三宅 唱監督、中3の頃に初めて映画撮影をして…夢中になった“気づき”とは?

映画監督の三宅 唱が、映画や音楽との出会いや、11月7日(金)公開の監督最新作『旅と日々』について語った。

三宅が登場したのは、11月1日(土)放送のJ-WAVE『SAPPORO BEER OTOAJITO』(ナビゲーター:クリス・ペプラー)。ビールを飲みながら、クリスとゲストが音楽談義を繰り広げる番組だ。

この番組では、ゲストがビールに合う“おみや”を紹介する。三宅は丸金商店『神津島産 赤イカ 塩辛』を持参し、ビールとともに楽しんだ。

映画のマジックに気付いた中学時代

三宅 唱は1984年生まれ、北海道札幌市出身。東京の大学と映画学校を卒業し、映画監督の道へ。2022年公開の『ケイコ 目を澄ませて』、そして2024年公開の『夜明けのすべて』が国内外の映画祭で高く評価され、現在の日本映画界を牽引する存在として注目されている。

クリス:小さいころから映画はお好きだったんですか?

三宅:好きでしたし、よく家族で観に行ってました。ただ、まわりに映画の仕事をしている人がいないので、遠い世界に感じてはいましたね。

クリス:初めて観た映画は?

三宅:それはちょっと覚えてないんですけど、小さいころに大好きだったのは『ホーム・アローン』ですね。(主演のケビンが)僕のヒーローでした。彼のように映画を観終わったら家の中のものを右から左に移して、自分の城を作って籠城したりして、楽しかったですね。

クリス:札幌から上京したのは映画監督になるためだったんですか。

三宅:というよりも、もっとたくさんの映画が観たいっていうのがまずありました。札幌でも観られましたが、東京に行くとどうやら名画座があって、あれこれクラシック映画とかもっと観られるぞっていうのがあったので、とにかく映画好きの生活を送りたいっていうのが第一でしたね。

三宅が初めて映画を撮ったのは中学3年のころだった。

三宅:学校の文化祭で友だちと3分のビデオを作ったら、撮ること自体がめちゃくちゃ面白くて。そこから映画をもっと観てみようってことで、映画好きになっていきました。

クリス:それはどんな作品だったんですか。

三宅:僕が主演で、学校を走り回ってる映画です。追いかけっこの映画なんですけど、撮られるときに気が付いたのが、1階の教室を出たところを4階の教室から出てくるように撮れば、1階と4階が映画の中でつながっちゃう。あるいは校舎は4階建てでしたけど、階段の撮り方を工夫すれば8階建てのビルにも見せられたりする映画のマジックに気が付いて、1週間くらい夢中になって撮影してましたね。

「俺が聴きたいのはこれ!」と感じた作品

幼いころはサッカーにも夢中で、初めて買ったCDは好きなJリーグチーム・読売ヴェルディ(現・東京ヴェルディ)の応援歌『SAMBA DE VERDY』だったという。

三宅:これを家の中で聴いて、ブラジル気分を味わっていました。そうしたらなかなか賑やかだったので、父から「次はこれを聴け」ってアントニオ・カルロス・ジョビンのCDに替えられました。

クリス:同じブラジルでもずいぶん違いますね。そのあとはどんなCDを買って聴いていましたか。

三宅:流行りのものも買ったと思うんですけど、1999年リリースのPUSHIMさんの『STRONG WOMAN』を買ったときに、音楽好きとして自分の輪郭が一段階はっきりしました。特に低音、ベースの音で「俺が聴きたいのはこれ」ってはっきりした記憶がありますね。

PUSHIM『Strong Woman (Original Mix)』

クリス:そこからレゲエに向いていった感じですか。

三宅:レゲエもそうですし、ローリン・ヒルとかメアリー・J. ブライジとかR&Bに広がっていって、そこからヒップホップもよく聴くようになりましたね。

クリス:熱中して聴いたアーティストとかアルバムはありますか。

三宅:当時、いちばん聴いてたのはディアンジェロの『Voodoo』ですね。そのころ、誰かと共有してなくて、東京に出てきてから「あなたも聴いてたの?」とか、別の世代と話すとき「ディアンジェロ好きなら仲間だね」みたいな感じがすごくあります。

Devil's Pie

音楽は趣味としてとっておきたい領域かもしれない

三宅がヒップホップを聴くようになったのは、地元のラジオで耳にした曲だったという。

三宅:ちょうど日本のヒップホップも流れてきて、ブッダ・ブランドとか。「なんだ、この音楽。かっこいい」ってことでラジオをテープに録音して、リリックを書き起こして。それくらい熱中して聴いてましたね。そこから日本語ラップが好きで、自分より下の世代ですけどOMSBなんかが出てきたときは超かっこいいなと思って、『Think Good』はめちゃくちゃ聴きましたね。



クリス:音楽テイストと三宅さんの作品とのギャップを感じるんですけど、ご自身ではあまりギャップはない?

