第13回小説現代長編新人賞を受賞した作家・神津凛子による『スイート・マイホーム』(9月1日全国公開)を実写映画化した齊藤工監督。主題歌『返光(Movie Edition)』を歌い上げたyama。理想的“まほうの家”が巻き起こす禍々しきホラーサスペンスで初タッグを組んだ2人の緊急対談が実現した。主題曲『返光(Movie Edition)』誕生の背景を探ると、宿命的な2人の接点やクリエイターとしての共感点が見えてきた。
齊藤工監督:僕自身はホラー映画を好んで観るようなタイプではないのですが、『スイート・マイホーム』を通して思ったのは、ホラーとは映画館をアトラクションにする装置であるということです。第25回上海国際映画祭などの海外の映画祭で『スイート・マイホーム』の公式上映に立ち会った際、観客のリアクションをダイレクトに受け取ったときにそう体感しました。三池崇史監督の『オーディション』しかり塚本晋也監督の『鉄男』しかり、海外の観客が日本映画に求める要素として日本発のホラーは大きな期待を寄せられているジャンルだと感じました。
──yamaさんは怖い作品はどうですか? 得意ですか?
yama:実は自分も……ホラー映画は得意ではないです。ドキドキしながら本編を拝見いたしました。
齊藤:スミマセン……。
yama:観ている最中ずっとジワジワと追い詰められているような気がして、冷や汗をかいて手に汗握る状態で最後まで気の抜けない映画でした。ドキドキしつつも最後まで引き込まれました。
yama:この作品にピッタリだと思っていただけたら、うれしいです。主題歌としてエンドロールを飾る楽曲ということで、どのような形であれば映画の余韻を残しつつ、皆さんの心を楽曲で包めるだろうかと悩みながら担当させていただきました。自分の色と作品の色をどこまでかけ合わせることが出来るのか、そのバランスを意識して担当させていただきました。
齊藤:yamaさんの楽曲は日常的に耳にしていましたが、中でも素晴らしいと感じたのはテレビアニメ『王様ランキング』のエンディング曲『Oz.』を聴いたときです。もはや『Oz.』を聴くために『王様ランキング』を観るようなところもありました(笑)。『シン・ウルトラマン』で米津玄師さんが楽曲で物語を最後に踏襲してくれたように、yamaさんには『スイート・マイホーム』という容赦のない物語を鎮魂歌のような形で浄化してほしいとリクエストしました。何度か打ち合わせをさせていただいた結果、主題歌として『返光』に辿りついたとき、見事に作品に寄り添った楽曲であると同時に、海外の反応を含めて観客の心に浄化に近い反応を引き起こしてくれると確信しました。この作品に必要かつ、これ以上ない素晴らしい楽曲。『返光』が流れ終わるまでが作品という形で見事に物語を閉じてくださいました。
yama:楽曲の印象的には、バラードのようなメロディで親しみある優しい曲に聞こえるかもしれません。ただ『スイート・マイホーム』の世界観をエッセンスとして入れるためには優しく歌うだけではないのかもしれないと思って、感情の波を変化させるなど不安定な心情が出るよう意識しました。よくよく聴くと「おや?」となるようなちょっとした違和感を詰め込みました。
yama:自分は個人的にACIDMANの大木伸夫さんと親交があって、その会話の中で齊藤さんのお話が出ることがありました。(齊藤工監督に)関わりはありますよね?
