山口 周と長濱ねるが、「越境」をテーマに語り合った。
ふたりがトークを展開したのは、J-WAVEで放送された番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』(ナビゲーター:山口 周、長濱ねる)。オンエアは5月21日(土)。
『弱いつながり 検索ワードを探す旅』
「かけがえのない個人」など存在しない。私たちは考え方も欲望も今いる環境に規定され、ネットの検索ワードさえグーグルに予測されている。それでも、たった一度の人生をかけがえのないものにしたいならば、新しい検索ワードを探すしかない。それを可能にするのが身体の移動であり、旅であり、弱いつながりだ――。SNS時代の挑発的人生論。
(幻冬舎ホームページより)
山口:東さんはこの本の冒頭で、ネットは階級を固定する道具である、あるいは、階級という言葉が強すぎるなら所属を固定する道具だと指摘されています。つまり固定化されて動きが取れなくなっちゃうってことなんですけど、(長濱)ねるさん自身は、身動きのしづらさや窮屈さ、どんどん固定化されていく感覚を持ったことはありますか?
長濱:ありますね。ツイッターとかで自分がいいなと思う人をフォローしていくと意見が偏ったり、その人が発言したことが正しいと思い込んじゃうことがすごく多いので、所属を固定してしまうっていうのはすごくわかりますね。Netflixとかで「マッチ度90パーセント」とか出ますけど、ちゃんとマッチ度が高いものを面白いと思ってしまう自分にもちょっと安易だなって思ったり。インターネット側に「あなたこういうのが好きなんでしょ?」ってわかられているのもしゃくに障るというか(笑)。それで素直に楽しんじゃう自分もいるから難しいですね。
山口:じゃあ、なんで越境するのがいいのかということなんですけど、やっぱり変わるきっかけを与えてくれるってことだと思うんですよね。AmazonのレコメンデーションとかNetflixのオススメってめちゃくちゃ便利で、怖いくらい「なんでわかるの?」って思いますよね。人間に言われるならまだわかるけど、機械から言われるとすごく気持ち悪いなって思うんです。
長濱:あはは(笑)。
山口:何を見て勧めてるかっていうと過去なんですよね。ねるさんだったら、ねるさんが過去に見てきて高い評価を付けたものをもとにオススメしてくれると。僕なら僕で、僕が過去に買ったものや高く評価したものでオススメしてくれるわけです。自分の過去をどんどん未来に先送っているというのかな。それはある意味安定的に楽しさを味わえる。そこに秩序(ノモス)があるんですけど、一方でものすごくランダムな状態(カオス)があって、ノモスとカオスの間に自分を置いていくことをやらないと、全部が過去の蓄積になってしまう。過去に好きだった音楽を聴く、過去に好きだった食べ物を食べる、過去に好きだった場所に行く。そうすると全然(新しいものと)出会えなくなっちゃうから、世界が持っている豊かさを自ら小さくしてしまうと思うんです。こういう時代だからこそ越境って結構大事なのかなと。
山口の言葉を受け、長濱は「カオスな場所に身を置くことを意外とやりたくなる」と自身の性格を打ち明ける。
長濱:そういうことって、「なんとかなるか」「失敗してもいいや」「この選択が間違っていてもいいや」って思っていると、自分の中でそっちに行きやすいというか。やっぱり時間を無駄にしたくないとか、生きていく上で最善の選択をしたい、それこそ効率的にって思うと好きなものに囲まれているほうがラクですよね。
山口:そうですね。以前この番組で、「人生を浪費しなければ人生を見つけることはできない」というアン・モロー・リンドバーグの言葉を紹介しましたけど、無駄遣いとか、これはハズレだったなってこと自体がポジティブに変わってきますよね。「いい無駄をやったぞ」って。
長濱:その心意気はすごく参考にしたいですね。
山口:これは越境をしていく上で結構カギになると思います。
長濱:私は20歳くらいのときに、「自分のこういうところがよくないな」「自分のこういうところを変えたいんだよね」って年上の方に相談したときに、「自分を変える方法は環境を変えるしかないよ」って言われたことがあって、それって越境にすごくつながるなって思いました。やっぱり同じところにいるとなかなか自分の考え方を変えるのは難しいので、何か違うなって思ったら無理やりでも場所を変えてみるとか。学校とか会社ってそこだけになってしまうと本当に狭いのに、でもそこが全てだと錯覚してしまうので、無理にでも辞めるとか、それこそ逃げるとか、そういうのも自分を変える手なのかって実感することが多いですね。
