吉井和哉が「いちばん泣けた」のは…ドキュメンタリー『みらいのうた』を、エリザベス宮地・山田健人と語り合う

ミュージシャンの吉井和哉と映像作家のエリザベス宮地が、演出家の山田健人とトークを展開。吉井の3年間に密着したエリザベス宮地の監督最新作『みらいのうた』について語り合った。

ふたりが登場したのは、12月12日(金)放送のJ-WAVE『THE PLAYBACK』(ナビゲーター:山田健人)。音だけでは完成しない世界で表現を続ける演出家の山田が、MVなどさまざまな“見る”を言語化するプログラムだ。

番組は、Spotifyなどのポッドキャストでも聴くことができる。オンエアの翌金曜に配信中だ。

このオンエアの全編はポッドキャストで配信。ここでは一部をテキストで紹介する。

・ポッドキャストページ

エリザベス宮地の密着は「アナコンダのように絡みついてくるよう」

12月5日(金)、吉井の3年間に宮地が密着したドキュメンタリー映画『みらいのうた』が公開となった。

【12.5(金)全国公開】『みらいのうた』予告編

吉井:そもそも、この曲(2021年リリースの吉井の楽曲『みらいのうた』)のミュージックビデオはダッチ(山田)くんが手がけてくれて。

吉井和哉 - みらいのうた

山田:そうなんですよ。

吉井:そして、この映画は宮地くんが撮ってくれて。

映画『みらいのうた』は、吉井のミュージシャンの原点であるURGH POLICEのボーカル・EROとの関係と、吉井が喉頭がんと告知されてから2024年に東京ドームで復活ライブを行うまでの裏側が克明に記録されている。

山田:僕も7、8年くらいTHE YELLOW MONKEYというか、吉井さんとずっと一緒にいて、THE YELLOW MONKEYの東京ドームとかもずっとご一緒していたので、たぶん最初この映画どうこうの前の宮地さんが「とりあえず何か撮る」みたいな(ところから知っていて)。

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山田:最近、「何してるの?」って言ったら「吉井さんと一緒に吉井さんの地元のほうに行ってる」みたいなことを言っていて。

宮地:たしかに。

山田:BiSHとか藤井 風とかの現場でもしょっちゅう一緒だったので、「明日は何してる?」ってふたりでよく飲んでたりもして、「海に行ってきた」とかいろいろ話を聞いていたんですね。それで映画を観て、「これ、あのときに言ってたあれかな」って。でも、どんなものが撮れて、どうまとまっているのかは知らずに、ついこのあいだ拝見して、面白かったです。すごい。宮地さんのドキュメンタリー作品って好きなんですけど。

吉井:この感じってなんだろうね、この人。

山田:なんですかね。脇腹にカメラ抱えて、ニコニコしながら来るじゃないですか。撮られてる感じがしないっていうか。

吉井:そうそう。この方のお師匠さん(カンパニー松尾)は、カメラを絶対に離さない、ちょっとセクシャルなカメラマンさんで、ある意味で僕も途中からそういう被写体になっているような感じになってきたの。アナコンダのように絡みついてくる部分もある。敬語だし、この髪型だから騙されるけど「これは作戦なのかな?」って途中で思ったこともあって(笑)。

