
音楽プロデューサーの小林武史が亀田誠治とトークを展開。小林が人生に寄り添ってきた音楽を紹介し、Bank Bandの楽曲『カラ』についても語った。
小林が登場したのは、J-WAVEの番組『DEFENDER BLAZE A TRAIL』(ナビゲーター:亀田誠治)。毎回、音楽を愛するゲストを迎え、その人生に寄り添ってきた音楽のお話を伺うプログラムだ。ここでは、2月2日(日)にオンエアした内容をテキストで紹介する。
まず、小林は“人生に寄り添う音楽”の選定理由について、こう語った。
小林:洋楽を中心に聴いて育ってきた部分があるから、そういうものを持ってくるべきなのかとも思ったんです。でも、「ap bank fes」で共演する人などのほうが、ある意味、僕と生きてきた音楽と言えるんじゃないか……とスタッフも言ってくれたので、今日はそういう選曲をしました。
そんな小林は、1曲目に桜井和寿の『新しいYES』を選んだ。
小林:Salyuという、僕がプロデュースした女性シンガーがいて、彼女がSalyuとしてデビューしてから、2024年にデビュー20周年を迎えたんです。それで、先日(2024年12月18日)にSalyuのトリビュートアルバム『Salyu 20th Anniversary Tribute Album “grafting”』がリリースされて、僕が曲を書いたり詞を書いたりした曲が多いんですよ。それをいろいろな人がトリビュートしてくれているアルバムなんですけど、『新しいYES』はその1曲目に入っていて、これは僕があえてプロデュースさせてもらった、桜井和寿さんカバーの楽曲です。
この楽曲について、小林は「桜井くんは『何やりましょうか?』という感じだったんだけど、僕のほうから『新しいYES』はどうかと提案した」と振り返る。
小林:オリジナルにはないメロディーと歌詞をちょっと作ったんです。歌詞としては、別のところに展開するっていうことはないんだけれど、ある種、リフレインする感じのパートで。桜井くんが歌うんだったら、その膨らんでいくパートがほしくなっちゃったんですよね。このあいだ、Salyuでこの曲のリハーサルをやっていたけど、Salyuバージョンでもそういうことをやりたくなるかと思ったら、そういうことではなかった。
亀田:もしかしたら、音楽のほうから導いてくれているのかもしれないですね。
小林:これは僕が思っていたよりも桜井くんがハマっているから、Salyuも最初に聴いたときはめちゃくちゃ喜んでいて。新しいパートを作ったところも、今の15年経ったバージョンとしてはこういうことがふさわしいってことなんだろうね。膨らみというか、そういうものが必要だったんだろうなって。
亀田:小林さんのプロデュースがすごいなと思うのは、宮本さんの語り部というか、歌じゃない豹変する瞬間があるじゃないですか。あれが小林さんがプロデュースされているサウンドで聴くと、より真実の声として聴こえてくるんですよ。
小林:それは宮本くんに限らないけど、特に桜井くんや宮本くんみたいに、大げさに言うというよりも、できるだけ正直に言おうとするタイプだと、どういう気配でそれを言ったのかっていうことを1個も漏らさないように、音の中で反映させることを考えるんだよね。それがちょっとでもズレると、前後も変わってきちゃうし、そこは大事にしているところなんだと思う。宮本くんは何をやらかすかわからないみたいなところがあるじゃない?
亀田:すっごいあります(笑)。
小林:でも、それがある程度わかってくるんですよね。伝わってくる、というか。それをバンド全体として捉えていこうよって繰り返していくうちに、宮本浩次がソロになってから独自のダイナミズムみたいなものが出てきた。どちらかというとエレカシは、朴訥(ぼくとつ)としてあまり無駄口を叩かずにみたいな、その寡黙なところが魅力。でも、宮本くんのリアリティーのような、正直さの枠の中でどれだけ広げていけるかってことになってきたんだと思うんです。
亀田:僕はエレカシでご一緒したことがあるんですけど、ソロは全然違いますよね。カバーのアプローチとかも小林さんのプロデュースが入ることで、ちゃんとオーダーメイドになっている素晴らしさがあると思います。
小林:上白石さんがすごく読解力のある人だというのは、歌を聴いて感じるから。文学的な人で。
亀田:わかります。
小林:音楽にもある種の文学性みたいな読解力を持ち合わせている人だから、メロディーの起伏とかで「もうちょっとこういう感じだったらどうなんでしょうか?」みたいな言葉が戻ってきたりしたんですよ。「それをやっちゃうとすごく普通になるから、そこはある種、この曲の肝みたいなところで」というようなことを言ったら、ちゃんと「わかりました」って。そのあとに詞を書いていくんだけど、夕陽みたいな明るい朱色に、だんだん黒が混ざっていくと密度が濃くなってくる感じが僕のイメージにあって、そういう方向に曲が進んでいったんです。文学的とも言えるけれど、ある種のトリップというか、ぶっ飛んだ曲になったなという感じです。
亀田:歌の表情が本当に豊かですよね。一語一語で変わってくる印象です。歌を追いかけているだけで、心が浄化されるというか、声の力のある方で。ただ、声の力のある方と言うと、力強いパワフルなボーカルをイメージされる人が多いと思うんですが、上白石さんは柔らかな、柔よく剛を制するではないですけど、そういう歌声ですね。
小林:空っぽの「から」というのと、殻を破るの「から」、その2つがメインなんだけど、おそらく「それ『から』」とか「どこ『から』きて」みたいなこともあるかもしれないし、「続く」みたいな意味を内包している気もしています。東京ドームで今回「ap bank fes」をやることになって、もろもろデザインをどうしようかってなった最初のころに、デザイナーが「東京ドームって昔、ビッグエッグって呼ばれてましたよね」って言って。僕らの世代は知ってるんだけど、42歳くらいになると突然「何ですかそれ?」みたいになるんだよね。
亀田:え、本当ですか!?
