J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。
2月17日(水)のオンエアでは、北テキサス大学の音楽教授、ドクター・キャピタルがゲストに登場。「あのヒット曲の裏側には秘密がある!?」をテーマにお届けした。
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リスナーたちを飲み込むのに大事なのは、リズムのグルーヴ
番組では、「あのヒット曲の裏側には秘密がある!?」と題して、誰もが耳にしたことがあるであろうヒット曲のコード進行、リズム、歌詞などの凄いポイントをドクター・キャピタルに解説してもらった。
ドクター・キャピタルは、Shing02のギタリストとして全国ツアーやFUJI ROCK FESTIVALに参加。現在は、ジャズの名門、北テキサス大学の音楽教授をされている本物の音楽博士である。YouTubeでは、大人気の「J-POPカバー講座」を配信中だ。
あっこゴリラ:ドクター・キャピタルさんとJ-POPとの出会いは?
キャピタル:僕はアメリカ育ちで、中学時代に僕のアメリカの家族の元に日本人の留学生がホームステイしに来たんです。その時にカセットテープをお土産で持ってきてくれて、ブルーハーツとか聖飢魔IIなど、J-POPやJ-ROCKを聴かせてくれたんです。それで高校時代から日本語の勉強を始めて、大学時代には今度は僕が日本に留学しました。
あっこゴリラ:じゃあ、それがきっかけだったんですね。ではまず、キャピタルさんが解説してくれる曲は何ですか?
キャピタル:Official髭男dismの『宿命』です。
あっこゴリラ:この曲の凄いポイントは?
キャピタル:ヒット曲の条件として、リスナーたちを飲み込みということがあります。リスナーたちが音楽の中に入り込むには、やっぱりリズムのグルーヴが大事なんです。『宿命』も素晴らしいグルーヴがあるんですが、これは「クラーベ」というリズムで、実はアフロラテンの基本リズムになります。
あっこゴリラ:へえ~!
キャピタル:このリズムは、西アフリカの何百年も前からの伝統ドラム音楽から来ているリズムパターンで、その目的は、人間の体を動かすこと。それが何百年も進化してきて、人間を動かす完璧なリズムになっています。
あっこゴリラ:おお~!
キャピタル:僕たちリスナーたちも『宿命』を聴くと、やっぱりそのリズムに思わず体が乗ってしまい音楽の中に入り込む効果があるんです。
あっこゴリラ:確かに、このリズムは勝手に体が動いちゃいますよね。
キャピタル:またこのリズムが82BPMですごく乗りやすくて、グルーヴが深くなるテンポなんです。
【Official髭男dism『宿命』を聴く】
あっこゴリラ:続いて、解説してくれる曲は何ですか?
キャピタル:King Gnuの『白日』です。
あっこゴリラ:出た! この曲の凄いポイントは?
キャピタル:これも93BPMで、ちょうど僕のツボの乗りやすいグルーヴで、こっちはグルーヴがスウィングしてるんです。
あっこゴリラ:スウィング?
キャピタル:はい。スウィングだと、ちょっと不均一な八分音符になって、そうするとめちゃめちゃ乗りが丸くなって、より乗りやすくなるんです。『白日』では、とても素敵なジャズコードが多用されていて、冒頭にはオギュメントコードという不思議なコードが使われています。
あっこゴリラ:(実演を聴いて)本当だ~、不思議!
キャピタル:このコードは緊張させるテンションコードで、ホラー映画とかにも使われるんですけど、このテンションコードをすごくおしゃれなジャズコードの中に混ぜることで感情的な感じになり、これがめちゃめちゃ効果的で本当に感動する曲です。
あっこゴリラ:こうやって実演しながら教えてくれるとすごく分かりやすいですね。この緊張のコードから戻る時のカタルシスもヤバいですよね。
キャピタル:そうですね。これはクラシックの曲の作り方に似ていて、すごくレベルが高いと思います。
実は今回、King Gnuの『白日』でピアノを弾いているWONKやmillennium paradeのキーボード・江﨑文武本人が、『白日』のコードの秘密を解説してくれた。
江崎:この曲は2018年、友人の常田大希から電話があり、急遽ドタバタで制作を進めた楽曲でした。その後、メロディーとシンプルなコードが含まれた音楽ファイルが送られてきまして、当時のメッセージをそのまま読み返しますと、「曲の軸が鍵盤だから、鍵盤のプレーに合わせて、俺らのプレーを考えるという感じかな。確認したら連絡ほしいっす、よろしこ」ということで、ピアノやオルガンやシンセサイザー等々をアレンジしていきました。楽曲のデモを聴いた時点で、もう本当に一聴してメロディーが美しく、そしてクラシック的な展開というのが多く含まれていたので、コード進行をアレンジする際も、とにかくコードのトップノートを、和音の一番上で鳴っている音が、あたかももう一つのメロディーを歌っているかのような美しい並びになるようにということを一番工夫しています。
最後に、この曲のヒットの理由はどこにあるのか伺った。
江崎:ひとえに作曲の素晴らしさ、そしてKing Gnuというバンドの緻密なアンサンブルによるものではないかなと思っています。私にとっても大変思い出深い1曲ですので、コード進行、楽器の細かな表現にも着目して、何度でも味わっていただきたい楽曲です。
【King Gnu『白日』を聴く】
洋楽のコード進行の特徴は、ループ!?
