「ボールパーク」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
球場のあり方を捉え直し、その周辺にさまざまな商業施設や宿泊施設を併設するなどして、新たな「街づくり」がなされている。『J-WAVE SPECIAL LANDSCAPE WONDER -SPORTS & THE CITY-』では、女優の玄理さんと、さまざまなスポーツ施設の“施設参謀”として知られる川原秀仁さんが、元プロ野球選手の黒田博樹さんらをゲストに迎えつつ、アメリカと日本のボールパークの現状や、それに伴う街づくりを語り合った。オンエアは9月23日(木)。
このトークは、J-WAVEの公式YouTubeチャンネルでも配信中。
パート1:https://youtu.be/6HRA1o6DriQ
パート2:https://youtu.be/QLAbBRpg90c
パート3:https://youtu.be/ijiTuXDncyc
(※ パート2は、9月29日までの限定公開)
施設参謀というのは、事業者やクライアントである施主の参謀として、ビジネスと施設(建物)をどう統合させるかを考え、建物の完成までプロジェクトをマネジメントする仕事。今回は、野球スタジアムの進化や、ボールパークを中心とした街づくりに注目して、トークが進んだ。
玄理:そもそもボールパークと野球スタジアムとは、何が違うのでしょうか?
川原:一般の球場は、マニアやファンのためだけのスポーツ観戦の場でしたが、ボールパークというのは、家族や一般の人たちが丸一日楽しめるような総合エンターテイメントの場に引き上げた、相対的概念を言います。球団と産業が連携して、街全体が複合的に潤っていく仕組みの拠点となるような施設体系を「ボールパーク」といいます。
玄理:なるほど。野球スタジアムは、シンプルに野球という競技を楽しむための施設。一方、商業施設ほか、いろいろな連携産業が重なって、さらに大きな利益を生み出すのがボールパークということですね。
川原:球場が単独にやるのではなく、オープンモデルで、有機的につながっているイメージです。
「設計当時、メッツのオーナーの1人だったフレッド・ウィルポン氏は、当時ブルックリンに本拠地があったドジャースの大ファンでした。そのため、シティ・フィールドはかつてのドジャースの本拠地だったエベッツ・フィールドの外観に寄せて建設されました」
外観は1930年代、内部は最新鋭のスタジアム。人々のニーズに応えるために、いろいろな工夫がされたという。
「セレブが座るバックネット裏には、専用のレストランがあり、特別メニューが提供されました。ニューヨーカーでもなかなか口にする機会のない、高級料理を食べることができます。また、一般の観客に多くの食の体験をしてもらうため、地元ニューヨークの人気レストランが数多く、ボールパーク内に誘致されました。シティ・フィールドに来れば、ニューヨークを体験できるようにしたんです」
実は川原さんも、シティ・フィールドを訪れたことがある。ビジネスマンが昼はボールパーク内で会議をして、夜はそのままナイター観戦という活用の仕方もあるのだという。
ここで、川原さんからクイズが出題された。
Q.2009年に建設されたシティ・フィールドは当時ニューヨークで大人気だったレストランの誘致に成功し、大きな話題となりました。中には食事をするために、わざわざ試合のチケットを取る人もいたそうです。さて、そのレストランとは次のうちのどれでしょうか?
