はなが感じた「できないこと」のおもしろさ。大人で始めたお稽古・茶道を語る

モデル、エッセイスト、ラジオパーソナリティーなど多方面で活躍するはなが、書き下ろしのエッセイ集『今日もお稽古日和』(淡交社刊)を5月17日(火)に発売した。

同書は茶道のお稽古を始めて6年、はながお稽古を通じて感じたことなどをまとめた茶道エッセイ。出版元の淡交社より、はなが書籍を上梓するのは、2019年1月発売の『はな、茶の湯に出会う』に続き2冊目となる。はなが考える茶道の魅力とは何なのか? 話を聞いた。

“できないこと”に出会う喜びと新鮮さ

――まず、はなさんが茶道を始めたきっかけを教えてくれませんか。

はな:子どもの頃、祖母と一緒に暮らしていたんですが、祖母は横浜・中華街でお店を営んでいて、そこで従業員さんと一緒にお茶の稽古をしていたんです。私はまだ幼かったんですが、“お菓子が食べたい”という理由でお稽古に参加させてもらっていました。

その記憶がずっと頭の中に残っていて、大人になってからも、“お茶をやってみたい”とぼんやり思っていました。そんな中で、祖母が亡くなったときに、私が着物を全部受け継いたんですね。自分で着付けもできるようになったとき、お茶のお稽古を始めれば、着物を着る機会も増えるので、本格的に教室に通い始めました。6年ほど前のことです。

――「茶の湯の世界は敷居が高い」というイメージもあって、興味はあるけれども二の足を踏んでいるという方も多いのではと思います。

はな:私も敷居が高いと思っていたので、なかなか始められなかったんですよ。でもいざ、お稽古に通い始めると本当に楽しいんです。私が通っている茶道会館では、普段のお稽古はスカートなどのお洋服でもOKなんです。そういった環境でお手前のお稽古をしていくんですけど、2週間前に習ったことが全然できないんですよ。忘れてるんです。それでも楽しい。

「何で楽しいのかな?」と考えたとき、私くらいの年齢になると、できること・得意なことでお仕事させていただいていると思うんです。そんな中で“できないこと”に出会うと喜びがあって、新鮮だったりもするんです。知らないことを求めている自分がいることに気づいて、それがちょうどお茶のお稽古を始めたタイミングとマッチしたんだと思います。

――確かに年齢を重ねてから“自分のできないこと”を見つけると、ここからの伸び代に期待してワクワクする自分がいますね。

はな:そうですよね。茶道の世界は先生が博識な方ばかりなので、話していてもポカンとしちゃうこともあるんですけど(笑)、すごく学びがあります。そういった時間は自分で作ろうとしないと、どうしても日々の生活の中では得られなかったりするので、私はそういう面もお茶の楽しみ方の一つですね。

――ほかにはどういったことが楽しいのでしょうか。

はな:日本の文化を幅広く知れることも大きいですね。例えばお道具にしても、目に入るすべてのものが刺激的で、物語がある。もちろん、お茶はおいしいですし、それを味わうだけでも楽しいですから。

――確かにお茶に付随する全てのことを学べますね。

はな:日本の文化を幅広く、いろんなアングルから攻めていくことができるので、そういう意味では贅沢すぎる環境です(笑)。そこに居れば、日本の文化を網羅できるような感覚があります。

自分が住んでいる国のことを好きになる

――「お茶を点てる」というのも難しそうなイメージがありますが、はなさんが思う魅力とは何でしょうか?

はな:言葉にするとすごくシンプルなんですけど、美しくお手前を見せることで、人に喜んでもらえたり、心が潤う時間を持って帰ってもらえるというのはすごく大切な感覚だと思います。もてなす側の亭主も“見られている感覚”というのがあるし、そんな中でできないところを見られるのもおもしろかったりします。少しずつ成長してできるようにもなってくるんですけど、先生はその感覚を「体が覚える」といつも仰っています。最近それがようやくわかるようになりました。

