音楽、映画、エンタメ「ここだけの話」
「木造の中高層ビル」が増加中! 燃えない理由や、林業の未来も支える竹中工務店の取り組みを聞いた

「木造の中高層ビル」が増加中! 燃えない理由や、林業の未来も支える竹中工務店の取り組みを聞いた

PR

「木造建築」と言うと戸建やアパートなど一般住宅が思い浮かぶが、実は高層ビルが建てられるほどの技術研究・開発が進んでいる。

日本の建築物の耐火基準は世界で最も厳しい。そんな中で、“火に強い木造建築”をどう実現するのか? また、木造建築は自然環境にとってプラスになるのか? 今回は、木造建築のリーディングカンパニーである竹中工務店に最新事情をインタビュー。その話からは、日本の林業の再生、地方の活性化などにも繋がる木造建築の未来が見えてきた。

お話を伺ったのは、同社の参与 木造・木質建築統括 松崎裕之さん。聞き手は、J-WAVEナビゲーターのレイチェル・チャンが務めた。

「木造建築」が今、注目集める理由は?

松崎さんによると、世界的な動向として中高層木造建築がトレンドだそうだ。その理由には、自然環境への配慮が大きく関係している。

レイチェル:木造建築は「昔からあるもの」という印象ですが、進化しているのですよね。需要が高まっている背景には、どんな理由があるのでしょうか? 

松崎:脱炭素・カーボンニュートラルへの関心の高まりが理由のひとつですね。森林は、光合成によりCO2(二酸化炭素)を吸収して、炭素を樹木に貯蔵します。木材も、燃やさない限り炭素を貯蔵し続けて、大気中のCO2の削減を促すので、木造建築が脚光を浴びているわけです。

20221227_takenaka_1.jpg

<竹中工務店 参与 木造・木質建築統括 松崎裕之さん>

レイチェル:なるほど。

松崎:海外では10年程前から、すでに中高層木造建築が建設されていました。ただ、木造建築と言っても、建物の全てを木造で作るのでありません。鉄筋コンクリートや鉄骨などの性能の良い安価な材料も使いながら、適材適所に木材を使う、ハイブリッドな建築物が主流です。

レイチェル:一般の人がイメージする「普通の木」ではないのですね。近年、日本でも木造建築の高層ビルが増えてきた理由はありますか?

松崎:日本は世界で一番厳しい防耐火基準を設定しており、これまでは木造で大型・中高層の施設をつくることが難しかったんです。しかし、政府が2020年に発表した、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという「カーボンニュートラル宣言」を皮切りに、大型・中高層木造建築がトレンドになっています。

レイチェル:木を切ること自体も、中には「環境破壊だ」と思ってしまう方もいらっしゃいますが、実際には環境を守る視点では伐採したほうが良いケースもあるわけですよね。

20221227_takenaka_2.jpg

<レイチェル・チャン:ニューヨーク、ロンドンなど豊富な海外経験を持ち、日英バイリンガルMC、DJ、コメンテーターとして活動>

松崎:森林の木の新陳代謝を促すことにつながるので、むしろ良い影響があります。若い木のほうがCO2の吸収率が高く、大きく育った木は吸収率が落ちてしまうんです。木を切って、使って、また植えてこそ、森は生きると言えます。

日本の国土の3分の2は森林です。戦後の拡大造林政策で植林をした木が、50~60年経ってようやく伐採適齢期になって、本格的な利用時期を迎えつつあります。ただ、日本は人口が減少傾向にあるため、住宅建築のための木材利用は減少していくと考えられます。そこで、これまで木材が使われてこなかった中高層ビルや大型施設でも取り入れようと、日本でも技術開発が一気に進んでいったんです。

高層ビルも建てられる「火に強い木材」その技術革新とは

技術開発が進む中で誕生したのが、竹中工務店の「燃エンウッド®」だ。柱や梁といった構造部材として使われる、3層構成の耐火集成材だという。

レイチェル:「燃エンウッド®」は、高層ビルも木造で建築できる技術なのですよね。どんな仕組みなのでしょう?

松崎:木は、約260℃になると燃えていきます。「燃エンウッド®」は石こう系材料と木材で構成された「燃え止まり層」が熱を吸収して、重要な部分が260℃には至らないように作られています。燃え止まって火が消えて、燃えた後も建物が倒壊しない技術を開発することで、日本の厳しい耐火基準をクリアし、3時間耐火の国土交通大臣認定を取得しました。これにより高さ・階数の制限なく、木造建築が造れるようになりました。

20221227_takenaka_3.jpg

<「燃えない木」という意味と、エンジニアリング・ウッドの2つをかけて「燃エンウッド®」と名付けられた>

レイチェル:超高層木造建築も造れるんですね!

