旅館で外国の方を受ける、それが一番喜ばれるというのは、矢島さんから教わったんです。

それから37年。去年までに訪れたお客さんは、92カ国からおよそ18万9000人。取材スタッフがうかがった日も、平日でしたが満室。海外からのお客さんに、なぜ「澤の屋旅館」を選んだのか伺いました。

フランスのイザベルさん:伝統的な旅館に泊まりたかったのでここを選びました。谷中という静かなエリアが好きです。

カナダのメアリーさん:畳やお風呂、浴衣が気に入りました。大きなホテルよりも東京の暮らしを楽しめています。 


■「うちのお客さんは、街のお客さん」

「澤の屋旅館」に宿泊する外国のお客さんは、谷中という街も楽しんでいる様子でした。

:周辺地図を作って、そこに外国のお客さんを受けてくださる、何軒か、食堂にお願いして、10~20泊もする方は、うちは泊まりと朝食だけなので、それ以外は街の中にお願いしました。37年前はまだほとんど外国の方はいらっしゃいませんでしたので、街の人も最初は戸惑っていましたけど、だんだん受け入れてくれるようになりました。町会の神輿をかつがせてもらって、お客さんは「自分が離すと神輿がダメになるんじゃないか」と思って、肩を真っ赤にして帰って来たり。いろんな催しの中に入れてくれるようになったんです。ご近所の方と友だちになって、ご近所の方がお客さんの国に行ったら面倒をみてもらったりとか。結局、うちのお客さんは街のお客さんだったんです。

澤さんは、最後にこんなことを話してくれました。

:いま、私には仕事の励みにしている言葉があります。それは「観光は平和へのパスポート」です。これは1967年の国連の国際観光年のスローガンだったんです。世界の人に来てもらって、日本の歴史や文化に接してもらって、そこで相互理解できれば、それが武力ではない平和につながるんだと。家族を養うために外国のお客さんを受けたけど、外国のお客さんがどんどん街の中に出て行って、日本の人と会って交流すれば、それが平和につながるんだと。それが仕事の励みになってるんです。

経営を立て直すために迎えた外国からの観光客。やがて、人と街のつながりが生まれ、お互いの文化を理解する交流するという大きな意味があることがわかりました。

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番組名:「~JK RADIO~TOKYO UNITED」
放送日時:金曜 6時-11時30分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/tokyounited/

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