別所哲也が、自身が代表を務める「Short Shorts Film Festival & Asia(SSFF & ASIA 2023)」について、藤原しおりと語り合った。
別所が登場したのは、藤原しおりが「チーフ」としてナビゲートする、ラジオを「ラボ」に見立てたJ-WAVEの番組『LOGISTEED TOMOLAB. TOMORROW LABORATORY』(通称トモラボ)。「私たちの身近にある森羅万象」をテーマ(イシュー)に取り上げてかみ砕き、ラボの仲間としてゲストを「フェロー」として迎え、未来を明るくするヒントを研究している。
ここで紹介するオンエアは5月27日(土)。
藤原:そもそも別所さんがショートフィルムに出会ったきっかけは?
別所:僕はハリウッド映画でデビューさせていただいて、アメリカで映画デビューしたあとに日本に戻ってきて、いわゆるトレンディ俳優としていろいろなドラマや日本の映画に出させていただきました。東京とロサンゼルスを行ったり来たりする生活が20代後半から30代にありまして、ことあるごとに「哲也、ショートフィルム観にいかない?」と誘われたんです。でもショートフィルムと言われても、僕は長編映画でプロとして頑張っているから「実験映画かな? なんだろうな」と思っていて、遠ざけていたんです。
そんな別所は、1997年11月に「ロサンゼルスのカルバー・シティにあるソニー・ピクチャーズのスタジオで10本のショートフィルムを観る機会があるから行こうよ」と誘いを受け、渋々足を運んだ。しかしそこで観た10本のショートフィルムに稲妻が落ちたような衝撃を受けたという。
藤原:何が別所さんの心をわしづかみにしたんでしょうか。
別所:いわゆる長編映画を何も疑いなく僕たちは観てきましたし、出演する人間としても考えてきたんです。だけど短編映画は、3分の物語は3分の長さの物語になっている。つまり80分の映画を作ろうとすると、80分の映画にするために、ひょっとすると無理やり登場人物を増やしちゃったり、コメディで始めたのにサスペンスになったり、いろいろな要素を入れないと間がもたないんじゃないかと思ったり。なんでもそうですよね。テレビでもラジオ番組でもそうなんですけど、長さが先に決まっていると、その中身を作ろうとしちゃうんです。だけどショートフィルムはそれぞれが持っている、それぞれの映像作家の考えやメッセージ、物語の長さでできているんです。
また、若手作家の登竜門と言われているショートフィルムについて、別所は「いろいろな方々の若いエネルギーで『新しいものを作ろう』という想いにあふれている」と解説した。
別所:たとえば技術的にも。最近でいえば「ドローンを使ってみよう」とか、XRとかVRの技術も使ってみようとか、新しい手法で映画を作ってみようというアイデアがあふれています。それが次世代のハリウッド映画を作るいしずえになっているというか、種になっているんです。それ以外にも、僕はショートフィルムを「燃費のいい映画」と言っています。燃費よく、クリエイターさんが持っている「いま」の世界をパッと映し出したものを十数分、長くて25分、30分観ることができて「サプリメントムービー」のように元気をもらったり、ちょっと涙を流したり、自分の家族のことを考えたりできる。いろいろな自分のなかにある感情を元気にしてくれたり、癒してくれたりするという効果があります。もちろん長編映画にもあるんですけど、短編映画だと短いあいだにそういったさまざまな感覚を自分のなかに呼び起こすこともできます。
【関連記事】別所哲也が語る。ショートフィルムの「今の世の中が見えてくる」魅力とは
別所:映画祭を1999年にスタートしているんですが、その直後に同時多発テロがニューヨークでありました。いまで言う分断がそこから始まり、その後リーマンショックや東日本大震災があったり世界でもいろいろな葛藤があるなかで、環境問題とかSDGsといった僕たち人類の問題、課題みたいなものがあって。ショートフィルムにはキラキラとすでに「どうしよう、これから僕たち」といったものがいっぱいあって。それがこの25年のなかでの、すごく大きなうねりというか変化かもしれないです。
藤原:そのときに起きたこととかも反映されて、作品も変化していくと。ショートフィルムを作られている方ってずっとショートフィルムを作るのか、それとも登竜門的にショートフィルムをやって長編にいくんでしょうか。
別所:もともとは発明王のエジソンが映画を作りました。そしてそれをフランスのリュミエール兄弟がスクリーンに映しました。そこから19世紀の最後から20世紀の100年で映画は文化としても産業としても育っていくんです。最初はみんなショートフィルムだったんです。技術的にだんだんと長編映画になって、そしていまのような興業ができるビジネスになり、長編になっています。ショートフィルムを作っている人たちは、やっぱりどこかで「長編を撮りたいな」とか「自分がいま作ったショートフィルムのアイデアを長編化したいな」と思っている人が主流だったんですが、ここ数年で変化しました。
