Dos Monosのビートは、キャプテン・ビーフハートからの影響…荘子itが魅力を語る

HIPHOPトリオ・Dos Monosの荘子itが、自身の音楽のルーツや、楽曲『Clean ya Nerves (the horn jumps off)』に込めた想いを明かした。

荘子itが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』内のコーナー「RECRUIT OPPORTUNITY FOR MUSIC」。オンエアは9月27日(水)、28日(木)。同コーナーでは、アーティストたちの自身の楽曲に込めた想いと、彼らのアーティスト人生に大きく影響を与えた楽曲との出会いの話を通じて、音楽との「まだ、ここにない、出会い。」をお届けする。

Dos Monosはかっこよさの枠を超えたものを出す

トラックメイカーでMCの荘子it、MCのTaiTan、没 aka NGSといった中高時代の同級生からなるHIPHOPトリオ・Dos Monos。国内外を問わず、さまざまなイベント・フェスに出演し、UKのロックバンド・Black Midi(ブラック・ミディ)やUSのヒップホップトリオ・Injury Reserve(インジュリー・リザーヴ)、台湾のIT担当大臣・唐鳳(オードリー・タン)、日本文学界の巨匠・筒井康隆など、ジャンルを超えたコラボレーションも展開している。

そんなDos Monosは2021年に東京・LIQUIDROOMで開催した自主企画ライブ「Theater D vol.3」を再構築した初のライブアルバム『Don't Make Any Noise』をリリースした。

今回は荘子itに楽曲『Clean ya Nerves (the horn jumps off)』』に関するエピソードを語ってもらった。『Don't Make Any Noise』には、『Clean Ya Nerves feat. 松丸契』というバージョンが収録されている。

荘子it:Dos Monosが世の中に認知されたのは2018年に出した『in 20XX』という曲のMVだったんですけど、Dos Monosとしては2015年くらいから、集まって曲作りをしていて、実は1番最初にできていたのが『Clean ya Nerves (the horn jumps off)』で。リリースとしてはあとになったんですけど、ある意味ではDos Monosの原点となった曲です。

2011年にRobert Glasper(ロバート・グラスパー)がグラミー賞を取った『Black Radio』というアルバムが発表されて、その流れで、ジャズとHIPHOPの融合が盛んになってきたのが、2010年代の前半の象徴的な出来事。そのときに自分も意識したというか。

2015年にはKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の『To Pimp A Butterfly』もあったりして、すごくホットだったんですけど、どこかクールな手つきでジャズとHIPHOPの融合を図るのが流行ってたんです。ブイブイこぶしの効いたジャズとHIPHOPというと、古臭い感じがしちゃうけれど、そういう感覚も取り入れた上で、改めてホットなことをやりたいということで、Gil Evans(ギル・エヴァンス)というMiles Davis(マイルス・デイヴィス)のバンドにいた人の『Into the Hot』というアルバムがヒントになって。その作品にインスプレーションを受けて作った曲が『Clean ya Nerves (the horn jumps off)』だったりします。

マイルス・デイヴィスはまさにクールの帝王と呼ばれていて、その編曲を手がけていたギル・エヴァンス。そこにはCecil Taylor(セシル・テイラー)というフリージャズの人が参加してたりもして、そういうところなんかもDos Monosが目指した激しさとHIPHOPとジャズの融合というオルタナティブな形だなって。ある意味では僕らのやりたいことを最初に提示した曲が『Clean ya Nerves (the horn jumps off)』なのかなって思います。

今回、ライブ盤を改めてリリースしたんですけど、その際、松丸契くんというパプアニューギニア出身で、バークリー音楽大学を卒業して、日本に来たという彼と共演しています。彼はすごいOrnette Coleman(オーネット・コールマン)が大好きで、フリージャズの影響を受けている今時珍しいやつなんですけど、そんな同世代の彼と出会って、Dos Monosの描いていたものと共鳴する奴が、日本人で日本の外にいたんだっていうことに感銘を受けて。一緒にこの曲を演奏することになって、またさらに理想の形になったなと。

