「ネオソウル」とは何か? ヴィンテージとトレンドが奇跡の融合

J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。

2月1日(月)のオンエアでは、インディー・ロックメディア「BELONG Media」代表のyaboriとライターのRio Miyamotoがゲストに登場。「ヴィンテージとトレンドが奇跡の融合! ネオソウル徹底解剖!」をテーマにお届けした。

「ネオソウル」誕生のきっかけとは

ソウルとR&Bが組み合わさって生まれたジャンル「ネオソウル」。誕生から20年以上たった今も、常に進化しつづけるネオソウルを徹底解剖!

あっこゴリラ:まず「ネオソウルとは?」というところなんですが、そもそも「ソウル」というのはどんなジャンルなんですか?。
yabori:このソウルというジャンルは、CDショップなどでも「SOUL/R&B」と書いてあったり、ジャンル分けがなかなか難しいんですが、もともとは「ブルース」や「ゴスペル」がルーツの黒人音楽をいいます。
あっこゴリラ:その「ソウル」から、どういうきっかけで「ネオソウル」というジャンルが誕生したんですか?
yabori:もともとはディアンジェロやエリカ・バドゥを見出し、アメリカの老舗レーベル「モータウン」の社長にもなったキダー・マッセンバーグが名付けた音楽ジャンルと言われています。名付けたのが96年で、ディアンジェロのファーストアルバムが95年に出てるので、もうキダー・マッセンバーグが売っていったジャンルって感じですね。
あっこゴリラ:なるほど~。ディアンジェロが先にやってて、後から名前がついてきたって感じなんですね。Rioさんもよく聴いてました?
Rio:そうですね。僕は高校卒業してから5年間ほどボストンに住んでいたんですけど、夜の遊びのカルチャーにネオソウルがすごくマッチしていて。アメリカでは、ホームパーティーやドライブなどリラックスした感じで聴けるBGMとしてかかってましたね。
あっこゴリラ:確かに、ドライブハマりそう。
Rio:やっぱりおしゃれなイメージがありますよね。

番組では、ディアンジェロ『Feel Like Makin' Love』をオンエアした。



あっこゴリラ:この曲は、どういった部分がネオソウルと呼ばれているポイントなんでしょうか?
yabori:この曲は、ロバータ・フラックが1974年に出した曲のカバーなんですけど、原曲と聴き比べると、ヒップホップのビートが入ってくることで跳ねる感じが出て、それこそネオソウルというもので、昔のソウルと違うのは、ヒップホップのテイストが入ってることです。それゆえに「ネオソウル」と呼ばれています。
あっこゴリラ:なるほど~。ディアンジェロ以前は、ソウルにヒップホップだったり、ジャズの要素が入ってるような音楽はなかったんですか?
yabori:そこまでは分からないんですけど、一番商業的な評価を獲得して、象徴的だったのがディアンジェロだったみたいですね。
あっこゴリラ:こういったサウンドは、当時のシーンですぐに受け入れられたんですか?
yabori:僕が海外の音楽を聴き出したのは2006年からなので、当時のシーンについてリアルタイムにはわからないんですけど、当時の資料とかを調べると、当時のヒップホップはIseley Brothersなどのメロウなサウンドが取り入れられていたので、そういうネオソウルを聴く上での下地作りが整っていたところにディアンジェロがきて爆発したんだと思います。

