J-WAVEがいま注目するさまざまなトピックをお届けする日曜夜の番組『J-WAVE SELECTION』。毎月第3日曜は、震災復興プログラム『Hitachi Systems HEART TO HEART』(ナビゲーター:藤巻亮太)をお届けしています。6月16日(日)のオンエアではミュージシャンのさだまさしさんをお迎えし、「歌の力をどう復興に役立てるのか」考えました。
【『Hitachi Systems HEART TO HEART』(毎月第3日曜 22時-22時54分)】
■音楽は「人の心を、ちょっと揺らすくらいの力はあるかもしれない」
さださんは、国内外の大規模災害の復旧現場などでボランティア活動をする個人や団体に対し、物心両面からの支援を提供するための「風に立つライオン基金」の設立や、被災地を支援するチャリティコンサートなどの活動を続けています。
今回、藤巻は気仙沼大島で仕出し屋を営む菊田玲子さんを取材。菊田さんは東日本大震災から間もない頃、さださんが気仙沼大島でおこなった慰問ライブに励まされたそうです。慰問ライブの会場となった気仙沼大島小学校の体育館を訪ねて当時の話を訊きました。
菊田:さださんはすごくユーモアを交えて、「今回は無料だけど、ちゃんとどこかでやると何千円する、けっこう高いコンサートなんだよ」と話したりして、すごいおかしくて(笑)。さださんはそのときの状況を考え、私たちのことを考え、そのうえでのコンサートだったんだなと思います。トークであったり歌であったり。
さださんの『関白宣言』をワンフレーズ聴いただけで泣いている様子を見て、「なんで『関白宣言』で泣いてるの?」とさださんが冗談を言う場面もあったそうです。
菊田:『関白宣言』が何かの琴線に触れて、それが(自分の思いと)リンクするものがありましたよね。当時、私たち母親は子どもたちの前ではとにかく泣いてはダメだとすごく思っていたけど、さださんのコンサートで解放されるというか、忘れられるというか、緊張が解けるというんですかね。「こうしてなくちゃ」という気持ちが緩む部分があったように思います。あのときも音楽を通して、さださんの温かさや人柄に触れられた、そんな気持ちがしています。
さださんは「このときのことを鮮明に覚えている」と振り返りました。
さだ:大島に小さな港があるんですけど、ここに津波でフェリーが打ち上げられていたんです。僕がそこにたどり着いたときは、フェリーの舳先をくぐるようにして小学校の体育館に行きましたね。そのときに胸が押しつぶされそうになったんですけど、行ってみると子どもたちは子どもらしく走り回っていました。
さださんはそれ以前から、「何もかも流されてなくなってしまっているから、あったらいいなというものを送ろう」と考え、被災地の子どもたちに画用紙やお絵かき帳、シャボン玉、ゲームなどを、また大人たちにも必要なものを順次送っていたそうです。
さだ:この日は各地の避難所から全部で600人くらいの方が集まってくれました。こういうときって、僕らが被災者の人と同じ痛みなんて感じられるわけがないじゃないですか。だから「痛みを感じようとする必要はない」と考えていて。でも一緒に泣くことはできる、一緒に笑うことはできる。それだったら一緒にできるんじゃないか、そんな感じでした。あとは、お客さんの顔を見ながら「この人も大変だったんだろうな」と思いつつ、言葉に体温がこもっていれば必ず反応があるから、歌を聴いて泣いたり笑ったりして、「初めて笑った」と言われると良かったと思うし、「初めて泣いた」と言われると、動かなくなった心がちょっと動いたんだなという安心感を持ちました。
「人間ってショックがあると心が動かなくなる」とさださんは続けます。
さだ:心が音楽でちょっと動くと体が動くんです。体が動くと人間は何かを見つけて働くんですよ。そして、働くとくたびれるから、夜寝られるんです。夜寝られると元気が湧いてくるんです。だから、まずは心が動くことから始めないといけない。音楽なんて本当に何の役にも立たないけども、もしかしたら何人かの人の心をちょっと揺らすくらいの力はあるかもしれないとあの震災で教わりましたね。
■泉谷しげるに言われた「困っているやつがいたら…」
震災が発生してから、休みになるとさださんはギターを携えて、被災地である岩手県、宮城県、福島県をずっとまわり歌っていました。
さだ:ありとあらゆる町へ入って行くと、まず「お前は何を売りに来たんだ」と言われるのが怖い。要するに、「売名行為だ」とか「偽善だ」とか言いたい人が多いから。それって被災地の人は言わないけど、その脇でわかったふりをする人がけっこういるんですよね。でも売名行為だと言われても、俺これだけ売れてるから、もう売れなくていいんだよと(笑)。
藤原:(笑)。
さだ:何もしてくれない善人より、何かしてくれる悪人の方が役に立つと思って「偽善活動をやろう」と。これは泉谷しげるが言ったんですけど、泉谷しげるが「さだ、困っているやつがいたら二人で偽善に行こう」って言って、「ああ、いい言葉だな」と思ってね。「偽善活動」と開き直る手もあるなと思いました。
藤巻:自分自身もミュージシャンとして被災地に入ったとき、最初はカレーの炊き出しを手伝いに行きました。
さだ:その方が役に立つと思うよね。歌なんて役に立たないから。
藤巻:一番最初は衣食住が大切なので。