齊藤:はい、無茶苦茶あります。20年来のお付き合いをさせていただいています。
yama:自分はACIDMANの世界観が好きで、大木さんに曲を書き下ろしてもらったりしていて、大木さんの考え方も好きです。そんな方と仲がいいということは齊藤さんも素敵な方だと勝手に感じていました。そして『スイート・マイホーム』のお話をいただいたときに、自分でよければ協力させていただきたいという、うれしい気持ちがありました。共通の音楽が好きということで、齊藤さんとは芯の部分に共通するものがあるのではないかと感じました。
齊藤:それは僕もyamaさんからお聞きしたいですね。
yama:参考になるかはわかりませんが、自分は映画や小説、漫画などの作品から影響を受けるときもありますが、アイデアやインスピレーションを得ることが多いシチュエーションは、他人とコミュニケーションを取っているときです。曲を書き始めた当初は自宅で一人煮詰まりながらやっていましたが、それもなかなかうまくいかない。そんなとき誰かと話して自分の考えやその人の人生観や価値観を聞いたときに刺激を受けていると気づきました。他者との会話や日常の中で得た刺激を楽曲制作にアウトプットしています。
齊藤:僕は写真家の森山大道さんへの憧れから、モノクロ写真を撮るようになりました。でも風景写真を撮っていると、これは別に自分ではなくてもほかの誰かが撮れる写真だろうと思うようなことが増えました。そこから僕にしか撮れないものって何だろう?と考えたときに、それは人の顔なのではないかと感じたんです。そして人物写真を撮っていくうちに、人物写真とは対象物と自分との関係値や距離感が如実に出るものだと気づきました。他者と対峙して自分との差や違いを知るということは、己の輪郭を知るということ。自分がどんな人間なのか、自分という輪郭が見えるのは他者と対峙しているとき。その瞬間にこそ唯一無二のものが生まれる。そんなことを考えながら、僕は今も人物撮影を続けています。
yama:なるほど……。なぜ人と話すとひらめきが生まれるのだろうかと疑問に感じていましたが、今のお言葉から人と話すことで自分とも対話をしていたのかと納得しました。ありがとうございます。
齊藤:いえいえ。こちらこそです。
yama:厳密な原体験ではないですが、今も好きで聴いているのは東京事変の『透明人間』です。ライブ映像を拝見したときに、歌詞、楽曲、ライブの雰囲気すべてに魅力を感じました。初めて聴いたのは学校生活がうまく行っていなかったとき。自分がここにいる必要があるのかと考えていた時期でした。その楽曲を通して、こんな自分でも間違っていないのかもしれないと思うようになりました。
齊藤:父親の仕事の関係で家では憂歌団や小坂忠とか、1970年代の音楽が良く流れていて、憂歌団は幼心にも響いて大好きでした。それらはレコードプレイヤーから流れてきていて、親の好みで聴いていたものをそのまま気に入って影響を受けたパターンです。ただ僕の年齢的には小室哲哉世代。学生時代は同世代と音楽の話が出来なかったことから、そこからMr.Childrenなどの流行歌を学んでいきました。
──朝の目覚めはアラーム派ですか?それとも音楽派ですか?
yama:自分はアラーム派です。
齊藤:僕は音楽で起きるタイプです。
yama:そうなんですね! でも音楽を目覚まし代わりにすると、その曲自体が朝起きるときの曲になってしまって、改めて聴いたときに憂鬱なイメージになったりしませんか……?
齊藤:まさにその通りです。僕はそうなるのを避けるために、シャッフルできるように7曲くらい用意しています。でもだいたい、MOROHAの『革命』率が高いです(笑)。『革命』で朝起きるとぶん殴られたような気がして「今起きねば!」という気持ちにさせられます。ちなみに今朝も『革命』で起きました。ところでyamaさんは古い曲も聴いたりしますか?
yama:古い曲も聴きます。そもそも古い曲の方が知らないものが多いので新鮮に感じることが多いです。自分はALIのCÉSARさんにギターを習っていて、そこで彼から世の音楽史も教わっています。それもあって今頃になって「レディオヘッド超カッコいい!」と気づいたりしています(笑)。
齊藤:レディオヘッドは現在進行形でカッコいいですよね。初期の曲を今聴いても気持ちがブチ上がります。
yama:それこそサブスクで何気なく流れていた曲を調べてみると、80年代の曲だったりして驚くことがあります。古い曲が逆に今新しいというか、名曲は色あせないものだなと実感したりしています。
齊藤:確かにそれはあるかもしれません。Night Tempoさんもその線ですよね。あえて今昭和ポップを聴く、という若い世代の方も増えている気がします。
yama:今まさにレコードにハマっている最中です。CÉSARさんがレコードプレイヤーを組んでくれたおかげで、プレイヤーに自分でドーナツ盤を置いてそこに針を落とすという作業を愛おしいと感じています。
齊藤工監督:その感覚わかります。いいですよねえ。
(取材・文=石井隼人、撮影=山口真由子)
■作品概要
タイトル:『スイート・マイホーム』
コピーライト:©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社
配給:日活 東京テアトル
公開日:9月1日 全国公開
映画『スイート・マイホーム』本予告
海外でも期待が寄せられる、日本発のホラー
──本作を通して感じた恐怖系映画の魅力とはなんでしょうか?齊藤工監督:僕自身はホラー映画を好んで観るようなタイプではないのですが、『スイート・マイホーム』を通して思ったのは、ホラーとは映画館をアトラクションにする装置であるということです。第25回上海国際映画祭などの海外の映画祭で『スイート・マイホーム』の公式上映に立ち会った際、観客のリアクションをダイレクトに受け取ったときにそう体感しました。三池崇史監督の『オーディション』しかり塚本晋也監督の『鉄男』しかり、海外の観客が日本映画に求める要素として日本発のホラーは大きな期待を寄せられているジャンルだと感じました。
──yamaさんは怖い作品はどうですか? 得意ですか?
