映画監督から見た「学校」のおもしろさとは? 松居大悟に聞く

映画『不死身ラヴァーズ』が公開中の松居大悟監督が、同作の構想や制作の裏側を語った。

松居が出演したのは、J-WAVEで5月9日(木)に放送された新番組『PEOPLE'S ROASTERY』(ナビゲーター:長井優希乃)のワンコーナー「MY FIELD NOTE」。木曜日のこのコーナーはさまざまな分野から表現する人、クリエイトする人をゲストに迎えてトークを展開する。

初めて自分がやりたいと思った原作だった

劇団ゴジゲン主宰で映画監督、またJ-WAVEで水曜深夜に放送の番組『RICOH JUMP OVER』のナビゲーターを務める松居の新作映画『不死身ラヴァーズ』が5月10日に公開となった。
『不死身ラヴァーズ』あらすじ
長谷部りの(見上 愛)は、幼い頃に“運命の相手”甲野じゅん(佐藤寛太)に出逢い、忘れられないでいた。中学生になったりのは、遂にじゅんと再会する。後輩で陸上選手の彼に「好き」と想いをぶつけ続け、やっと両思いになった。でも、その瞬間、彼は消えてしまった。まるでこの世の中に存在しなかったように、誰もじゅんのことを覚えていないという。だけど、高校の軽音学部の先輩として、車椅子に乗った男性として、バイト先の店主として、甲野じゅんは別人になって何度も彼女の前に現れた。その度に、りのは恋に落ち、全力で想いを伝えていく。どこまでもまっすぐなりの「好き」が起こす奇跡の結末とは――。
公式サイトより)

長井:私もこの映画を拝見して、長谷部りのの“好きオーラ”に私が圧倒されながら、だんだん引き込まれて、今、私もこんな風に「好き」って言いたいって(笑)。

松居:気持ちってだんだんごまかしたり言わなくなったり、匂わせたりとかになっていくけど、結局中学生くらいのときくらいの、おいしいとか楽しいっていう感じが、キラキラしてまぶしいですよね。

長井:恥ずかしさとかがない「好き」というのって、尊いなって感じました。

『不死身ラヴァーズ』は高木ユーナの漫画が原作。松居はこの作品と出会ってから10年以上に渡ってこの映画の構想を温めていたという。

長井:原作と出会って、どんな衝撃を受けましたか。

松居:人間のパワーというかエネルギーみたいなものとか、すごくプリミティブな、好きだから走るみたいなものに憧れてしまうというか。人ってこうあったらいいのになって思うまぶしさみたいな。この漫画の独特なちょっとコメディっぽいところもそうだし、でも両思いになったら消えるっていうホラー性と、ジャンルにくくれない面白さ、得体の知れない面白さがありましたね。

長井:映画化したいって思い続けた期間は、どんな気持ちだったんですか。

松居:時々、(映画化はできないかもと)心が折れたりはあったんですけど、この作品は、自分が12年くらい前に映画監督でデビューして初めて自分がやりたいと思った原作なんです。年を重ねていろんな作品をするようになっていたけど、最初の気持ち、自分にとっての初期衝動だったから、そこに対してこだわりたいというか。大人になるにつれてどんどん初期衝動が遠くなっていっちゃうし、規模が大きい映画とかどうすればヒットするかとか、そっちの脳みそになっていくけど、「昔はやりたいからやってたんだよな」っていうときの気持ちに立ち返った感じですかね。

くるくる表情が変わる見上 愛の芝居を見て…

映画『不死身ラヴァーズ』では、原作から主役の2人が男女逆転した設定になっている。

松居:10年以上前、最初に考えていたのは原作通り男の子が「好きだ、好きだ」と言って、女の子が振り向いたら女の子が消えるっていうもので、台本もその方向で作っていたんです。今回あらためて作り直そうと思ったときに、じゅんを演じられる役者さんが思いつかないというか、どういう人がいいだろうなって思ったんです。まず消えるほうの、りのをオーディションして探そうとしたときに、見上 愛さんに来ていただきました。見上さんのお芝居はくるくる表情が変わるし、1秒先を読めないお芝居をしていて。それが僕は原作にも重なって、次が読めない作品ではあるから、見上さんが追いかける側の人になったら、じゅんの方向性も見えてくるし、とてもいいかもって思って原作者にも確認しました。

