小説家の金原ひとみが、自身の最新作『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』(文藝春秋)について語った。
金原が登場したのは、5月15日(木)放送のJ-WAVE『GRAND MARQUEE』(ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann〈セレイナ・アン〉)のコーナー「RADIO ENSEMBLE」だ。
タカノ:4月に『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』を発表されました。作品の舞台となるのが出版界で、性的搾取やセクハラ、SNSでのトラブルを8人の登場人物の視点を通して描かれています。いわゆる加害者から、告発をした人、相談を受けた人、加害者の同僚、加害者の家族と、年齢も立場も違う8名が登場します。えぐかった、すごかったです。
セレイナ:作品に引き込む力と言いますか。扱っているトピックは重いものだけど、全然、身構えなくてもするする読めてしまうような。もちろん、衝撃的なシーンもたくさん出てきますが、読み進める力というか、(読み手を)引き込む文章の力がすごいなと思いました。
金原:敷居を下げておきたい、という気持ちがあるので。そういう軽い気持ちでぜひ読み始めてもらいたいなと思っています。
タカノ:ページをめくる手が止まらなくなっちゃうんですよ。僕はぞっとしたというか、「人間というのは、わかり合えないのかな」みたいな印象もありました。でも、それを踏まえたうえで生きていかなければいけないという。理解できないからこそ、想像するということは大事だな、ということに気づかされました。
セレイナ:私は読後感が前向きなイメージがあって。人は孤独というものを感じるけど、それぞれ感じながらもお互いの孤独を認め合って寄り添って生きていかなければいけないのかな? というふうに感じました。
金原:わかり合えないというのももちろんそうですが、わかり合えないうえで一緒に生きていかなければいけないよねと。みんなで考え続けるとか、相手の気持ちを想像し続ける、といったことを想っていただけたらいいなと考えていたので、うれしいです。
金原:性加害や性的搾取の問題については、ずっと書きたいテーマとしてありました。自分自身がどの立場からコミットしていったらいいんだろう、というのをすごく考えあぐねていたところがあって。でも「いい加減そろそろ書かないと」と思って書き始めたときに、「自分はこう思う」ということをぶつけるのではなくて、「どういうことなんだろう?」というのをみんなで考えていく構成にしたかったんです。このかたちで書こうと思ったときに「これなら書ける」と感じて始まりました。
セレイナ:舞台が出版業界です。金原さんはまさに出版業界のど真ん中にいると思いますが、中にいるからこその書きやすさや、知っている現状もあると思います。それと同時に、書いてしまうことによっていろいろな見方をされる可能性があるとか、内側にいるからこそのこのトピックの難しさみたいなものはありましたか?
金原:あまり考えないで書いたかもしれないです(笑)。でも、小説にできるいいところって「これはフィクションだから」という前提のうえで書けるというのがあります。なにも包み隠さずに書こうとも言えるし、気負わずに思うように書かせてもらいました。
セレイナ:登場人物もすごく多くて、それぞれの視点も非常に多角的です。誰しもが被害者でもあり、加害者でもあるという、その感覚。そして、それぞれの世代や性別も違います。ここまでの解像度を出すためにやったこと、取材的なこともされたのでしょうか。
金原:出版業界が舞台なので、身近に触れあっている人たちがかなりモデルになってくれました。たとえば、加害者として扱われる木戸という、最初に出てくる登場人物は私の中に3人ぐらい思い浮かぶ人がいて。そのなかの要素と「こんなことがあったらしい」と聞いた話や、いろいろなエピソードを詰め込んでひとつの人格を作り上げていきました。若い世代は普段接している自分の子どもとか、そういう子たちの話を訊いて人物像をちょっとずつ練り上げていきました。
タカノ:全員が全然、立場も年齢も違うのに内面の描写がすごいじゃないですか。あれはどうなっているのかなと思って。
金原:作っていって、自分も絶対に共感できるところがあると思っていて。どんなに「こいつ嫌だな」と思っても、心を込めていくと「あ、そうか。こういう時代を生きてきたんだ」「こういう背景があるんだ」と、一緒に知っていくという体験でした。
タカノ:執筆期間でいうとどのくらいになるんですか。
金原:2年弱ぐらいですかね。連載自体が2年弱あって、構想はその前の数カ月という感じです。
タカノ:最初にプロットというか、構造はしっかり考えてからですか?
金原:そこまではっきりしていないです。というのも、性加害を取り巻く環境は日々変わっていくし、世論もどんどん移り変わっていくので、カチッと決めすぎてしまうと、書きこぼしてしまうところがあるかもしれないと思って、わりと緩めのプロットを立てて書き始めました。
タカノ:SNSの描写はリアルでした。
セレイナ:ネットスラングとかね。
タカノ:SNSは普段、どう取材されているんですか?