山田:ブランディングなのかもしれない(笑)。でも、撮るってなったらとことん撮るじゃないですか。

宮地:時間の許す限り。

山田:だって3年間でしょ? すごいですよね。最後のシーンのEROさんとのライブは……。

宮地:今年の3月です。

山田:ついこのあいだまで撮ってたんだ。

宮地:なので、3年間撮影した素材がたくさんあって、全然使ってないものとかめちゃくちゃありますね。

『ONE PIECE』みたいにどんどん新しいキャラが現れる

『みらいのうた』は一見すると音楽ドキュメンタリーやアーティストのファンムービーと捉えられがちだが、まったくそんなことはないと山田は口にし、吉井も同調する。

吉井:社会的な部分も深く映されてるし。

山田:(とにかく)EROさんがめちゃくちゃかっこよくて。あの世界観というか。まず思ったのが、お部屋のかっこよさです。ファッションも。ハンパない(笑)。

吉井:俺もそんなこと言ってもらったことないのにな(笑)。

山田:違うんです(笑)。EROさんがお部屋で歌の練習をされている、どえらいかっこいいカットが急にきて「なんだ、これは?」って。

宮地:EROさんがご自宅で歌っているシーンを撮ったときに、ゾゾゾっとしましたね。ものすごく絵になる方で。

吉井:EROの家に初めて連れて行ったとき、目の色が変わってたから、これはきっとカメラが喜ぶ被写体なんだろうって感じでした。

宮地:場所の力といい、すべてがすごかったです。

吉井:僕はずっと当事者だから気付いてなかったけど、バイトしてたロッテリアとか(EROが通う)教会もあったりして。こんな近くにこんなセットがあるのかって。

宮地:地場がすごいですよね。

映画には、吉井の地元・静岡の旧友との交流も登場する。

山田:(ご友人の)みなさんが独特のパワーというか、引き立つ何かがあって。

宮地:キャラが強いんですよ。

山田:あと、教会の方もなんか特殊な力を持ってる感じがして。

宮地:『ONE PIECE』的に言うと、どんどん新しいキャラが現れる感じで。

山田:まだ濃い人が出てくるんだって。

吉井:逆に、そういう人たちといまでも付き合ってるのは、彼らの持ってる芯の部分に自分が欲してるところがあるのかもしれないし。何気ないひと言が効くし。俺にとって漢方みたいな人たちなんだよ(笑)。

吉井の“下ネタ”が作品を風通しをよくした?

宮地は映画の内容に触れ、「ライブを延期する判断をめぐる打ち合わせのシーンなどの過程がそのまま収められているので、ちょっと生々しい」と語る。

山田:緊張があるというか。

吉井:そもそも、コロナのときに東京ドーム2デイズを開催予定で、チケットもほぼソールドアウトしていたにもかかわらず払い戻したっていうところから始まってるドームの因縁でもあるし。僕の病気のせいで次の公演も飛ばすと、事務所も火のついた車だったのでつぶれちゃうなってことで、それも必死だったところもダッチくんは知ってると思うんだよね。

山田:そうですね。だから、それも振り返れたというか。我々みたいなスタッフは何があろうと、やるならやるで頑張るだけですけど、こんなそばでこんな距離感で撮ってたんだって。すごい緊張感を感じましたね。

宮地:最初は1年くらい撮影したら、ある程度、作品としてまとまるのかなって思ってたんですけど、特に吉井さんの病気がわかってからは先が読めない状況が続いたので。

吉井:(復活ライブになった)2024年4月の東京ドーム公演のときに、それまでに撮れていた素材をダイジェストで『人生の終わり(FOR GRANDMOTHER)』という曲の前にインターバルで流していただいて。そのあとに『復活の日』という、ドームのあとに始まった新譜『Sparkle X』を引っさげてのツアーだったんですけど、肝になるその曲のイメージ映像をダッチくんにお願いして。だから、ドーム公演でめっちゃ貢献していただいたおふたりをいま、目の前にしているわけですよね。ありがとうございます。

二転三転しかねない緊張感のある状況のなか、「吉井さんが映画でたまに下ネタを入れてくれたおかげで助かった」と山田は言う。

山田:そうじゃなかったら、すごく重たい(作品になったと思います)。

吉井:いまどき役に立つ下ネタって、それくらいしかないですけどね(笑)。

宮地:吉井さんの下ネタだったりが、すごく作品を風通しよくしてくれたというか。題材的にはどうしてもすごく重たくなりそうなんですけど。

吉井:病気になって大変ですって感じにしてもらってますけど、そもそもEROもそうだし、僕も若いときに好き放題にやってきたので。90年代のある意味でロックンロールのゆとり世代で、酒も飲んでタバコも吸って、いまでは考えられないような好き放題やってきた部分もあるので、裏タイトルは「罰当たり」なわけですよ。「天罰」だ。神様も潜んでるから。そういう感じなので、下ネタとかで茶化すしかなかったよね(笑)。