山口:面白い話があって、学者って海外へ研究に行くと、そうすると日本であんまりパッとしなかった人が急に花開くことが結構あるんですよ。これはなんでだろうって考えると、母国にいると自分が慣れ親しんだ人やルールばっかりでずっといるわけでしょ。でも越境すると当たり前だけどルールが違う。たとえば車に乗るときも左側通行じゃなくて右側通行だったりするから、海外で車を運転するときは結構気をつけないと危ないんですよね。だから神経がピリピリするのでパフォーマンスがあがる。
長濱:わかります。たとえば旅行ひとつにしても「この子が計画を立ててくれる」「この子が仕切ってくれる」ってなっちゃうと、自分はひとりで計画を立てられないんだって思い込んじゃうけど、いざひとりで行ってみると「あれ、異国でも電車調べられてる」とか「意外と目的地に到着できちゃった」とか、今までの環境で全然知らなかった自分と出会えることがありますよね。
山口:能力が拡張しているわけですよね。
山口:ある日、糸井さんが「トイレって横向きに座ったらどうなるんだろう」と思って、横向きに座ってみたら、感動するほど不安定だったんですって。それを実際に僕もやってみたんですけど、めちゃくちゃ心元ないんですよ。だから真正面に向かって座ることがいかに安定するようにできてるかって話で、これもある種の越境体験ですよね。
長濱:逆に言うと、生まれた頃から横向きでトイレをしている人がいた場合は、縦で座るほうが不安定になったり(笑)。
山口:そうかもしれない(笑)。日常生活の中に自分にとってストレンジな体験を入れ込むことで、自分にとっての当たり前が当たり前じゃなくなる。なるべく知らない場所に行ってみるとか、よく言われるけど、いつも行っている場所なんだけどちょっとルートを変えてみるとか。そういうのを意識することはありますか?
山口:あります。長崎県に住んでたんですけど、私の高校と自宅を結ぶ間にはふたつの路線があって、いつも使っているほうは山を突っ切るので早いんですよ。でも20分くらいずっとトンネル道。もうひとつの路線は40分くらいかかるけど海が見れたりして。普段は早い路線を使うんですけど、たまに海を見ながら帰ったり、わざと遠回りしてみたり、自分の心が落ち込んだりするときの解消法として持っていますね。
山口は自身の越境体験として、大きな本屋でこの先絶対に読まないであろう雑誌を買うことがあると言う。
山口:たとえば『月刊むし』って雑誌があるんですね。
長濱:えっ!? それは知らないです(笑)。
山口:虫好きには話題になっていると思うんですけど、大きな本屋に行くとコーナーがあるじゃないですか。そこでも、なるべくこのままだと出会わないようなコーナーに行って、ちょっと目を閉じて本を取ってみるとか。そういうのを図書館とかでやったことないですか?
長濱:ランダムに取ってみたり、タイトルだけで決めたりとかあるんですけど、やっぱりいつも読んでるのが面白いって思っちゃたりするんですよね。
山口:思いますよね。逆に言うと作り手側がそういう仕掛けを入れるのもいいかもしれないですね。通常は小説だと小説コーナー、新書だと新書コーナー、医学だったら医学コーナーとなっているけど、たとえば「胃袋」っていうテーマだと医学もあれば食事の話もあって。
長濱:トレーニングみたいなものもありますね。
山口:人を越境させるような仕組みが世の中にもっと出てきてもいいかなと思います。
J-WAVEの番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』では、哲学からテクノロジー、SDGsやエンターテインメント分野まで、よりよい生き方、よりよい社会を照らすヒントとなる多様な本をピックアップし、さまざまな課題や問題を抱える現代社会を紐解きながら、しなやかに解説していく。放送は毎週土曜日の15時から。
ふたりがトークを展開したのは、J-WAVEで放送された番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』(ナビゲーター:山口 周、長濱ねる)。オンエアは5月21日(土)。
自分の過去をどんどん未来に先送っている
今回は東 浩紀の著書『弱いつながり 検索ワードを探す旅』(幻冬舎)を参考図書に、「越境」をテーマに語り合った。『弱いつながり 検索ワードを探す旅』
「かけがえのない個人」など存在しない。私たちは考え方も欲望も今いる環境に規定され、ネットの検索ワードさえグーグルに予測されている。それでも、たった一度の人生をかけがえのないものにしたいならば、新しい検索ワードを探すしかない。それを可能にするのが身体の移動であり、旅であり、弱いつながりだ――。SNS時代の挑発的人生論。
(幻冬舎ホームページより)
山口:東さんはこの本の冒頭で、ネットは階級を固定する道具である、あるいは、階級という言葉が強すぎるなら所属を固定する道具だと指摘されています。つまり固定化されて動きが取れなくなっちゃうってことなんですけど、(長濱)ねるさん自身は、身動きのしづらさや窮屈さ、どんどん固定化されていく感覚を持ったことはありますか?
