「芸能人の娘」の大変さとは…映画監督・安藤桃子が語る

映画監督の安藤桃子が、自身のエッセイ『ぜんぶ 愛。』(集英社インターナショナル)について語った。

安藤が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『VOLVO CROSSING LOUNGE』(ナビゲーター:アン ミカ)。ここでは11月19日(金)のオンエアをテキストで紹介する。

波乱万丈な半生は『ぜんぶ 愛。』

安藤は1982年東京都生まれ。父が俳優・奥田瑛二、母がエッセイスト・コメンテーターの安藤和津という芸能一家出身でもある。高校からイギリスに留学し、ロンドン大学芸術学部を卒業後はニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010年『カケラ』で監督・脚本デビュー。自身初の長編小説『0.5ミリ』で2014年にみずから監督・脚本を務めて映画化し、多数の賞を受賞した。同年高知県に移住。ミニシアター「kinema M」の代表を務めるほか、異業種チーム「わっしょい!」では、農業・食・教育・芸術などの体験を通してすべての命に優しい活動を続けている。

アンは、11月5日に出版された安藤の波乱万丈の半生が綴られたエッセイ『ぜんぶ 愛。』について話を聞いた。
アン:『ぜんぶ 愛。』というタイトルがいい!
安藤:けっこう振り切ったタイトルをつけてしまったんですが、いろいろ書いて半生を振り返ってみると、やっぱりまるっと愛だったんだなあと。まるっとそこで止める、以上! みたいな(笑)。
アン:潔い。みなさん勝手に「親の七光りでなに不自由なく育って」と勘違いされている方が多いと思うんですよ。でもこの本を読むと、向き合うものがとても多い人生で、でも温かくて。普段生きていて、どう言葉にしたらいいかわからない感情が、すごくスッと入る言葉になっているので、面白かったり泣けてきたり温かくなったり、いい本でした。ぜんぶ愛でした。
安藤:超うれしいです。

気づいたらトップ!? 全部がそろった高知県の魅力

『ぜんぶ 愛。』は日本経済新聞に連載されていたエッセイを大幅加筆して書籍化された。そのきっかけは、高知県出身の編集者からのラブコールだったという。

アン:もともと東京のど真ん中で育った桃子さんが、ロケ地で訪れた高知に移住することになった決め手はなんだったんですか?
安藤:決め手は一言で「魂のふるさとだ!」って思ったんだと思います。移住してみてから、「きっと人が温かいからだ」「食事もおいしいからだ」「自然の恵みがいっぱいある」とか、いろいろなことを後追いで理解していくんですけど。
アン:改めて高知の魅力を教えてください。
安藤:海、山、川、全部そろっていて。「一周遅れのトップランナー」と私は言ってるんですけど(笑)。いま文明もいろいろと進化して発達して、でも経済がある種の行き詰まりというか「ここから先どうしたらいいんだろう?」と立ち止まるようなときが訪れて。そのときに「立ち返りたい」「もう1回戻りたいかも」みたいな感覚が出てきたと思うんですよ。そのときに高知は、なんだかそのまま変わらずにあった。だから気づいたら経済的には47都道府県で最下位になったこともあるし、決してお金持ちの県とは言えないけれども、これから先、未来の私たちが「ここだ!」と必要としていることが、そのまま残っちゃった。「気づいたらトップを走っているのか? どうする高知県!」みたいな(笑)。
アン:人と人が昔のよき日本の先人からの知恵を活かしながら手を繋いでそれぞれ生きているみたいな、そういう温かさがありますよね。
安藤:結局は人と人の繋がりだなと、いま我々も痛感していると思います。(コロナ禍で)会えなくなったりしたら、より一層深く感じていると思うんです。社会で物質が飽和状態になって「やっぱり心だな」と思い始めている方も多いと思っていて。どちらが良い・悪いではなくて、ハートがあってものが生まれるという順番が、高知にいると当たり前に回って巡っているなと感じます。

「特別視」されて…アイデンティティに悩んだ経験

『ぜんぶ 愛。』では、自立に至るまでの家庭環境による悩みも綴られている。

アン:決してラクな人生ではなかったということも書かれています。
安藤:いま思えば「特別視」というんでしょうか。いいことをしても「芸能人のおうちだから、きっと特別ななにかを教えてもらってたり、先生とかいるのよ、だからよ」と言われて、あまり高評価を得られない。でもちょっと目立ったことをすると「やっぱり芸能人の娘だから育て方が微妙なんじゃない?」とか、あまりうれしくないことを言われることが多かったので、すごく「自分ってなんなんだろう」とアイデンティティがわからないことが続きましたね。
アン:本のなかでは、本気スイッチが入ったお父さんから(妹で女優の安藤サクラが)学芸会のことで「小学生みたいな芝居するんじゃねえ」「学芸会やってんじゃねえ」と言われて、「小学生なのに」「学芸会なのに」と(笑)。声を出して笑いました。それを支えるお母さまも、実は白鳥のように脚をかきながら一生懸命で。
安藤:いい表現。本当に白鳥のようですね。涼しい顔して「どうも安藤和津です」ってやってるけど、下ではもう脚をかいてかいて(笑)。
アン:脚が10本あっても足りないぐらいかかれていて、きっとご苦労もあったと思います。そんななか、桃子さんは自分を探すためにロンドンに行かれて。
安藤:けっこう若いときから、親元を離れられるなら早く離れて、自分がどう評価されようが、ダメならダメで切り捨ててもらって構わない、とにかく私は一体何者なのかと知りたくて海外に行きたかった。自分のことを誰も知らないところで正当な評価を受けてみたいという。それができたことがすごくありがたいです。

親元を離れて海外に行くことで、アイデンティティを改めて見直すことができたという。映画監督として目覚めたのは、留学生時代に父である奥田瑛二の海外の映画祭で通訳をしたことがきっかけだったという。

安藤:ロンドンに住んでいるときに、『少女~an adolescent』という父の初監督作品で、世界中を行脚しました。映画祭という、とにかく映画を愛する人たちの集いを体感して。映画って観る側と作り手の双方がコミュニケーションしてひとつの輪になっていて。呼吸じゃないですけど、物事ってすべて吸って吐いての関係性なんだと気づけたのも、海外の映画祭に行ったときだったんです。でも映画監督にはなれないという不安があったんです。「なりたい!」と思ったけど、私には無理なんじゃないかという思いもあって。言っちゃったら最後、そこを目指さないといけないから、もじもじした状態のときに、海外の映画祭で映画の本質に触れることができて、父にも宣言というか「映画監督になります」と言えました。

『VOLVO CROSSING LOUNGE』では、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをゲストに迎えて、大人の良質なクロストークを繰り広げる。オンエアは毎週金曜23時30分から。
radikoで聴く
2021年11月26日28時59分まで

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番組情報
VOLVO CROSSING LOUNGE
毎週金曜
23:30-24:00

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