金原:自分は見る専門で、XもInstagramも見ています。そこで行われていることで、えぐられることも多いので。自分の中でも「こういうことに対して、こういう反応があるのか」みたいなことは、常々見てはいます。
タカノ:そういったものも小説の取材になるというか。
金原:私生活はすべて、なんでも活かせると思ってやっています。
セレイナ:お友だちとのご飯といった側面でもインプットしたりされているんですか?
金原:ありますね。「それ書いていい?」と、その場で言います(笑)。いちおう許可は取って。もちろん名前や設定も変えますが、「このエピソードは絶対に使いたい」と思うものには反射的に飛びついてしまうところがあります。あとはご飯を食べていて、後ろから聞こえてくる話とかでも「これはいいやり取りしているな」と思ったら、ちょっと書き留めておこうとかは、よくやっています。
セレイナ:ネタ帳的なものをお持ちだったりするんですか?
金原:いまはスマホにメモして保存しておくことが、ほとんどですね。
タカノ:今回、原稿用紙1,000枚の長編ですが、途中からスランプではないですが、書けなくなることはありましたか?
金原:今回は「書きたい」という気持ちが高まっていた時期に書き始めたし、次々と「これも活かしたい」と思うことが出てきたんです。なので、毎回書くたびに「デトックスだ」みたいな。今回はすごく気持ちのいい執筆でした。
タカノ:金原さんはいつも、どこで執筆されているんですか? 以前、村田沙耶香さんが来てくださったときは「人がざわざわするところで書くんです」とおっしゃっていました。
金原:村田さんはいつもデカい荷物を持って、あちこちに書きに出かけていると。私はおうちがほとんどで、たまに集中できないなというときや子どもが家にいるときはカフェや喫茶店に行きます。
タカノ:時間は決めているんですか?
金原:最近、朝方になって、朝の10時から夕飯ぐらいまでの時間を執筆にあてています。
タカノ:やはり長いですね。
金原:忙しいときは、それにプラスして深夜もちょっと書いています。
金原ひとみ『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』の詳細は、文藝春秋が運営するウェブサイト「本の話」まで。
アーティストがスタジオに生出演し、トークと音楽をお届けするコーナー「RADIO ENSEMBLE」は、月曜〜木曜の17時10分ごろからオンエア。
金原が登場したのは、5月15日(木)放送のJ-WAVE『GRAND MARQUEE』(ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann〈セレイナ・アン〉)のコーナー「RADIO ENSEMBLE」だ。
出版界を舞台にした作品
金原は2003年に『蛇にピアス』ですばる文学賞を受賞してデビュー。2004年には同作で芥川賞を受賞。その後もコンスタントに作品を発表しており、新人文学賞の選考委員も務めている。タカノ:4月に『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』を発表されました。作品の舞台となるのが出版界で、性的搾取やセクハラ、SNSでのトラブルを8人の登場人物の視点を通して描かれています。いわゆる加害者から、告発をした人、相談を受けた人、加害者の同僚、加害者の家族と、年齢も立場も違う8名が登場します。えぐかった、すごかったです。
セレイナ:作品に引き込む力と言いますか。扱っているトピックは重いものだけど、全然、身構えなくてもするする読めてしまうような。もちろん、衝撃的なシーンもたくさん出てきますが、読み進める力というか、(読み手を)引き込む文章の力がすごいなと思いました。
金原:敷居を下げておきたい、という気持ちがあるので。そういう軽い気持ちでぜひ読み始めてもらいたいなと思っています。
タカノ:ページをめくる手が止まらなくなっちゃうんですよ。僕はぞっとしたというか、「人間というのは、わかり合えないのかな」みたいな印象もありました。でも、それを踏まえたうえで生きていかなければいけないという。理解できないからこそ、想像するということは大事だな、ということに気づかされました。
セレイナ:私は読後感が前向きなイメージがあって。人は孤独というものを感じるけど、それぞれ感じながらもお互いの孤独を認め合って寄り添って生きていかなければいけないのかな? というふうに感じました。
金原:わかり合えないというのももちろんそうですが、わかり合えないうえで一緒に生きていかなければいけないよねと。みんなで考え続けるとか、相手の気持ちを想像し続ける、といったことを想っていただけたらいいなと考えていたので、うれしいです。
ずっと書きたかったテーマだった
金原は今回、“告発”を題材にして作品を書いた理由について明かした。金原:性加害や性的搾取の問題については、ずっと書きたいテーマとしてありました。自分自身がどの立場からコミットしていったらいいんだろう、というのをすごく考えあぐねていたところがあって。でも「いい加減そろそろ書かないと」と思って書き始めたときに、「自分はこう思う」ということをぶつけるのではなくて、「どういうことなんだろう?」というのをみんなで考えていく構成にしたかったんです。このかたちで書こうと思ったときに「これなら書ける」と感じて始まりました。
セレイナ:舞台が出版業界です。金原さんはまさに出版業界のど真ん中にいると思いますが、中にいるからこその書きやすさや、知っている現状もあると思います。それと同時に、書いてしまうことによっていろいろな見方をされる可能性があるとか、内側にいるからこそのこのトピックの難しさみたいなものはありましたか?