長濱:ありますね。ツイッターとかで自分がいいなと思う人をフォローしていくと意見が偏ったり、その人が発言したことが正しいと思い込んじゃうことがすごく多いので、所属を固定してしまうっていうのはすごくわかりますね。Netflixとかで「マッチ度90パーセント」とか出ますけど、ちゃんとマッチ度が高いものを面白いと思ってしまう自分にもちょっと安易だなって思ったり。インターネット側に「あなたこういうのが好きなんでしょ?」ってわかられているのもしゃくに障るというか(笑)。それで素直に楽しんじゃう自分もいるから難しいですね。
山口:じゃあ、なんで越境するのがいいのかということなんですけど、やっぱり変わるきっかけを与えてくれるってことだと思うんですよね。AmazonのレコメンデーションとかNetflixのオススメってめちゃくちゃ便利で、怖いくらい「なんでわかるの?」って思いますよね。人間に言われるならまだわかるけど、機械から言われるとすごく気持ち悪いなって思うんです。
長濱:あはは(笑)。
山口:何を見て勧めてるかっていうと過去なんですよね。ねるさんだったら、ねるさんが過去に見てきて高い評価を付けたものをもとにオススメしてくれると。僕なら僕で、僕が過去に買ったものや高く評価したものでオススメしてくれるわけです。自分の過去をどんどん未来に先送っているというのかな。それはある意味安定的に楽しさを味わえる。そこに秩序(ノモス)があるんですけど、一方でものすごくランダムな状態(カオス)があって、ノモスとカオスの間に自分を置いていくことをやらないと、全部が過去の蓄積になってしまう。過去に好きだった音楽を聴く、過去に好きだった食べ物を食べる、過去に好きだった場所に行く。そうすると全然(新しいものと)出会えなくなっちゃうから、世界が持っている豊かさを自ら小さくしてしまうと思うんです。こういう時代だからこそ越境って結構大事なのかなと。
山口の言葉を受け、長濱は「カオスな場所に身を置くことを意外とやりたくなる」と自身の性格を打ち明ける。
長濱:そういうことって、「なんとかなるか」「失敗してもいいや」「この選択が間違っていてもいいや」って思っていると、自分の中でそっちに行きやすいというか。やっぱり時間を無駄にしたくないとか、生きていく上で最善の選択をしたい、それこそ効率的にって思うと好きなものに囲まれているほうがラクですよね。
山口:そうですね。以前この番組で、「人生を浪費しなければ人生を見つけることはできない」というアン・モロー・リンドバーグの言葉を紹介しましたけど、無駄遣いとか、これはハズレだったなってこと自体がポジティブに変わってきますよね。「いい無駄をやったぞ」って。
長濱:その心意気はすごく参考にしたいですね。
山口:これは越境をしていく上で結構カギになると思います。
環境は、知らなかった自分と出会える体験
山口は、東 浩紀が「越境の方法は旅、場所を変えろ」といった内容を紹介し、「場所を変えたことで自分が変わった経験はあるか?」と長濱に質問する。長濱:私は20歳くらいのときに、「自分のこういうところがよくないな」「自分のこういうところを変えたいんだよね」って年上の方に相談したときに、「自分を変える方法は環境を変えるしかないよ」って言われたことがあって、それって越境にすごくつながるなって思いました。やっぱり同じところにいるとなかなか自分の考え方を変えるのは難しいので、何か違うなって思ったら無理やりでも場所を変えてみるとか。学校とか会社ってそこだけになってしまうと本当に狭いのに、でもそこが全てだと錯覚してしまうので、無理にでも辞めるとか、それこそ逃げるとか、そういうのも自分を変える手なのかって実感することが多いですね。
山口:面白い話があって、学者って海外へ研究に行くと、そうすると日本であんまりパッとしなかった人が急に花開くことが結構あるんですよ。これはなんでだろうって考えると、母国にいると自分が慣れ親しんだ人やルールばっかりでずっといるわけでしょ。でも越境すると当たり前だけどルールが違う。たとえば車に乗るときも左側通行じゃなくて右側通行だったりするから、海外で車を運転するときは結構気をつけないと危ないんですよね。だから神経がピリピリするのでパフォーマンスがあがる。
