提供:クラリス ファイルメーカー
「通りすがりの天才」川田十夢が、日々仕事の技術を磨き続けきら星のごとく輝いているスペシャリスト=その世界のスターと対談するポッドキャスト番組「その世界のスターたちsupported by Claris FileMaker」。
第1回のゲストは、日本航空のパイロット・京谷裕太(きょうや・ゆうた)さん。京谷さんは、ボーイング767の機長、飛行訓練のインストラクター、アプリ開発者と、3つの顔を持つスペシャリスト。京谷さんが開発し、航空業界でスタンダードになりつつあるというパイロットの訓練評価システムのアプリ「JAL CBCT」の開発秘話を中心に、パイロットの心構えや大切にしている言葉や、パイロットとプログラマーの共通点などを語り合った。
ふたりのトークはポッドキャストでも配信中。ここではテキストでお届けする。
京谷:パイロットの仕事は、実は前日から始まります。お客さまに快適で安全なフライトをお届けするために、高層天気図を確認し、フライトのイメージを膨らませるんです。当日は出発の1時間半前に集まり、最新の情報をもとに、その日の飛行ルート、高度、搭載する燃料の量などを副操縦士と決定します。これを「ディスパッチ・ブリーフィング」と呼んでいます。
実際のフライトは、毎回異なる環境でのジャッジメントの連続です。揺れが大きいときにどの高度を選択するか、前方に雲が現れたらどう避けるか、目的地の天候が悪いときは着陸するのかなど、さまざまなスレット(エラーを誘発する脅威・要因)に対して、自分の分析や経験、副操縦士の意見などを元に判断します。
川田:「ディスパッチ・ブリーフィング」通りのフライトになることが多いですか?
京谷:ほとんどのフライトは想定通りに進みます。むしろ「想定できる」パイロットが優秀なパイロットだと言えるでしょう。天気の変化や機材の突然の故障、お客さまの体調不良など、どんなことが起きても対応できるように準備しておくことが重要です。
川田:パイロットの仕事において、京谷さんが気をつけていることを教えてください。
京谷:一番気をつけているのは、フライトでも地上の業務でも、常に冷静であることです。熱くなってしまうのは、自分のプランニングが崩れたとき。しかし、冷静でなければ正常な判断はできませんし、フライトはジャッジメントの連続です。ですから、常に客観的な自分を置き、自分の言動を冷静に俯瞰的に見るように心がけています。自分自身の中にもう一人の自分がいるような感覚です。
京谷:一言で言えば「パイロットの訓練評価システム」です。パイロットの行動をいくつかの指標から可視化して、その行動をより望ましいものに変容させることを支援するアプリケーションです。
川田:パイロットの仕事を職業訓練に落とすのも難しいですし、アプリにするのも難しいと思います。ご自身でアプリ開発をした経緯を教えてください。
京谷:今の部署に配属されたとき、前任者がすでにClaris FileMakerでプログラムを作っていたんです。その姿を見よう見まねで作りはじめたのがきっかけです。気がついたときには、すっかりアプリ開発にハマっていました。とにかく楽しかったです。理想として思い描いたものがすぐに実現できる、その楽しさが大きかったですね。
川田:アプリ開発を外注する、という選択肢はなかったんですか?
京谷:外注するには時間もコストも膨大にかかってしまいます。私たちの職業自体が非常に専門的なものなので、すべて要件定義をして外部に発注となると、それだけで完成までに年単位の時間がかかってしまうんです。
川田:たしかに、職業の壁があると開発も難しいことが多いです。Claris FileMakerの場合は、Apple製品との親和性も高いことも使いやすいポイントですよね。
京谷:そうなんです。私自身もApple製品を日常的に使っていますし、社内のパイロットも皆iPadを使って業務に当たっているので、親和性が高いことは大きなメリットでした。
川田:なるほど。他のものだと画面サイズの違いなど、かなり細かく作る必要が出てくる場合もあります。Claris FileMakerなら、そのあたりをスキップできそうですよね。また、Claris FileMakerには、それほど細かいプログラミングをしなくても実際のプログラミングと同じように作用する、という特徴もありますよね。
京谷:そうですね。私は十夢さんのように専門的にプログラミングを学んだわけではないのですが、「ローコード開発」(※)という形で、思い描いたものが実現できました。Claris FileMakerの楽しさの源はここにあると感じています。
(※ソースコードあまり書かずにソフトウェアを開発する手法のこと)
川田:ちなみに、「JAL CBCT」の開発以前はどのように訓練評価をしていたんでしょうか?
