ハザードマップで「安全」な場所でも注意が必要。防災に必要な“想像”とは

高橋 優が「身近に感じて欲しい防災教育」をテーマに、サレジアン国際学園世田谷中学高等学校 教諭の亰 百合子さんと語り合った。

2人がトークを繰り広げたのは、J-WAVEがいま注目するさまざまなトピックをお届けする日曜夜の番組『J-WAVE SELECTION』の震災復興プログラム『HEART TO HEART』(ナビゲーター:高橋 優)。オンエアは6月18日(日)。

独自の防災教育から生まれた「釜石の奇跡」

亰さんは東京・サレジアン国際学園世田谷中学高等学校の教諭で、防災教育に関する数々の賞を受賞してきた。

高橋:亰さんが防災教育に熱心に取り組むようになったきっかけはなんだったんですか。

亰:私は宮城県仙台市の出身なので、東日本大震災がきっかけということが第一にあります。ただ、震災が起きてすぐではなく、2014年から防災教育を始めました。学校の教員として生徒たちを連れて宮城県に行ったり自分自身でも実家に帰るなかで、宮城のみなさんから「震災のときはこんなに大変だったよ」という話を聞くこともあったんですけど、それ以上に「東京で災害が起こると大変なことになるよ。大丈夫なの?」ってすごく心配されるようになってきて。そうか、自分は地元のために何かしなければと思っていたけれど、本当に備えなければいけないのは自分たちだと気付いたことが、防災教育に目覚めたきっかけです。

番組では、岩手県・釜石東中学校の元教諭で、現在は千葉市で防災士としても活動する糸日谷美奈子さんの話を紹介した。

東日本大震災の津波で壊滅的な被害もあった岩手県釜石市鵜住居地区で、釜石東中学校の先生と生徒が日頃の防災教育を活かし、鵜住居小学校の児童の手も引いて高台へと避難。迫り来る津波を見て、想定の避難場所からさらに高台へ避難し、全員助かったことは後に「釜石の奇跡」と呼ばれることになった。その当事者だった糸日谷さんに釜石東中学校の防災について訊いた。

糸日谷:防災教育には教科書がないんです。まず「総合」の時間を使って防災をしようと決まったのですが、資料がないんですよね。なので、担当になった先生と地域の図書館に行って、過去の災害ではどんな状態だったのかを調べるところから始まりました。調べてみると釜石には地震から約30分で津波が押し寄せていたということや、津波の高さは13~14メートルに到達したことが分かりました。これを学校に当てはめると、校舎の3階の天井の高さになるんです。教員はその地域のスペシャリストではなかったため、この防災教育では地域に住んでいる方に講師として来ていただく機会が多かったんですけど、その地域の方に教えていただいたときに、学校よりも明らかに高い場所に過去の津波の石碑が残されていたと教えていただきました。

「ここまで津波きた」と記される石碑に訪れる中で、糸日谷さんや子どもたちは「ハザードマップでは学校は『安全』と記されているが、学校にいたら危ない」と学ぶことができたと当時を振り返る。

糸日谷:あとは、津波の速さは時速36キロで陸に到達するということも分かりました。その速さって100メートルを10秒で走る速さなんです。子どもたちと実際にグラウンドで36キロで走る車と競争して全力で走ってみると、全くかなわないんですよ。そういうことを体験で行った学年もあったりして、体験学習の中で地震後に津波が来てから逃げ出したら間に合わないなと。津波が来る前に真っ先に逃げないと「ここは危ない場所だ」と、子どもたちも教員も学んでいくことができました。私自身、ハザードマップでは安全と書かれていたにもかかわらず、(実際は)学校では危ないという事実、あとは津波の速さには全力で走ってもかなわないということを事前に知っていたので、大きな地震のあとに「ここは危ない」と真っ先に思うことができました。それがいちばん大切だと思います。

想像しておくことが防災に繋がる

糸日谷さんの体験談を聞いた高橋は、その独自の防災教育に興味を寄せる。

高橋:津波が36キロで来るから36キロで走る車と競争するって、想像するに子どもたちはキャッキャ言いながらやってそうだなと思ったんですよね。お堅い考えにはめ込むと「遊びじゃないんだぞ」ってどこかから聞こえてきそうですけど、そうやって日常生活で馴染ませているんだなって。

亰:「釜石の奇跡」って今は“釜石の出来事”として言われていていますが、決して奇跡ではなくて訓練の積み重ねで実現したことだという意味で、そういう風に呼ばれていることがあります。本当に具体的な体験ってすごく子どもたちの中に残って、私の目指している一生忘れない防災教育っていうところにも繋がっていくのかなと思います。そして、こうして生徒がやっていて楽しいって思わないと考えなくなってしまいます。防災訓練って、「怒られて嫌だった」とか言う子どもだちも過去の経験の中でいるんですけど、そういった子どもたちに、前向きに希望を持って助かる行動なんだよ、決して絶望して最悪なことしか考えなくなる防災ではなくて、助かるための、そしてそれを乗り越えるための防災なんだよっていうのを、体験を通じて浸透させていったからこその出来事だったのかなと思いました。