さだ:現実にあの騒ぎの中に音楽が来てもじゃまくさいだけ。「歌を歌います」って言っても「いらない、手伝え」ってね。
最初は炊き出しを手伝っていた藤巻ですが、あるきっかけから被災地に歌を届けるようになりました。
藤巻:宮城県女川町のある保育所で僕を気づいてくれた人がいました。そこで、自分自身の『3月9日』という曲を歌わせていただいたときに、「今はカレーの炊き出しをしているけど、今後東北地方に関わるときは、自分ができることをしたい」と思いました。
さだ:みんながそうなんですよ。僕のコンサートでお客さんに言うのは、「被災地に行きたいんだけど、仕事があるからボランティアに行けない」とか「本当は現場で応援したいんだけどできない」と思うかも知れないけど、イライラしないでいいよと。行ける人が行けばいいんだからって。みんなが僕のコンサートに来てくれるだけで、僕が生きていけて、僕がみんなの代わりに被災地に行くから。そんなかたちで僕を支えてくれって。そうすれば、まわっていくから。お隣へとまわしていけばどうにかなるから「できることをやろうよ」って。何も無理して料理もしたことがない人が炊き出しをしても仕方がないからね。
そして、まずは現地の人と連絡を取ることが一番だと、さださん。
さだ:「俺、何ができる?」って、被災地には手ぶらで入って、現地の人の顔を見て「僕にできることはある?」「必要なものはある?」って聞くんです。それから落ち着いた頃に、現場に「歌いに行った方がいい?」って訊いて、「来てよ!」って言われたら「じゃあ、行くかな」って。
■「さださんは、現地で生きている一人ひとりの心と向き合っている」
さださんとの話を振り返り、番組の最後に藤巻はこう話しました。
藤原:さださんが現場を大事にされているという気持ち、そしてそこに所属している数の見えない大きな組織を相手にするというよりも、そこに生きている一人ひとりの心と向き合って、その人のためにできることを探して、それを歌にして、音楽にして。音楽にならないときはいろいろなかたちで支援されている。そうやって人の心をずっと見つめている姿勢を強く感じ、深く感動しました。
一見すると音楽は被災地に必要のないものに思えるかもしれませんが、さださん、そして藤巻の取り組みを知ることで、音楽が被災地の人たちにとって大切な瞬間になり得る、大きな力を持つ、そう思わせてくれる貴重な時間になりました。
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【番組情報】
番組名:『Hitachi Systems HEART TO HEART』
放送日時:毎月第3日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/special/hearttoheart/
【『Hitachi Systems HEART TO HEART』(毎月第3日曜 22時-22時54分)】
■音楽は「人の心を、ちょっと揺らすくらいの力はあるかもしれない」
さださんは、国内外の大規模災害の復旧現場などでボランティア活動をする個人や団体に対し、物心両面からの支援を提供するための「風に立つライオン基金」の設立や、被災地を支援するチャリティコンサートなどの活動を続けています。
今回、藤巻は気仙沼大島で仕出し屋を営む菊田玲子さんを取材。菊田さんは東日本大震災から間もない頃、さださんが気仙沼大島でおこなった慰問ライブに励まされたそうです。慰問ライブの会場となった気仙沼大島小学校の体育館を訪ねて当時の話を訊きました。
菊田:さださんはすごくユーモアを交えて、「今回は無料だけど、ちゃんとどこかでやると何千円する、けっこう高いコンサートなんだよ」と話したりして、すごいおかしくて(笑)。さださんはそのときの状況を考え、私たちのことを考え、そのうえでのコンサートだったんだなと思います。トークであったり歌であったり。
さださんの『関白宣言』をワンフレーズ聴いただけで泣いている様子を見て、「なんで『関白宣言』で泣いてるの?」とさださんが冗談を言う場面もあったそうです。
菊田:『関白宣言』が何かの琴線に触れて、それが(自分の思いと)リンクするものがありましたよね。当時、私たち母親は子どもたちの前ではとにかく泣いてはダメだとすごく思っていたけど、さださんのコンサートで解放されるというか、忘れられるというか、緊張が解けるというんですかね。「こうしてなくちゃ」という気持ちが緩む部分があったように思います。あのときも音楽を通して、さださんの温かさや人柄に触れられた、そんな気持ちがしています。
さださんは「このときのことを鮮明に覚えている」と振り返りました。
さだ:大島に小さな港があるんですけど、ここに津波でフェリーが打ち上げられていたんです。僕がそこにたどり着いたときは、フェリーの舳先をくぐるようにして小学校の体育館に行きましたね。そのときに胸が押しつぶされそうになったんですけど、行ってみると子どもたちは子どもらしく走り回っていました。
さださんはそれ以前から、「何もかも流されてなくなってしまっているから、あったらいいなというものを送ろう」と考え、被災地の子どもたちに画用紙やお絵かき帳、シャボン玉、ゲームなどを、また大人たちにも必要なものを順次送っていたそうです。
