眞栄田郷敦×WurtSは「仕事が好きじゃなくなりそうな瞬間」をどう乗り越える? 自分を奮い立たせる楽曲も明かす

山口つばさによる人気漫画を実写化した映画『ブルーピリオド』が公開中だ。周りの空気を読んで流れに任せて生きてきた高校生・矢口八虎が、1枚の絵をきっかけに美術の世界に全てを賭けて挑んでいく様を描いた本作。好きなことにまっすぐに突き進む八虎は、そのなかで出会うライバルとの出会いや“才能”にも苦しめられる。瑞々しさだけでなく、苦しみや葛藤も描いたリアルな青春物語は、この夏に多くの感動を呼ぶことだろう。

本作で主人公・矢口八虎を演じる眞栄田郷敦と、主題歌「NOISE」を手がけたWurtSに、『ブルーピリオド』の魅力はもちろん、好きなものへのまっすぐな情熱、その中で感じた葛藤について、話を聞いた。

映画『ブルーピリオド』本予告

──おふたりは、会うのは今日が初めてですか?

眞栄田・WurtS:はい。

──お互いの印象を教えてください。

眞栄田:作られている音楽もおしゃれですし、プロフィールもイケイケな感じなので、すごくイケイケな人かと思っていたんですが、実際はすごく柔らかい方で安心しました。

WurtS:よく言われます(笑)。

眞栄田:どんな人なのかまったく想像がつかなくて。それによって今日のやりやすさが変わってくるなと思っていたんですけど、やりやすそうで良かったです(笑)。

WurtS:僕は一方的に作品を観ていたので「本物に会えた!」という感じで。ファンとしての言葉しか出ないんですけど……お会いできて良かったです。

眞栄田:こちらこそです。

──原作や脚本を読んで感じた『ブルーピリオド』という作品の魅力はどこにあると思いますか?

眞栄田:最初、この『ブルーピリオド』という作品に興味を持ったのは、美術とか芸術大学の受験という比較的マニアックな世界にフィーチャーしていること。そこがすごく面白いなと思いました。で、観ていくと、正解のない世界での葛藤や喜びがビシビシ伝わってくる作品で。これを観て「よし、好きなことやろう!」と思えない人もいると思うんです。苦しみもしっかり描いているので。そういう意味では、すごく考えさせられる作品でもあるのかなと思います。

──では完成した作品を観ていかがでしたか?

眞栄田:……どうでしたか?

WurtS:僕自身『ブルーピリオド』の原作を読んでいたのですが、実写映画ではその世界観が広がった感じがあって。いちファンとしてうれしかったです。

眞栄田:全体のテンポも、主人公に寄り添って調整されていて。かなりトライしているなと思いました。それが後半になって効いてきたりして。すごくエネルギーやパワーがもらえる作品になっているんじゃないかなと思います。
──表現する人にはより刺さる部分が多い作品だと思うのですが、客観的に見て刺さった印象的な場面やセリフがあったら教えてください。

眞栄田:「好きなことに人生の一番大きなウェイトを置く、これって普通のことじゃないでしょうか」。八虎にもこの言葉が刺さるんですが、僕自身も、わかっているようで実際考えてみると難しいことでもあって、でもすごく魅力的なことだなと思いました。

WurtS:僕は音楽を作る身なので、音をすごく聴いていて。僕自身、実は高校時代は美術部に入っていたこともあって、劇場で絵を描く音を聞いていると、自分も一人のキャラクターとしてその空間に入っているような感覚になりました。

──WurtSさんは、主題歌「NOISE」を作るうえで『ブルーピリオド』という作品のどこからインスピレーションを受け、どういった楽曲にしようと思ったのでしょうか?

WurtS - NOISE (Music Video)【映画「ブルーピリオド」主題歌】

WurtS:個人的に、この作品から“葛藤”を感じたので、葛藤して成長していく姿を楽曲のテーマにしようと考えました。この曲のもともとのアイデアは、一人で走って「まだか、まだか」と思っている、という夢を見たこと。その夢は、自分の中の葛藤から成長したい、何かを成し遂げたいという気持ちの表れじゃないかなと感じて。その夢と、自分の気持ちを照らし合わせたときに、『ブルーピリオド』とリンクする部分があったので、葛藤と成長をテーマに書いていきました。

──特にこだわったことや意識したことはどのようなことでしたか?