1:ウルフギャング・ステーキハウス
2:シェイクシャック
3:エッグスンシングス
今となっては、日本にも出店されているが……正解は2のシェイクシャック(ちなみに玄理さんは1と回答)。川原さんによると、2000年に始まったシェイクシャックは、国内外から多くの客が押し寄せて、ハンバーガーを食べるために2時間待つこともあったそう。それほど人気のシェイクシャックを食べるために、ゲームチケットを買う人がいたというのも頷ける。
「シティ・フィールドは、結婚式、誕生日会などのパーティー会場としても活用されます。人生の大きな節目を、応援しているチームのボールパークで祝える。もちろん人気で、試合のない日はセレモニーの予約がすぐ埋まります」
「ニューヨーク・ヤンキースのヤンキー・スタジアムは、同じニューヨークに本拠地を置くサッカーチーム、ニューヨークFCのホームグラウンドとしても使用されています。ヤンキースが遠征しているときは、サッカー場として機能しているのです」
「近年では観光名所としても人気を集め、30球団全部のボールパークに足を運び、それをSNSで公開するファンも増えています。それが、集客に繋がっているのです」
ここで玄理さんに一つの疑問が浮かぶ。日本の場合、サッカー場はサッカー場、野球場は野球場として機能しているが、それはなぜなのか。
それに対し、川原さんは「今までがそうだったから」と答える。何か機能を分けなければいけない規定があるわけではなく、そういう発想や慣習が日本ではなかったというわけだ。
数々のボールパークを視察してきた川原さんが印象に残っていることは何か。川原さんは、サンディエゴの「ペトコ・パーク」を挙げる。
川原:ダルビッシュ有選手が所属しているMLBサンディエゴ・パドレスの本拠地で、球場のコンコースから、ラグジュアリーホテルに直結しているんです。外野席では広い芝生に寝転ぶことができたり、子ども専用のプレイスポットがあったり。雰囲気がすごくいいんですよ。たたずまいが格好いいとさえも思えるんですよね。
玄理:黒田さんは2007年にLAドジャースと契約。1万7000人収容の広島市民球場から、5万6000人収容のドジャー・スタジアムでプレーするようになって、球場のスケールも変わったと思うのですが、メジャーリーグのどんなところに一番驚きましたか。
黒田:やはり収容人数ですね。広島市民球場時代から比べると全然規模が違って。僕がいたドジャースタジアムはすり鉢状になっていて、1階から8階ぐらいまであるんです。最上階の方たちから見ると、すごく下を見下ろして野球を見ているという感じだったのではないかなと思います。
玄理:すり鉢状となると、歓声の響き方も違いそうですよね。最初はやはり興奮するものですか。それとも緊張もされたのですか。
黒田:僕自身どういうゲームでも常に緊張感を持ってやっていたんですが、やはり1年目、2008年に初めてプレーオフをドジャースタジアムで経験して、5万6000人超満員の中で、投げさせてもらいまして。アメリカはあまり日本のように、敵チームと味方チームが半分半分に分かれて応援するスタイルではなく、ホームグラウンドでやる場合はほとんどがドジャースファン。360度ドジャースファンの中で投げられるので、そういう部分でホームの有利さをすごく感じました。
玄理:観客のほぼ全員が味方となると、調子も変わってくるのですか。
黒田:逆に言えばプレッシャーも大きくなります。アメリカは敵のチームだけではなく、味方のチームでも気の抜けたプレーをするとブーイングが起こるので。
黒田:ドジャースタジアムは、アメリカでは珍しく両翼が対称で、ライト側もレフト側も全く同じサイズで作られている。日本ではそれが当たり前なのですが、アメリカではそういう球場が少ないんです。
玄理:それは、球場に個性があるということですか。
黒田:そうですね。僕は2012年からヤンキースに移籍したのですが、ヤンキースタジアムはライトがすごく狭い。どちらかというと左バッターに有利なように作られている球場なんです。新しくスタジアムをつくる時も、ベーブ・ルースがいたぐらいの時代のヤンキースタジアムからサイズを変えずに、伝統として左バッターに有利な球場をずっと受け継がれきたんです。
玄理:黒田さんと球場の相性がよかったということですか?
黒田:いや、本来なら右ピッチャーにとってはすごく不利な球場です。なので、ヤンキースの補強戦略を考えると、だいたいいい左ピッチャーを取りたがる。対相手チームの左バッターをしっかり抑えてくれるようないい左ピッチャーを。補強戦略も球場の特徴が関わるので、そういう観点で見てみるとファンもまた面白いかもしれませんね。
黒田:広島のマツダスタジアムは、新幹線から見えるんです。
川原:そうですね、ゲームの内容が見えたりもしますよね。
黒田:ファンの方が広島に試合を見に来ようとしたときに、球場が見えた時点でワクワクすると思うんです。試合のある日は、広島駅からマツダスタジアムまでの通りもすごく賑わいます。選手の写真が貼ってあったり、グッズを売っていたり、一つの祭りみたいなような感じ。いい光景だなと思いました。
メジャーリーグから日本の球界に戻った黒田さんには、マツダスタジアムのマウンドに立った時は「いつもと違う高揚感」があったそうだ。特に、日本では珍しく、内野も天然の芝ということに感銘を受けたという。その上で、日本のボールパーク化に関わる川原さんへの“要望”として、天然芝の話を切り出した。