ハザードマップで安全と思われていたところも、場合によってはそうではないときがあると知った高橋は「災害が起こったときに、何を見て、どこに行けばいいか」と亰さんに質問する。

亰:ハザードマップは安心するための資料ではなくて、「ハザードマップで(危険だと示す)色がついてないからよかった」とかいうのは誤解なんです。それだけで安心してはいけないということがあります。「これが答えだよ」というのが防災にはなくて。防災の話をしていると「どうすればいいですか?」ってよく訊かれるんですけど、そのとき一緒に考えるということが大事になってくるかなと思います。あとは、地震だったり豪雨だったり津波だったり災害の種類によって対応が変わってくるので、その災害に合わせた対応を少しでもいいので考えると変わってくるのかなと。例えば、よく生徒に「今いちばん危ない人誰だ?」って教室を見渡してもらうと、いろいろ落ちてきそうなものの下にいそうな先生ってなったりするんですけど。

高橋:「今すぐ起きるかもしれない」って思う気持ちが、恐怖心だと心にストレスがたまってしまったりすることがあると思うんです。ただ、亰さんのお話を伺っていると、備えておけば、亰さんのようなまぶしい笑顔が継続していくんだっていう感じです。想像しておくことが防災に繋がって、ほんのちょっとだけ心に負荷をかける。想像するってそういうことかなって思います。想像するのは必ずしも100パーセント楽しいだけじゃないけど、ちょっとだけ痛みを伴うことも最終的に幸せになるためには大切なのかなって考えたりしますね。

ぜひ日常の中にちょっと防災を加えてほしい

高橋は亰さんの防災教育で特に気になった教え方があるという。

高橋:亰先生が「先生はみなさんのことを助けま……」って言ったら、生徒のみなさんが「せん!」って言うんですよね(笑)。

亰:ご存知でしたか(笑)。

高橋:それって、実際に地震が起こったら先生はきっとあたふたしちゃうから、僕たち私たちが頑張るねっていうメッセージのコール&レスポンスですよね。

亰:そうですね。やっぱり先生が頑張ってしまう防災教育って子どもたちには逆効果で、本校でも防災教育を始めた頃、一度小さな揺れが授業中に起こったときにあるクラスで生徒たちが「亰先生が助けてくれるから大丈夫だよね」って笑っていたという報告が入って、それだとマズいってことで、それからこの合言葉を始めたんです。将来は生徒が目の前にいて助けられるわけでもないし、(でも)どこにいても助かってほしい、という思いからこの合言葉をやっています。生徒たちはその合言葉をやるようになってから、ちょっとした揺れが起きたときに一斉に自分で自分の身を守る行動を取るようになりました。

亰さんは、今後の願いを口にする。

亰:よく「災害を歴史から学ぼう」ということもあるんですけど、東日本大震災は終わったことではなく今も続いているところがあります。今災害が起きたら助かるかどうかだけではなくて、その後どうやって生活を再建して乗り越えいくのか、心を回復させていくのかという“長期的な視点”も持てるといいなと思っています。そうしたほうが希望が見えてくるのではないかなと。

高橋:最後にリスナーにメッセージはありますか。

亰:ぜひ、日常の中にちょっと防災を加えてほしいと思っています。スーパーに行ったら(備蓄用に)好きなお菓子を少し買うでもいいですし、電車に乗る前に「今日は水筒を持ってるかな、水分を摂るものはあるかな」とか思ったり。防災って全部やらなくちゃって思うと面倒くさい気持ちになって果てしなく思ってしまうんですけど、やらないよりもやったほうが絶対にプラスになります。それがちょっとしたことであってもプラスなので、防災の視点を少しだけ持ってまわりを見渡すとヒントはたくさん隠れていると思います。想像しながら楽しく防災をみなさんにおすすめしたいと思います。

番組では他にも、南海トラフ地震で日本のどの場所よりも高い津波が想定される高知県・黒潮町にある黒潮町立佐賀中学校の宮﨑宏治校長先生が防災教育について語った場面もあった。

再生は2023年06月25日28時ごろまで

高橋優が被災地の今を届ける番組『HEART TO HEART』は、毎月第三日曜日22:00~22:54 にオンエア。
radikoで聴く
2023年6月25日28時59分まで

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番組情報
HEART TO HEART
毎月第3日曜
22:00-22:54

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