2020年代のネオソウル

ここからは、現在も進化を続けている2020年代の「ネオソウル」ついて話を伺った。

あっこゴリラ:この2020年代は、ネオソウルはどのように進化しているんでしょうか?
Rio:最近は、90年代のネオソウルにシンセサイザーがレイヤーされたり、サイケデリックの要素が加わったりと、ジャンル的にも多様性を増し続けています。ネオソウルというとヒップホップの影響もあってブラックミュージックが根底にあると思うんですけど、最近だと白人によるシンセの浮遊感や細やかなビートが混在した繊細なネオソウルを鳴らすバンドがどんどんシーンに出てきているように感じます。
あっこゴリラ:ネオソウルはこれだって思いつきづらいのも、やっぱり多様化してるってこともあるんですね。では、2020年代で代表的なアーティストをあげるとしたら?
Rio:Robert GlasperやAnderson .Paakあたりですかね。Anderson. Paakは自身がドラマーというのもあって、バンドの生ビートが主体としてあって、そこへラップやR&Bが組み込まれたネオソウルが特徴的です。サウンド面ではアナログの温かみも感じられ、ノスタルジアとヒップホップのモダンさが組み合わさっているので、2020年代特有のネオソウルになっていると思います。
あっこゴリラ:Anderson .Paakはみんな大好きだもんな~。先ほど話していた白人によるネオソウルだと、どんなアーティストがいますか?
Rio:Moonchildが有名ですね。ロサンゼルス出身のトリオなんですが、一聴しただけでは白人と気づかないほどグルーヴがあるんですよね。紅一点のヴォーカリストのアンバー・ナヴランの透き通った歌声とシンセサイザーのサウンド・スケープがとにかく美しいです。その透き通った音の質感がすごく2020年代っぽくて、複雑なドラムビートと合わさって独自のネオソウルの世界を創り上げてると思います。

番組では、Moonchild『Cure』をオンエアした。



あっこゴリラ:yaboriさんは、2020年代のネオソウルについてどのように思われていますか?
yabori:自分の考察として2020年代のネオソウルは、ディアンジェロにプラスして、けっこうみんなRadioheadを聴いているな~って思っています。
あっこゴリラ:おお~! めちゃめちゃおもしろい視点!
yabori:Anderson .PaakもRadioheadに影響受けてるみたいで。
あっこゴリラ:マジっすか! そうなんだ~。
yabori:それで音楽が多様化しているのかなってすごく思って、Anderson .Paakってロック層も取り込めるようなアーティストなのかなって思います。
あっこゴリラ:確かにそれありますね。
yabori:しかもAnderson .Paakだけじゃなくて、他にも、Robert GlasperやArlo ParksなどRadioheadを挙げる人が多いですね。それも前のネオソウルにはなかった感性かなと思います。

番組では、Arlo Parks『Creep』をオンエアした。



あっこゴリラ:そして、yaboriさんが注目するもう一人の新世代ネオソウルアーティストがJUNGLEということですが、どんなアーティストなんですか?
yabori:JUNGLEは、イギリスの7人編成のネオソウルバンドで、ジャミロクワイもノエル・ギャラガーも絶賛しています。この二人が絶賛してるって珍しいんですよ。
あっこゴリラ:へえ~! JUNGLEのどんなところに今のネオソウルを感じますか?
yabori:音楽的にはディアンジェロにも影響を与えたJ・ディラの『Donuts』を挙げている一方で、レッドツェッペリンのようなクラシックロックも聴いたりするみたいで、そこも新しいですね。
あっこゴリラ:確かに、こんな風にロック要素とポップ要素が合わさるってあんまりなかったかもしれないですよね。

番組では、JUNGLE『Casio』をオンエアした。



日本における「ネオソウル」

ここからは、日本でネオソウルの影響を受けているアーティストについて伺った。

あっこゴリラ:このネオソウル、日本のアーティストにとってどんな影響を与えていると思いますか?
yabori:ネオソウルはビートが特徴的で、ビートに力を入れることで、シンセやゲームっぽい効果音を入れたりなど上物の多様性が出てきたなって思います。ビートに力を入れないといけないので、必然的に音楽性のクオリティーが上がったという側面があるかなと思います。
あっこゴリラ:なるほど~。 いつ頃からどんな形で、日本のアーティストに浸透してきたと思いますか?
yabori:一番象徴的だったのは、SuchmosとNulbarichかなと思います。
あっこゴリラ:うんうん。やっぱりそうですよね。
yabori:僕らもSuchmosにインタビューしたことあるんですけど、あんなに急に広まると思わなかったですね。Nulbarichは、それを受けてというか近い感じでいったんで、それはすごいと思いました。