黒田:アメリカは天然芝の球場が多い。いろいろと難しさはあると思うのですが、やはり天然芝というのが、選手の体にとってもいいのではないかなと思います。
川原:毎日水をまいたり、適度な湿度を保つ必要があったり、いろいろとコストはかかるのですが、やはり選手に負担をかけることになりますからね。日本もボールパーク化がどんどんこれから進みますので、天然芝を使おうとする傾向は出てくると思います。
黒田:試合を観るだけでなく、野球場に遊びに来るという感覚で、たくさんファンの方に来ていただく球場を作っていただければいいかなと思います。
川原:はい。そうなるように、私も努力していきます。
続いて、川原さんが日本のボールパーク化についての現状を解説。
まず、昨年3月に完成した横浜スタジアム。観客席を両翼に6000席増設し、VIP席も増設して、屋上で食事をしながら観戦できるような構造にしたほか、コンコースを360度回れるようにもなった。また、商業やエンタメなどの展開を許可することで、球場を取り巻く公園を活性化させていく「パークマネジメント」が起こっており、立地する横浜・関内の町に再開発も着々と進んでいるという。
そして、現在、開発真っ最中なのが、北海道ボールパーク・Fビレッジだ。
川原:スタジアム自体がガラスでできていて、外から丸見えなんです。可動する大きな切妻屋根を開け閉めすることによって、天然芝の管理も可能にしようという構想です。また、外野席の上段に天然温泉を設置するほか、球場の外でもバーベキューやボート遊びなどいろいろなアクティビティを用意しており、楽しいプレイゾーンに包まれてるんですね。
玄理:天然温泉の構想はもう日本ならではですよね。ぜひ行きたいと思う人がかなりいるのではないでしょうか。
川原:そうした行きたいという心をさらにつなぐために、ホテルやマンションを建設したり、新駅まで敷設したりして、北広島市全体の街づくりをしているような取り組みです。
玄理:すごい。泊まりがけでないと、全部見切れないぐらいの大きさですね。
川原:はい。泊まり方もキャンプ型、グランピング型、ホテル型、ラグジュアリーホテル型という風になっていくのではないかなと思います。
玄理:宿泊施設もいくつかのニーズに合わせたものが選べると。野球好きの方からしたらたまらないですね。
最後に、盛り沢山の内容を振り返った。
川原:今、スポーツビジネス、スポーツ施設は大きな変革を起こそうとしています。建物全体の中でも、その構造が一番変わろうとしているものではないでしょうか。その変化の空気を少しでも今回感じていただけたら嬉しいなと思います。
玄理:楽しみですね、私のように普段スポーツ観戦に行く習慣がない人でも、北海道の天然温泉つきの球場には絶対行きたいと思うでしょうね。
川原:玄理さんのような人を行かせることが、ボールパーク化の一番の目的なんですよ。
玄理:楽しみにしてます! ありがとうございました!
【ナビゲータープロフィール】
■玄理
1986年12月18日生まれ。東京都出身。日本語・英語・韓国語の トライリンガル。中学校時代にイギリス短期留学、大学在学中に韓国に演技留学。2014年の主演映画『水の声を聞く』で第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞、2017年にソウル国際ドラマアワードにてアジアスタープライズをそれぞれ受賞した。近年の出演作は映画「スパイの妻」「偶然と想像」ドラマ「君と世界が終わる日に」など。公式サイト
■川原 秀仁 山下PMC代表取締役社長 社長執行役員。農用地開発公団、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年より山下PMC(当時の社名:山下ピー・エム・コンサルタンツ)の創業メンバーとして参画し、国内のコンストラクションマネジメント技術の礎を築く。著書に『施設参謀』(ダイヤモンド社)、『プラットフォームビジネスの最強法則』(光文社)がある。山下PMC公式サイト
(編集=小沢あや<ピース株式会社>、構成=五月女菜穂)
球場のあり方を捉え直し、その周辺にさまざまな商業施設や宿泊施設を併設するなどして、新たな「街づくり」がなされている。『J-WAVE SPECIAL LANDSCAPE WONDER -SPORTS & THE CITY-』では、女優の玄理さんと、さまざまなスポーツ施設の“施設参謀”として知られる川原秀仁さんが、元プロ野球選手の黒田博樹さんらをゲストに迎えつつ、アメリカと日本のボールパークの現状や、それに伴う街づくりを語り合った。オンエアは9月23日(木)。
このトークは、J-WAVEの公式YouTubeチャンネルでも配信中。
パート1:https://youtu.be/6HRA1o6DriQ
パート2:https://youtu.be/QLAbBRpg90c
パート3:https://youtu.be/ijiTuXDncyc
(※ パート2は、9月29日までの限定公開)
ボールパークとは? 球場が「総合エンターテイメントの場」に
川原秀仁さんは株式会社山下PMCの代表取締役社長で、一級建築士。施設参謀として、さまざまな街づくりに携わっている。施設参謀というのは、事業者やクライアントである施主の参謀として、ビジネスと施設(建物)をどう統合させるかを考え、建物の完成までプロジェクトをマネジメントする仕事。今回は、野球スタジアムの進化や、ボールパークを中心とした街づくりに注目して、トークが進んだ。
玄理:そもそもボールパークと野球スタジアムとは、何が違うのでしょうか?