松崎:そうなんです。強度と品質が管理された木造部材(集成材)によって“燃え方”を制御すれば、木造建築でも火災に強い建物が作れます。もちろん、耐震性についても基準をクリアしています。

レイチェル:燃え方をコントロールするという発想と工夫が素晴らしいですね。

20221227_takenaka_4.jpg

木造建築で“あたたかな都市の風景”が生まれる

木造建築の高層ビルが増えると、コンクリートジャングルと形容される東京の景色も変わっていくかもしれない。竹中工務店が設計施工をした木造建築には、商業施設、マンション、学校、病院など様々な施設がある。

レイチェル:高層ビルに木材が使われていると、ぬくもりや居心地の良さを感じますね。

松崎:手触りや香りなども含め、居心地の良い空間を創っていく意味でも、今の木造建築は注目されるようになりましたね。建築家の隈研吾氏など著名な建築家の方も、木造建築を取り入れています。

20221227_takenaka_5.jpg
20221227_takenaka_6.jpg

<木の歴史のあるまち、木場近くに建つ単身者用集合住宅「フラッツウッズ木場」>

林業も盛り上げる「良い循環」を目指して

木造建築は、林業の発展にも寄与する。林業はかつて地方の主要産業だったが、現在は業者数の減少などの問題を抱えている。まずは現状の課題を聞いた。

レイチェル:日本の林業が抱える社会課題をどのように見ていますか?

松崎:大きく「林業の衰退」と「森林の荒廃」の二つが挙げられると思います。林業の就業者が減って、森林が十分に管理されていない。特に人工的に植えられた植林は、きちんと森林の管理をしていかないと台風や大雨による災害で土砂崩れなどが起きて、ますます森林が荒れてしまいます。

レイチェル:担い手がいなくなり衰退してしまった産業を、再びよい循環に戻していく方法はあるのでしょうか?

20221227_takenaka_7.jpg

<今回の取材を実施した「フラッツウッズ木場」も、「燃エンウッド®」を活用した12階建ての建物。木とコンクリートが融合し、あたたかみのある空間となっていた>

松崎:いま抱えている課題を包括的に解決していくビジネスモデルが、まさに中高層木造建築の建設であり、国産の木材の需要を作っていくことだと思います。もう一つは、地方を元気にするような取り組みをすること。地方って、必ず豊かな森林があるんですよね。昔は大きな産業だったはずなのに、今は衰退してしまっている。その地元の木材を使った木造建築をつくることも、産業や地域を盛り上げる方法なのかなと思っています。

レイチェル:木造建築を取り入れていくこと、そして地方を元気にする取り組みが両輪でうまく回りだせば、林業と地方と都市が繋がって、よい循環が生まれるんですね。

松崎:地方の林業家の方に伺ったのですが、林業はおじいさんの代に植林をして、父親の代で育てて、やっと自分たちが伐採できるほど長期にわたります。でも、「代々育ててきた木だけど、木材市場に出したあとは、どう使われているかわからない」とおっしゃっていて。鉄骨やコンクリートでさえ、それがいつどこで造られたかちゃんとわかるんです。野菜も、産地や生産者が書いてあるものがありますよね。だけど木材市場は、その仕組みがない。日本の国産材でも、「長野県の材だ」くらいのことはわかりますが、実際どこの森林で誰が育てたかまでは追えないんです。

レイチェル:どこで誰が育てたかがわかれば、林業家さんのモチベーションに繋がったり、「この建物に使われているんだ」という誇りや励みになりそうですね。

20221227_takenaka_8.jpg
松崎:通常、大規模な建築では、我々のような元請け会社が林業家から直接木材を購入することは滅多にありません。ですが、林業家から直接丸太を購入することにより、林業家に適正な利益を還元できたこともあります。

レイチェル:素晴らしい取り組みですね。大規模な建物になると、品質のよい木材がたくさん必要になりますし。

松崎:どこで誰が育てたかを明確にするトレーサビリティが林業にも定着すれば、森と都市を繋ぐ流通も変化してくると思います。

森林、地方、都市を繋いでいく─知見と技術を活かす未来

竹中工務店は、森林資源と地域社会の持続可能な好循環である「森林グランドサイクル®」プロジェクトに取り組んでいる。ここまで語られてきたように、都市の無機質な景色に木のぬくもりを与えるとともに、地方の森の産業や雇用創出を目指す。会社としての展望を聞いた。

レイチェル:「森林グランドサイクル®」は、竹中工務店が提案している概念で、様々な活動が連携しているんだそうですね。

松崎:林業が抱える様々な課題を解決しつつ、よい循環をつくっていくためのプロジェクトです。一つは、木造建築を推進する「木のまちづくり」。二つ目が木質バイオマス発電などの「森の産業の創出」。三つ目が全国の林業経営者と協業する「持続可能な森づくり」、そして最後が、技術開発の「木のイノベーション」という四つのサイクルを回しています。

レイチェル:今、どんな課題を感じていますか?

松崎:木造建築をやっていくと、森林のことや林業の今後を考えざるを得なくなります。恩恵を受けている森林に恩を返して、森林の木々を新陳代謝させないと、良い循環をつくれない。それは本当に大きな課題かと思っています。建物もしっかり手入れがされて、長く使われるようになったらと思います。森林の行き届いた管理、廃材の再利用なども含め、森林と地方と都市を繋いで持続可能な社会の実現に貢献していきたいですね。

20221227_takenaka_9.jpg
レイチェル:最後に、会社として未来へ想うことを教えてください。

松崎:竹中工務店の創業は、宮大工の棟梁です。かつての棟梁が木のクセを見抜いて適材適所に木材を使ってきたように、私たちも現代の棟梁として、多様な木造・木質技術や今までの知見を使って森を活かした仕事ができたらと思っています。

(取材・文=反中恵理香、撮影=竹内洋平)

この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。

  • 新規登録簡単30
  • J-meアカウントでログイン
  • メールアドレスでログイン