引き続き、ドクター・キャピタルがヒット曲を例に挙げて解説してくれた。
あっこゴリラ:続いての曲は?
キャピタル:YOASOBIの『夜に駆ける』です。
あっこゴリラ:この曲の凄いポイントは?
キャピタル:この曲は、130BPMでとても速いテンポです。しかも歌もピアノも16分音符が多くて、早口で、原曲の速さでは僕はとても歌えないです(笑)。
あっこゴリラ:あはははは!
キャピタル:また、ピアノってアコースティックで生演奏のイメージがありますけど、打ち込みっぽい16分音符がずっと続くピアノのロボット的なデジタル世界観とのミックスがすごく新鮮で素晴らしいです。
あっこゴリラ:なるほど~。
キャピタル:ちょっとリズムもコード進行もラテンジャズっぽいなって思いました。洋楽の曲だったら、(実演しながら)このように3コードばっかり繰り返すけど、YOASOBIの『夜に駆ける』の場合は、微妙にバリエーションを入れたりして、毎回ちょっと違ったりします。これは歌うのも難しいし、耳コピーするのも難しい! これこそ音楽として生き物っぽいなって思いますね。途中、半音下げからの1.5音上げはあまり見なくておもしろいです。
【YOASOBI『夜に駆ける』を聴く】
あっこゴリラ:続いて、解説してくれる曲は何ですか?
キャピタル:米津玄師の『Lemon』です。
あっこゴリラ:出ました! ずばり、この曲の凄いポイントは?
キャピタル:この曲は、実は少し洋楽っぽいところもあるんです。サビのコード進行ですが、キーの中のコードが7つあって、そのコード進行のうちの、4-1-5-6で、これを繰り返すと、実はたくさんある洋楽の曲のコード進行になっています。洋楽の場合は、この進行がループされて、ずっとこの進行ばかりなんだけど、『Lemon』の場合は、(実演をしながら)このように少しずつ変わったりするんです。
あっこゴリラ:本当だ~! ちょっと複雑な音になりますね。
キャピタル:はい。これは、めちゃめちゃ上手いことループ感を出しつつ、実はまた途中で変えたりして、J-POPならではの表現にしているんです。
あっこゴリラ:こうやって解説してもらいながら聴くと、その凄さがよく分かりますね。
【米津玄師『Lemon』を聴く】
ここまでは、J-POPのヒット曲を解説してもらったが、ここからは洋楽のヒット曲を解説してくれた。
あっこゴリラ:まず解説してくれる洋楽は何ですか?
キャピタル:The Weekndの『Blinding Lights』です。
あっこゴリラ:キャピタルさんから見たこの曲の凄いポイントは?
キャピタル:まずJ-POPとは全然感じが違いますよね。これはまさしくさっき解説した4コードがずっとループし続ける曲です。今回はコード進行が2-6-1-5でこればかりです。
あっこゴリラ:うんうん。
キャピタル:レトロな80年代っぽいビートで、A-haの『Take On Me』みたいなすごく懐かしい感覚のグルーヴになっています。コード進行がずっと一緒だけど、ずっと聴いてても飽きない理由は、まず歌が上手いということ(笑)。
あっこゴリラ:あはははは。
キャピタル:プロデュースの仕方もすごくおもしろくて、最初から最後まで音の厚みや高音、低音など音の作り方がすごく上手いし、音自体が変化していくので、これが生き物っぽいです。
あっこゴリラ:確かに音色一つ一つの強さが凄まじいですよね。
キャピタル:すごいですよね。そして、コード進行が変わらないからこそ、メロディーの展開が目立つんですよね。
【The Weeknd『Blinding Lights』を聴く】
あっこゴリラ:続いて解説してくれる洋楽は何ですか?