番組では、millennium parade『Fly with me』をオンエアした。



あっこゴリラ:この曲のどういったところにネオソウルを感じますか?
yabori:この曲は、ヒップホップのビートにド派手なホーン、メロウなキーボードという三種の神器が入っています。
あっこゴリラ:三種の神器! あはははは。
yabori:もう、まさしくネオソウルといえる曲です。でも、millennium paradeをやっている常田くんはもともとロックが好きだったらしくて、Radioheadとかも聴くようで、ネオソウルとロックのいいとこ取りをしているような、そこに新しさを感じますね。
あっこゴリラ:確かに、King Gnuもそうですよね。ロックだけじゃないというか。
yabori:そうですね。土台にネオソウルがあって、その上にいろんなものがあるって感じですね。

番組では、んoon『Orange』をオンエアした。



あっこゴリラ:「んoon」(ふーん)は、まさにネオソウルって感じがしますよね。
Rio:そこに先ほど言っていたように、上物でハープの音色が混ざったりしています。
あっこゴリラ:そうだ! 「んoon」ってメンバーにハープがいるんですよね。
Rio:けっこう特殊ですよね。あと、女性ヴォーカルもけっこうダウナーな感じで、それも最近のネオソウルの特徴でもあります。
あっこゴリラ:確かに。
Rio:さっき紹介したMoonchildとちょっと似てるというか、シンセのグルーヴ感とかビットのR&Bの感じとか、けっこう白人寄りのネオソウルかなと思います。
あっこゴリラ:「んoon」ってすごいバンドですよね。めちゃめちゃかっこいい。

今後注目のネオソウルアーティスト

最後に、ゲストのお二人に今後注目のネオソウルアーティストを教えてもらった。

あっこゴリラ:まず、yaboriさんが今後注目するネオソウルアーティストは?
yabori:2017年に結成した「Chiiild」(チャイルド)というカナダのネオソウルバンドです。多分日本でもまだあまり知名度がないと思います。フロントマンは、アッシャーのプロデュースなど裏方としてのキャリアが10年くらいあります。
あっこゴリラ:裏方だった人が、表に出てきてバンドを始めたってことですか?
yabori:そうですね。そして、今年『Hope For Sale』というアルバムをリリースしました。
あっこゴリラ:注目ポイントはどこですか?
yabori:このアーティストは、けっこうmillennium paradeに通ずるサウンドだと思うんですけど、ビートの部分はしっかりありつつ、エフェクトを効かせまくったギターが入っていたり、弦楽器、チープなゲーム音楽っぽいサウンドもあったりして、これがネオソウルの最新系かなって思います。

番組では、Chiiild『Count Me Out』をオンエアした。



あっこゴリラ:続いて、Rioさんが今後注目するアーティストは?
Rio:2018年に結成された「Black Pumas」というテキサス出身のネオソウル・デュオです。
あっこゴリラ:どんなアーティストなんですか?
Rio:グラミー賞受賞経験のあるギタリスト兼プロデューサーのエイドリアンが、一味違うヴォーカリストを探していた時にエリックと出会い結成したバンドです。2020年のグラミーで最優秀新人賞にノミネートされた実力派バンドです。
あっこゴリラ:おお~! どういった部分が注目ポイントですか?
Rio:僕自身、70年代のソウルが大好きで、その時代に共通して漂う色気ムンムンのクラシックソウルを受け継いでるいんですよね。ヴィンテージなサイケデリック・ソウルの音の手触りや立体感は70年代を継承しつつも、現代のデジタルサウンドの音圧に慣れきった耳にも物足りなさを全く感じさせない、アナログとモダンの絶妙な音のバランス感覚も注目ポイントです。

番組では、Black Pumas『Black Moon Rising』をオンエアした。



番組情報
SONAR MUSIC
月・火・水・木曜
21:00-24:00

関連記事