川原:一般の球場は、マニアやファンのためだけのスポーツ観戦の場でしたが、ボールパークというのは、家族や一般の人たちが丸一日楽しめるような総合エンターテイメントの場に引き上げた、相対的概念を言います。球団と産業が連携して、街全体が複合的に潤っていく仕組みの拠点となるような施設体系を「ボールパーク」といいます。
玄理:なるほど。野球スタジアムは、シンプルに野球という競技を楽しむための施設。一方、商業施設ほか、いろいろな連携産業が重なって、さらに大きな利益を生み出すのがボールパークということですね。
川原:球場が単独にやるのではなく、オープンモデルで、有機的につながっているイメージです。
ボールパークとは? 川原秀仁さん(左)に、玄理さん(右)が訊く
NYの「シティ・フィールド」には、セレブ専用レストランがある
具体的な例として、2009年にオープンした、MLBニューヨーク・メッツのボールパーク「シティ・フィールド」がある。オープン当時、メッツの職員だったブライアン氏が、シティ・フィールドが建設時に掲げられていたコンセプトやテーマについて語ってくれた。「設計当時、メッツのオーナーの1人だったフレッド・ウィルポン氏は、当時ブルックリンに本拠地があったドジャースの大ファンでした。そのため、シティ・フィールドはかつてのドジャースの本拠地だったエベッツ・フィールドの外観に寄せて建設されました」
シティ・フィールド
「セレブが座るバックネット裏には、専用のレストランがあり、特別メニューが提供されました。ニューヨーカーでもなかなか口にする機会のない、高級料理を食べることができます。また、一般の観客に多くの食の体験をしてもらうため、地元ニューヨークの人気レストランが数多く、ボールパーク内に誘致されました。シティ・フィールドに来れば、ニューヨークを体験できるようにしたんです」
実は川原さんも、シティ・フィールドを訪れたことがある。ビジネスマンが昼はボールパーク内で会議をして、夜はそのままナイター観戦という活用の仕方もあるのだという。
ここで、川原さんからクイズが出題された。
Q.2009年に建設されたシティ・フィールドは当時ニューヨークで大人気だったレストランの誘致に成功し、大きな話題となりました。中には食事をするために、わざわざ試合のチケットを取る人もいたそうです。さて、そのレストランとは次のうちのどれでしょうか?
1:ウルフギャング・ステーキハウス
2:シェイクシャック
3:エッグスンシングス
今となっては、日本にも出店されているが……正解は2のシェイクシャック(ちなみに玄理さんは1と回答)。川原さんによると、2000年に始まったシェイクシャックは、国内外から多くの客が押し寄せて、ハンバーガーを食べるために2時間待つこともあったそう。それほど人気のシェイクシャックを食べるために、ゲームチケットを買う人がいたというのも頷ける。
試合がない日は、球場で結婚式や誕生日会
MLBのレギュラーシーズン中、ボールパークで行われる野球の試合数は81試合。実は、1年のうちのほとんどが野球場として機能していない。試合のない日は、どうやってボールパークの運営をしているのか。再び、メッツの職員だったブライアン氏が語る。「シティ・フィールドは、結婚式、誕生日会などのパーティー会場としても活用されます。人生の大きな節目を、応援しているチームのボールパークで祝える。もちろん人気で、試合のない日はセレモニーの予約がすぐ埋まります」
「ニューヨーク・ヤンキースのヤンキー・スタジアムは、同じニューヨークに本拠地を置くサッカーチーム、ニューヨークFCのホームグラウンドとしても使用されています。ヤンキースが遠征しているときは、サッカー場として機能しているのです」