京谷:以前は訓練がすべて終わると、紙でトレーニングレコードを作成していました。2,000人以上のパイロットが年間に4回ほどの訓練を行いますので、それだけでも1万枚近い紙が必要です。「JAL CBCT」を開発してデータベースを導入することによって、その紙が必要なくなっただけでなく、訓練データを分析し、訓練の効果化を図ったり、その結果をフィードバックしたりできるようになりました。それによって、効果的な訓練設計が可能になり、安全性の向上に寄与していると思います。
川田:なるほど、それは重要なポイントですね。このアプリが機能しているか、面白いかどうかを、京谷さんご自身がパイロット目線で判断できるのもいいですよね。
京谷:おっしゃる通りで、私も訓練を担当したり受けたりするユーザーのひとりなので、自分自身で使いやすくてわかりやすいものを心がけました。できる限り説明書を見なくても直感的に操作できるという意味では、Appleのネイティブアプリもずいぶん研究しましたね。デザインがよくないと、使う以前に見る気もなくなると思いますので。
川田:フィードバックの面ではいかがでしたか? 僕は、自分が開発したアプリのレビューに低評価がつくと、すごく腹が立つんですが(笑)。
京谷:(笑)。今のところ好意的な評価が多いです。「もっとここがこうだったらよかった」というフィードバックを得たときには、早ければそれを10分後に実現できてしまうのがClaris FileMakerの素晴らしいところですね。現場からのレビューがもらえるアプリケーションも開発したので、フィードバックを得ながら日々試行錯誤を繰り返しています。
また、アプリの使い方を練習できるアプリも開発しました。すべてのパイロットがITデバイスに精通しているわけではないので、何をどう使うと何がよくなるのか、具体的に理解できるように説明することの重要性も感じています。
川田:お話を伺っていて、京谷さんはプログラマーにも向いているように感じました。プログラマーはメンタルが重要です。中には、自分が設計したものを完璧だと信じ、何か言われると怒ってしまう人もいるんです。そういう人にプログラマーは向いていません。京谷さんは常に冷静で、人の意見を聞きながら試行錯誤する方ですよね。パイロットとプログラマーには近しいところがあるかもしれないと感じました。
業界のリーディングカンパニーである日本航空さんが「JAL CBCT」という先行事例を作られたのは重要なことだと思いますが、このアプリケーションは、なんと他社にも提供する計画があるそうですね。これはすごいことですね。
京谷:2年前から、JALグループ内のいくつかの航空会社、大阪のジェイエアや沖縄の日本トランスオーシャン航空などが「JAL CBCT」を採用しています。日本の空を飛んでいるパイロットの約3割がJALグループのパイロットなんですが、自分が作ったアプリが外に出ていくと決まったときは、内心、非常に嬉しかったです。
また、弊社の約8,000人の客室乗務員も現在は「JAL CBCT」のノウハウで設計されたClaris FileMakerアプリを使っています。今後はグループ外にも新しく展開していく予定で、「JAL CBCT」が日本のスタンダードになればと思っています。
京谷:フライトでもアプリ開発でも同じですが、自分の仕事が周りの人の役に立っている、周りの人を幸せにしていると感じたときに喜びを感じます。自分のキャリアを振り返ってみると、開発したアプリが会社の外に飛び出したことが、もっとも印象的な出来事でした。まさかそんなことになるとは思っていなかったので。
川田:パイロットとして関わる人とは違う層に自分の考えが渡るわけですもんね。パイロットになるために必要な能力、というのはあるのでしょうか?
