元・警視庁 公安部の勝丸円覚さんが、知られざる公安の実態を語った。
勝丸さんが登場したのは『STEP ONE』のワンコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」(ナビゲーター:サッシャ、中田花奈)。ここでは6月12日(火)のオンエア内容をテキストで紹介する。
勝丸:ドラマに出てくるような刑事さんは、殺人事件や窃盗事件を担当します。公安警察というのは、警察官なので事件もやるんですが、テロリストとかスパイの監視、情報収集、尾行が仕事の中心になります。
サッシャ:そのなかで外事課っていうと何をするんですか?
勝丸:公安は大きく、公安と外事の2つに分かれるのですが、公安というほうは、国内にいる過激派とかカルト宗教の取り締まりですね。外事課は、外国から日本に有害な活動をする、あるいはスパイやテロリストを送り込んで日本で活動するのを取り締まったり監視したりします。
サッシャ:ってことは、そういう人がいるってことですか?
勝丸:います。あるいはそういう人たちに資金を提供したり、そうした思想に染まったりしている人ですね。いろんなパターンがあります。
中田:勝丸さんのご家族は、現役のときにはこのことをご存じだったんですか?
勝丸:公安全般にいえることなんですが、配属になるときには基本的に家族に言いません。恐ろしい、危険というイメージがありますし、国家の安全に関わるような秘密を持ちますので、家族も気になったりするといけないので。基本的に言わないっていうのが、暗黙の了解としてあります。
サッシャ:お辞めになったときは、言った?
勝丸:辞める前にばれてしまうというか、わかってしまうという場面があるんです。たとえば警察官は家族寮に住んでいたりして、同じ警察署にいたりすると奥さんのネットワークで「~さんの旦那さんは、公安なんですってね」ていう、そこでバレる。ですからバレるっていうのも織り込み済みで、自分からは言わない。で、言われたときに「実は言わなくてごめんね、ただ言えない職業だから、これからも言わないよ」っていう、二段構えといいますか……。
サッシャ:大変だ。
中田:1回それを聞いておけば、「多分、何もしゃべってくれないんだろうな」って奥様も感じたりしますよね。
勝丸:国内で活動している場合にはあまりないんですが、私は外国の日本大使館で情報収集をしたことがあって、そのときには自分の仲間がいないので単独でやるんですね。自分を守ってくれる、周りで見張ってくれる人がいなかったという意味で、外国での情報収集は常に危険を覚悟した仕事でした。
サッシャ:いろいろ手がけたなかで、我々も知っている有名な事件に関わっていたことはありますか?
勝丸:私が関わって成功した報道ベースのものでは、2015年に元自衛隊の幹部がロシアのスパイに自衛隊の内部情報を漏洩というか、渡していたというのがあります。
サッシャ:何か、怪しいと思ったところがあったんですか?
勝丸:ホテルのパーティーでロシアのスパイと接触(会う)していたんですけど、そこに立派な風格の日本人男性が会いに来て、親しそうに話をしているんです。これは何者かを探ろうということでそこから追尾をはじめていって、数ヶ月の監視の結果、渡すところを確認したと。
サッシャ:じゃあ、「その人となんでこんなに仲よくしているんだろう」というところで、怪しいと思ったってことですか?
勝丸:そうですね。そのパーティーでは、そのスパイとは何人も握手したりしますよね。マンパワーに限度がありますので、そのなかから追いかけるのに選別しないといけないんです。今日の尾行はこの立派な日本人男性にしようということで選択して、外で待っているチームに連絡をして、そして追いかけていったと。
中田:それを見分けなきゃいけないの、けっこう大変ですよね。結局、事件はどう終息したんですか?
勝丸:情報漏洩ですので、その人と、その人に渡してしまった現職の方も含めて自衛隊法違反ということで、書類送検されました。
サッシャ:これはやっぱり話題に挙がったことで、抑止にもつながった?
勝丸:そうですね。成功したことを報道する意味は、同じようなことをやっている人たちがピリッとする、抑止効果・防犯効果があります。
サッシャ:ただ、成功してもニュースにならないことも?