WurtS:僕の楽曲はあまり間奏がないんですが、それこそ、葛藤と成長というテーマを考えたときに、間奏から最後のサビに向かっていく感じが、葛藤の中から成長に向かう瞬間を表現できるんじゃないかなと思って、WurtSの楽曲では珍しく間奏を取り入れました。

──実際にエンドロールで流れているところを観ていかがでしたか?

WurtS:読後感や余韻をちゃんと楽しめる楽曲にできているかなとすごく不安だったのですが、観させていただいて、葛藤からの成長にちゃんと合う楽曲が作れたなと思いました。自信を持って「いい曲ができたな」と思いました。
──眞栄田さんは、この曲を聴いたとき、もしくは映画のエンドロールで流れているのを聴いたときどう感じましたか?

眞栄田:今おっしゃっていたように、葛藤と、好きなことや決めたことに向かっていくエネルギーみたいなことをすごく感じる曲だなと思いました。映画を観終わったあとに聴くと、映画の全体の印象が感じられる曲になっているなと感じました。

──特に好きな歌詞や気になるフレーズはありますか?

眞栄田:全体的に言葉のチョイスがすごく面白いなと思って。夢がもとになっているというのを聞いてなるほどなと思ったんですが、何を思って書いたのか、頭の中のイメージがどんなものだったのか、もう少し細かく聞いてみたいですね。

WurtS:サビの「まだか?」というのがこの楽曲の主題になると思うのですが、「まだか?」というのは、自分が音楽を作るときに、音楽が“降ってくる”瞬間を待ったりするという意味での「まだか」でもあり、葛藤という意味で、ゴールに向かって進んでいるけど、まだ到着していなくて、そのゴールに向かって「まだか?」と言っているという意味でもある。その2つの意味を込めて、「まだか?」と書きました。

眞栄田:なるほど。それを知って、また聴こえ方が変わっていきそうです。

──眞栄田さんは学生時代吹奏楽部に所属していて、プロの演奏家を目指すほどの腕前だったそうですが、音楽や、現在やられているお芝居など、何かに打ち込んでいるときと、絵に打ち込んでいるときで共通するものは何か感じましたか?

眞栄田:音楽は好きでやっていましたけど、極めていくとなると、嫌いになる瞬間もあったりして。今作の中でも、正解のない世界での葛藤や苦しみ、喜びややりがいが描かれていましたけど、それは芝居の世界にも似ている部分がある。そのあたりは、自分が過去に抱いた感情を思い出しながら芝居をした部分もありました。

──絵画と、音楽とお芝居、すべてリンクするような部分があったんですね。

眞栄田:そうですね。“正解のない世界”という共通点があって、その中での苦しみなど、精神的な部分はすごく似ているものがあるのかなと思いました。
──WurtSさんは、そのあたり共感する部分はありますか?

WurtS:美術部のときは楽しくやっていたんですけど、今は音楽が仕事でもあるので、自分の“好き”だけでできるわけではない。でも結局、学生時代のように好奇心で動いて作ったものや、“好き”という感情だけで作り上げたものが評価されたりして。“好き”を突き詰めるというのは、今も忘れないでいたいなと思います。

──劇中で、八虎は才能や周りの人と比べて、落ち込み、奮起します。おふたりは、そんな八虎の気持ちはわかりますか?

眞栄田:わかりますね。今の仕事ではあまり感じることはないですが、音楽をやっていたときには周りと比べることもありましたし、「あいつは才能がある」とか思っていたし、「自分は才能がないから努力でカバーしないといけない」という八虎の気持ちもすごくよくわかる。でも今は「才能がある」という言葉がすごく失礼な言葉だなと思っていて。もちろん生まれながらに持っているものもあるとは思うんですけど、その人は絶対にすごく努力をして、その才能を生み出していると思う。だから「才能がある」とは思わないようにしています。
──今のお仕事では、周りの人とはあまり比べないというのはどうしてだと思いますか?