別所によればYouTubeの出現などで「長い尺の80分90分の映画ではなくてもいいんじゃないか」といった考えが生まれてきたという。それによって短編はもちろん「超長編」と呼ばれるような作品も出現しているそう。
別所:たとえばネットフリックスとかアマゾンとかは長いものを作って、それを分けてシリーズ化して連続ドラマにするみたいな。あれって30分の映画がつながっているように見えるんですけど、僕から見ると360分の長編を分けて流しているというか。そういう部分も定額制モデルで出てきています。だからいま映像産業、営業文化はいちばん面白いです。あるいは僕たちのようなクリエイター、エンターテイナーは、いろいろな多様性ある選択肢のなかで自分を表現できるし、仲間を探せる。
藤原:どこで突き抜けるかわからないという。
別所:インターネットでブルガリアの人と一緒に映画を作れる時代だし、実際ショートフィルムはそうなっています。音楽家はブルガリアにいて、編集している人は韓国にいて、監督はオーストラリア人みたいな感じになっているんです。
別所:僕たちの映画作品5部門がアメリカのアカデミー賞にレコメンデーションをつけて送り出せるんです。
藤原:それはけっこうすごいですよね。
別所:世界でも5作品を推薦できる映画祭はなくて。アメリカのアカデミー賞はよくできていて、世界中にある国際短編映画祭をいろいろな地域で公認していて、いわゆる受験で言うと推薦入学枠しかないんです。だから急にアメリカに行って、アメリカのアカデミー賞の短編部門にエントリーしたいといっても出せません。まずはその前に世界中の映画祭に参加しなさいと。そこで賞をとったり推薦を受けられるものだけがアカデミー賞に集まってきている仕組みになっています。なので非常に名誉なゲートウェイフィルムフェスティバルです。
別所は「SSFF & ASIA 2023」のキーワード「『解き放て!』 UNLOCK CINEMA / UNLOCK YOURSELF / UNLOCK THE WORLD」に込めた想いを語った。
別所:きっとコロナ禍の数年で、安心安全のためにもいろいろなロックをかけたと思います。「でもそろそろ、そこから1回アンロックしてみようよ」という想いだったり。ゲームでもアンロックというと次のキャラクターに変わったり、次のステージに行くみたいなことも含まれます。IT用語のなかでもWEB3.0という時代に入って、まさに映画、映像、演劇、それからラジオを含むさまざまな情報産業が変化していくなかで、20世紀型で昭和な感じでずっといるのはまずいでしょ? というのもあります。僕は昭和生まれなので昭和を大切にしながら引き継いでいきたいんですけど、そのためにも自分をアンロックするというか、解き放とうと。とりわけ映画、アンロックシネマと言っているのは、シネマという映画の世界も随分変わっちゃったじゃないですか。だって携帯電話で映画が観られるし。
藤原:本当ですね。
別所:途中で観たやつを違うデバイス、違った場所や違ったテレビでピッてやれば続きが観られる。撮る側も携帯電話で撮れるし、すごいカメラを据えてフィルムで撮ろうと思えばそのやり方も存在しているし。いろいろな多様性があるなかで開放していくこと。自分を含めて大事なことなのかなと思いまして、このテーマにしました。
「SSFF & ASIA2023」では今年開局35周年を迎えるJ-WAVEとのコラボによる「J-WAVE SOUND OF CINEMAアワード」も創設される。映画祭の最新情報は、公式サイトまで。
J-WAVE『LOGISTEED TOMOLAB. TOMORROW LABORATORY』は毎週土曜20時から20時54分にオンエア。
別所が登場したのは、藤原しおりが「チーフ」としてナビゲートする、ラジオを「ラボ」に見立てたJ-WAVEの番組『LOGISTEED TOMOLAB. TOMORROW LABORATORY』(通称トモラボ)。「私たちの身近にある森羅万象」をテーマ(イシュー)に取り上げてかみ砕き、ラボの仲間としてゲストを「フェロー」として迎え、未来を明るくするヒントを研究している。
ここで紹介するオンエアは5月27日(土)。
ショートフィルムとの出会い
別所はアカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭「SSFF & ASIA」代表。慶應義塾大学在学中に俳優のキャリアをスタート。ハリウッド映画の出演を経て、帰国後はトレンディドラマや『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などミュージカルの名作に次々と出演。別所は自身の著書『夢をカタチにする仕事力~映画祭で学んだプロジェクトマネジメント~』(光文社新書)でショートフィルムの魅力について綴っている。藤原:そもそも別所さんがショートフィルムに出会ったきっかけは?