小林:そこに断層があるんだよ(笑)。今、いろいろ大変なことも起こっているし、何が正しいのか、何を選択したらいいのかって迷うようなことがたくさんある。どんどん複雑になっているとも言えるような状況で、東京ドームに集まってくれた何万人の集団が心の中の殻を破るみたいなことが妄想の中で起こったら……っていうことを言い出したときに、殻を破るって一般的には環境のこととか未来のこととかだけじゃなくて「殻に閉じこもってないでさ」とか、いろんな局面であることだと思う。そのある種の普遍性みたいなものが殻を破るというなかにあるなって途中から気付き出すんですけど、「空になって」っていうのは考えてやるんじゃないようなことがいちばん理想的というか。
亀田:ゾーンに入って。
小林:そういうことのためにやってるんだってこともあるから。確かに殻を破るっていうのは、ある意味で西洋社会的な手練手管を感じたりもするし、東洋的な「空になる」っていうことが混じり合うイメージを勝手に持ったりとか。そういう話を桜井くんとしていたら、1個殻を破って革命が成立しましたってことで終わりってことにはならなくて。おそらくそれをずっと繰り返していくとカオスかもしれないし、でもそういうことをとにかく続けていくようなイメージなのかねって話してたら、それを(桜井くんが)歌に持ち込んできたんですよ。あそこまでAメロ的な部分のバースの言葉が現実的に向き合うようなところを通ってくるとは想像してなかったんだよね。あまり現実的になりすぎるとバランスが取れないんじゃないかと思って、かなりファンタジックなスケール感とか、僕らがあずかり知らない未来につながっていくような願いも込めて、そういうアレンジにしていったつもりです。
小林が登場したのは、J-WAVEの番組『DEFENDER BLAZE A TRAIL』(ナビゲーター:亀田誠治)。毎回、音楽を愛するゲストを迎え、その人生に寄り添ってきた音楽のお話を伺うプログラムだ。ここでは、2月2日(日)にオンエアした内容をテキストで紹介する。
カバー曲に新たな詞とメロディーを加えた理由
小林はMr.Childrenをはじめ、数多くのアーティストを手掛けるプロデューサーとしてはもちろん、2003年に設立した「ap bank」では自然エネルギーや食の循環を目指す取り組みを行っている。2月15日(土)、16日(日)には東京ドームで「ap bank fes '25 at TOKYO DOME 〜社会と暮らしと音楽と〜」を開催。本番組ナビゲーターの亀田もBank Bandのベーシストとして参加した。まず、小林は“人生に寄り添う音楽”の選定理由について、こう語った。
小林:洋楽を中心に聴いて育ってきた部分があるから、そういうものを持ってくるべきなのかとも思ったんです。でも、「ap bank fes」で共演する人などのほうが、ある意味、僕と生きてきた音楽と言えるんじゃないか……とスタッフも言ってくれたので、今日はそういう選曲をしました。
そんな小林は、1曲目に桜井和寿の『新しいYES』を選んだ。
小林:Salyuという、僕がプロデュースした女性シンガーがいて、彼女がSalyuとしてデビューしてから、2024年にデビュー20周年を迎えたんです。それで、先日(2024年12月18日)にSalyuのトリビュートアルバム『Salyu 20th Anniversary Tribute Album “grafting”』がリリースされて、僕が曲を書いたり詞を書いたりした曲が多いんですよ。それをいろいろな人がトリビュートしてくれているアルバムなんですけど、『新しいYES』はその1曲目に入っていて、これは僕があえてプロデュースさせてもらった、桜井和寿さんカバーの楽曲です。
この楽曲について、小林は「桜井くんは『何やりましょうか?』という感じだったんだけど、僕のほうから『新しいYES』はどうかと提案した」と振り返る。
小林:オリジナルにはないメロディーと歌詞をちょっと作ったんです。歌詞としては、別のところに展開するっていうことはないんだけれど、ある種、リフレインする感じのパートで。桜井くんが歌うんだったら、その膨らんでいくパートがほしくなっちゃったんですよね。このあいだ、Salyuでこの曲のリハーサルをやっていたけど、Salyuバージョンでもそういうことをやりたくなるかと思ったら、そういうことではなかった。
亀田:もしかしたら、音楽のほうから導いてくれているのかもしれないですね。
小林:これは僕が思っていたよりも桜井くんがハマっているから、Salyuも最初に聴いたときはめちゃくちゃ喜んでいて。新しいパートを作ったところも、今の15年経ったバージョンとしてはこういうことがふさわしいってことなんだろうね。膨らみというか、そういうものが必要だったんだろうなって。
宮本浩次に感じる、独自のダイナミズム
小林は2曲目に、自身がプロデュースした宮本浩次の『over the top』をセレクトした。over the top
小林:それは宮本くんに限らないけど、特に桜井くんや宮本くんみたいに、大げさに言うというよりも、できるだけ正直に言おうとするタイプだと、どういう気配でそれを言ったのかっていうことを1個も漏らさないように、音の中で反映させることを考えるんだよね。それがちょっとでもズレると、前後も変わってきちゃうし、そこは大事にしているところなんだと思う。宮本くんは何をやらかすかわからないみたいなところがあるじゃない?