眞栄田:今の仕事は指標が難しいじゃないですか。売れるためにやっているんだったら、例えばフォロワー数とかが指標の1つだと思うんですけど、あんまりそういうことに興味がないので。それよりも、自分がやりたい作品をやっていればいいかなって思っています。

WurtS:僕は、自分の感情を表にするのが苦手だという性格が、音楽を始めたきっかけ。つまり音楽は自己表現として始めたものなので、周りと比べるというよりは、常に自分の感情を出す方法を探しているという感じで。だからもちろん他の人の作品を見たり聴いたりして「すごいな」と思うことはありますけど、比べるというよりはそういうものに対してリスペクトですね。

眞栄田:あー、そうですね、僕も尊敬という意味で、他の人を見る感じです。

──先ほど、眞栄田さんが好きなものが好きじゃなくなる瞬間があるということをおっしゃっていましたが、おふたりが現在のお仕事をしていて、好きじゃなくなりそうだった瞬間はありましたか? その際に、どのように乗り越えたかも教えてください。

眞栄田:好きだなと思う瞬間のほうが少ないですね。ただ、役を自分の中に落とし込んで、役としてその瞬間を本当の意味で生きられている瞬間だったり、本気で考えて作った作品がヒットしたりして報われたときのやりがいが大きいからやっているのかなと思います。あと、現場でものづくりをしていることは好きです。そういう楽しい瞬間や幸福を感じる瞬間のためにやっているという感じです。

WurtS:僕は、自分の音楽がWurtSの音楽じゃなくなっていくのが嫌で。音楽を作っていると、いろんな人の声があって、それが積み重なって、WurtSの音楽じゃなくなりそうになることがどうしてもあるんですよね。でも、僕の音楽の出発点は自己表現だし、自分が一番伝えたいことを伝えられなくなるのは良くないので、楽曲のどこで自分の伝えたいメッセージを入れるかを考えて、それ以外の部分でみんなの意見をすり合わせていくようにしています。
──ちなみに、音楽活動の中で一番面白いとか楽しいなと感じる瞬間はいつですか?

WurtS:音楽を作っているときは、時間を忘れて没頭しているので、作っているときはたぶん楽しいんだと思います。無意識的に。

──眞栄田さんは、どの瞬間が一番楽しいですか?

眞栄田:撮影現場ですね。それまでの役を作っていく過程も楽しいですけど、各々が作ってきたものを持ち寄って、意見を出し合って、そこからいいところを取っていく作業が好きです。
──では最後に。主人公の八虎は、1枚の絵をきっかけに美術の世界に全てを賭けて挑んでいきますが、おふたりが何かに挑んだ際に聴いていた1曲、もしくは聴くと焚き付けられる曲を教えてください。

眞栄田:アニメ『はじめの一歩』のエンディングテーマになっていた「夕空の紙飛行機」。昔、空手を習っていたんですけど、その試合前に『はじめの一歩』を観たり、その曲を聴いたりして気持ちを高めていたので、今でもその曲を聴くとすごくやる気が出ます。

モリナオヤ - 夕空の紙飛行機

WurtS:僕はこれを言うとちょっと変に思われるかもしれないですけど……自分の曲を聴くのは大事だと思っていて。自分の昔の作品を聴いて、「ここをもうちょっとこうできるな」とか、逆に「この部分、すごく素敵だな。守りたいな」を考えたり。僕にとっては、音楽が自分の記録になっているので、それを辿っていくということは、自分を奮い立たせる上で必要だなと思っています。
(文=小林千絵、写真=奥野和彦)
(眞栄田郷敦 ヘアメイク= MISU/スタイリスト= MASAYA ・ WurtS スタイリスト=Jun Ishikawa)

■作品概要

映画『ブルーピリオド』公開中
配給:ワーナー・ブラザース映画
©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

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