長濱:わかります。たとえば旅行ひとつにしても「この子が計画を立ててくれる」「この子が仕切ってくれる」ってなっちゃうと、自分はひとりで計画を立てられないんだって思い込んじゃうけど、いざひとりで行ってみると「あれ、異国でも電車調べられてる」とか「意外と目的地に到着できちゃった」とか、今までの環境で全然知らなかった自分と出会えることがありますよね。
山口:能力が拡張しているわけですよね。
当たり前が当たり前じゃなくなる体験を
コロナ禍でなかなか海外への旅ができない状況だが、山口は「日常生活において越境的なことはできる」と言い、その例えとして糸井重里から聞いたトイレに関するエピソードを紹介した。山口:ある日、糸井さんが「トイレって横向きに座ったらどうなるんだろう」と思って、横向きに座ってみたら、感動するほど不安定だったんですって。それを実際に僕もやってみたんですけど、めちゃくちゃ心元ないんですよ。だから真正面に向かって座ることがいかに安定するようにできてるかって話で、これもある種の越境体験ですよね。
長濱:逆に言うと、生まれた頃から横向きでトイレをしている人がいた場合は、縦で座るほうが不安定になったり(笑)。
山口:そうかもしれない(笑)。日常生活の中に自分にとってストレンジな体験を入れ込むことで、自分にとっての当たり前が当たり前じゃなくなる。なるべく知らない場所に行ってみるとか、よく言われるけど、いつも行っている場所なんだけどちょっとルートを変えてみるとか。そういうのを意識することはありますか?
山口:あります。長崎県に住んでたんですけど、私の高校と自宅を結ぶ間にはふたつの路線があって、いつも使っているほうは山を突っ切るので早いんですよ。でも20分くらいずっとトンネル道。もうひとつの路線は40分くらいかかるけど海が見れたりして。普段は早い路線を使うんですけど、たまに海を見ながら帰ったり、わざと遠回りしてみたり、自分の心が落ち込んだりするときの解消法として持っていますね。
山口は自身の越境体験として、大きな本屋でこの先絶対に読まないであろう雑誌を買うことがあると言う。
山口:たとえば『月刊むし』って雑誌があるんですね。
長濱:えっ!? それは知らないです(笑)。
山口:虫好きには話題になっていると思うんですけど、大きな本屋に行くとコーナーがあるじゃないですか。そこでも、なるべくこのままだと出会わないようなコーナーに行って、ちょっと目を閉じて本を取ってみるとか。そういうのを図書館とかでやったことないですか?
長濱:ランダムに取ってみたり、タイトルだけで決めたりとかあるんですけど、やっぱりいつも読んでるのが面白いって思っちゃたりするんですよね。
山口:思いますよね。逆に言うと作り手側がそういう仕掛けを入れるのもいいかもしれないですね。通常は小説だと小説コーナー、新書だと新書コーナー、医学だったら医学コーナーとなっているけど、たとえば「胃袋」っていうテーマだと医学もあれば食事の話もあって。
長濱:トレーニングみたいなものもありますね。
山口:人を越境させるような仕組みが世の中にもっと出てきてもいいかなと思います。
J-WAVEの番組『NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~』では、哲学からテクノロジー、SDGsやエンターテインメント分野まで、よりよい生き方、よりよい社会を照らすヒントとなる多様な本をピックアップし、さまざまな課題や問題を抱える現代社会を紐解きながら、しなやかに解説していく。放送は毎週土曜日の15時から。
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2022年5月28日28時59分まで
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番組情報
- NTT Group BIBLIOTHECA ~THE WEEKEND LIBRARY~
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毎週土曜15:00-15:54