勝丸:今回の場合は首尾よく書類送検までいきましたけど、書類送検までいけない段階で、「いま止めないと、情報がダダ漏れになってしまう」というときには私たちが姿を現して、「見てたぞ」といって、そこで終わらせるんですね。これは未遂ですから、報道にならない。そのままスパイは本国に帰っていくんですけど、こういう成功の報道発表レベル以前のものは、たくさんあります。
サッシャ:家族も知らない、褒められない、知られない。けっこうモチベーション的に難しい仕事ですね。
勝丸:キザな言い方ですけど、愛国心ですね。それしかないです。
勝丸:もっと具体的に言うと、人たらし術といいますか、自分のファンを作るといいますか。公安警察も外事警察も、いちばん大切なのは情報収集なんです。ですから、自分に情報を提供してくれる人を1人でも多く持つことが大切です。「彼に会ったら話したくなる」「彼のために情報を持ってきたくなる」みたいな、そのためには自腹を切ることもあれば、その人の代わりに何かをやってあげるとか。
サッシャ:広い意味で、その人の役に立ってあげるってことね。
勝丸:そういうことです。あと、私が大使館勤務だったときは大使館を空けますので「あいつ、なんでいないんだよ」って言われないように、あるいはいるときに「やっといてあげたぞ」って言われるような人間関係を普段から作ることを大切にしていました。
サッシャ:何をいちばん気遣いました?
勝丸:警察に協力しているということで立場上悪くなってしまうと、究極な話、協力者が命を狙われることもありますので、それを守ることです。情報提供者の安全を守ることを、常に気に掛けていました。
我々の知らない公安の仕事を語る勝丸さんに、サッシャは「一般の方でも使えるノウハウはないか」と質問する。
勝丸:人たらし術も役に立つと思いますが、尾行とかストーカーとか、自分によからぬ人が寄って来たときに、普段やってほしいことがあります。これから活動するスパイや、スパイに会いに行く人とかのちょっとした変化の見分け方があって、これがストーカーの発見術にもなります。家や職場、ショッピングモールを出たときとか、定点から動き出ときに、常に視野を広く持って欲しいんですね。毎日毎日この癖をつけていくと、自分の第六感で「ちょっとおかしいな」って思う人を別の場所で見たりします。横断歩道を渡るときに、前の大きなガラスで自分の周りを見ていると、「家を出るときにいた人だ」みたいな感じで。これを習慣づけると、(不審者の)発見につながります。
中田:そういうときは、どうしたらいいんですか?
勝丸:尾行されている、あるいはされたかもしれないというときは、警察署や交番に行く、あるいは警察官を呼んでください。「この人はすぐ警察を呼ぶ」っていうのは、不審者からしてみたら怖いですからね。あとは生活圏に自分がよく知っている、入口・出口が複数あるような複雑な構造のビルをいくつか見つけておいて、建物の表にタクシーで乗り付けて、後ろから出ていくみたいなことをする。これを私たちは「点検・消毒」って言い方をするんですけど、こんなのもじゅうぶんに尾行を巻けます。スパイたちも訓練を受けたプロですので、自分たちを追っかけている者はいないかって見ているので、私たちも追われる可能性があって、追われたことがあります。ですからスパイを追っかけた日はまっすぐ家に帰らずに、点検と消毒を繰り返しながら家に帰っていきます。
サッシャ:貴重なお話をいろいろありがとうございました。
勝丸:張り込み中にずっと聞いていた番組にお呼びいただいて、ありがとうございました!
さらに詳しく知りたい方は、勝丸さんの著書『警視庁公安部外事課』(光文社)もチェックしてみては。
J-WAVE『STEP ONE』のワンコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」では、毎回ニューノーマル時代のさまざまなエッジにフォーカスする。放送は月曜~木曜の10時10分ごろから。
勝丸さんが登場したのは『STEP ONE』のワンコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」(ナビゲーター:サッシャ、中田花奈)。ここでは6月12日(火)のオンエア内容をテキストで紹介する。
公安警察における「暗黙の了解」とは
国家的な秘密を担う公安は、仕事として実在するものの、実際にどのようなことをしているのか知らない方も多いのではないだろうか。そんな公安として活躍した、元・警視庁 公安部 外事課の勝丸さんに、まずは公安の仕事について聞いた。勝丸:ドラマに出てくるような刑事さんは、殺人事件や窃盗事件を担当します。公安警察というのは、警察官なので事件もやるんですが、テロリストとかスパイの監視、情報収集、尾行が仕事の中心になります。
サッシャ:そのなかで外事課っていうと何をするんですか?