京谷:バランスです。それそれの能力が秀でているのではなく、全体がうまくフラットでいることがパイロットには重要です。
川田:それは京谷さんのアプリ開発過程にもよく現れていますね。いろんな人のフィードバックを聞いて制作に活かすのは、なかなかできることではないと思います。そうした姿勢をパイロットとして日々大事にされているからこそ、アプリ開発にも反映されたんですね。最後に、京谷さんが大切にしている言葉を教えてください。
京谷:そうですね……「データベースは嘘をつかない」という言葉が今、思い浮かびました。設計したデータベースが思い通りに動かないとき、「アプリがおかしいんじゃないか」と思ってしまいがちですが、結局、プログラムを書いた人間が間違っているんです。
つまり、何かがおかしいと感じたとき、まずは自分を疑えと。そうして自分を省みろと。そういったことを思い出させてくれる言葉ですね。
<取材・文:山田宗太朗、編集:小沢あや(ピース株式会社)、撮影:竹内洋平>
「通りすがりの天才」川田十夢が、日々仕事の技術を磨き続けきら星のごとく輝いているスペシャリスト=その世界のスターと対談するポッドキャスト番組「その世界のスターたちsupported by Claris FileMaker」。
第1回のゲストは、日本航空のパイロット・京谷裕太(きょうや・ゆうた)さん。京谷さんは、ボーイング767の機長、飛行訓練のインストラクター、アプリ開発者と、3つの顔を持つスペシャリスト。京谷さんが開発し、航空業界でスタンダードになりつつあるというパイロットの訓練評価システムのアプリ「JAL CBCT」の開発秘話を中心に、パイロットの心構えや大切にしている言葉や、パイロットとプログラマーの共通点などを語り合った。
ふたりのトークはポッドキャストでも配信中。ここではテキストでお届けする。
パイロットの仕事は、異なる環境でのジャッジメントの連続
川田:京谷さんは、パイロット・教官・アプリ開発者という、昭和・平成・令和の「なりたい職業全部乗せ」みたいな印象です。パイロットのお仕事の1日はどんな流れになるんでしょうか?京谷:パイロットの仕事は、実は前日から始まります。お客さまに快適で安全なフライトをお届けするために、高層天気図を確認し、フライトのイメージを膨らませるんです。当日は出発の1時間半前に集まり、最新の情報をもとに、その日の飛行ルート、高度、搭載する燃料の量などを副操縦士と決定します。これを「ディスパッチ・ブリーフィング」と呼んでいます。
実際のフライトは、毎回異なる環境でのジャッジメントの連続です。揺れが大きいときにどの高度を選択するか、前方に雲が現れたらどう避けるか、目的地の天候が悪いときは着陸するのかなど、さまざまなスレット(エラーを誘発する脅威・要因)に対して、自分の分析や経験、副操縦士の意見などを元に判断します。
(話を伺った日本航空のパイロット、京谷裕太さん)
京谷:ほとんどのフライトは想定通りに進みます。むしろ「想定できる」パイロットが優秀なパイロットだと言えるでしょう。天気の変化や機材の突然の故障、お客さまの体調不良など、どんなことが起きても対応できるように準備しておくことが重要です。
川田:パイロットの仕事において、京谷さんが気をつけていることを教えてください。
京谷:一番気をつけているのは、フライトでも地上の業務でも、常に冷静であることです。熱くなってしまうのは、自分のプランニングが崩れたとき。しかし、冷静でなければ正常な判断はできませんし、フライトはジャッジメントの連続です。ですから、常に客観的な自分を置き、自分の言動を冷静に俯瞰的に見るように心がけています。自分自身の中にもう一人の自分がいるような感覚です。
なぜパイロットがアプリ開発を始めたのか?
川田:僕は普段、アプリケーション開発を仕事にしているんですが、専門的な職業がアプリケーションを介してどのように育っていくのか、とても興味があります。京谷さんがClaris FileMakerを使って開発された「JAL CBCT」とは、どんなアプリなんでしょうか?京谷:一言で言えば「パイロットの訓練評価システム」です。パイロットの行動をいくつかの指標から可視化して、その行動をより望ましいものに変容させることを支援するアプリケーションです。
川田:パイロットの仕事を職業訓練に落とすのも難しいですし、アプリにするのも難しいと思います。ご自身でアプリ開発をした経緯を教えてください。
京谷:今の部署に配属されたとき、前任者がすでにClaris FileMakerでプログラムを作っていたんです。その姿を見よう見まねで作りはじめたのがきっかけです。気がついたときには、すっかりアプリ開発にハマっていました。とにかく楽しかったです。理想として思い描いたものがすぐに実現できる、その楽しさが大きかったですね。
川田:アプリ開発を外注する、という選択肢はなかったんですか?
