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大滝詠一は「図書館の司書」のよう…研究熱心で計算された楽曲づくりとは? 鈴木 茂もコメント

大滝詠一は「図書館の司書」のよう…研究熱心で計算された楽曲づくりとは? 鈴木 茂もコメント

今年は昭和100年にあたる年。昭和は戦前、戦後、高度成長期を経て日本語が大きく変化した時代だ。飛躍のなかで音楽もさまざまな変遷をたどり、バリエーション豊かとなった。音楽が人々の日常に根付くなか、ラジオも文化の礎を築いてきた。そこでJ-WAVEは、昭和から平成、令和へと響き続けてきた名曲・名盤に注目するスペシャル企画「ECHOES OF THE BEAT」を実施。作品はどのような過程を経て誕生したのか、後世にどのような影響を与えたかに迫る。

5月11日(日)放送の特別番組『ECHOES OF THE BEAT 大滝詠一「NIAGARA SONG BOOK」』では、大滝詠一と、インストゥルメンタル作品『NIAGARA SONG BOOK』に注目した。アレンジを手がけた井上 鑑、レコーディング・エンジニアの吉田 保をゲストに招き、『NIAGARA SONG BOOK』の制作秘話、大滝との思い出を聞いた。コメントゲストとして鈴木 茂が登場した。ナビゲーターはグローバー。

大滝詠一は「“図書館の司書”みたい」

大滝は1970年、細野晴臣、松本 隆、鈴木 茂とともに、バンド・はっぴいえんどでデビュー。解散後はナイアガラ・レコードを設立し、さまざまな作品を生み出す。自身もソロ活動のほか、プロデュースや楽曲提供などによって、日本の音楽シーンに多大な影響を与えた。2013年12月30日にこの世を去ったあとも、その高い音楽性は国内外で高く評価され、いまなお愛され続けている。

『NIAGARA SONG BOOK』は、そんな大滝の音楽的趣向が存分に詰め込まれたインストゥルメンタル作品だ。ナイアガラ・レコードの設立50周年を記念して、2025年3月21日(金)にストリングス/オーケストラによるCD3枚組インストゥルメンタル作品集『Complete NIAGARA SONG BOOK』がリリースされた。

ゲストに登場した井上 鑑は、作編曲家、作詞家、ピアノ、キーボード奏者。レコーディング・エンジニアの吉田 保は、1968年に東芝EMIの録音部に入社以降、RVC(現、BMGビクター)録音部、CBS/SONY六本木スタジオで経験を積み、これまでに大滝、山下達郎、吉田美奈子、浜田省吾などの多くの名盤を手がけている。

まずは、ふたりに大滝詠一作品に関わるようになったきっかけを訊いた。

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井上:僕は、テレビやラジオなどのCM音楽の作曲・編曲の仕事を始めまして、そのときに非常にお世話になったON・アソシエイツというプロダクションがあったんですね。黎明期の日本のCM音楽を切り拓いた名プロデューサーが大滝さんと仕事をされていて、僕は説明をされないまま大滝さんのスタジオに連れて行かれて紹介されたというか。大滝さんのCM作品のレコーディングに参加したのがはじまりですね。

グローバー:そのときにされた会話とかリクエスト、第一印象は覚えてますか?

井上:僕は前日の夜に遅くまでスタジオで仕事をしていたんですが、その日、大滝さんにすごく待たされたんですね。それで、アップライトピアノの下で寝ちゃったんです。あとで聞いた話ですと、大滝さんは「度胸がある」と気に入ったらしいです(笑)。何を話したかは覚えていないですね。

グローバー:まずは音の会話からスタートしたのですね。吉田さんはいかがですか?

吉田:1972年だったかな? 「はっぴいえんどの曲をいくつかやってくれ」っていうお話がありまして。当時、僕はまだ駆け出しのころで、スタジオに呼ばれて2トラックでリズムを取って、2トラックにダビングするという(指示を受けた)。前置きも何もないから「リズムを取ったあとは何をやるのかな」と、ちょっと困ってしまったレコーディングではありましたね。僕はそのころ、クラシックのレコーディングが多かったんですけど、ロックのバスドラのミュートの仕方とかがよくわからないままやった記憶があります。

グローバー:へええ!

吉田:アルバムにはその曲が入らなかったんですけど、あとで出したっていう話は聞きましたね。

グローバー:気に入ったんでしょうね。音づくりでこだわりを感じた、驚いたことはありましたか?

吉田:いっぱいありますね。「ここは紫色まではいかないけど赤っぽく」みたいな、おもしろい言い方をされる人でした。わけのわからない表現はいっぱいありましたね(笑)。

グローバー:はっぴいえんどは日本語ロックとして活躍されましたけども、ロックバンドってエディットの感覚がそこまでやらないでバンドを始める方が多いイメージがあります。

井上:大滝さんってロックっていう感じがあまりしないですね。

吉田:どっちかっていうと歌謡曲っぽいんじゃないのかなあ。

井上:僕はやっぱりコーラスですね。最初に大滝さんの曲が頭に入ってきたのは、CMのひとり多重のコーラスでした。日本でそれをやっている人は当時いなかったから、その新鮮さは大きかったです。ポップスの人なんだけど“図書館の司書”みたいな感じ。

グローバー:大滝さんって、研究家の一面はご存知の方も多いと思いますけども、音楽づくりでもそういう部分が垣間見えましたか?

井上:「あれってどういうことですか」って訊くと「はい。これとこれとこれです」と出してくれました。

グローバー:まるで図書館の司書のように!

音から感じる“大滝詠一らしさ”は?