勝丸:公安は大きく、公安と外事の2つに分かれるのですが、公安というほうは、国内にいる過激派とかカルト宗教の取り締まりですね。外事課は、外国から日本に有害な活動をする、あるいはスパイやテロリストを送り込んで日本で活動するのを取り締まったり監視したりします。
サッシャ:ってことは、そういう人がいるってことですか?
勝丸:います。あるいはそういう人たちに資金を提供したり、そうした思想に染まったりしている人ですね。いろんなパターンがあります。
中田:勝丸さんのご家族は、現役のときにはこのことをご存じだったんですか?
勝丸:公安全般にいえることなんですが、配属になるときには基本的に家族に言いません。恐ろしい、危険というイメージがありますし、国家の安全に関わるような秘密を持ちますので、家族も気になったりするといけないので。基本的に言わないっていうのが、暗黙の了解としてあります。
サッシャ:お辞めになったときは、言った?
勝丸:辞める前にばれてしまうというか、わかってしまうという場面があるんです。たとえば警察官は家族寮に住んでいたりして、同じ警察署にいたりすると奥さんのネットワークで「~さんの旦那さんは、公安なんですってね」ていう、そこでバレる。ですからバレるっていうのも織り込み済みで、自分からは言わない。で、言われたときに「実は言わなくてごめんね、ただ言えない職業だから、これからも言わないよ」っていう、二段構えといいますか……。
サッシャ:大変だ。
中田:1回それを聞いておけば、「多分、何もしゃべってくれないんだろうな」って奥様も感じたりしますよね。
功績は表に出ないことのほうが多い
中田は勝丸さんに、「命の危険を感じることもあったのでは」と、疑問を投げかける。勝丸:国内で活動している場合にはあまりないんですが、私は外国の日本大使館で情報収集をしたことがあって、そのときには自分の仲間がいないので単独でやるんですね。自分を守ってくれる、周りで見張ってくれる人がいなかったという意味で、外国での情報収集は常に危険を覚悟した仕事でした。
サッシャ:いろいろ手がけたなかで、我々も知っている有名な事件に関わっていたことはありますか?
勝丸:私が関わって成功した報道ベースのものでは、2015年に元自衛隊の幹部がロシアのスパイに自衛隊の内部情報を漏洩というか、渡していたというのがあります。
サッシャ:何か、怪しいと思ったところがあったんですか?
勝丸:ホテルのパーティーでロシアのスパイと接触(会う)していたんですけど、そこに立派な風格の日本人男性が会いに来て、親しそうに話をしているんです。これは何者かを探ろうということでそこから追尾をはじめていって、数ヶ月の監視の結果、渡すところを確認したと。
サッシャ:じゃあ、「その人となんでこんなに仲よくしているんだろう」というところで、怪しいと思ったってことですか?
勝丸:そうですね。そのパーティーでは、そのスパイとは何人も握手したりしますよね。マンパワーに限度がありますので、そのなかから追いかけるのに選別しないといけないんです。今日の尾行はこの立派な日本人男性にしようということで選択して、外で待っているチームに連絡をして、そして追いかけていったと。
中田:それを見分けなきゃいけないの、けっこう大変ですよね。結局、事件はどう終息したんですか?
勝丸:情報漏洩ですので、その人と、その人に渡してしまった現職の方も含めて自衛隊法違反ということで、書類送検されました。
サッシャ:これはやっぱり話題に挙がったことで、抑止にもつながった?
勝丸:そうですね。成功したことを報道する意味は、同じようなことをやっている人たちがピリッとする、抑止効果・防犯効果があります。
サッシャ:ただ、成功してもニュースにならないことも?