キャピタル:Lady Gaga の『Rain On Me feat. Ariana Grande』です。
あっこゴリラ:この曲の凄いポイントは?
キャピタル:この曲のコードは、なんとほとんど2つだけなんです。あはははは。
あっこゴリラ:2コード!
キャピタル:6-4が9割以上で、たまに5が入る感じ。コード進行には展開はないけど、音の作りが部分部分で変わり、歌が全部最初から最後までそのままの繰り返しがなくて、変わっていく一方です!
あっこゴリラ:あはははは! 本当にJ-POPと真逆ですよね。J-POPって「サビ来た~! 」みたいのが大好きじゃないですか。
キャピタル:そうそう。
あっこゴリラ:この曲って、サビっぽくないサビですよね。
キャピタル:逆にサビを歌った後にビートドロップで、そこからが一番盛り上がりますよね。だからDJの生演奏のライブみたいな感じですね。
あっこゴリラ:歌がないところが一番サビっぽいですよね。
【Lady Gaga『Rain On Me feat. Ariana Grande』を聴く】
洋楽・邦楽のヒット曲は、根本的に法則が違う
引き続き、ドクター・キャピタルが洋楽のヒット曲を解説してくれた。
あっこゴリラ:続いての曲は?
キャピタル:Billie Eillishの『Bad Guy』です。
あっこゴリラ:来ましたね~。この曲の凄いポイントは?
キャピタル:いや~、この曲は変わってます(笑)。これは本当に新時代の音楽ですね。90年代に初めてニルヴァーナが出てきた感じを思い出します。今までと全く違うスタイルの音楽ですね。
あっこゴリラ:うんうん。
キャピタル:これこそAメロ、Bメロ、サビとか関係ない曲です。サンプリングとかでちょっとふざけたような内容も入ってて、反抗期がおもしろく溢れている曲ですね。
あっこゴリラ:確かに、反抗期バイブスが溢れ出てますよね。
キャピタル:歌詞もインパクトがあって、ちょっとホラー映画っぽい気持ちになる歌詞で、とにかくこんな内容歌ってはいけないだろうっていうような歌詞です。囁いているような歌い方で、もう歌っているというより耳元で秘密を囁かれているような感じで、曲の世界に入ってしまいますね。怖い感じがある中に美しさもあるのがすごいです。
あっこゴリラ:それすごくわかります!
キャピタル:この曲、始めは135BPMくらいなんですけど、途中2秒くらい沈黙があって、その後、ビートが全く違うテンポに落ちて120BPMくらいになって、違う曲が始まったかのような展開があって、本当に新しい表現性で素晴らしいと思います。
【Billie Eillish『Bad Guy』を聴く】
あっこゴリラ:最後に解説してくれる曲は何ですか?
キャピタル:BTSの『Dynamite』です。
あっこゴリラ:この曲の凄いポイントは?
キャピタル:まず聴くとかなり気持ちいいですよね(笑)。これはまた乗りやすい114BPMで、コード進行が6-2-5-1で、実はこの進行はいろんな有名なジャズやポップスの曲で使われています。そして、このメロディーは(実演をしながら)このように“ラソファミレド”と音階そのままなんです。
あっこゴリラ:めちゃめちゃキャッチーですね。
キャピタル:そうですよね。でもAメロでは、(実演をしながら)このように“ドドドドドド”とずっと同じ音なんです。
あっこゴリラ:本当だ~! すごい!
キャピタル:それによって、そのリズミカルさがすごく目立ちます。英語の歌詞って、大体韻を踏むんですが、この曲ではそのアクセントがすごくファンキーに出ています。
あっこゴリラ:だからメロディーが一緒でもすごく変化に飛んで聴こえるんですね。
【BTS『Dynamite』を聴く】
改めて、洋楽と邦楽のヒットの違いについて訊いてみた。
キャピタル:J-POPのヒット曲は、映画みたいに感動作が多いです。楽しかったり、悲しかったり、泣いたり、笑ったり、それが一曲の中に全部存在します。小説みたいな感じで、結構複雑な感情物語ですよね。それに対して洋楽は一つだけの目的があって、例えば笑うだけ、踊るだけの曲です。だから、逆にこの3分間であんまりたくさんの音楽のアイディアを出し過ぎずに、一つくらいのコード進行で十分なんですよね。この一つだけコード進行を深く経験しようっていう、小説じゃなくて詩とか短編みたいな感覚が洋楽の特徴だと思います。シンプルなコード進行だからこそ、より歌手の歌の上手さが目立ちます。
J-WAVE『SONAR MUSIC』は月~木の22:00-24:00にオンエア。
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