三宅:どうなんでしょう。どこかにハッピーなものがあればいいなとは思っていますけど。でも、よく意外だとは言われます。

クリス:将来的にはヒップホップを題材にした映画とか撮ろうと思いますか? 音楽と趣味嗜好と自身の映像作品は別物なんですかね。

三宅:また1個違うかもしれないですね。でも、レディー・ガガ主演の映画『アリー/ スター誕生』なんて観ると、それまで正直、レディー・ガガってぶっちゃけ見た目で判断していたんですよ。でも、この映画を観て「こんなにすごいの!?」ってめちゃくちゃ好きになって、そこからアルバムを聴いてみたら好きってなって。ああいうものはやってみたいなって思ってました。ただ、ヒップホップが好きでOMSBとかBIMくんとか、PUNPEEさんとかJJJとか知り合いになってから少し聴き方が変わったように、アーティストと親しくなってしまうと変わってしまうので、もしかしたらあえて仕事にせず、趣味としてとっておきたい領域な気もしています。

最新作は疲れている人ほど刺さる映画

三宅の最新作『旅と日々』が11月7日(金)に公開。この作品はスイスのロカルノ国際映画祭で、最高賞である「金豹賞」、そして「ヤング審査員賞」をダブル受賞した。この作品は、つげ義春の原作をもとに、主演はシム・ウンギョン、共演には堤 真一、河合優実などを迎えて制作された。

【本予告】三宅唱監督最新作『旅と日々』

クリス:今作は三宅さんが脚本も手がけていますが、50年以上前の漫画が原作なんですね。これはどんなところにひかれて映画化されたんですか。

三宅:僕、この漫画を初めて読んだのは学生時代なんですけど、そのときも「こんな漫画を読んだことないぞ」と。僕は普段、漫画を読むときはついついセリフばかり追っちゃうんですけど、つげ義春さんの漫画は1コマ、1コマじっくり味わいたくなるし、年を追うごとに読み返すたびに印象が変わっていきました。とんでもないぞってずっと頭の中にあった漫画です。

クリス:なぜ、シム・ウンギョンさんを主人公役にしようと思ったんですか?

三宅:漫画では日本の中年男性が主人公なんですけど、あるときシム・ウンギョンさんが演じたらむちゃくちゃ面白くなるんじゃないかなって直感がありました。一度、彼女に会ったことがあって、第一印象がものすごく鮮やかで、山の中に行ったときに湧き水がキラキラ輝いているような、特別な珍しいものを見たいときの美しさ、驚きがあって。純粋さというか。それと、つげさんの漫画の登場人物たちが持っている素直さみたいなのに似たものを感じました。

音楽は三宅作品に数多く劇伴を提供している、トラックメイカーのHi'Specが担当している。

三宅:今回は「ゴージャス」がキーワードでした。いわゆる金銭的なものではなくて、山とか海の壮大さ、もしくは恐ろしさとか大きさ、広がりですよね。あれをひと言で言うと「ゴージャス」って呼んでみようと。映画の中でその風景に驚いたりしてほしいと思って撮っているんですけど、音楽によってそういう気持ちのスイッチが入っていけば、きっと映画も一段階深く味わってもらえるかなと思って「ゴージャス」ってキーワードになりました。

クリス:あらためて、この映画の見どころはなんでしょう。

三宅:映画館で味わってほしいと思います。それに値する映画が作れたなって自信がありますし、試写で聞いた感想では、疲れている人ほど刺さる映画だと。いま、みんな仕事だったり家のことだったりいろいろ悩んだりってあると思うんですけど、いざ旅に行くってなるとお金も時間もかかるので、もし近くに映画館があればふらっと行ってちょっと休んで、何かリフレッシュできるような、そういう存在になってくれたらと思います。

『旅と日々』の詳細は公式サイトまで。

番組の公式サイトには、過去ゲストのトーク内容をアーカイブ。オンエアで扱った音楽の情報も掲載している。

・過去ゲストのアーカイブページ https://www.jwave.co.jp/original/otoajito/archives.html

『SAPPORO BEER OTOAJITO』では、毎週さまざまなゲストを迎えてお酒を飲みながら音楽トークを繰り広げる。放送は毎週土曜18時から。
radikoで聴く
2025年11月8日28時59分まで

PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

番組情報
SAPPORO BEER OTOAJITO
毎週土曜
18:00-18:54

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