「近年では観光名所としても人気を集め、30球団全部のボールパークに足を運び、それをSNSで公開するファンも増えています。それが、集客に繋がっているのです」
ここで玄理さんに一つの疑問が浮かぶ。日本の場合、サッカー場はサッカー場、野球場は野球場として機能しているが、それはなぜなのか。
数々のボールパークを視察してきた川原さんが印象に残っていることは何か。川原さんは、サンディエゴの「ペトコ・パーク」を挙げる。
川原:ダルビッシュ有選手が所属しているMLBサンディエゴ・パドレスの本拠地で、球場のコンコースから、ラグジュアリーホテルに直結しているんです。外野席では広い芝生に寝転ぶことができたり、子ども専用のプレイスポットがあったり。雰囲気がすごくいいんですよ。たたずまいが格好いいとさえも思えるんですよね。
黒田博樹が語る、ドジャー・スタジアムの迫力
ここで、日本でもアメリカでも活躍した元プロ野球選手の黒田博樹さんがゲストとして登場。両国でプレーする中で、違いに一番驚いたのは、スタジアムの収容人数だそうだ。玄理:黒田さんは2007年にLAドジャースと契約。1万7000人収容の広島市民球場から、5万6000人収容のドジャー・スタジアムでプレーするようになって、球場のスケールも変わったと思うのですが、メジャーリーグのどんなところに一番驚きましたか。
黒田:やはり収容人数ですね。広島市民球場時代から比べると全然規模が違って。僕がいたドジャースタジアムはすり鉢状になっていて、1階から8階ぐらいまであるんです。最上階の方たちから見ると、すごく下を見下ろして野球を見ているという感じだったのではないかなと思います。
玄理:すり鉢状となると、歓声の響き方も違いそうですよね。最初はやはり興奮するものですか。それとも緊張もされたのですか。
黒田:僕自身どういうゲームでも常に緊張感を持ってやっていたんですが、やはり1年目、2008年に初めてプレーオフをドジャースタジアムで経験して、5万6000人超満員の中で、投げさせてもらいまして。アメリカはあまり日本のように、敵チームと味方チームが半分半分に分かれて応援するスタイルではなく、ホームグラウンドでやる場合はほとんどがドジャースファン。360度ドジャースファンの中で投げられるので、そういう部分でホームの有利さをすごく感じました。
玄理:観客のほぼ全員が味方となると、調子も変わってくるのですか。
黒田:逆に言えばプレッシャーも大きくなります。アメリカは敵のチームだけではなく、味方のチームでも気の抜けたプレーをするとブーイングが起こるので。
左右対称ではない? 個性あふれる米国のボールパーク
アメリカには個性あふれるボールパークがある。黒田さんがプレーする側として印象に残っているのは、やはり本拠地だった「ドジャースタジアム」だ。黒田:ドジャースタジアムは、アメリカでは珍しく両翼が対称で、ライト側もレフト側も全く同じサイズで作られている。日本ではそれが当たり前なのですが、アメリカではそういう球場が少ないんです。
玄理:それは、球場に個性があるということですか。
黒田:そうですね。僕は2012年からヤンキースに移籍したのですが、ヤンキースタジアムはライトがすごく狭い。どちらかというと左バッターに有利なように作られている球場なんです。新しくスタジアムをつくる時も、ベーブ・ルースがいたぐらいの時代のヤンキースタジアムからサイズを変えずに、伝統として左バッターに有利な球場をずっと受け継がれきたんです。
玄理:黒田さんと球場の相性がよかったということですか?