勝丸:今回の場合は首尾よく書類送検までいきましたけど、書類送検までいけない段階で、「いま止めないと、情報がダダ漏れになってしまう」というときには私たちが姿を現して、「見てたぞ」といって、そこで終わらせるんですね。これは未遂ですから、報道にならない。そのままスパイは本国に帰っていくんですけど、こういう成功の報道発表レベル以前のものは、たくさんあります。
サッシャ:家族も知らない、褒められない、知られない。けっこうモチベーション的に難しい仕事ですね。
勝丸:キザな言い方ですけど、愛国心ですね。それしかないです。
日常生活でできる、不審者発見術
勝丸さんは、公安警察に必要な才能として「コミュニケーション能力」を挙げた。勝丸:もっと具体的に言うと、人たらし術といいますか、自分のファンを作るといいますか。公安警察も外事警察も、いちばん大切なのは情報収集なんです。ですから、自分に情報を提供してくれる人を1人でも多く持つことが大切です。「彼に会ったら話したくなる」「彼のために情報を持ってきたくなる」みたいな、そのためには自腹を切ることもあれば、その人の代わりに何かをやってあげるとか。
サッシャ:広い意味で、その人の役に立ってあげるってことね。
勝丸:そういうことです。あと、私が大使館勤務だったときは大使館を空けますので「あいつ、なんでいないんだよ」って言われないように、あるいはいるときに「やっといてあげたぞ」って言われるような人間関係を普段から作ることを大切にしていました。
サッシャ:何をいちばん気遣いました?
勝丸:警察に協力しているということで立場上悪くなってしまうと、究極な話、協力者が命を狙われることもありますので、それを守ることです。情報提供者の安全を守ることを、常に気に掛けていました。
我々の知らない公安の仕事を語る勝丸さんに、サッシャは「一般の方でも使えるノウハウはないか」と質問する。
勝丸:人たらし術も役に立つと思いますが、尾行とかストーカーとか、自分によからぬ人が寄って来たときに、普段やってほしいことがあります。これから活動するスパイや、スパイに会いに行く人とかのちょっとした変化の見分け方があって、これがストーカーの発見術にもなります。家や職場、ショッピングモールを出たときとか、定点から動き出ときに、常に視野を広く持って欲しいんですね。毎日毎日この癖をつけていくと、自分の第六感で「ちょっとおかしいな」って思う人を別の場所で見たりします。横断歩道を渡るときに、前の大きなガラスで自分の周りを見ていると、「家を出るときにいた人だ」みたいな感じで。これを習慣づけると、(不審者の)発見につながります。
中田:そういうときは、どうしたらいいんですか?
勝丸:尾行されている、あるいはされたかもしれないというときは、警察署や交番に行く、あるいは警察官を呼んでください。「この人はすぐ警察を呼ぶ」っていうのは、不審者からしてみたら怖いですからね。あとは生活圏に自分がよく知っている、入口・出口が複数あるような複雑な構造のビルをいくつか見つけておいて、建物の表にタクシーで乗り付けて、後ろから出ていくみたいなことをする。これを私たちは「点検・消毒」って言い方をするんですけど、こんなのもじゅうぶんに尾行を巻けます。スパイたちも訓練を受けたプロですので、自分たちを追っかけている者はいないかって見ているので、私たちも追われる可能性があって、追われたことがあります。ですからスパイを追っかけた日はまっすぐ家に帰らずに、点検と消毒を繰り返しながら家に帰っていきます。
サッシャ:貴重なお話をいろいろありがとうございました。
勝丸:張り込み中にずっと聞いていた番組にお呼びいただいて、ありがとうございました!
さらに詳しく知りたい方は、勝丸さんの著書『警視庁公安部外事課』(光文社)もチェックしてみては。
J-WAVE『STEP ONE』のワンコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」では、毎回ニューノーマル時代のさまざまなエッジにフォーカスする。放送は月曜~木曜の10時10分ごろから。
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2023年6月19日28時59分まで
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番組情報
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