金原:あまり考えないで書いたかもしれないです(笑)。でも、小説にできるいいところって「これはフィクションだから」という前提のうえで書けるというのがあります。なにも包み隠さずに書こうとも言えるし、気負わずに思うように書かせてもらいました。
セレイナ:登場人物もすごく多くて、それぞれの視点も非常に多角的です。誰しもが被害者でもあり、加害者でもあるという、その感覚。そして、それぞれの世代や性別も違います。ここまでの解像度を出すためにやったこと、取材的なこともされたのでしょうか。
金原:出版業界が舞台なので、身近に触れあっている人たちがかなりモデルになってくれました。たとえば、加害者として扱われる木戸という、最初に出てくる登場人物は私の中に3人ぐらい思い浮かぶ人がいて。そのなかの要素と「こんなことがあったらしい」と聞いた話や、いろいろなエピソードを詰め込んでひとつの人格を作り上げていきました。若い世代は普段接している自分の子どもとか、そういう子たちの話を訊いて人物像をちょっとずつ練り上げていきました。
タカノ:全員が全然、立場も年齢も違うのに内面の描写がすごいじゃないですか。あれはどうなっているのかなと思って。
金原:作っていって、自分も絶対に共感できるところがあると思っていて。どんなに「こいつ嫌だな」と思っても、心を込めていくと「あ、そうか。こういう時代を生きてきたんだ」「こういう背景があるんだ」と、一緒に知っていくという体験でした。
タカノ:執筆期間でいうとどのくらいになるんですか。
金原:2年弱ぐらいですかね。連載自体が2年弱あって、構想はその前の数カ月という感じです。
タカノ:最初にプロットというか、構造はしっかり考えてからですか?
金原:そこまではっきりしていないです。というのも、性加害を取り巻く環境は日々変わっていくし、世論もどんどん移り変わっていくので、カチッと決めすぎてしまうと、書きこぼしてしまうところがあるかもしれないと思って、わりと緩めのプロットを立てて書き始めました。
普段の生活から生まれるヒント
金原は小説を書く際のインプット方法について明かした。私生活そのものを作品に活かしているのだという。タカノ:SNSの描写はリアルでした。
セレイナ:ネットスラングとかね。
タカノ:SNSは普段、どう取材されているんですか?
金原:自分は見る専門で、XもInstagramも見ています。そこで行われていることで、えぐられることも多いので。自分の中でも「こういうことに対して、こういう反応があるのか」みたいなことは、常々見てはいます。
タカノ:そういったものも小説の取材になるというか。
金原:私生活はすべて、なんでも活かせると思ってやっています。
セレイナ:お友だちとのご飯といった側面でもインプットしたりされているんですか?
金原:ありますね。「それ書いていい?」と、その場で言います(笑)。いちおう許可は取って。もちろん名前や設定も変えますが、「このエピソードは絶対に使いたい」と思うものには反射的に飛びついてしまうところがあります。あとはご飯を食べていて、後ろから聞こえてくる話とかでも「これはいいやり取りしているな」と思ったら、ちょっと書き留めておこうとかは、よくやっています。
セレイナ:ネタ帳的なものをお持ちだったりするんですか?
金原:いまはスマホにメモして保存しておくことが、ほとんどですね。
タカノ:今回、原稿用紙1,000枚の長編ですが、途中からスランプではないですが、書けなくなることはありましたか?
金原:今回は「書きたい」という気持ちが高まっていた時期に書き始めたし、次々と「これも活かしたい」と思うことが出てきたんです。なので、毎回書くたびに「デトックスだ」みたいな。今回はすごく気持ちのいい執筆でした。
タカノ:金原さんはいつも、どこで執筆されているんですか? 以前、村田沙耶香さんが来てくださったときは「人がざわざわするところで書くんです」とおっしゃっていました。
金原:村田さんはいつもデカい荷物を持って、あちこちに書きに出かけていると。私はおうちがほとんどで、たまに集中できないなというときや子どもが家にいるときはカフェや喫茶店に行きます。
タカノ:時間は決めているんですか?
金原:最近、朝方になって、朝の10時から夕飯ぐらいまでの時間を執筆にあてています。
タカノ:やはり長いですね。
金原:忙しいときは、それにプラスして深夜もちょっと書いています。
金原ひとみ『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』の詳細は、文藝春秋が運営するウェブサイト「本の話」まで。
アーティストがスタジオに生出演し、トークと音楽をお届けするコーナー「RADIO ENSEMBLE」は、月曜〜木曜の17時10分ごろからオンエア。
番組情報
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