さだ:この日は各地の避難所から全部で600人くらいの方が集まってくれました。こういうときって、僕らが被災者の人と同じ痛みなんて感じられるわけがないじゃないですか。だから「痛みを感じようとする必要はない」と考えていて。でも一緒に泣くことはできる、一緒に笑うことはできる。それだったら一緒にできるんじゃないか、そんな感じでした。あとは、お客さんの顔を見ながら「この人も大変だったんだろうな」と思いつつ、言葉に体温がこもっていれば必ず反応があるから、歌を聴いて泣いたり笑ったりして、「初めて笑った」と言われると良かったと思うし、「初めて泣いた」と言われると、動かなくなった心がちょっと動いたんだなという安心感を持ちました。
「人間ってショックがあると心が動かなくなる」とさださんは続けます。
さだ:心が音楽でちょっと動くと体が動くんです。体が動くと人間は何かを見つけて働くんですよ。そして、働くとくたびれるから、夜寝られるんです。夜寝られると元気が湧いてくるんです。だから、まずは心が動くことから始めないといけない。音楽なんて本当に何の役にも立たないけども、もしかしたら何人かの人の心をちょっと揺らすくらいの力はあるかもしれないとあの震災で教わりましたね。
■泉谷しげるに言われた「困っているやつがいたら…」
震災が発生してから、休みになるとさださんはギターを携えて、被災地である岩手県、宮城県、福島県をずっとまわり歌っていました。
さだ:ありとあらゆる町へ入って行くと、まず「お前は何を売りに来たんだ」と言われるのが怖い。要するに、「売名行為だ」とか「偽善だ」とか言いたい人が多いから。それって被災地の人は言わないけど、その脇でわかったふりをする人がけっこういるんですよね。でも売名行為だと言われても、俺これだけ売れてるから、もう売れなくていいんだよと(笑)。
藤原:(笑)。
さだ:何もしてくれない善人より、何かしてくれる悪人の方が役に立つと思って「偽善活動をやろう」と。これは泉谷しげるが言ったんですけど、泉谷しげるが「さだ、困っているやつがいたら二人で偽善に行こう」って言って、「ああ、いい言葉だな」と思ってね。「偽善活動」と開き直る手もあるなと思いました。
藤巻:自分自身もミュージシャンとして被災地に入ったとき、最初はカレーの炊き出しを手伝いに行きました。
さだ:その方が役に立つと思うよね。歌なんて役に立たないから。
藤巻:一番最初は衣食住が大切なので。
さだ:現実にあの騒ぎの中に音楽が来てもじゃまくさいだけ。「歌を歌います」って言っても「いらない、手伝え」ってね。
最初は炊き出しを手伝っていた藤巻ですが、あるきっかけから被災地に歌を届けるようになりました。
藤巻:宮城県女川町のある保育所で僕を気づいてくれた人がいました。そこで、自分自身の『3月9日』という曲を歌わせていただいたときに、「今はカレーの炊き出しをしているけど、今後東北地方に関わるときは、自分ができることをしたい」と思いました。
さだ:みんながそうなんですよ。僕のコンサートでお客さんに言うのは、「被災地に行きたいんだけど、仕事があるからボランティアに行けない」とか「本当は現場で応援したいんだけどできない」と思うかも知れないけど、イライラしないでいいよと。行ける人が行けばいいんだからって。みんなが僕のコンサートに来てくれるだけで、僕が生きていけて、僕がみんなの代わりに被災地に行くから。そんなかたちで僕を支えてくれって。そうすれば、まわっていくから。お隣へとまわしていけばどうにかなるから「できることをやろうよ」って。何も無理して料理もしたことがない人が炊き出しをしても仕方がないからね。
そして、まずは現地の人と連絡を取ることが一番だと、さださん。
さだ:「俺、何ができる?」って、被災地には手ぶらで入って、現地の人の顔を見て「僕にできることはある?」「必要なものはある?」って聞くんです。それから落ち着いた頃に、現場に「歌いに行った方がいい?」って訊いて、「来てよ!」って言われたら「じゃあ、行くかな」って。
■「さださんは、現地で生きている一人ひとりの心と向き合っている」
さださんとの話を振り返り、番組の最後に藤巻はこう話しました。
藤原:さださんが現場を大事にされているという気持ち、そしてそこに所属している数の見えない大きな組織を相手にするというよりも、そこに生きている一人ひとりの心と向き合って、その人のためにできることを探して、それを歌にして、音楽にして。音楽にならないときはいろいろなかたちで支援されている。そうやって人の心をずっと見つめている姿勢を強く感じ、深く感動しました。
一見すると音楽は被災地に必要のないものに思えるかもしれませんが、さださん、そして藤巻の取り組みを知ることで、音楽が被災地の人たちにとって大切な瞬間になり得る、大きな力を持つ、そう思わせてくれる貴重な時間になりました。
【この記事の放送回をradikoで聴く】
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【番組情報】
番組名:『Hitachi Systems HEART TO HEART』
放送日時:毎月第3日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/special/hearttoheart/