原作者の高木ユーナはそれを聞いて「魂が一緒であれば大丈夫」と了承してくれたので、男女逆転の脚本を作っていったという。

松居:そうしたら佐藤寛太さんがいいなってことで、男女を入れ替えました。

長井:見上さんからインスパイアを受けたんですね。

松居:そうですね。見上さんが『不死身ラヴァーズ』の映画を形作ってくれた感じはあります。見上さんの演奏シーンがあるんですけど、あれももともとはなくて、(原作には)高校の軽音部のシーンだけしかなかったんです。でも見上さんがもともと学生時代にバンドをやっていて、しかもお父さんの影響でGO!GO!7188の『C7』という曲をカバーしていたというので、その曲の歌詞が『不死身ラヴァーズ』に重なりすぎて、これはすごいなってことでその演奏シーンも増やして行ったのもあるので、すごく見上さんの存在が大きいですね。

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言葉以上に映画が共通言語になったら

長井は「映画で印象的だったのが学校のシーンが多いこと」と言い、監督目線では学校はどういうところが興味深いかと質問した。

松居:ちぐはぐに見えるというか。みんなまだ人格がしっかり形成されていないから感情がまだまだ複雑な状態。うれしくて楽しくて悲しいとか全部混ざった状態だけど、1回みんなこっちの方向を向いて「何時からは授業をしよう」とか、整ったり整わなかったりが混ざり合っている感じがする。僕は青春って何だろうと思ったときに、いろいろ片付いてないというか言語化されていない状態なのかなと。まだ原色なままの感じがするから面白いなって思いますね。

長井:整っていないっていうのはわかりますね。自分が中学生の頃とか思い出すと、全然整ってなくて(笑)。常にモヤモヤしたりしているし、ピュアな感情の表現の仕方もわからないのに表現しようとして失敗したりとか。

松居:「じゃあ、何時から授業です」と言われたときに、早めに気づける子もいればちょっと遅れる子もいて、1回地図があるからそこをどう外れているかも見えてきたり、それが個性に見えたりする感じもありますね。

『不死身ラヴァーズ』は4月に第14回北京国際映画祭で上映された。現地ではどんな反応だったのだろうか。

松居:僕はこの映画祭は4年連続で出品させていただいているので、自分のこれまでの作品を観ている方も多かったです。田中という役を演じた青木 柚くんと行ったんですけど、中国の方の熱量がすごくて。上映後に質問に答える時間があるんですけど、日本だと2、3人が手を挙げてが続いていくけど、このときは3分の1以上の人が手を挙げて。なんなら当ててほしいから両手を挙げたりとか、立ち上がってジャンプしたりとか、すごく主張が強くて。それで当てたらすごく喜んでくれて。

長井:松居さんもうれしくなりますよね。

松居:物語の質問もそうだし、「前の作品だとこう表現していたけど、なぜ今回はこういう映画をしようと思ったのか」というところまで質問してくれるので、映画への愛情もあるし、譲らない感じ(がした)。国民性かもしれないですけど、ぐいぐい行く感じも面白いですね。

長井:自分の作品が世界に広がっていくことについては、どんな思いですか。

松居:それはすごく大事だなというか。映画という総合芸術をやっているからこそ、字幕を付ければ海を越えて、僕らはこういう価値観で何かを感じている。街をこういう風に歩き、こういう気持ちでご飯を食べて、友だちとか恋人はこういう距離感であるみたいなことを海の向こうの人に伝えたりとか、逆にこう感じたんだって会話ができたりするから、青木くんとは「言葉以上に映画が共通言語になったらいいよね」って話はしていましたね。だから今後もそういう風にして、今の日本で感じられることなどを作っていけたらと思います。

公開を記念して、鑑賞者には原作者・高木ユーナの直筆オリジナルポストカードのプレゼントキャンペーンもおこなっている。詳しくは、映画『不死身ラヴァーズ』の、公式サイトまで。

好奇心を刺激するゲストコーナー「MY FIELD NOTE」の放送は、J-WAVEで毎週月曜から木曜の14時ごろから。
radikoで聴く
2024年5月16日28時59分まで

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番組情報
PEOPLE'S ROASTERY
月・火・水・木曜
13:00-16:00

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