別所:僕はハリウッド映画でデビューさせていただいて、アメリカで映画デビューしたあとに日本に戻ってきて、いわゆるトレンディ俳優としていろいろなドラマや日本の映画に出させていただきました。東京とロサンゼルスを行ったり来たりする生活が20代後半から30代にありまして、ことあるごとに「哲也、ショートフィルム観にいかない?」と誘われたんです。でもショートフィルムと言われても、僕は長編映画でプロとして頑張っているから「実験映画かな? なんだろうな」と思っていて、遠ざけていたんです。
そんな別所は、1997年11月に「ロサンゼルスのカルバー・シティにあるソニー・ピクチャーズのスタジオで10本のショートフィルムを観る機会があるから行こうよ」と誘いを受け、渋々足を運んだ。しかしそこで観た10本のショートフィルムに稲妻が落ちたような衝撃を受けたという。
藤原:何が別所さんの心をわしづかみにしたんでしょうか。
別所:いわゆる長編映画を何も疑いなく僕たちは観てきましたし、出演する人間としても考えてきたんです。だけど短編映画は、3分の物語は3分の長さの物語になっている。つまり80分の映画を作ろうとすると、80分の映画にするために、ひょっとすると無理やり登場人物を増やしちゃったり、コメディで始めたのにサスペンスになったり、いろいろな要素を入れないと間がもたないんじゃないかと思ったり。なんでもそうですよね。テレビでもラジオ番組でもそうなんですけど、長さが先に決まっていると、その中身を作ろうとしちゃうんです。だけどショートフィルムはそれぞれが持っている、それぞれの映像作家の考えやメッセージ、物語の長さでできているんです。
また、若手作家の登竜門と言われているショートフィルムについて、別所は「いろいろな方々の若いエネルギーで『新しいものを作ろう』という想いにあふれている」と解説した。
別所:たとえば技術的にも。最近でいえば「ドローンを使ってみよう」とか、XRとかVRの技術も使ってみようとか、新しい手法で映画を作ってみようというアイデアがあふれています。それが次世代のハリウッド映画を作るいしずえになっているというか、種になっているんです。それ以外にも、僕はショートフィルムを「燃費のいい映画」と言っています。燃費よく、クリエイターさんが持っている「いま」の世界をパッと映し出したものを十数分、長くて25分、30分観ることができて「サプリメントムービー」のように元気をもらったり、ちょっと涙を流したり、自分の家族のことを考えたりできる。いろいろな自分のなかにある感情を元気にしてくれたり、癒してくれたりするという効果があります。もちろん長編映画にもあるんですけど、短編映画だと短いあいだにそういったさまざまな感覚を自分のなかに呼び起こすこともできます。
【関連記事】別所哲也が語る。ショートフィルムの「今の世の中が見えてくる」魅力とは
ショートフィルムの25年間の変化
別所は映画祭を25年やってきたなかで、テクノロジー的な変化はもちろん、クリエイションの変化も感じているという。別所:映画祭を1999年にスタートしているんですが、その直後に同時多発テロがニューヨークでありました。いまで言う分断がそこから始まり、その後リーマンショックや東日本大震災があったり世界でもいろいろな葛藤があるなかで、環境問題とかSDGsといった僕たち人類の問題、課題みたいなものがあって。ショートフィルムにはキラキラとすでに「どうしよう、これから僕たち」といったものがいっぱいあって。それがこの25年のなかでの、すごく大きなうねりというか変化かもしれないです。
藤原:そのときに起きたこととかも反映されて、作品も変化していくと。ショートフィルムを作られている方ってずっとショートフィルムを作るのか、それとも登竜門的にショートフィルムをやって長編にいくんでしょうか。
別所:もともとは発明王のエジソンが映画を作りました。そしてそれをフランスのリュミエール兄弟がスクリーンに映しました。そこから19世紀の最後から20世紀の100年で映画は文化としても産業としても育っていくんです。最初はみんなショートフィルムだったんです。技術的にだんだんと長編映画になって、そしていまのような興業ができるビジネスになり、長編になっています。ショートフィルムを作っている人たちは、やっぱりどこかで「長編を撮りたいな」とか「自分がいま作ったショートフィルムのアイデアを長編化したいな」と思っている人が主流だったんですが、ここ数年で変化しました。