京谷:外注するには時間もコストも膨大にかかってしまいます。私たちの職業自体が非常に専門的なものなので、すべて要件定義をして外部に発注となると、それだけで完成までに年単位の時間がかかってしまうんです。
川田:たしかに、職業の壁があると開発も難しいことが多いです。Claris FileMakerの場合は、Apple製品との親和性も高いことも使いやすいポイントですよね。
(聞き手を務めた川田十夢。J-WAVE『INNOVATION WORLD』ナビゲーター)
川田:なるほど。他のものだと画面サイズの違いなど、かなり細かく作る必要が出てくる場合もあります。Claris FileMakerなら、そのあたりをスキップできそうですよね。また、Claris FileMakerには、それほど細かいプログラミングをしなくても実際のプログラミングと同じように作用する、という特徴もありますよね。
京谷:そうですね。私は十夢さんのように専門的にプログラミングを学んだわけではないのですが、「ローコード開発」(※)という形で、思い描いたものが実現できました。Claris FileMakerの楽しさの源はここにあると感じています。
(※ソースコードあまり書かずにソフトウェアを開発する手法のこと)
データを有効活用することで、安全性の精度も向上
京谷:以前は訓練がすべて終わると、紙でトレーニングレコードを作成していました。2,000人以上のパイロットが年間に4回ほどの訓練を行いますので、それだけでも1万枚近い紙が必要です。「JAL CBCT」を開発してデータベースを導入することによって、その紙が必要なくなっただけでなく、訓練データを分析し、訓練の効果化を図ったり、その結果をフィードバックしたりできるようになりました。それによって、効果的な訓練設計が可能になり、安全性の向上に寄与していると思います。
川田:なるほど、それは重要なポイントですね。このアプリが機能しているか、面白いかどうかを、京谷さんご自身がパイロット目線で判断できるのもいいですよね。
京谷:おっしゃる通りで、私も訓練を担当したり受けたりするユーザーのひとりなので、自分自身で使いやすくてわかりやすいものを心がけました。できる限り説明書を見なくても直感的に操作できるという意味では、Appleのネイティブアプリもずいぶん研究しましたね。デザインがよくないと、使う以前に見る気もなくなると思いますので。
京谷:(笑)。今のところ好意的な評価が多いです。「もっとここがこうだったらよかった」というフィードバックを得たときには、早ければそれを10分後に実現できてしまうのがClaris FileMakerの素晴らしいところですね。現場からのレビューがもらえるアプリケーションも開発したので、フィードバックを得ながら日々試行錯誤を繰り返しています。
また、アプリの使い方を練習できるアプリも開発しました。すべてのパイロットがITデバイスに精通しているわけではないので、何をどう使うと何がよくなるのか、具体的に理解できるように説明することの重要性も感じています。
川田:お話を伺っていて、京谷さんはプログラマーにも向いているように感じました。プログラマーはメンタルが重要です。中には、自分が設計したものを完璧だと信じ、何か言われると怒ってしまう人もいるんです。そういう人にプログラマーは向いていません。京谷さんは常に冷静で、人の意見を聞きながら試行錯誤する方ですよね。パイロットとプログラマーには近しいところがあるかもしれないと感じました。
業界のリーディングカンパニーである日本航空さんが「JAL CBCT」という先行事例を作られたのは重要なことだと思いますが、このアプリケーションは、なんと他社にも提供する計画があるそうですね。これはすごいことですね。
京谷:2年前から、JALグループ内のいくつかの航空会社、大阪のジェイエアや沖縄の日本トランスオーシャン航空などが「JAL CBCT」を採用しています。日本の空を飛んでいるパイロットの約3割がJALグループのパイロットなんですが、自分が作ったアプリが外に出ていくと決まったときは、内心、非常に嬉しかったです。
また、弊社の約8,000人の客室乗務員も現在は「JAL CBCT」のノウハウで設計されたClaris FileMakerアプリを使っています。今後はグループ外にも新しく展開していく予定で、「JAL CBCT」が日本のスタンダードになればと思っています。
仕事をする上で大事なことは「自分を疑い、省みること」
川田:お仕事の話をいろいろ伺ってきましたが、京谷さんは仕事をする上で、どんなときに喜びを感じますか?京谷:フライトでもアプリ開発でも同じですが、自分の仕事が周りの人の役に立っている、周りの人を幸せにしていると感じたときに喜びを感じます。自分のキャリアを振り返ってみると、開発したアプリが会社の外に飛び出したことが、もっとも印象的な出来事でした。まさかそんなことになるとは思っていなかったので。
川田:パイロットとして関わる人とは違う層に自分の考えが渡るわけですもんね。パイロットになるために必要な能力、というのはあるのでしょうか?
京谷:バランスです。それそれの能力が秀でているのではなく、全体がうまくフラットでいることがパイロットには重要です。
川田:それは京谷さんのアプリ開発過程にもよく現れていますね。いろんな人のフィードバックを聞いて制作に活かすのは、なかなかできることではないと思います。そうした姿勢をパイロットとして日々大事にされているからこそ、アプリ開発にも反映されたんですね。最後に、京谷さんが大切にしている言葉を教えてください。
京谷:そうですね……「データベースは嘘をつかない」という言葉が今、思い浮かびました。設計したデータベースが思い通りに動かないとき、「アプリがおかしいんじゃないか」と思ってしまいがちですが、結局、プログラムを書いた人間が間違っているんです。
つまり、何かがおかしいと感じたとき、まずは自分を疑えと。そうして自分を省みろと。そういったことを思い出させてくれる言葉ですね。
<取材・文:山田宗太朗、編集:小沢あや(ピース株式会社)、撮影:竹内洋平>
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