ナイアガラ・レコードが50周年を迎えた2025年に、新たな広がりを見せる『NIAGARA SONG BOOK』。ふたりは大滝の音楽のオリジナリティについて語る。

井上:やっぱり僕はメロディーとハーモニーの関係ですね。聴きやすくて耳馴染がいいようでいながら、実はすごく画期的で、新鮮なことをいっぱいやっているんですよ。それが大滝さんの作曲家、歌い手としてのこだわりで、結果として長い間愛聴し、折に触れて口ずさむ音楽が生まれたのだと思います。

グローバー:画期的で新鮮。音楽的にはどういった部分なのでしょうか?

井上:たとえば、大滝さんは同じようなコード進行のなかでいろんな音楽を紡いでいるんですね。一見ワンパターンに見えるけども、実は「次はどこに連れて行くか」がすごく計算されているんです。たまたま自分の内面が出てきたわけではなく、小説とか演劇のように、推敲を重ねて客観的に見ているんだと思います。

グローバー:なるほど。吉田さんは大滝詠一イズムはどんなものだと思いますか?

吉田:「ここでコーラスが入るのか!」っていう感じはありましたね。不安定さを増した感じのコードを作ったほうが、大滝さんらしいのかなとは感じます。あと、当時はデジタルとアナログが混ざった時代なので、『NIAGARA SONG BOOK』もベーシックはアナログで録ったんですけども、当時としては最先端のデジタルでレコーディングしたほうが、もっといい音が録れたんじゃないかなっていう心残りがありますね。

グローバー:時代とのめぐり合わせですね。

井上:そうですね。大滝さんは新しいもの好きだったので、(デジタルを)取り入れるのが非常に早かったです。だけど、取り入れ方としては「機械のほうに負けない」。自分のやりたいことが強いので、そこに機械をどう取り込んでうまく使うかを探っていたと思います。

グローバー:(『NIAGARA SONG BOOK』)はいろんなバージョンが世に出て、リスナーのみなさんも蔵出し音源を含めて楽しめるようになっています。アナログ、カセット、いまはストリーミングもありますけども、聴き比べると楽しいポイントはありますか?

井上:どれも、時代の違いと機材の違いなんですよね。なので、優劣はなくてどれも魅力的です。楽器で言ったらアナログ盤が魅力的で、マイクの裏側の広がりみたいなのはアナログがいちばん出ているなと思いました。ただ、CDも昔のものと比べて、いまの音は全然違うんですよね。大滝さんの作品は同じ曲で聴き比べができるので、そういう楽しみ方もあると思います。

グローバー:時代を音で表している。それも素敵な音楽体験ですね。

鈴木 茂がコメント出演!

番組では、大滝と縁の深い鈴木 茂がコメントゲストで登場。はっぴぃえんどのメンバーであり、ギタリストとして『NIAGARA MOON』『A LONG VACATION』『EACH TIME』といった多くの大滝作品に参加してきた鈴木が、大滝との思い出を振り返る。

鈴木:僕は大滝さんとのあいだで長きにわたって演奏してきたんですけども、会うときはほとんどが仕事場なので、プライベートの話ってほとんどしていないんですよ。スタジオに入って、大滝さんは自分の曲をチェックしているんですが、そのなかで唯一会話できるのは僕のソロ演奏の時間です。「こういう感じでやってほしい」というのはあるんですけど、細かい指定はなく、僕は感じ取った雰囲気で演奏して。よっぽど方向性が間違っていなければそのまま進んでいきます。

鈴木は印象的だった出来事として『さらばシベリア鉄道』の収録を挙げる。

鈴木:あの曲は、ピアノも生ギターも4人とか5人で全員同じことをやるっていう、とってもおもしろい編成だったんですね。ずっとリズムを刻んでいたので、それに乗せたギターソロを考えました。僕のイメージだと『(Ghost)Riders in the Sky』という曲がふっと頭に浮かんで、そのリズム感を使わせてもらってメロディーを考えて作りました。大滝さんとのレコーディングはいつも意外なところがあって、それを楽しんでいましたね。また、保さんのミキシングも後ろからこっそり覗いて、いろいろ盗ませていただきました、ごめんなさい(笑)。鑑君もストリングスで大滝さんのサウンドをとっても華麗で豪華なイメージに仕上げていて、とてもすばらしいと思っています。

グローバー:おふたりとも笑いながら聞いていましたけど、いかがでしたか?

井上:鈴木さんの言うように、大滝さんから細かい指定はなくて、まかせて信頼してくれている感じがありましたね。

グローバー:吉田さんは、鈴木さんが後ろでテクニックを盗んでいたことはお気づきになっていましたか?

吉田:いやあ、全然わかんなかったですね(笑)。茂さんは本当にいい人なので、またお会いしたいですね。大滝さんとはミキシングをやっていてもあまり話す機会がなくて、休みで一緒にご飯を食べるときは野球とか相撲の話が多かったですね。

グローバー:そうなんですか!

吉田:はっぴいえんどのみなさんはいい方ばかりで、細野さん、松本さんとも当時のお話をしたいですね。

グローバー:楽しい現場だったというお話もありましたし、そういう空気もレコーディングの音源に含まれていると思います。

J-WAVEは、ナイアガラ・レコード50周年を記念したイベントを開催する。日程は7/12(土)、場所はLINE CUBE SHUIBUYA。今回、ゲストに登場しくれた鈴木 茂、井上 鑑を始めとするミュージシャンが多数出演するほか、70年代スタジオライブの秘蔵映像を大スクリーンで上映するなどのスペシャルな企画で、特別な一夜を演出する。後日、出演アーティストの追加発表も。現在はプレオーダー受付中だ。イベント詳細は、特設サイトまで。

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2025年5月18日28時59分まで

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番組情報
ECHOES OF THE BEAT 大滝詠一『NIAGARA SONG BOOK』
5月11日(日)
22:00-22:54

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