黒田:いや、本来なら右ピッチャーにとってはすごく不利な球場です。なので、ヤンキースの補強戦略を考えると、だいたいいい左ピッチャーを取りたがる。対相手チームの左バッターをしっかり抑えてくれるようないい左ピッチャーを。補強戦略も球場の特徴が関わるので、そういう観点で見てみるとファンもまた面白いかもしれませんね。
広島のマツダスタジアムが試合の日は「祭りのよう」
黒田さんが再び日本に戻ったのが2015年。広島市民球場は、3万3000人収容のマツダスタジアムに刷新された。施設が生まれ変わったことで、日本の野球の楽しみ方や街の変化は感じられたのだろうか。黒田:広島のマツダスタジアムは、新幹線から見えるんです。
川原:そうですね、ゲームの内容が見えたりもしますよね。
黒田:ファンの方が広島に試合を見に来ようとしたときに、球場が見えた時点でワクワクすると思うんです。試合のある日は、広島駅からマツダスタジアムまでの通りもすごく賑わいます。選手の写真が貼ってあったり、グッズを売っていたり、一つの祭りみたいなような感じ。いい光景だなと思いました。
メジャーリーグから日本の球界に戻った黒田さんには、マツダスタジアムのマウンドに立った時は「いつもと違う高揚感」があったそうだ。特に、日本では珍しく、内野も天然の芝ということに感銘を受けたという。その上で、日本のボールパーク化に関わる川原さんへの“要望”として、天然芝の話を切り出した。
黒田:アメリカは天然芝の球場が多い。いろいろと難しさはあると思うのですが、やはり天然芝というのが、選手の体にとってもいいのではないかなと思います。
川原:毎日水をまいたり、適度な湿度を保つ必要があったり、いろいろとコストはかかるのですが、やはり選手に負担をかけることになりますからね。日本もボールパーク化がどんどんこれから進みますので、天然芝を使おうとする傾向は出てくると思います。
黒田:試合を観るだけでなく、野球場に遊びに来るという感覚で、たくさんファンの方に来ていただく球場を作っていただければいいかなと思います。
川原:はい。そうなるように、私も努力していきます。
天然温泉つきの球場が生まれる! 日本のボールパークの現状
ナビゲーターの川原 秀仁さん(左)、玄理さん(右)
まず、昨年3月に完成した横浜スタジアム。観客席を両翼に6000席増設し、VIP席も増設して、屋上で食事をしながら観戦できるような構造にしたほか、コンコースを360度回れるようにもなった。また、商業やエンタメなどの展開を許可することで、球場を取り巻く公園を活性化させていく「パークマネジメント」が起こっており、立地する横浜・関内の町に再開発も着々と進んでいるという。
そして、現在、開発真っ最中なのが、北海道ボールパーク・Fビレッジだ。
川原:スタジアム自体がガラスでできていて、外から丸見えなんです。可動する大きな切妻屋根を開け閉めすることによって、天然芝の管理も可能にしようという構想です。また、外野席の上段に天然温泉を設置するほか、球場の外でもバーベキューやボート遊びなどいろいろなアクティビティを用意しており、楽しいプレイゾーンに包まれてるんですね。
玄理:天然温泉の構想はもう日本ならではですよね。ぜひ行きたいと思う人がかなりいるのではないでしょうか。
川原:そうした行きたいという心をさらにつなぐために、ホテルやマンションを建設したり、新駅まで敷設したりして、北広島市全体の街づくりをしているような取り組みです。
玄理:すごい。泊まりがけでないと、全部見切れないぐらいの大きさですね。
川原:はい。泊まり方もキャンプ型、グランピング型、ホテル型、ラグジュアリーホテル型という風になっていくのではないかなと思います。
玄理:宿泊施設もいくつかのニーズに合わせたものが選べると。野球好きの方からしたらたまらないですね。
最後に、盛り沢山の内容を振り返った。
川原:今、スポーツビジネス、スポーツ施設は大きな変革を起こそうとしています。建物全体の中でも、その構造が一番変わろうとしているものではないでしょうか。その変化の空気を少しでも今回感じていただけたら嬉しいなと思います。
玄理:楽しみですね、私のように普段スポーツ観戦に行く習慣がない人でも、北海道の天然温泉つきの球場には絶対行きたいと思うでしょうね。
川原:玄理さんのような人を行かせることが、ボールパーク化の一番の目的なんですよ。
玄理:楽しみにしてます! ありがとうございました!
【ナビゲータープロフィール】
■玄理
1986年12月18日生まれ。東京都出身。日本語・英語・韓国語の トライリンガル。中学校時代にイギリス短期留学、大学在学中に韓国に演技留学。2014年の主演映画『水の声を聞く』で第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞、2017年にソウル国際ドラマアワードにてアジアスタープライズをそれぞれ受賞した。近年の出演作は映画「スパイの妻」「偶然と想像」ドラマ「君と世界が終わる日に」など。公式サイト
■川原 秀仁 山下PMC代表取締役社長 社長執行役員。農用地開発公団、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年より山下PMC(当時の社名:山下ピー・エム・コンサルタンツ)の創業メンバーとして参画し、国内のコンストラクションマネジメント技術の礎を築く。著書に『施設参謀』(ダイヤモンド社)、『プラットフォームビジネスの最強法則』(光文社)がある。山下PMC公式サイト
(編集=小沢あや<ピース株式会社>、構成=五月女菜穂)
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2021年9月23日(木)18:00-19:00
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