宮地:でも、僕だったらなかなかああいう感じの所作はできないなって。

吉井の「いちばん僕が泣けたシーン」は…

吉井は「あえてこの映画にダメ出しをするとしたら、どこ?」と山田に問いかける。

山田:これ、自分へのダメ出しになるんですけど、劇中に流れる、僕が監督させてもらったTHE YELLOW MONKEYのライブ映像が微妙でした。

宮地:ストイックだなぁ。

吉井:自分のやったやつか。

山田:僕、フラットに観させていただいて、間で流れるTHE YELLOW MONKEYのライブとか、ほかもあったかな……あの映画で宮地さんが撮ってるなかでは異物感があったんですよ、あれがよくない。

吉井:売りものなんですけど(笑)。

宮地:ライブ映像としては本当にすばらしい映像ですよね。

山田:でも、本編との温度が違うんですよね。

宮地:そこは、みなさんは気になってないと思いますけど。

山田:僕はめっちゃ気になったんだよな。ライブ映像がもうちょっとこうだったらなって思うところがめっちゃありました。

吉井:でも、うれしいね。そうやって思ってもらえて。

山田:だから、もっとよくなるべき作品だったと思って反省してます。

吉井:いやいや、ありがとうございます。

山田:そのほかのダメ出しはなくて。本当に楽しく観させてもらったし、もっと長くてもいいくらいでした。

ここで「お気に入りのシーンは?」と山田が宮地に尋ねると、長年、THE YELLOW MONKEYを支えてきたキーボーディスト・三国義貴の名前を挙げた。

宮地:三国さんもとにかく魅力的なんですよ、見た目的にも。僕、途中から執拗に三国さんを追いかけちゃって。三国さんが食べてるものとかも気になるようになっちゃって、食べてるものを撮ったりして。

吉井:何を食べてたの(笑)?

宮地:コンビニとかで売ってるパンケーキとか、菓子パンを毎回食べていて。吉井さんが「なんで今日はそのパンなの?」って訊いて。

吉井:たしかに、菓子パン好きなんだよね。三国さんは相変わらずヘビースモーカーでお酒もめっちゃ飲んで、菓子パンだからね。だから、あの人はいわゆる世間でやっちゃいけないものに属さないんだね。

宮地:ライブ後の三国さんのシーンがとにかくお気に入りですね。すばらしいシーンがあるので。

山田:吉井さんはお気に入りのシーンはありますか?

吉井:いちばん僕が泣けたのは、自分の親父が死んで、ひとりで暗くなって小学生のときに「ここにいたら親父に会えるかも」って思って行っていた海をドローンで撮ってくれたとき。あれはだいぶグッときた。

宮地:エンディングでちょっと入れさせていただいて。

吉井:“ドローン宮地”って呼んでるんだけど、何かとドローンじゃない? (エリザベス宮地の前作)『WILL』もドローンで終わったし。

山田:そうですね。しかもドローンを真上にあげがち(笑)。宮地あるある。

吉井:(笑)。

宮地:上にあげることしかできないんです(笑)。

山田:そうか、そうか。でも、すごくいいカットでしたよね。なかなかあの目線で見られないですからね。

吉井:あのきれいな駿河湾を上空から撮ってくれて。

宮地:あの海もすごくパワーがありますよね。

吉井:あるんですよ。あそこはパワースポットなので。

この日の放送の最後にはこんなやり取りもあった。

山田:最後にもう1曲お届けしたいと思いますが、どうしましょうか?

吉井:(『みらいのうた』)はいろんなロッカーの話というか、僕は新しいロックムービーだと思っていて。で、The Birthday、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのチバ(ユウスケ)くんのくだりがあって、せっかくだからThe Birthdayの『声』という曲を聞いてもらおうと思います。

Koe

映画『みらいのうた』の最新情報は公式サイトまで。

なお、吉井和哉とエリザベス宮地は次週12月19日(金)の『THE PLAYBACK』にも引き続きゲスト出演する。

12月12日(金)の放送は11月21日(金)28時ごろまで、radikoのタイムフリー機能で楽しめる。

J-WAVE『THE PLAYBACK』は演出家・山田健人が、音だけの世界=「ラジオ」でその頭の中に浮かんでいる世界や作品について言語化していく。放送は毎週金曜26時から。
番組情報
THE PLAYBACK
毎週金曜
26:00-26:30

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