yama:実は自分も……ホラー映画は得意ではないです。ドキドキしながら本編を拝見いたしました。
齊藤:スミマセン……。
yama:観ている最中ずっとジワジワと追い詰められているような気がして、冷や汗をかいて手に汗握る状態で最後まで気の抜けない映画でした。ドキドキしつつも最後まで引き込まれました。
©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社
yamaの主題歌は「容赦のない物語への鎮魂歌」
──yamaさんが歌う主題歌『返光』は見事に禍々しい物語を締めくくっていましたね!yama:この作品にピッタリだと思っていただけたら、うれしいです。主題歌としてエンドロールを飾る楽曲ということで、どのような形であれば映画の余韻を残しつつ、皆さんの心を楽曲で包めるだろうかと悩みながら担当させていただきました。自分の色と作品の色をどこまでかけ合わせることが出来るのか、そのバランスを意識して担当させていただきました。
齊藤:yamaさんの楽曲は日常的に耳にしていましたが、中でも素晴らしいと感じたのはテレビアニメ『王様ランキング』のエンディング曲『Oz.』を聴いたときです。もはや『Oz.』を聴くために『王様ランキング』を観るようなところもありました(笑)。『シン・ウルトラマン』で米津玄師さんが楽曲で物語を最後に踏襲してくれたように、yamaさんには『スイート・マイホーム』という容赦のない物語を鎮魂歌のような形で浄化してほしいとリクエストしました。何度か打ち合わせをさせていただいた結果、主題歌として『返光』に辿りついたとき、見事に作品に寄り添った楽曲であると同時に、海外の反応を含めて観客の心に浄化に近い反応を引き起こしてくれると確信しました。この作品に必要かつ、これ以上ない素晴らしい楽曲。『返光』が流れ終わるまでが作品という形で見事に物語を閉じてくださいました。
yama:楽曲の印象的には、バラードのようなメロディで親しみある優しい曲に聞こえるかもしれません。ただ『スイート・マイホーム』の世界観をエッセンスとして入れるためには優しく歌うだけではないのかもしれないと思って、感情の波を変化させるなど不安定な心情が出るよう意識しました。よくよく聴くと「おや?」となるようなちょっとした違和感を詰め込みました。
ACIDMAN・大木伸夫との会話で…
──ちなみにyamaさんは齊藤工監督にはどのような印象を抱いていましたか?yama:自分は個人的にACIDMANの大木伸夫さんと親交があって、その会話の中で齊藤さんのお話が出ることがありました。(齊藤工監督に)関わりはありますよね?
齊藤:はい、無茶苦茶あります。20年来のお付き合いをさせていただいています。
yama:自分はACIDMANの世界観が好きで、大木さんに曲を書き下ろしてもらったりしていて、大木さんの考え方も好きです。そんな方と仲がいいということは齊藤さんも素敵な方だと勝手に感じていました。そして『スイート・マイホーム』のお話をいただいたときに、自分でよければ協力させていただきたいという、うれしい気持ちがありました。共通の音楽が好きということで、齊藤さんとは芯の部分に共通するものがあるのではないかと感じました。
©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社
インスピレーションの源泉は?