原点でもあるけれど、最新のDos Monosを象徴する曲になったと思うのが、『Clean ya Nerves (the horn jumps off)』ですね。

今の曲紹介に重なるものがあるんですけど、Dos Monosらしさというか、自分たちがレペゼンしたいスタイルは、明確にあって、それは「クールよりもクールに」というもの。それは当初から言っています。かっこいいのはもちろん良いんだけど、かっこよさをギリギリ寸前のところで、外した感じというか。かっこよさの枠を超えたものを出さないと、Dos Monosらしくならないよねということを、いつも曲を作っているときのジャッジラインにしています。ただかっこいいだけじゃ面白くないよね、というのがDos Monosらしさですね。

Dos Monos『Clean ya Nerves (the horn jumps off)』

エポックだと感じたのがキャプテン・ビーフハート

「自分たちがレペゼンしたいスタイルは『クールよりもクールに』」。そう語る荘子itにルーツの1曲はCaptain Beefheart(キャプテン・ビーフハート)の『When Big Joan Sets Up』。中学3年〜高校1年で出会ったという。

荘子it:曲単位というよりは、アルバム(『An Ashtray Heart』)単位で出会って、衝撃的でした。それまで、音楽の情報交換というのは、TaiTan、没 aka NGSとやっていて、どんどん音楽の趣味が広がっていったんだけど、エポックだと感じたのがキャプテン・ビーフハート。

TaiTan、没 aka NGSに聴かせてみても「これはいいのか……?」みたいな(笑)。「これがいいって言うのやり過ぎだろ」みたいになったんだけど、自分的にはすごい引っかかるものがあったアルバムで。「すごいかっこいい」という言葉だけでは言い表せないエネルギーのある作品だと思って、混乱そのものが詰まっているというか、そういう意味では収録曲全体で襲いかかってくる作品。1曲には絞れなかったんだけど、ご紹介したい曲ということで『When Big Joan Sets Up』を選びました。

キャプテン・ビーフハートの作品作りというのがいわゆるプロフェッショナルじゃないギタリスト・ピアニストに無理やり弾かせるというもので。キャプテン・ビーフハート自体も作曲のプロじゃなくて、無理やり作った楽譜を無理やり練習させるんです。プロフェッショナルじゃないミュージシャンに完璧じゃない楽譜を渡して、1人20時間くらい練習させている内に、すごいガチャガチャしたアンサンブルが生まれるんですね。

かなり無茶苦茶ですけど、僕はパソコンを使って、かなり際どいアンサンブルを長い時間をかけて微細な作業をすることで作っているんですね。なので、Dos Monosのビートはキャプテン・ビーフハートからの影響なのかなと。

Dos Monosの1stアルバム(『Dos City』)のジャケット自体は僕が作ったんですけど、猿がパーカーを着てるんですね。これも『Trout Mask Replica』(Captain Beefheart & His Magic Bandの作品)というマスのお面を被ったジャケットのオマージュなので、Dos Monosにとって原点の1枚になっています。

感性と直感で勝負し、音楽史に名を残したキャプテン・ビーフハート。荘子itはキャプテン・ビーフハートのオルタナティブな精神性と音楽に魅了されたひとりのようだ。

Captain Beefheart『When Big Joan Sets Up』

アーティストの話を通じて音楽との「まだ、ここにない、出会い。」をお届けするコーナー「RECRUIT OPPORTUNITY FOR MUSIC」は、J-WAVE『SONAR MUSIC』内で月曜~木曜の22時41分ごろからオンエア。Podcastでも配信しており、過去のオンエアがアーカイブされている。

【Dos Monos 荘子it 出演回のトークを聞く】

・Apple Podcastで聞く
前編後編

・Spotifyで聞く
前編後編

・公式ページ
https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/opportunity/

(構成=中山洋平)
番組情報
SONAR MUSIC
月・火・水・木曜
22:00-24:00

関連記事