別所によればYouTubeの出現などで「長い尺の80分90分の映画ではなくてもいいんじゃないか」といった考えが生まれてきたという。それによって短編はもちろん「超長編」と呼ばれるような作品も出現しているそう。
別所:たとえばネットフリックスとかアマゾンとかは長いものを作って、それを分けてシリーズ化して連続ドラマにするみたいな。あれって30分の映画がつながっているように見えるんですけど、僕から見ると360分の長編を分けて流しているというか。そういう部分も定額制モデルで出てきています。だからいま映像産業、営業文化はいちばん面白いです。あるいは僕たちのようなクリエイター、エンターテイナーは、いろいろな多様性ある選択肢のなかで自分を表現できるし、仲間を探せる。
藤原:どこで突き抜けるかわからないという。
別所:インターネットでブルガリアの人と一緒に映画を作れる時代だし、実際ショートフィルムはそうなっています。音楽家はブルガリアにいて、編集している人は韓国にいて、監督はオーストラリア人みたいな感じになっているんです。
アカデミー賞に5作品を推薦できる
別所は1999年6月4日からスタートした「SSFF & ASIA」がどういった映画祭なのかを解説した。別所:僕たちの映画作品5部門がアメリカのアカデミー賞にレコメンデーションをつけて送り出せるんです。
藤原:それはけっこうすごいですよね。
別所:世界でも5作品を推薦できる映画祭はなくて。アメリカのアカデミー賞はよくできていて、世界中にある国際短編映画祭をいろいろな地域で公認していて、いわゆる受験で言うと推薦入学枠しかないんです。だから急にアメリカに行って、アメリカのアカデミー賞の短編部門にエントリーしたいといっても出せません。まずはその前に世界中の映画祭に参加しなさいと。そこで賞をとったり推薦を受けられるものだけがアカデミー賞に集まってきている仕組みになっています。なので非常に名誉なゲートウェイフィルムフェスティバルです。
別所は「SSFF & ASIA 2023」のキーワード「『解き放て!』 UNLOCK CINEMA / UNLOCK YOURSELF / UNLOCK THE WORLD」に込めた想いを語った。
別所:きっとコロナ禍の数年で、安心安全のためにもいろいろなロックをかけたと思います。「でもそろそろ、そこから1回アンロックしてみようよ」という想いだったり。ゲームでもアンロックというと次のキャラクターに変わったり、次のステージに行くみたいなことも含まれます。IT用語のなかでもWEB3.0という時代に入って、まさに映画、映像、演劇、それからラジオを含むさまざまな情報産業が変化していくなかで、20世紀型で昭和な感じでずっといるのはまずいでしょ? というのもあります。僕は昭和生まれなので昭和を大切にしながら引き継いでいきたいんですけど、そのためにも自分をアンロックするというか、解き放とうと。とりわけ映画、アンロックシネマと言っているのは、シネマという映画の世界も随分変わっちゃったじゃないですか。だって携帯電話で映画が観られるし。
藤原:本当ですね。
別所:途中で観たやつを違うデバイス、違った場所や違ったテレビでピッてやれば続きが観られる。撮る側も携帯電話で撮れるし、すごいカメラを据えてフィルムで撮ろうと思えばそのやり方も存在しているし。いろいろな多様性があるなかで開放していくこと。自分を含めて大事なことなのかなと思いまして、このテーマにしました。
「SSFF & ASIA2023」では今年開局35周年を迎えるJ-WAVEとのコラボによる「J-WAVE SOUND OF CINEMAアワード」も創設される。映画祭の最新情報は、公式サイトまで。
J-WAVE『LOGISTEED TOMOLAB. TOMORROW LABORATORY』は毎週土曜20時から20時54分にオンエア。
番組情報
- LOGISTEED TOMOLAB.〜TOMORROW LABORATORY
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毎週土曜20:00-20:54