――“6年続けている”と仰ってましたが、それでも最近なんですね。

はな:そうですね。5年目くらいになって、ようやくです。でも本当にまだまだですよ。

――やはりそこは奥が深い世界というか。

はな:お稽古場にはその道60年目の大先輩もいらっしゃいますし、本当に終わりのない旅だと思います。一方で私は、すごく気軽にやっているので、自分にもプレッシャーを与えず、ただ楽しみながら続けています。

――『今日もお稽古日和』の中には“始めるなら若いうちがいい”と書かれてましたね。

はな:最近、なんでも始めるなら若いうちがいいなと思うんです(笑)。“やりたい”と思ったら、なんでも早くからやっておいた方がいいですよね。お茶のお稽古も、絶対にやらないといけない、というわけではない。でもやったほうが人生が豊かになる気がするし、外を歩いていても日本の景色に敏感になります。自分が住んでいる国のことを好きになっていく感覚があるんですよ。

――特に若いうちから茶道を学ぶと、所作が美しくなるような気がしますね。

はな:「花嫁修行のためにお茶を習う」ってよく聞きますけど“なるほどな〜”と思います。お辞儀が自然とできるようになるんですよ。精神的な部分も学ぶことがあるけど、姿勢だったり所作だったり、意識することで整っていくような感覚があります。

――そうですね。そう考えると就職活動の前にお茶を習うと役に立つことはありそうですね。

はな:絶対にいいと思います。本当に若い頃からお茶を習うことで、自分にとってのいい血肉になるんじゃないかな。始めるきっかけは就職活動のためでも、お菓子が食べたいからでも、何でもいいと思います。

――ちなみに、お茶の世界に飛び込むのを躊躇している方はどういったところから始めればいいのでしょう?

はな:調べてみると割と身近なところにあったりすると思いますよ。例えばお寺でもお茶のお稽古をやっているところもありますし、もちろんカルチャーセンターなんかでも。一回体験してみて、その場所が自分に合うかどうかも判断してほしいですね。自分に合うところが見つかると、自然に続いていくと思います。

普段は出会えない人からの刺激

――やっぱり教えてくれる人や一緒に習う人も大切ですよね

はな:私が通っているクラスは、外国の方もいらっしゃるんですけど、すごく個性的な方々で。皆さん、それぞれの職場ではとても優秀な方々だと思うんですけど、お稽古をすればみんなが平等というか。ついさっき習ったことを忘れることもあるし、仕事とは全然違う非日常を味わえるので、みんながみんな普段の仕事からかけ離れた環境を楽しんでいらっしゃるんだと思います。

――最近は日本の文化価値を、外国の方が見出すようなことも増えています。

はな:そうですね。同じクラスに通う外国の方の話を伺うと、改めて日本のよさというのはこういうところにあるんだと気付かせてくれるし、新鮮な視点をもらえます。「私たちより日本のことを知ってない?」という感覚になることもあるくらいで。普段のモデルという世界の職場では出会えない方々とのコミュニケーションが稽古場では取れますし、刺激的だと感じることは多いですね。

それと稽古場に行くと、心がリセットされるような感覚があります。東京という都会にありながら、静かな雰囲気の中でお菓子とお抹茶をいただくのは贅沢な時間で、そういう部分を私はすごくカジュアルに楽しんでいるので、同じような人が増えるといいなと思っています。

忙しい人も、自分と向き合う時間に

はな:ほかにも例えば、お菓子を見るだけで「新緑の時期だな」と季節を感じることができます。忙しいと忘れがちな、日本の四季の素晴らしさをお菓子ひとつで感じとることができるので、忙しく働いている人にもぴったりだと思います。心がホッとするというか。

――まさに心が豊かになる時間なんですね。お話を聞いていて、大人になってから稽古を始めることの素晴らしさを感じました。忙しく生活していても、時に立ち止まることも大切だと考えさせられたというか。

はな:“若い頃から始めるといい”と言いましたけど、年齢を重ねても“遅い”ということはないと思います。私は歳を重ねても自分がトキメクことには敏感でありたいと思うんです。立ち止まることも時に必要で、じゃないとあっという間に時間だけが過ぎていってしまいますから。ためらっている方は、ぜひお茶の世界に飛び込んで、私と一緒に茶道ライフを楽しみながら自分としっかり向き合う時間を作って頂けたらと思います。

(構成=中山洋平)

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