亀田:すっごいあります(笑)。
小林:でも、それがある程度わかってくるんですよね。伝わってくる、というか。それをバンド全体として捉えていこうよって繰り返していくうちに、宮本浩次がソロになってから独自のダイナミズムみたいなものが出てきた。どちらかというとエレカシは、朴訥(ぼくとつ)としてあまり無駄口を叩かずにみたいな、その寡黙なところが魅力。でも、宮本くんのリアリティーのような、正直さの枠の中でどれだけ広げていけるかってことになってきたんだと思うんです。
亀田:僕はエレカシでご一緒したことがあるんですけど、ソロは全然違いますよね。カバーのアプローチとかも小林さんのプロデュースが入ることで、ちゃんとオーダーメイドになっている素晴らしさがあると思います。
上白石萌音の歌に感じる“読解力”
続いて小林は、2月の「ap bank fes」に初登場する上白石萌音の『夕陽に溶け出して』を紹介。この楽曲は小林が作詞作曲・プロデュースを手掛けている。上白石萌音「夕陽に溶け出して」Music Video
亀田:わかります。
小林:音楽にもある種の文学性みたいな読解力を持ち合わせている人だから、メロディーの起伏とかで「もうちょっとこういう感じだったらどうなんでしょうか?」みたいな言葉が戻ってきたりしたんですよ。「それをやっちゃうとすごく普通になるから、そこはある種、この曲の肝みたいなところで」というようなことを言ったら、ちゃんと「わかりました」って。そのあとに詞を書いていくんだけど、夕陽みたいな明るい朱色に、だんだん黒が混ざっていくと密度が濃くなってくる感じが僕のイメージにあって、そういう方向に曲が進んでいったんです。文学的とも言えるけれど、ある種のトリップというか、ぶっ飛んだ曲になったなという感じです。
亀田:歌の表情が本当に豊かですよね。一語一語で変わってくる印象です。歌を追いかけているだけで、心が浄化されるというか、声の力のある方で。ただ、声の力のある方と言うと、力強いパワフルなボーカルをイメージされる人が多いと思うんですが、上白石さんは柔らかな、柔よく剛を制するではないですけど、そういう歌声ですね。
ひとつ殻を破って終わりにはならないけれど…
最後に小林は、1月29日に配信リリースしたBank Bandの新曲『カラ』をセレクトした。Bank Band「カラ」
亀田:え、本当ですか!?
小林:そこに断層があるんだよ(笑)。今、いろいろ大変なことも起こっているし、何が正しいのか、何を選択したらいいのかって迷うようなことがたくさんある。どんどん複雑になっているとも言えるような状況で、東京ドームに集まってくれた何万人の集団が心の中の殻を破るみたいなことが妄想の中で起こったら……っていうことを言い出したときに、殻を破るって一般的には環境のこととか未来のこととかだけじゃなくて「殻に閉じこもってないでさ」とか、いろんな局面であることだと思う。そのある種の普遍性みたいなものが殻を破るというなかにあるなって途中から気付き出すんですけど、「空になって」っていうのは考えてやるんじゃないようなことがいちばん理想的というか。
亀田:ゾーンに入って。
小林:そういうことのためにやってるんだってこともあるから。確かに殻を破るっていうのは、ある意味で西洋社会的な手練手管を感じたりもするし、東洋的な「空になる」っていうことが混じり合うイメージを勝手に持ったりとか。そういう話を桜井くんとしていたら、1個殻を破って革命が成立しましたってことで終わりってことにはならなくて。おそらくそれをずっと繰り返していくとカオスかもしれないし、でもそういうことをとにかく続けていくようなイメージなのかねって話してたら、それを(桜井くんが)歌に持ち込んできたんですよ。あそこまでAメロ的な部分のバースの言葉が現実的に向き合うようなところを通ってくるとは想像してなかったんだよね。あまり現実的になりすぎるとバランスが取れないんじゃないかと思って、かなりファンタジックなスケール感とか、僕らがあずかり知らない未来につながっていくような願いも込めて、そういうアレンジにしていったつもりです。
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