──お二人にとってインスピレーションの源泉となるものは何ですか?齊藤:それは僕もyamaさんからお聞きしたいですね。
yama:参考になるかはわかりませんが、自分は映画や小説、漫画などの作品から影響を受けるときもありますが、アイデアやインスピレーションを得ることが多いシチュエーションは、他人とコミュニケーションを取っているときです。曲を書き始めた当初は自宅で一人煮詰まりながらやっていましたが、それもなかなかうまくいかない。そんなとき誰かと話して自分の考えやその人の人生観や価値観を聞いたときに刺激を受けていると気づきました。他者との会話や日常の中で得た刺激を楽曲制作にアウトプットしています。
齊藤:僕は写真家の森山大道さんへの憧れから、モノクロ写真を撮るようになりました。でも風景写真を撮っていると、これは別に自分ではなくてもほかの誰かが撮れる写真だろうと思うようなことが増えました。そこから僕にしか撮れないものって何だろう?と考えたときに、それは人の顔なのではないかと感じたんです。そして人物写真を撮っていくうちに、人物写真とは対象物と自分との関係値や距離感が如実に出るものだと気づきました。他者と対峙して自分との差や違いを知るということは、己の輪郭を知るということ。自分がどんな人間なのか、自分という輪郭が見えるのは他者と対峙しているとき。その瞬間にこそ唯一無二のものが生まれる。そんなことを考えながら、僕は今も人物撮影を続けています。
yama:なるほど……。なぜ人と話すとひらめきが生まれるのだろうかと疑問に感じていましたが、今のお言葉から人と話すことで自分とも対話をしていたのかと納得しました。ありがとうございます。
齊藤:いえいえ。こちらこそです。
齊藤工&yamaが選ぶ、心に響いた楽曲
──J-WAVE NEWSは、音楽に力を入れるラジオ局のJ-WAVEが運営しています。そこで質問です。心に響いたこの一曲!的なものがあれば教えてください!yama:厳密な原体験ではないですが、今も好きで聴いているのは東京事変の『透明人間』です。ライブ映像を拝見したときに、歌詞、楽曲、ライブの雰囲気すべてに魅力を感じました。初めて聴いたのは学校生活がうまく行っていなかったとき。自分がここにいる必要があるのかと考えていた時期でした。その楽曲を通して、こんな自分でも間違っていないのかもしれないと思うようになりました。
齊藤:父親の仕事の関係で家では憂歌団や小坂忠とか、1970年代の音楽が良く流れていて、憂歌団は幼心にも響いて大好きでした。それらはレコードプレイヤーから流れてきていて、親の好みで聴いていたものをそのまま気に入って影響を受けたパターンです。ただ僕の年齢的には小室哲哉世代。学生時代は同世代と音楽の話が出来なかったことから、そこからMr.Childrenなどの流行歌を学んでいきました。
──朝の目覚めはアラーム派ですか?それとも音楽派ですか?
yama:自分はアラーム派です。
齊藤:僕は音楽で起きるタイプです。
yama:そうなんですね! でも音楽を目覚まし代わりにすると、その曲自体が朝起きるときの曲になってしまって、改めて聴いたときに憂鬱なイメージになったりしませんか……?
齊藤:まさにその通りです。僕はそうなるのを避けるために、シャッフルできるように7曲くらい用意しています。でもだいたい、MOROHAの『革命』率が高いです(笑)。『革命』で朝起きるとぶん殴られたような気がして「今起きねば!」という気持ちにさせられます。ちなみに今朝も『革命』で起きました。ところでyamaさんは古い曲も聴いたりしますか?
MOROHA「革命」MV
齊藤:レディオヘッドは現在進行形でカッコいいですよね。初期の曲を今聴いても気持ちがブチ上がります。
yama:それこそサブスクで何気なく流れていた曲を調べてみると、80年代の曲だったりして驚くことがあります。古い曲が逆に今新しいというか、名曲は色あせないものだなと実感したりしています。
齊藤:確かにそれはあるかもしれません。Night Tempoさんもその線ですよね。あえて今昭和ポップを聴く、という若い世代の方も増えている気がします。
yama:今まさにレコードにハマっている最中です。CÉSARさんがレコードプレイヤーを組んでくれたおかげで、プレイヤーに自分でドーナツ盤を置いてそこに針を落とすという作業を愛おしいと感じています。
齊藤工監督:その感覚わかります。いいですよねえ。
■作品概要
タイトル:『スイート・マイホーム』
コピーライト:©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社
配給:日活 東京テアトル
公開日:9月1日 全国公開